第272話 嫉妬のお姫様
12神も2勝2敗と持ち直したが、挑戦者側にはハンデの1勝がある。
勝数だけ見ると2対3で挑戦者側が勝っている。
次の第5試合を12神が落とせば1日目の終了時の勝数では確実に負け越しが決まる。
ここまでは第1試合以外は自由に選出していたが、残る2試合はそうもいかない。
何故なら今日しか予定が空けられなかった者が2人いるからだ。
「次は私がいく」
「そうなると最後が私か」
「うん、お願いね」
こうして話し合いの余地も無く、残る2試合の選出が決まる。
第5試合に出場するのはエレオノーラ。
第6試合に出場するのがローズ。
初日の命運を2人に全て託す輝夜。
そして、まだ出場していない面々は2日目に気持ちを切り替えつつある。
挑戦者側に第5試合に出てくるのがエレオノーラだと伝わる。
これには当初の予定通り、対応することで即決。
「ん?おお!第4試合に続き、速攻で対戦カードが決定しました!12神からは序列11位、エレオノーラ・エスポージト!対する挑戦者はギルド 鬼姫、柊琴音!」
「相性なのか?何とも言えないが、エレオノーラ相手に出てくるわけだ。きっと何かしらあるだろう」
「それが何なのか注目ですね!」
第5試合と戦う2人のプレイヤーがそれぞれバトルステージに入場する。
2人の準備が整った所でバトル開始の合図。
『エレオノーラ・エスポージトVS柊琴音 バトルSTART』
「天より出でよ、レミエール!」
「妬み羨め、ユン!」
エレオノーラの1体目は剣を装備した天使のレミエール。
対する琴音の1体目は大罪種、嫉妬のお姫様、ユン。
その姿は正にお姫様。杖とか武器に見えるような物は一切持っていない。
頭に付けたティアラや首にあるネックレスが武器や防具という扱いになっている。
「レミエール、熾天の剣、熾天の加護、熾天解放!」
「ユン、プリンセスヴェール、敵への嫉妬、飛行への嫉妬!」
レミエールは熾天の剣で攻撃力2倍、熾天の加護で防御力2倍、昇華スキルの熾天解放で更に全ステータス3倍となり、攻撃力と防御力は6倍、素早さは3倍になっている。
対するユンはプリンセスヴェールで味方モンスターに食い縛りを付与。これで一回は必ずHP1残して攻撃を耐える。そして敵への嫉妬で相手モンスターが自身に付与したバフをそっくりそのままユンに付与する。
その為、ユンもレミエール同様に攻撃力と防御力は6倍、素早さは3倍となっている。
そして飛行への嫉妬によって本来、翼で飛べる筈のレミエールは飛べなくなり、逆に本来は飛べない筈のユンが翼無しで飛べるようになる。
どうやって飛んでいるかの原理は不明。
レミエールは空が飛べなくなったので、空を自由奔放に飛び回っているユンに物理攻撃を当てる術が無いので、魔法で撃ち落とすしかできない。
「レミエール、セイクリッドジャベリン、セイクリッドランス!」
「ユン、躱して嫉妬の炎、嫉妬の氷!」
飛来する光の剣と槍を必要最低限の動きで回避し、上空から炎の塊と氷塊を落とすも地上をジグザグに動き回るレミエールに当たらない。
「ユン、嫉妬の雷、嫉妬の土、嫉妬の風!」
その後も波状攻撃を続けるが、ユンの攻撃は一向に当たらない。だが、それはレミエールも同様。
地上から魔法を放ってもユンに擦りもしていない。
このままの流れではかなりの長期戦になりそうな予感がしていたが、ここでユンが動く。
「ユン、必中の嫉妬、嫉妬の業火!」
なんとここでユンが放った攻撃が必中効果を付与されていた。
その理由は必中の嫉妬の効果にある。
バトル開始直後、5回連続で攻撃が当たらなければユンの通常攻撃スキル全てに必中効果を付与する。
「レミエール、プチヒール!」
「まだまだ!嫉妬の大氷、嫉妬の轟雷!」
巨大な氷の塊、幾重にも降り注ぐ落雷。
それら全てが意志を持ったかのようにレミエールを追尾する。
「熾天一閃!」
振り切るのは不可能と判断するや否、即座に無制限の連続攻撃スキルの熾天一閃で全て斬き落とそうとする。
だが、魔法斬りとは違って相殺するだけなので、最初の数撃はなんとかなったが、途中押し負けて幾つか被弾する。
「レミエール、トーレントノヴァ、ホワイトノヴァ!」
水属性と光属性の全体攻撃、二連撃。
普通ならブレイク系スキルで破壊するか攻撃スキルで相殺するかの二択。
だが、琴音の選択は三つ目。神技を使う。
「ユン、神技・レヴィアタン!」
「っ!?レミエール、神技・熾天激流剣!」
「はああぁぁぁぁ!」
ユンが情報に無い神技・レヴィアタンを発動した直後、咄嗟にエレオノーラはレミエールに神技・熾天激流剣を使わせる。
薫とミアのバトルで大罪種のモンスターが使う悪魔の名を冠した神技の効果を目の当たりにしている。
警戒するあまり咄嗟に唯一範囲攻撃が可能の神技・熾天激流剣で反撃する。
ユンの神技・レヴィアタンが攻撃スキルならベストの選択だったと言えるが、そうじゃない場合、悪手と言わざるを得ない。
神技・レヴィアタンの効果は神技を除いた相手モンスターが使えるスキルをバトル中に使えるようにする。
嫉妬のあまり狂い過ぎた結果、相手モンスターが使うスキルを使いたいと妬むようになった結果がこれだ。
トーレントノヴァとホワイトノヴァ、迫り来る二つの全体攻撃をそれぞれトーレントブレイクとセイクリッドブレイクで破壊する。
その影に隠れて重力に逆らうように下から上へ流れる激流は、より上空に退避することで回避に成功する。
この時、エレオノーラは何が起きたのかわからないでいた。
ユンの使う神技で把握していたのは、輝夜とジャスパーから聞いた神技・エンヴィーと神技・トランセンドフェイトの二つ。
その二つとも強力な攻撃スキルでは無いから神技・レヴィアタンは強力な攻撃スキルと考えていただけに目の前で起きたことが理解できなかった。
エレオノーラは一つだけ重大な見落としをしている。
大罪種のモンスターが使える神技は全部で四つ。
まだ一つだけその存在が隠された神技がある。
「ユン、お返しだよ!トーレントノヴァ、ホワイトノヴァ!」
必中効果の付与された全体攻撃だが、特殊な全体攻撃でも無い限り、必中効果は意味をなさない。
その為、ブレイク系スキルで破壊するか相殺するという対処法に何ら変わりない。
「レミエール、トーレントブレイク、セイクリッドブレイク!」
「ユン、嫉妬の逆鱗!」
上空から漆黒の球体がフィールドに落ちると全体にその波紋が広がり、レミエールを覆い潰す。
「レミエール、セイクリッドヒール!」
回復魔法でHPを全回復したが、戦局は誰の目から見てもエレオノーラが劣勢。
序盤に使われた飛行への嫉妬の影響が大きい。
こうなると一か八か神技による連続攻撃に賭けるしかない。そう判断し、勝負に出る。
「レミエール、神技・アクエリアス!」
レミエールの剣先から激流が放たれる。
ただ、その攻撃範囲は狭く、単体攻撃スキルなので容易にユンは回避した。
そう、攻撃範囲が狭いから最小限の動きで回避できる。ユンはそれが災いした。
神技・アクエリアスを発動中にレミエールが上空にいるユンへと向けている剣先を少し動かすだけでぐにゃぐにゃと軌道を曲げる変則攻撃が完成する。
初見でこれに対応できるわけもなく、ユンは被弾する。
それも空を飛んだ状態で初めての被弾。
地上とは違って踏ん張りが効かない空中での被弾に勢いよく弾き飛ばされ、フィールドの端にある見えない壁に衝突する。
衝突した衝撃も相まってユンは真っ直ぐに地上へと落下する。
「レミエール、神技・レミエル!」
「させないよ!ユン、神技・エンヴィー!」
追撃の為にフィールドの端まで地上を走るレミエール。その最中に神技・レミエルを発動し、いつでもユンを攻撃できるよう準備を整える。
この状況、このままではマズイと判断した琴音は温存しておきたかった神技・エンヴィーを使ってレミエールの神技・レミエルを封印する。
そして自動的にユンは神技・レミエルを発動させ、先ほどまで快晴だったフィールドに突然、暗雲に覆われ、雨が降り、雷も落ちる。
そしてユンの右手に特大の雷が落ち、天気は回復し、全ての力が一点に集約する。
神技・レミエルは至近距離で放つ物理攻撃スキル。
落下の勢いを逆に利用してそのままレミエールに攻撃を仕掛ける。
それを正面かは迎え撃つ構えを見せるレミエール。
「ヒール、神技・熾天聖水懲罰滅殺剣!」
HPが全回復している今、普通ならヒールを使う意味は無い。だが、これで回復魔法を三種類発動させたことになる。
その状態で神技・熾天聖水懲罰滅殺剣を放ち直撃すれば、追加効果で懲罰が発動する。
ユンの拳とレミエールの剣がぶつかると思われたその瞬間、スっと剣を引き、再び振り上げ直す。
近接戦の心得が無いユンはこの単純な駆け引きで体勢を崩され、神技・熾天聖水懲罰滅殺剣の直撃を受ける。
「てやあぁぁぁ!!」
それでも気合いと根性で右拳をレミエールに叩き込む。
その結果、
『レミエール DOWN』
直後、
『ユン DOWN』
先にレミエールのHPが0になる。ユンはプリンセスヴェールでHPを1だけ残して攻撃を耐えたが、懲罰の効果で1秒後にはHPが0になった。
対戦相手のエレオノーラを含めて誰も気づいていないが、この1秒でユンは神技・トランセンドフェイトを発動していた。その効果はこの後に召喚されるモンスターに対し、発揮される。
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