第273話 鏡幻魔エルフ

「雷光を落とせ、ユヌス!」


「惑わせ、シルヴィーユ!」


 両者、2体目のモンスターはそれぞれエースモンスターを召喚する。

 エレオノーラは雷光竜のユヌス、琴音は鏡幻きょうげんエルフのシルヴィーユ。


「ユヌス、ドラゴンフォース、竜神化!」


「シルヴィーユ、エルフの加護、妖精の羽ばたき!」


 ユヌスはドラゴンフォースで全ステータス2倍、昇華スキルの竜神化で全ステータス3倍の計全ステータス6倍となるバフを付与。

 シルヴィーユはエルフの加護で防御力を2倍、妖精の羽ばたきで全ステータス2倍にする。これだけなら防御力のみ4倍で他は全て2倍。


 付与したバフの効果からして圧倒的にシルヴィーユが不利に見えるが、ユヌスがドラゴンフォースを発動した瞬間にユンの置き土産、神技・トランセンドフェイトの効果が発動している。

 自身が倒された時、このバトル中に相手モンスターは付与したバフが全て消滅する。

 これによってドラゴンフォースと竜神化によって付与されたと思われていたバフはそれぞれ消滅し、素の状態に戻る。


 これに気づいたエレオノーラだったが、今からではどう足掻いてもバフは付与できない。

 それに多様な効果を持つ神技・トランセンドフェイトの対策を完璧にするなど不可能。

 秒でこの状況を理解し、割り切る。この冷静さは経験からくるものだろう。


「シルヴィーユ、サウザンドアロー、ストームアロー!」


「ユヌス、ライトニングブレス!」


「シルヴィーユ、ミラージュミスト、テレポ・ミラージュ!」


 無数の矢を放ちつつ、その中で数本だけ強烈な疾風を纏った矢が混ざっている。

 ただ、真っ直ぐにユヌスへと向かう軌道上、ライトニングブレスと正面からぶつかると思われたその瞬間、ミラージュミストの効果でフィールド全体にもやがかかったかのようにシルヴィーユの攻撃が見えづらくなる。

 ストームアローはそのままライトニングブレスとぶつかり、相殺されるが、サウザンドアローは突如としてユヌスの真上から降り注ぐ。

 テレポ・ミラージュによる瞬間移動でサウザンドアローのみユヌスの真上へと移動していた。普通ならライトニングブレスで隠れて見えなくても真上に突如として出現すれば、直ぐに気づくのだが、ミラージュミストで靄がかかり、エレオノーラはユヌスが被弾するまで気づけなかった。


「シルヴィーユ、フォーリングメテオ、メテオストライク!」


「ユヌス、ライトニングノヴァ!」


「コスモパワー!」


 ちいさな無数の隕石が降り注ぐフォーリングメテオ、巨大な隕石がゆっくりと落下してくるメテオストライク。

 数が脅威と判断するや否や全体攻撃のライトニングノヴァでフォーリングメテオを相殺しようと試みる。

 だが、それは琴音が読んでおり、コスモパワーを指示。

 コスモパワーは特定のスキルを強化する。この特定のスキルがメテオの名が付くスキル。


 コスモパワーによる強化と攻撃力の差からライトニングノヴァではフォーリングメテオの威力を落とすことしかできなかった。


「ライトニングピラー、ライトニングブレイク!」


 ユヌスの真下から昇る雷光の柱によってユヌスへと降り注ぐ小さな隕石は全て消滅する。

 そして巨大な隕石はブレイク系スキルによって破壊される。


「シルヴィーユ、リ・ミラージュ!」


 一度凌いでもシルヴィーユには二度目がある。

 リ・ミラージュによってコスモパワーで強化されたフォーリングメテオとメテオストライクが再び放たれる。


「ユヌス、神技・雷光の竜閃!」


 これに対し、エレオノーラは防御を捨てた。

 正確には攻撃と防御を同時に行う。

 その為に最速の攻撃スキルを選択した。


 目にも止まらぬ神速の一撃。

 フォーリングメテオ、メテオストライクの攻撃範囲から離脱すると同時にシルヴィーユへの攻撃も行った。

 まさかこのタイミングで使ってくるとは思っていなかったのか、全く反応できていない。

 後方に大きく弾き飛ばされ、まだ体勢を立て直せていない。

 つまり、ユヌスにとって追撃のチャンス。


「神技・竜雷華!」


 ユヌスの口から放たれる巨大な雷の砲弾。

 一直線にシルヴィーユへと突き進み、直撃するも雷の華を咲かせることはなかった。

 寧ろ巨大な雷の砲弾は勢いよくユヌスへと跳ね返って来た。

 あまりにも予想外の事態に反応できなかった。

 跳ね返って来た神技・竜雷華によってユヌスのHPは一気に半分近く減る。


「!?」


 自分が放った攻撃でダメージを受ける。

 本来であれば、ありえない。

 可能性があるとすれば、何かしらのスキルで攻撃そのものを跳ね返した。

 神技・竜雷華を跳ね返したとなるとシルヴィーユの神技によって跳ね返されたと考えるのが妥当。

 だが、エレオノーラに神技が跳ね返されるのは想定外過ぎる。


 シルヴィーユは神技・竜雷華が直撃する直前に神技・ミラージュリフレクションを発動していた。

 その効果は直径1メートルほどの丸鏡を出現させ、触れた攻撃をそっくりそのまま跳ね返す。

 神技であろうと跳ね返せるが、神技を跳ね返すと鏡は消滅する。

 これが通常スキルを跳ね返しただけなら消滅せずに残り続け、まだ他の攻撃を跳ね返せる。


 何故、エレオノーラにとってこれが想定外なのか。

 それはイベントでのシルヴィーユの戦い方にある。


 シルヴィーユはミラージュリフレクションというスキルをイベントで使い、通常スキルを跳ね返して攻撃スキルの少なさを補う戦い方を見せていた。

 だからこそ、この序盤で神技を連発した。通常スキルでは跳ね返されるのがオチだから。


 この時、既にエレオノーラは琴音の術中にハマっていた。

 ミラージュリフレクションは通常スキルではなく、神技。それを敢えて神技と告げずに指示することで強力な通常スキルと全てのプレイヤーを誤認させていた。

 12神の誰と当たってもいいように。



「ユヌス、ライトニングダイブ、ライトニングクロー!」


 想定外の事でユヌスのHPが半分近く削られたが、一つだけ朗報もある。

 シルヴィーユは攻撃系神技を取得していない。

 神技・ミラージュインパクトともう一つの神技はイベントで披露している。

 当然、その効果をエレオノーラは把握している。

 それに距離を詰めて近接戦に持ち込めば、シルヴィーユの強みは殺せることも。


「イグニスアロー、シューティングアロー!」


 決して近づけないと攻撃を試みるもユヌスは止まらない。

 止めるにはもっと強力な攻撃をしないといけないが、元々サポート能力が高いシルヴィーユではそれは望めない。

 それでもこの試合の勝敗に直結するこのバトルでシルヴィーユを出したのは勝算あってのこと。


「シルヴィーユ、ミラージュランド!」


「え!?消えた?」


 ユヌスの攻撃がシルヴィーユに当たったと思われたが、それと同時に靄となり、シルヴィーユは消えた。


「ミラージュショット!」


 辺りを見渡し、消えたシルヴィーユの行方を探すユヌスに突如として真正面から矢が飛んでくる。

 それも矢の存在を認識したのは当たる寸前。

 それまでそこに矢など存在しなかった筈。


「ミラージュガトリング!」


 訳がわからず困惑していると今度は真上から無数の矢が降り注ぐ。


 バトルステージからフィールドを見ているエレオノーラにすら今、何が起きているのかなんとなく理解できていた。

 シルヴィーユがフィールドを展開したと。

 早々に打開策を見出さないとどこからともなく飛来する攻撃にユヌスのHPが削り切られる。


 エレオノーラはシルヴィーユがどこにいるか全く検討もついてない。

 だが、この手のスキルって強力な反面、デメリットもそれ相応にある。

 一番多いのは攻撃に被弾すると強制的に解除される。

 これが酷いのだと解除と同時にHPが0になるのもある。

 後はフィールド展開中は極端に防御力が低下するとか。


 ここまで温存していたことからもそれ相応に重いデメリットが存在すると考えていい。

 ならば、これを攻略すればかなり勝ちに近づく。

 そう考えるエレオノーラ。


「ユヌス、麒麟!」


 フィールド全体に雷が波打つように伝達し、とある場所で雷の柱が昇る。

 つまり、この場所にシルヴィーユがいる。


「神技・インドラ!」


「!シルヴィーユ、神技・ミラージュスフィア!」


 神技・インドラは発動すると透明な結界が展開されるが、この時、ミラージュミストやミラージュランドの効果でフィールド全体が靄でかなり視認しづらい状況。

 つまり、本当は神技・インドラを発動していなくても視認だけではわからない。


「ん?」


 神技・インドラにしてはかなり小規模の攻撃が一瞬だけ見えた。

 視認困難のフィールドだからそう見えただけなのか、それとも…と琴音が考え始めたところで特大の雷がフィールド上に落ちるのを確認する。

 それから数秒ほど時間が経ち、フィールドから靄が消え、一つのウインドウが表示されているのが見える。


『ユヌス DOWN』

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