第230話 『天上庭園』完全攻略!

「一応、コン本体はまだ陽炎と蜃気楼を使ってないから今すぐにでも使えるけど、今は温存でいいですよね?」


「うん、そうしてくれると助かる」


「りょーかいです」


 そう、さっきまでは影分身が陽炎と蜃気楼コンボを成立させていたからコン本体はまだ陽炎と蜃気楼を使っていない。影分身とスキルのクールタイムが一切共有されていないコンの強みが活きてるけど、状況は最悪。

 当初、想定していた陣形が崩された。

 ラスティーヌはアテナ以外のモンスターと連携を取るのが難しい。この状況だと、下手すると偵察戦のように数分で各個撃破される可能性すらある。

 早々に作戦を立て直して、この状況を打破しないと!


 この状況、輝夜たちも打開策は模索しているが、何も見つからない。

 正確には立てようが無い。行動パターンが変わったことにより、これまで通り地上組のみを狙ってくるのかどうか、物理攻撃主体で魔法は落雷くらいだったが、魔法攻撃の比率はどのくらい増えるのか。

 あまりにも情報が少なすぎる。

 そんな中、卓越した戦術眼?でこの状況を打開する術を共有するモンスターが、


 プルプル、プルプルプル、プルプル


「なるほど、悪くないな。よし!それでいこう」


「ラスがそれでいいなら私もオッケー!ブルーの策でいこう!」


「うん、僕もそれで大丈夫です」


「私も賛成!」


 プルプル!プル!


 蓮たちがこの状況を重く捉え、気づかぬ間にブルー発案の策が地上組、ラスティーヌ、アテナ、コン、シルヴィーユの満場一致で可決されて実行に移される。

 もちろん、ブルー発案の策だから地上組5体のモンスターしか知らない。

 上空からじゃブルーがプルプルしててもよく視認できない為、何を話しているのか解読不可能だからだ。


 天上の王キング・オブ・ヘブンが雷を体に纏うと同時にラスティーヌがテレポライトで正面に立ちはだかる。そのままの勢いで攻撃を仕掛けるが、この時、ラスティーヌはスキルを発動していない。ただの通常攻撃による攻撃だ。

 もちろん、それではダメージはほとんど無いに等しい。だが、これまで散々ラスティーヌに攻撃を受け流され、返しの太刀で反撃を受け続けていた天上の王キング・オブ・ヘブンにとっては関係なかった。即座に高速移動からラスティーヌへの攻撃へと切り替える。


 その瞬間、誰もいない筈の背後から強力な攻撃が天上の王キング・オブ・ヘブンを襲う。


 シルヴィーユのテレポ・ミラージュによって天上の王キング・オブ・ヘブンの背後に瞬間移動したアテナの神技・戦女神ヴァルキリーが直撃したことによって、ラスティーヌへ攻撃しようと若干ではあるが、重心が前に傾いていた天上の王キング・オブ・ヘブンは前方へと蹌踉よろめく。

 そこをラスティーヌに隠れて接近を試みていたコンがジャンプして天上の王キング・オブ・ヘブンの上を取り、稲荷流狐剣術、陸の型 御神楽・稲荷突きで転倒させる。


 プル!


「今だよ、みんな一斉攻撃!!」


 コンが天上の王キング・オブ・ヘブンを転倒させる。それが一斉攻撃の合図だが、シルヴィーユの位置からでは、転倒したかが見えない為、ブルーが傍らに残って気配で察知し、プル!とシルヴィーユへ指示を出す。それを確認したシルヴィーユによって訳もわからず、ポカンと空中で待機しているモンスターへ一斉攻撃の指示が通る。

 上空から俯瞰で戦局を見ていた為、行動は速い。


 神技が使えるモンスターは神技を使って攻撃。使えないモンスターは今すぐ使えるスキルを出し惜しむことなく叩き込む。ただし、一番強力な神技やスキルは最後に回す。

 それはもちろん、シルヴィーユの神技・ミラージュインパクトの効果を最大限発揮させる為のもの。


 総攻撃の最中にプレイヤーたちは現状を理解する。

 誰かまではわからないが、地上組のモンスターがこの策を考え実践したと。


 うん、ブルーじゃないことは確かだな。きっとアテナかラスティーヌ、それかシルヴィーユの発案でしょ。


 プル!?プルプルプル!!


「ブルー、次に備えて!まだ終わってない」


 プル、


 ブルーにはもう少し落ち着きを持ってほしいな。


(あの一連の流れからしてさっきの策はブルーの発案ね。さすが蓮くんのエースモンスター。そしてそのブルーをリーフィアに交代させずに残した私もさすが!)


(ラスティーヌとアテナの連携、シルヴィーユが出した総攻撃の指示と全体が見えてる。優秀な指示出し役がいた証拠。状況からしてブルーか。さすが鬼灯くんのエースモンスターだ。リーフィアと交代させなかった輝夜の判断は間違っていなかったな)


 今の総攻撃でも天上の王キング・オブ・ヘブンは倒せていない。

 与えられたダメージは2割そこそこだが、ここにきてようやくデバフが効いてきた。

 最初の総攻撃よりも倍近いダメージを与えている。

 これで残りHPは4割。


「ラスティーヌ、ライトニングスラッシュ!」


「アテナ、聖なる祈りの剣!」


 先の総攻撃後から魔法攻撃の比率が確実に増えているが、ラスティーヌはテレポライトによる瞬間移動じみた高速移動で全て回避し、アテナは反射だけで回避している。

 そんな芸当、ブルーやコンにマネできるわけもなく、ラスティーヌとアテナの援護ができずにいる。

 それはシルヴィーユも変わらないが、空中組は違う。

 上手くローテーションを組んで2体の邪魔にならないよう攻撃している。

 特に必中効果を持つカーラのナイトメア、アルバスの怠惰スキルが活躍している。


 このままじゃ、回避に手一杯で何もできない。

 ラスティーヌとアテナがあれだけ密着して戦っているのにブルーたちに魔法を放つ余裕がある。

 その余裕を奪わないとブルー、コン、シルヴィーユと何もできない。

 どうやって天上の王キング・オブ・ヘブンの余裕を奪う。何か、何か考えないと。


「ファム、シャイニングクロー、クロスドライブ!」


 ボス部屋に響き渡る声。それに呼応するかのように天上の王キング・オブ・ヘブンの頭上へと急降下しつつ合技を炸裂させるファム。


「地上で数足りてないだろ?これでいけるか?」


「うん、ありがとう!」


「助かる!」


「ありがとね!」


 地上組に混ざって戦えるのはファムとカーラ、アルテミスくらい。

 カーラは空中組の要だから外せない。ファムとアルテミスも回復という役目があるけど、片方だけなら外れても問題ないという判断でルーカスがファムを地上組の援護に向かわせた。

 これにより、ブルー、コン、シルヴィーユを狙う魔法が止まった。


「ラスティーヌ、ライトニングブレイク、ペネトレイトスラスト!」


「アテナ、聖なる乙女の剣、聖なる破滅の剣!」


「ブルー、雷霆、鳴神!」


「コン、狐火、鬼火、伍の型!」


「稲荷流狐剣術、伍の型 紅炎・稲荷!」


「シルヴィーユ、テレポ・ミラージュ、フォーリングメテオ、メテオストライク!」


 雷属性のブレイク系スキル、ライトニングブレイクに防御無視のペネトレイトスラスト、光属性の聖なる乙女の剣にブレイク系スキルの聖なる破滅の剣。

 そこに遠距離から雷霆をテレポ・ミラージュで瞬間移動させ確実に天上の王キング・オブ・ヘブンへ当てて追加効果の麻痺で動きを一時的に封じる。

 シルヴィーユはテレポ・ミラージュによるサポートの後、大量の小さな隕石と一つの巨大な隕石を天上の王キング・オブ・ヘブンに落とす。

 ラスティーヌやアテナ、それに空中組から援護に来てくれたファムといった味方をも巻き込む形となるが、このチャンスを逃すわけにはいかない。


「カーラ、深淵への誘い!」


「アルバス、怠惰の誘い!」


 ファムのおかげで立て直すことに成功し、戦況も安定。遂には地上組の相手で手一杯になっている天上の王キング・オブ・ヘブンにカーラが降りてきて深淵への誘いを決める。

 もちろん、その後すぐに反撃に備えて神技・イージスをいつでも発動できるように準備しているアルテミスの後ろに隠れた。




 そして遂に天上の王キング・オブ・ヘブンは残り2割となる。


 狂乱モードへと突入し、攻撃力と素早さが大幅に上昇するが、防御力は低下する。

 強力な一撃が当たれば、大ダメージが期待できる。

 当たればの話だが。



「当たらない…」


「テレポライトを使ったラスティーヌと同等の素早さ。ほぼ瞬間移動だろ」


 時間を稼いでカーラとアルバスの必中攻撃でダメージを稼ぐ手もあるけど、どれくらい時間が掛かるか不透明だし、最終手段だよな。


「使うならここしかないよな?コン、陽炎、蜃気楼!」


「あ、ならこれも追加!シルヴィーユ、ミラージュミスト!」


 霧?でも、陽炎、蜃気楼コンボと混ざり合ってより強力なスキルになってる。まるで合技みたい。


「この土壇場で即席の合技、さすが!」


 輝夜さんが認めるほど、やっぱり合技なんだ。

 でも、最後に「私の後輩」って言葉が隠れてそうな気がするのは俺だけかな。

 でも、これでやりようはある。


「文字通りの狂乱モードだな。とち狂ってる様にしか見えない。これほどの合技が存在するのか」


「アテナ、被弾即死だと思って!」


「オッケー、オッケー!」


「じゃあ、神技・審判の抹殺、神技・世界の破滅!」


「ラスティーヌ、俺たちも続く!神技・聖雷之白せいらいのはく、神技・雷光らいこう勇撃槍ゆうげきそう!」


 恐らくコンとシルヴィーユの合技で幻を見て、それを戦っているであろう天上の王キング・オブ・ヘブン。暴れ散らかしているようにしか見えないけど、その動きが突然、時間が止まったかのように止まる。


 作戦会議で聞いてはいたけど、本当に止まるとは。

 これが覚醒勇者、ラスティーヌの神技・聖雷之白。遠距離からの範囲攻撃の上に当たればダメージだけでなく、追加効果で5秒間必ず動きが止まる。

 輝夜さんが太鼓判を押す世界最強の神技の一つ。


「カーラ、悪魔の囁き、ナイトメア!」


「アルバス、怠惰の祝福、怠惰の囁き、怠惰な悪夢、怠惰の誘い、怠惰の破滅、怠惰の解放、神技・ワールドエンド!」


「ノワール、ブラックラグナロク、神技・ビッグバンノヴァ!」


「エルナ、神技・スターダストブレイカー、神技・レッドプリンセス!」


「アルテミス、神技・ホワイトセイバー、神技・ストームセイバー!」


「ヴェル、ストームアロー、烈風、鷹の目、ダウンストーム、ウインドダイブ!」


「ユニ、ユニブラフト、ユニブレイク、ユニプラズマ!」


「ファム、シャイニングブレス、ヘブンズノヴァ、ヘブンズクラッシュ!」


「ブルー、天御雷、霹靂神、八雷神!」


「コン、捌の型、玖の型、紅蓮の誓い、稲荷の焔!」


「稲荷流狐剣術、捌の型 爆轟、玖の型 流星火!」


「シルヴィーユ、リ・ミラージュ、神技・ミラージュインパクト!」


 神技・ミラージュインパクトの対象にならないスキルはシルヴィーユがリ・ミラージュて、それ以外は神技・ミラージュインパクトで幻影によって二度目の攻撃が行われる。


 こうして長かった『天上庭園』攻略は終わりを告げる。

 最後はいつもの総攻撃で終わりを迎え、呆気なく感じたが、時間にして3時間近く戦っていた。

 さすがにみんなヘトヘト。いつもは大はしゃぎのブルーですらプル、プルーと蕩けている。


 それでも輝夜さんとジャスパーさんはもう一戦くらい大丈夫じゃないかと思えるくらいピンピンしてボス部屋の中央へと歩み寄っている。

 その先には虹色に光り輝く宝箱が一つ。

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