第4話 へレスサーキットにて

 4月末、私はスペイン・へレスにいる。またもやMotoGPの前座レースで走る。

この1ケ月、アカデミーのザルツブルグリンクで走り込みをしてきた。マシンにはだいぶ慣れてきたというか、昨年まで乗っていたH社のマシンがベースなので比較的容易にのりこなせるようになった。中谷麻実のタイムには及ばないが、チーム内で3番手のタイムを出せるようになってきた。

 先週、フランスのルマンでヨーロッパ選手権が開催された。中谷麻実がワイルドカードで参戦して、10位入賞を果たした。ここでランキング5位以内ならばGP-3に参戦できるという。Grokkenジュニアチームは2台体制でE-GP3に参戦している。マシンは自社のKT社のマシンである。H社のマシンよりピーキーだという話だ。

 私は遠征に参加できなかったが、麻実の話ではチーム監督のジュン川口がアドバイスをくれたとのこと。やはりエリートには声をかけるのかと少し嫉妬した。

(やはり上に上がらなければ相手にしてもらえない。こうなれば上がるのみ)

 と心に誓うしかなかった。


 へレスサーキットはマルケルチームの本拠地である。彼らは走り込んでいるので、皆速かった。その中でも速いマシンについていって、ラインどりを真似することにした。全体的には中低速コーナーが多い。MotoGPのマシンは左右のコンパウンドが違うタイヤを特殊なタイヤを使うそうだ。右コーナーがやたらきつい。

 ラインどりがうまくいって、予選は10位になった。チーム内では3位に入った。マシンにも慣れてきたし、生活リズムもつかめるようになった。中谷麻実とは日本語で話すことはほとんどなかったが、エイミーとは英語で会話することが多くなった。練習の後にお互いに情報交換ができるようになってきたのは心強い。ちなみに麻実は予選7位、エイミーは予選12位に入っている。

 決勝スタート。第1コーナーまでは距離がないので、低速でコーナリング。そこからが勝負だ。前のマシンの動きを見て3周走る。そして、ストレート後のヘアピンで抜けると判断し、4周目にアタックした。思い切ってインに飛び込む。相手は驚いたようで倒し込みが中途半端になった。後ろのエイミーもついてくる。次のストレートを終えると、前のマシンに追いついた。中谷麻実だ。麻実・私・エイミーとハインツアカデミーの女性ライダー3人が団子状態で走る。

 ファイナルラップ。麻実が6位のマシンにくらいつく。先ほど、私が抜いたヘアピンでインに飛び込む。ブレーキ勝負だ。2人ともオーバースピードで飛び込んでいく。レイトブレーキで2台ともオーバーランしてしまった、そのスキに私とエイミーが抜いていく。結果、私は6位、エイミーは7位、麻実が8位となった。予選5位だったデビッド・トムヤンが3位に入り、次回のE-GP3への挑戦権を獲得していた。優勝と準優勝はマルケルチームだった。

 ザルツブルグにもどるバスの中では、デビッドの一人舞台だった。今年、昇格できなければ年齢の関係でアカデミーをやめなければならない。今回の表彰台は最高の気分だったのだろう。反対に麻実はブスッとしていた。つっこみのミスとそれに乗じた私とエイミーが漁夫の利を得たことが不満だったのだろう。そういう時に声をかけるとろくなことがないので、私も無言でいた。

 次は5月初めのフランス・ルマンである。

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