第220話 お手柄、ブルー

『天上庭園』第四層、途中までは余すところなく、マッピングはできている。

 そう、途中地下3Fの分岐点までは。


 このままでは埒が明かないので、挑戦は一旦控えて、今はホテルの会議室でモンスターを含めてみんなでこの先どうするかを話し合っているところ。


「全滅のリスクはあるけど、パーティー毎に別行動してマッピング率を高めるしかないかな」


「それだと、根本的な解決にならない。そもそも分かれ道は全てしらみつぶしに回った。その結果、まだ進めていない地下3Fの更に先にエリアボスのいるボス部屋に繋がる道があると判断しているわけだ。だが、時間が足りず、そこまで進めていない。パーティー毎に別行動してもそれは変わらんだろ」


「ならジャスパーは何か良いアイデアある?」


「それをこれから話し合って考えるんだろ」


 そう、地下3Fの特定の場所よりも先に進めていない状況。

 んー、でもさ1日費やして、最短ルートで進んでもエリアボスのいるボス部屋まで辿り着けないってどうなんだろ?何かを見落としてるとか。例えば、ゲームでありがちの隠し通路とか。


「隠し通路とか見落としてるって可能性はありませんか?個人的に地下に違和感あって、何て言うか城の地下って地下牢とかのイメージがあって、ちょっと暗いだけで普通の通路って変だなって」


「ちょっと暗い、確かに。あの暗さだろ地下に何かしらのショートカットルートがあっても見落とすかも」


 プル、プル、プル、プル


 ブルー、俺の腕の中にいるのはいいけど、ちょっと大人しくして。

 あ、大人しくなったと思った。

 なんか今日はやけに素直だな。気のせいかな。まあいいや。


「仮にショートカットルートがあるならヒントとかありません?これゲームだし」


「郁斗くんの言う通り。現実にこんなに複雑な城が存在するなら兎も角、これはゲーム。ちなみにそれらしきもの見つけた人やモンスターっている?」


 プル、プルプル


 よしよし、なでなで。

 大人しくしててね。


 プル~


「やっぱりいないか。そうなると地道にあるかどうかわからないヒントを探すことになる。さすがにそれは厳しいな」


「主、ちょっとよろしいですか?」


「ん?どうかした?」


「ブルーなら何かしら気づいているのではと思って」


 プル~、プル?


「「……」」


 プル!プルプル、プルプルプルプル!!


「なるほど。主、ブルーをお借りします」


 プル!?プルプル…


 ブルーからは嫌々感が漂っていたけど、有無を言わさずリーフィアに連れて行かれた。

 ブルーを確保したリーフィアはそのままアテナとドレイクの下へ。

 そこで何やら話をしているみたい。

 そして、みんなの視線がそこに集まっている。

 話の内容が気になったのかノワールとシルヴィーユがふらふらと歩み寄っている。


「輝夜、ブルーが言うには途中で変な場所があったみたい。マップ出して」


「はいはい、場所どこ?」


 プルプル、プル


「えっとね、この辺かな?」


 プルプル、プル


「あ、もうちょっとこっちね。ここ?」


 プル!


「うん、ブルーが言ってる場所は地下1Fのここだね」


 プルプル


「アテナ、通訳助かる。それにしても地下に降りて直ぐの場所か。特に変わった場所には思えなかったが」


「ブルー、この場所の何が気になったの?」


 プルプル、プルプルプル!


「えっとね、壁の隙間らしき場所から空気が流れてたとか」


「壁の隙間らしき場所から空気…。正に隠し通路がありますって感じだな」


「よーし、早速、『天上庭園』第四層地下1Fに行きましょう!ブルー、頼りにしてるから」


 プル!


 ブルー、輝夜さん、ジャスパーさんたちの中で話は纏まったみたいで、攻略の糸口になりそうな場所を見つけた。その場所なら大して到着に時間が掛からないから早速、みんなで行くことに。



「ブルー、ここで合ってる?」


 プル!


「大丈夫そうね。隠し通路があるならどこかに開閉の為のギミックがあると思うけど」


「てりゃあ!」


 ズドーン!!


「あ、開いたよ!」


「「「……」」」


 プルプル!


「でしょでしょ!」


 この時、誰もが言葉を失った。ブルー以外。


 どういう仕組みかは不明だが、モンスターがこの壁にスキルを使って攻撃をすれば開く仕組みになっていたみたい。

 何一つ迷うことなく、攻撃したアテナのファインプレーなのだが、何故かそう思えなかった。


「さ、気を取り直して先に進みしょう。道は開けたし」


 き、切り替えが早い!


 きっと輝夜さんはアテナのとんでも行動には慣れてるんだろうな。

 何でだろう、近しいものを今は感じるな。


 プルプルプル


「そんなに褒めないでいいよ〜」


 あ、あそこでプルプルしてる子が原因かな。


「はいはい、ブルー、先に進むからね」


 プル


 いつもはリーフィアが担っている役目を今回はエルナが代わりにやってくれた。

 おかげでブルーが大人しくなったよ。

 そのままエルナの腕の中でしばらく大人しくしててね。


 隠し通路は少し進むと緩やかな下り坂になっていた。

 そこを30分くらい進むと平坦な道に変わり、マップ上では地下3Fになっていた。

 そのまま道は分岐することなく、続いていたので、道なりに進むと分岐点に到達。

 しかもこの分岐点は俺たちがこれまで長い時間を割いて到達したけど、時間的な問題で先に進めずにいた場所。

 ここを左に曲がれば既にマッピングしてあるあの超遠回りルートに入る。

 逆にここを真っ直ぐ行くとどこに繋がっているかは不明。

 他にもさっきみたいの隠し通路が無ければ、その先以外のマッピングは全て終わっていることになる。


「みんな、気づいてる?隠し通路からここまでモンスターと遭遇していない」


「それに隠し通路なのに普通の道と繋がっている。モンスターと遭遇しない通路の行き止まりは隠し通路の出入口である可能性が高いな」


 あ、確かに。隠し通路に入ってからここまでモンスターと遭遇していないな。

 なるほど、ジャスパーさんの言う通りの可能性は高い。これから先は意識しておかないと。

 ブルーが今は落ち着いてるからいいけど、落ち着きを無くしたらと思うと気が気でないよ。


 分岐点を真っ直ぐ進んでからはモンスターとの遭遇もあった。

 これでさっきのジャスパーさんの仮説が正しい可能性は高いな。

 そしてちょっと進むと上に向かう階段が地下2F、地下1F、1F、2F、3F、4Fと続いている。

 その先にはエリアボスがいると思われるボス部屋が。


「まだ時間はあるし、試しに挑戦してみましょ!」


 輝夜さんのこの発言を受けて今からエリアボスに挑戦する雰囲気に。

 スキルも全てクールタイムから明けているから万全の状態と言える。

 それに初戦で突破できなくても、未知のエリアボスの情報を少しでも掴めるのは大きい。

 実際に第三層のエリアボスも三回目の挑戦で倒せたわけだし。


 一応、今日は偶然にもみんなエースモンスターを召喚しているからエースモンスターたちで挑戦することに。

 そしていつの間にかブルーが俺の足下でプルプルしてる。さっきまでエルナと一緒にいた筈なのに。





 挑戦した結果、今まで通りの戦い方だと勝てないことが判明した。


 第四層のエリアボス戦ではパーティー編成の変更に加えて総当りやローテーションじゃない別の戦い方をすることになる。

 それもこれもスキルを使ったモンスターの数に比例してステータスが上昇するからだ。

 総当りで13体のモンスターが戦う今までのやり方だとエリアボスをやたらめったら強化するだけ。

 そこで戦い方を変える必要があるんだけど、今回全滅してわかったこともある。


 スキルを使ったモンスターが倒されるとステータスが低くなっている。いや、戻っている。

 最初は気のせいかとも思ったけど、後半、モンスターの数が減って確信に変わった。


 このことから数で挑むのは愚策。

 だからと言って、1対1を挑むのは無謀。

 必要最低限の数で攻め落とす。

 その為にも序盤で戦うモンスターは全滅覚悟で戦う必要がある。

 第1パーティーが全滅したらすかさず第2パーティーって感じで挑戦するイメージだ。


 今からここまでずっと変えなかったパーティー編成を変えることになる。

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