第17話 E-GP3 ホッケンハイムにて

 9月後半、ドイツ南西部のホッケンハイムにやってきた。かつては高速コースだったが、あまりにもスピードがでるので、2002年からコースは改修され中高速コースに変わっている。スタジアム型のインフィールドが特徴的なコースである。

 ここでタレントカップレースはおしまい。でも、私は前回のレースで優勝しているので、今回はE-GP3のレースに出場する。ジム・フランクとエイミーも前回表彰台に上がっているので、今回も3人体制だ。ここで表彰台にあがれば、最終戦に出場できるが、逃せばこれで今シーズン終わりとなる。ハインツアカデミーは10月末で終了。来年のことはまだ未定だ。

 木曜日は3人で食事に行く。ジムはMoto3昇格をほぼ決めているので、饒舌だ。レースの話で盛り上げる。エイミーは今回表彰台にのれば、Moto3に乗れるだろうと言われたらしい。終始にこやかだ。私だけが来年のことが決まっていない。タレントカップレースで優勝したぐらいでは、どうなるかわからない。うまくいけばジム・フランクの後釜におさまることができるかもしれない。Moto3に昇格できるのは、2人までだ。ワイルドカードでスポット参戦するのは私の目標ではない。ジムやエイミーの話になかなか入り込めない自分がいた。

 金曜日、フリー走行。3人で走る。かつては超長いストレートがあったらしいが、4500mほどのコースに生まれ変わって、それほど長いストレートはない。その代わり、パラボリカといわれる高速左コーナーがある。その後のヘアピンが追い抜きのポイントだということがすぐにわかった。そこで、いろいろな想定でラインをとる。するとブレーキングで負けても、立ち上がりで勝てるラインがあることを見つけた。これはレース後半につかえるかもしれない。

 土曜日の午後、予選。またもや3人でスリップを使いながらタイムをかせぐ。最初はジムが引っ張り、次にエイミーが引っ張り、最後は私が引っ張るということになっていたが、ジムにとってはあまりプラスにならなかったようだ。それでもジムは予選2位。エイミーは予選4位、私は予選6位に入ることができた。まずまずの結果だ。

 夕方、ハインツアカデミーの最終戦を応援した。残念ながら表彰台にあがるメンバーはいなかったが、6人のメンバーはこれが今年の走りおさめ。今月末には寮を出て、次に会うのは10月末の閉校式だ。少し寂しくなる。

 日曜日、朝のウォームアップランで3番目のタイムを出すことができた。皆が本気で走っているわけではないが、エンジンのふけはいい。やはり専属メカがいるレースはいい。マシンをさわるのは嫌いではないが、得意というわけではない。でも、アカデミーで学んだことは無駄ではなかった。自分で感じた異常をメカに伝えることができるようになったからだ。

 サイドカーレース、E-GP2、E-GP1000とレースが続き、最後にE-GP3の決勝だ。観客はまだ結構残っている。この人たちのためにもいい走りをしなければと思う。ましてやGrokkenチームはドイツが本拠地だ。ホームコースではないが、地元であることには変わりはない。

 決勝スタート。第1コーナーのノルドコーナーに突っ込んでいく。私はインをキープする。下手にアウトにいくとふくらんだマシンに巻き込まれることになる。第2コーナーの右90度コーナーでも無理はしない。アウトから1台に抜かれた。でも、あわてない。前半は様子見だ。ゆるやかな右コーナーと左コーナーを抜け、高速左コーナーのパラボリカだ。私を抜いていったマシンにぴったりつく。その後のヘアピンでインにスキがあるのを見つけた。ここで抜けるかもしれないと思った。

 2周目、そこでチャレンジをした。インに飛び込む。ところが立ち上がりで負けた。相手もさる者だ。わざとインをあけていたのかもしれない。

 3周目、またもやチャレンジだ。インに飛び込み、そのままインをキープする。相手はラインをふさがれて、アクセルを戻さざるをえなくなった。私は6位に復帰した。

 4周目、インフィールドで前のマシンに追いつく。スタジアムの観客が歓声を上げている。12コーナーの左ヘアピン、ザックスコーナーの周りに多くの観客がいる。

 5周目、そのザックスコーナーでインに飛び込む。そして、インをキープ。スタジアムが揺れているような感じがする。背筋にぞくぞくっとしたものが流れた。これぞレーサーの喜びかもしれない。5位に上がる。

 6周目、高速左コーナーのパラボリカで4位のマシンに追いつく。そしてヘアピンでインにつく。でも前をふさがれた。自分のラインをとれなかった。それで、次のザックスヘアピンでブレーキ勝負をかける。インに入るとみせかけて、相手がインをおさえたところでアウトにでる。向こうもブレーキ勝負にのった。スタジアムが揺れている。ラインが交錯する。立ち上がり勝負だ。次は上りの左コーナー、そして下りの右コーナーと続く。周りのスタジアムが波打っている感じがする。メインストレートにでた時には4位に上がっていた。

 前の3台は第1コーナーに入っている。ジムとエイミーもそこにいる。あと4周で追いつくのは難しい。私は第2集団のトップを走ることとなった。

 ファイナルラップ。トップ集団との差はつまらない。だが、パラボリカでトップ集団でトラブルが起きた。ジムがトップのマシンを抜いたら、それを抜き返そうとして、右に流れていった。タイヤがへたっていたのかもしれない。

 これでGrokkenチームの1・2・3となった。インフィールドに入るとスタジアムから大歓声があがる。さすが地元である。ハインツが走っていないのに、ハインツコールが聞こえる。変な感じがした。

 表彰台でその意味がわかった。オーナーのハインツ氏が来ていたのである。MotoGPの合間に見にきてくれていたという。ミュンヘン出身のハインツ氏にとってはホームコースなのだ。以前、一度会ったことがあるが、今回は接点はなかった。とりあえず次回のE-GP3最終戦に参戦できるのはうれしかった。それもザルツブルグリンクである。

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