第274話 忍

 エキシビションマッチ1日目も残すは後1試合のみ。

 12神側の選出はもう決まっている。

 ここまで2勝3敗。挑戦者側のハンデを含めると勝数2対4。

 この第6試合を勝てたとしても勝数3対4で1日目に勝数で勝ち越すのは既に不可能だが、負けてしまうと勝数2対5と差が開き、二日目に出場する面々に掛かるプレッシャーが大きくなる。

 ここで勝つか負けるか、早くもこのエキシビションマッチの勝敗を決めかねない。

 それも12神の敗北という形で。



「まさかまさかの展開ですね!!イベント終了から今日まで鬼姫とリベリオンの4人が出場することに懐疑的な意見が多々見受けられましたが、1日目5試合を終えて挑戦者側で勝利を収めたのが神宮さん、生保内さん、柊さんの3名!一部12神側に油断があったという声もありますが、この結果をシグマさんはどうお考えですか?」


「どうって言われてもな。薫くん、琴音さんには悪いが、実力で勝ったのは怜央だけだ。二人の場合、情報というアドバンテージが大きい。大罪種のモンスターは美徳種と違って情報が無かった。悪魔の名を冠する神技なんて初見でどうこうできる効果じゃない。寧ろ、情報を始めとしたディスアドバンテージがある中、あと少しのとこまで二人を追い詰めたミアとエレオノーラの凄さが浮き彫りになっただろ?」


「つまり、このエキシビションマッチに出るにはやや実力不足であることは否めないと?」


「いや、そもそもの前提がおかしい。ハッキリと言うが、12神全員と対等に渡り合えるプレイヤーはエルだけだ。アダルもノア以外の12神となら対等に渡り合える。つまり、この2人以外は12神からすると自分らよりも確実に実力で劣るプレイヤーだ。実力不足の基準がイマイチわからんが、そんなこと言われたらアダルとエル以外誰も出場できないぞ」


「しかし、今神宮さんは実力でアレハンドロさんに勝ったと仰いましたが、」


「だからこそのハンデだ。挑戦者側は12神の選出を知った上で誰を出すか決められる。実力不足は相性で補える。それに全員と対等に渡り合えなくても特定の個人となら渡り合えるプレイヤーはいる。怜央とアレハンドロがその一例だな」


「なるほど。――にしてもなかなか対戦カードが決まりませんね」


「12神側がかなり慎重になっているんじゃないか?ここは絶対に落とせないからな」



 時は少し遡り、挑戦者側の控え室


「みんな勝ったよ!!イエーイ!!」


 琴音の勝利に沸き立つ面々。そんな中、速攻で12神の選出がローズだと通達が届く。

 当然、事前の取り決め通りにルートが出るのだが、


「随分と早いな」


「ローズが明日だと参加できないとかじゃないのか?化け女バアは何か知らないのか?」


「さすがに知らない。プライベートには干渉しないのがギルドの掟だから」


 怜央、アダルウィン、エルシーとこの選出の早さに言い表しようのない違和感を感じていた。

 だから最もらしい理由である今日しか参加できない可能性をプロフェッサーのギルマスであるエルシーの問うも答えはわからない。

 既に明日を見据えて上位陣は出てこないだけの可能性も十分に考えられる。

 だが、確実に勝利を収めたいこの一戦で輝夜を始めとした上位陣が出てこないのはある意味不気味。


「どうします?予定通りに僕が出るということでよろしいですか?」


「うん、ルートに任せる。だけど、ここは時間を使おう。即決だと予定通りの選出って思われる。それだと何かしらの思惑が向こうにあった時、気づいていないと思われちゃう。時間を使うことで気づいていると思わせたい。もし、何も思惑が無かったとしても何かしらの作戦を練ったと思ってくれる。こっちにデメリットは無い」


「わかりました。駆け引きはエルシーさんにお任せします」


 万が一を想定した深読みからただただ時間を浪費する。この時間が12神側に何かしらの影響を与えると信じて。



 一向に決まらない挑戦者側の選出。

 この第6試合を勝てば、勝数2対5と挑戦者側が大きく有利になるから当初の予定を変更して選出を決め直している可能性が考えられる。

 それに挑戦者側にはローズが所属しているギルド、プロフェッサーのギルマスであるエルシーがいる。

 今頃、ローズの戦い方など丸裸にし、対策を練っている可能性もある。

 どちらにしろ12神からするとかなり嫌な時間だ。

 こういう駆け引きを得意とするメンバーがいないのがより一層、事態を深刻化させている。



「!!遂に決まりました!!本日最後のバトル!!第6試合の対戦カードは12神序列10位 ローズ・リチャード!!挑戦者はギルド ファントムシーフのギルドマスター、ルート・ワイス!!!!」


「かなり選出が長引いていた割には普通の選出だな」



 1日目の最終戦を飾る2人がバトルステージに登場する。

 そして、準備が整い、バトルが始まる。


『ローズ・リチャードVSルート・ワイス バトルSTART』


「来て、ナタフ!」


「出でよ、サスケ!」


 ローズの1体目は 右と左で長さの違う剣を使った変則的な双剣使いである悪魔のナタフ。

 対するルートの1体目は人類種の忍者サスケ。

 ルートは普段、サスケと愛称で呼んでいるが、正式な名前はモンキー・サスケ。


「ナタフ、冥府の悪魔、悪魔の覚醒、悪魔の祝福、悪魔の囁き、ナイトメア!」


「サスケ、忍の王、影の支配者、影分身、影冠えいかん、変わり身の術」


 ナタフは冥府の悪魔で全ステータス2倍、悪魔の覚醒で更に全ステータス2倍の計4倍となるバフを付与し、悪魔の祝福でデバフ・状態異常を付与、悪魔の囁きでサスケが次の攻撃を受けた際の防御力が半減した状態で必中ナイトメアが襲う筈だった。


 サスケは忍の王で全ステータス1.5倍、影の支配者で全ステータス2倍の全ステータス3倍。その状態で影分身を10体出現させ、影冠によって影分身を強化する。

 これにより、本来なら一撃でも攻撃が掠れば消滅する影分身が強化され、サスケ本体と同様にHPを持つようになる。

 つまり、本体と影分身を含めて11体のサスケをナタフは相手にしつつ、どれが本体かを見極めて倒さないといけない。本体が倒れない限り、勝負が決しないから。

 そして必中攻撃となる筈のナイトメアは変わり身の術によって透かされ、サスケにはデバフ・状態異常を付与しただけに留まる。


「サスケ、火遁・火柱、水遁・水流弾!」


「ナタフ、躱してアビスウェーブ!」


 フィールド上に十一本の火柱が昇る。常に動き回ることで火柱を悉く回避するも無数に飛んでくる水の弾丸までは回避しきれない。

 被弾しつつもアビスウェーブによる反撃。


「サスケ、土遁・土壁!」


 しかし、11体のサスケそれぞれが土の壁を目の前に展開する。

 それはまるで防波堤のように迫り来る闇の波を防ぐ。


「ブラックノヴァ!」


「風遁・烈風!」


 全体攻撃であるブラックノヴァも11体のサスケが繰り出す範囲攻撃の風遁・烈風によって相殺される。

 それぞれが等間隔で距離を取って、一塊にならない。それ故に範囲攻撃や全体攻撃を使わされているローズ。

 直にナイトメアのクールタイムが明けるが、再び変わり身の術で透かされる可能性を否定できない。

 ナイトメアのクールタイムの方が短いことを祈ってクールタイムが明け次第、使うのはありだが、それで透かされるとナイトメアの正確なクールタイムがルートに知られることになる。

 今のナタフが使えるスキル情報は12神祭で既に明らかだが、ナイトメアの正確なクールタイムはまだ知られていない筈だが、状況からして仕方ないと割り切るほか無い。

 それ以外で知られていない情報は最大限利用する。

 その上でローズにとって最も気がかりなのは、神技・理への反旗の効果をルートはどう認識しているのか。

 エルシーにすら伝えていない上に人前で使ったのもこの前の12神祭でのみ。

 それを鑑みるとルートが大きな勘違いをしている可能性だってある。


「ナタフ、暗黒千雨!」


「サスケ、土遁・土釜!」


 天から降る黒い雨。先ほどまでの範囲攻撃とは違って相殺は無理と早々に判断し、自身をスッポリ覆い隠す土のかまくら擬きでシャットアウトする。

 サスケを覆い隠す土遁・土釜はかまくらに似ているが、一つだけ違う点が存在する。それは外と中を繋ぐ出入口が存在しないこと。


 これを見たローズは今がチャンスと捉える。サスケは土遁・土釜の中。出入口が存在しないということは中は暗闇。

 11体のサスケ全部に同じ指示を出すのは容易でも個別に、しかも特定のサスケに指示を出すのはかなり難しい。

 それらを考慮すると今、影分身や本体関係なく攻撃を仕掛けて少しでもダメージを与えるべき。

 時間を掛けて1体ずつ倒していく。そうすれば、いつかサスケ本体を倒せる。

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