第270話 天空竜

 第3試合を終え、第4試合の選出をどうするか考えている12神。

 正直、誰も挑戦者側の選出を読めないでいる。それ故に輝夜たち上位陣が出にくい状況なのは間違いない。


「みんな、ごめん」


「あれは薫くんが上手かった。イベント中からこの時を見据えて神技とかを温存してたわけだし」


「寧ろ、あそこまで情報が不足している中よく戦った」


 輝夜とジャスパーがそれぞれ思い思いの言葉でミアをフォローする。


「次は僕が出ます。恐らく、ここまでの選出から僕の相手がエルシーさんの可能性は低いと思います」


「それでもノアくんが出ると向こうも予定変更してエルシーさんが来ないかが不安だけど、そうも言ってられないか。任せたよ!」


 他の面々もソフィアと同じ想い。ここはノアに任せる。

 エルシー以外の相手ならまず相性的に負けることは無いだろうから。



 第4試合の12神側の選出がノア・スミスと明らかになった挑戦者側の控え室。


「ノアが第4試合か。アンジェラ任せるよ」


「はい!」


 エルシーは一切、迷いを見せる無くこのバトルをアンジェラに任せる。

 それだけアンジェラの実力を信頼しており、その女が勝率が低いとわかった上で対策はあるから自分に任せて欲しいと言い切った。

 そこまで言うなら任せる。



「おや、第4試合の対戦カードがもう決定しました!!12神は序列9位 ノア・スミス!対する挑戦者はギルド ソフィア海賊団のサブマスター、アンジェラ・デイビス!!」


「随分と決まるのが早かったな。12神としては相性的に勝率の高いノアを出すことで連敗ストップってとこか。挑戦者側は最初からノアの相手はアンジェラって決めてたんだろうが、ちょっと意外だな。ノアの相手はエルだと思ってた」


「そこはやはり上位陣とのバトルを見据えて強力なカードを温存しているのでは?」


「だけど、この連勝を簡単に止めさせたくないよな。怜央と薫くんの二人が掴んだものだからな。そうなるとこのバトルこそ何かしら秘策ありって感じか?」


 ここで両プレイヤーがバトルステージに入場し、会場のボルテージが更に上がる。

 そして2人の準備が整う。


『ノア・スミスVSアンジェラ・デイビス バトルSTART』


「やるよ、カイザー!」


「天に轟け、シエル!」


 ノアの1体目は人類種、喧嘩番長と書かれたハチマキを頭に巻いている日本で言うところの学ランを来た男子高生のような見た目をしている。


 対するシエルは幻想種の竜。緑色の鱗に覆われた体。頭部には二本の角。

 空を飛ぶその姿は天空の支配者を彷彿とさせる威圧感がある。


「カイザー、我こそ最強の喧嘩番長、最強・最強・最強!」


「シエル、ドラゴンフォース、天竜解放、天の覇者」


 我こそは喧嘩番長で全ステータス2倍、昇華スキルの最強・最強・最強で更に全ステータス3倍と合計で全ステータス6倍となる。


 シエルも負けじとバフを付与する。ドラゴンフォースで全ステータス2倍、天竜解放で更に全ステータス2倍、天の覇者で全ステータス1.5倍と合計で全ステータス6倍。


 素のステータスの高さはシエルの方が上だが、リヴィングウェポンを装備したカイザーならほぼ同じくらいの数値。

 付与したバフは共に全ステータス6倍。ステータス差は殆ど無いに等しい。


「シエル、ゲイルブレス、ゲイルトルネード!」


「カイザー、ハイジャンプ、空歩、番長の挑発!」


 直線的な攻撃であるゲイルブレスはハイジャンプで、ゲイルトルネードはそこから更に空中に足場を作る空歩で大きく前方に跳ぶことで回避する。

 この時、空を飛べないカイザーにとって攻撃よりもそれを僅かでも封じることの方が大事。

 番長の挑発によってシエルはカイザーから一定以上の距離を取れなくなる。

 遥か上空へと退避しようにもそれがもうできない。


 だが、ここまではアンジェラの想定内。

 12神祭でキリルのナタフ相手に同様のスキルを使って距離を取らせないようにしていたからシエルにも早々に使ってくるとわかっていた。

 それを防ぐではなく、受ける選択をしたのは距離を取れないデメリットはカイザーにもあるから一概にシエルが不利というわけじゃないからだ。


「カイザー、番長鉄拳!」


「シエル、ゲイルクロー、ゲイルテール!」


 無制限に連続で放てる番長鉄拳だが、拳で相手モンスターを殴るスキルの為、その間合いはかなり狭い。

 今のシエルみたいち常に弾き返すように攻撃をぶつければ、自然と後方に弾かれ、間合いの外に追いやられる。


 カイザーのスキルで最も警戒が必要な番長鉄拳。

 その対策は万全。

 それを目の当たりにしたノアは不敵な笑みを浮かべる。


 この時、ノアはこう思った。

 倒しがいがあると。


「シエル、ゲイルダイブ、ゲイルフィスト!」


「カイザー、番長鉄拳・白!」


「ゲイルピラー!」


 一度、後方へ弾き返して更に体勢を崩せば、番長鉄拳は失敗ファンブルする。

 その隙を的確に狙い、カイザーを風で刻むようにその真下から風の柱が昇る。

 この体勢では魔法斬りも難しい。


 番長鉄拳の対策は確実に発動させた後に後方へと弾き返すことでの失敗ファンブル狙い。

 発動自体はしているので、コンボの方は問題ありませんが、無間までコンボを繋げると神技かブレイク系スキルで打ち消されるか破壊されるのがオチですね。


「ならカイザー、神技・喧嘩上等!返り討ちじゃ!」


「!?」


 ここで12神祭では見せていない神技。

 それでもアンジェラはその効果を過去のバトルから知っている。


 4連続の物理攻撃スキル。


 こちらも神技を繰り出し、相殺するという手の方が無難な局面ではあるが、ついつい欲が出てしまった。

 番長の挑発で距離があまり取れないが、4回カイザーの拳を回避すれば、神技を一つ不発に終わらせたことになる。

 確かに神技を一つ不発に終わらせたらバトルの流れは大きく傾く可能性がある。

 だが、それはあくまで不発に終わらせたらの話だ。


 アンジェラが最後にカイザーの神技・喧嘩上等!返り討ちじゃを見たのは一体いつの話だろうか。

 それは前々回の12神祭でソフィアのランスロットと対峙していた時。

 あれから数年の月日が経っており、カイザーはLv90に至り、最後の進化を遂げている。

 その時に取得したのが番長鉄拳・白から無間のコンボスキルだが、既存の取得スキルも幾つか強化されている。


 1、2、3、4撃目!!よし、躱した!


「シエル、神技・ウェンフルクトゥス!」


 カイザーの神技・喧嘩上等!返り討ちじゃの4撃目を回避すると同時にシエルは神技・ウェンフルクトゥスを発動する。

 本来なら荒ぶる風が波打って目の前にいるカイザーを一瞬にして飲み込むのだが、そうはならなかった。


 シエルの放った神技がカイザーに当たるよりも先にカイザーの5、6撃目がシエルに直撃した。

 想定外の攻撃を2発もまともにくらったことで、シエルはあらぬ方向に神技を放ち、カイザーの神技を不発に終わらせるつもりが、逆に不発に終わらされた。


 この攻防の結果をバトルステージにいる2人はそれぞれ全く違う影響を及ぼした。


 ノアは回避に徹するシエルを見て神技を使って攻勢に出るのは悪手だったと捉えていたが、予想外のことが起きた。

 そして、この攻防で全てを察した。

 序盤の動きからエルシーから何かしらの秘策を授かっている可能性を危惧していたが、その可能性はゼロに近いと。

 エルシーが何かしらの策を授けているなら進化して神技の効果がより強力になっている可能性も伝えている筈だから。

 12神祭で使っていない神技となれば必ず。

 ノアはこの攻防で精神的に余裕が生まれていた。


 一方でアンジェラは精神的に余裕が無くなっていた。

 バトル前からカイザーの神技・喧嘩上等!返り討ちじゃを不発に終わらせ、一気に流れを掴み、神技を最低でも一つ、多ければ二つほど温存して次のリヴァイア戦に臨むつもりでいた。

 当初、思い描いていた計画通りに事が進んでいたにも関わらず、失敗した。

 しかも神技を一つ無駄撃ちしてしまった。


「カイザー、番長鉄拳・青、赤、紫、黒、むけ…」


「っ!?ゲイルブレイク!」


 ほんの僅かな隙をノアは見逃さなかった。

 確実に番長鉄拳のコンボを繋げて必中攻撃の無間まで放とうとしたが、番長鉄拳・無間の発動と同時にゲイルブレイクで破壊される。


 狙って破壊したわけじゃない。

 精神的余裕が無くなり、番長鉄拳のコンボに対応するのが遅れ、慌ててブレイク系スキルのゲイルブレイクを指示。

 それが偶然にも番長鉄拳・無間を破壊した。


 偶然にも番長鉄拳・無間の破壊に成功したことで冷静さを取り戻しつつあるアンジェラはここしかないと瞬時に攻め時を感じ取った。


「シエル、神技・アネモイ!」


「カイザー、神技・不滅の喧嘩番長!」


 至近距離で四方八方から暴風がカイザーを切り刻むが、神技・不滅の喧嘩番長で防ぎながら更なる接近を試み、返しの神技・覇道滅殺でシエルを穿つ。

 HPが刻一刻と減り続ける中で


「神技・天空ノ竜舞!」


 シエルは吹き荒れる暴風の中を優雅に舞いながら連続で攻撃をする。

 幾度となく攻撃を当てるが、番長鉄拳のコンボで受けたダメージが大きかった。

 シエルのHPがカイザーの神技・覇道滅殺によって先に全損し、舞は止まる。


『シエル DOWN』

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