第21話 Moto3 ポルトガル
3月末、MotoGPはヨーロッパにやってきた。最初の舞台はポルトガルのアルガルベサーキット。昨年、タレントカップレースで走ったことがあるサーキットだ。
アルガルベサーキットは全長4600mほど。メインストレートは1000m近くある。長さは他のサーキットとさほど変わりはないが、ローラーサーキットと言われるほど、アップダウンが激しい。ジェットコースター並みの下りがあれば、先の見えない上りがある。それも上りきってすぐカーブが待っているという度胸だめしのサーキットなのである。このアップダウンに日本人ライダーは苦戦している。古山をはじめ、昨年から参戦している3人は15位より下位に位置している。フリープラクティスの1回目は悪コンディションのためキャンセルになった。それで2回目のフリープラクティスタイムでQ2進出の15台が決まった。もちろん、私はその中に入れなかった。
私は、前回同様、日本人ライダーの古山について走ってみた。同い年ということもあり、なんか親近感を感じる。マシンは日本のH社、カラーリングも赤と白のJapanese color でわかりやすい。直線は同じぐらいのスピードで走れるが、コーナリングは古山の方が速い。お尻の移動が見事なくらい素早い。フリー走行では簡単に離されてしまっていたが、予選は体重移動を速くし、何とか古山についていくことができた。それで古山の0.1秒落ちのタイムで予選22位になってしまった。トップとは2秒以上のタイム差だ。ジムとエイミーは私の前に位置している。監督のジュン川口が前に、
「Moto3を走っていた時、ハインツ氏といっしょに金魚のフン走法をしたもんだ」
と言っていたのを思い出して、それを実行してみたが、前走者が好タイムで引っ張ってくれないとタイムはでない。決勝は気を引き締めていかなければと思った。
夜にエイミーとマネージャーの澄江といっしょに食事をしていると、古山がやってきた。一人である。
「伊藤さんって、佐藤眞二さんのお孫さんですって」
と言われるのはつらい。
「はぁ、そうですが・・」
と気のない返事をする。
「眞二さんにはうちのチームのアドバイザーになってもらっているんです。日本にいる時はコーチをしていただきました」
私には一度もコーチをしてくれたことはない。まぁ、チームが違うから仕方ないが
「この前のカタール、いい走りでしたね」
そう言えば、古山について走れたので、4位入賞できたのだ。
「あの時はあなたの走りを参考にさせてもらいました。ありがとうございます」
「いえ、どういたしまして。後ろはあまり気にしていませんから、でも、今日は気になりました。調子悪いのにずっと後ろにつかれるのはいやですね」
「そうだったんですか? それはどうもすみません」
「明日の決勝は遠慮なく抜いていってくださいね」
ライバルに言う言葉ではないが、本音ではないことは明らかだ。握手をして別れた。澄江さんが、
「明らかにライバル視していますね」
と言ってきた。
「同い年だし、同じ日本人の新人だからね。負けたくないと思って当然よ」
そう言うと、自分で闘志がわいてきたのを感じ取った。
翌日の決勝、26台が轟音とともにスタート。第1コーナーはジェットコースター並みの下りから右・右のコーナーが続く。ポールポジションのルエドがホールショットをとった。オルガダ・ケルソンが続く。前回優勝のアレンソは6番手を走っている。
レース前半、日本人ライダーの一人山下が他社マシンと接触し、コースアウトしていった。他にもハイサイド転倒をしているマシンがいる。私は古山の後方で走るのが精一杯だ。
レース中盤、古山のペースが落ちてきた。タイヤがぐらついている感がする。古山のチームはミディアムタイヤを選択している。私のチームはハードタイヤを選択している。2月の合同練習走行でデータをとった時に、レースタイムを考えるとハードタイヤが後半勝てるチャンスがあると監督が判断したからだ。それに
「タイヤにやさしい走りをしろ」
と監督から言われている。マシンを倒す時間を少なくして、後半にタイヤを残す走りをしろということだ。それに、坂をのぼりきったところで、ブレーキングのために上体を起こすライダーが多い。古山も同じだ。だが、その走りだと縦Gを余計に感じる。私はそれがいやなので、上体を前かがみにし、アクセルワークでコントロールするようにした。それで、下りからの左コーナーで古山にスキを見つけた。
12周目、その走りにチャレンジして、古山の左に並んだ。古山はチラッと私を見る。そして左コーナーのインをさす。上りの加速はこちらが優位だ。
13周目、同じコーナーでまた1台抜く。
15周目、今度はメインストレート後のダウンヒルで1台抜く。ハードタイヤの優位性を活かす。そうやって前にいるマシンを抜いていった。
そして19周を終えると、結果は15位。ポイント1を獲得した。優勝はオルガダ。中盤からトップに出て、他のマシンを寄せ付けなかった。アレンソが迫ってきたが振り切っていた。最終的にはルエド・ケルソンのスペイン勢が表彰台を占めた。イベリア半島勢はポルトガルで強いのは今回も同じだった。日本勢では鈴本が13位入賞。ジムは14位、エイミーは16位とおしくも入賞を逃していた。
次戦はアメリカ。ピットではエイミーが悔しい顔をしながらも(次を見ててよ)という顔をしていた。
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