第174話 雪だるま○作戦

「準々決勝第3試合、勝者は生田目朔夜!!!!なんと新入生代表トーナメント優勝者、姫島莉菜 準々決勝で敗退!!」


 いくら生田目朔夜がダークホースの一角でもあの莉菜には勝てないという前評判を覆しての勝利。

 このまさかまさかの展開に会場である白黒モノクロスタジアムは大盛り上がり。


「さあ、続いて準々決勝最後のバトル!葵美夏萌とオリヴィア・ブラウンのバトル!!準々決勝第1試合、第2試合と苦戦こそ強いられましたが、勝ち上がっていた鬼姫メンバーですが、第3試合では惜しくも敗れてしまいました。この第4試合はどうなるのか、注目です!!」



『葵美夏萌VSオリヴィア・ブラウン バトルSTART』


「吹雪け、クレア!」


「お願いします、アルマ!」


 葵美夏萌の1体目は雪だるまの姿形をしたクレア。

 これまでのバトルから水の派生属性、氷属性を使った魔法攻撃を得意としているモンスター。

 対するオリヴィアはいつも通りアルマから入る。


 この対面は恐らく、2人とも予想通りだろう。

 ここまでのバトル同様にアルマの手の内はリベリオンとのギルドバトルをしっかりと分析して把握されていることだろう。


「クレア、雪原の国!」


 バトル開始早々に動いたのはクレア。

 一面真っ白の雪国のようなフィールドを展開する。

 このフィールド展開スキルは1、2回戦と使っていなかった。

 オリヴィアはネメアやコンのフィールド展開スキルの効果を知っている。それ故に警戒心が強い。


「クレア、吹雪、雪隠せついん!」


(これはコンの夜桜みたいなものでしょうか?フィールド全体が猛吹雪に覆われている。それに視界が悪いのもあってクレアの居場所がわかりません。雪隠というスキルの効果でしょうか?)


 ここまで1、2回戦で使っていないスキルの連発。

 それに吹雪で視界が最悪の状況では下手に動けない。

 クレアがアルマの居場所をこの最悪の視界状況でも把握できるのかどうか。

 もし、できないとしたら先に動くのは下策。こちらの居場所を知られてしまうから。

 アルマのレーダーもフィールド効果なのか機能していない。オリヴィアは動きたくても動けない。

 この状況を作り上げたのに葵美夏萌とクレアは動かない。それがあまりにも不気味。


「アルマ、エネルギー充填、デュアルエッジモード!」


 それでもできることはする。

 クレアとのこのバトルではきっと遠距離攻撃は当たらない。

 なんとかして至近距離で攻撃を当てないと勝てないと思い切った割り切りをし、デュアルエッジモードを展開する。


 ここで遂にバトルが動き始める。


「クレア、アイスランス、アイスジャベリン!」


「アルマ、エネルギーシールド展開!」


 葵美夏萌がクレアに指示を出す声がオリヴィアの元にも届いた。

 来る!そう思い、身構えるが、一向に攻撃が飛んで来ない。もしかしてブラフ?と思い始めた矢先に背後からアイスランスが。そして僅かに間があったが、直後に正面からアイスジャベリンが飛んで来る。


 エネルギーシールドは全方位からの攻撃に対応できるが、それによって逆にわからなくなった。

 一体、クレアはどうやって全く異なる二方向から攻撃を放ったのか。

 それと直撃するまでにあった僅かな間、オリヴィアは見逃していない。

 きっとこれが関係していると考えている。


 考えられる可能性は二つ。

 一つはコンの影分身に近いスキルを使える。

 もう一つは瞬間移動スキルが使える。


 可能性としてはどちらもありえる。

 影分身のようなスキルが使えるのなら僅かにあった間はアルマとの距離の問題。

 影分身と本体がアルマと全く同じ距離を置いていない限り、攻撃が当たるまでに僅かながらラグが生まれる。


 瞬間移動スキルの場合はもっとシンプルで攻撃を放つ、瞬間移動、攻撃を放つと途中で瞬間移動というワンアクション挟む必要がある。そこで僅かに間が生じたか。


 どちらにしろ厄介なことに変わりない。

 それにまずはクレアの居場所を突き止めないことには何も始まらない。


 オリヴィアは一つ失念しているが、葵美夏萌がクレアに攻撃指示を出しても直ぐに攻撃は飛んで来なかった。

 クレアの攻撃には不可解な点が多い。

 これらの謎を解かなければ、勝つのは厳しい。


「クレア、メガアイス、アイスボール!」


「アルマ、正面と背後にミサイル発射!」


 さっきは前後から攻撃が飛んで来た。

 ならば、今回もと考えて狙い撃ったが、今回は左右から全くの同時に攻撃が飛んで来た。

 その為、アルマの放ったミサイルは全て外れた。


「!?」


(今度は同時にしかも左右から。やっぱりコンと同じ影分身のようなスキルですかね)


 幾つかの謎はまだ残ったままだが、進展はあった。

 影分身のようなスキルを使っているのだろうが、コンみたいに数出すのはできない。

 1体しか出せないのか、まだ隠しているのか。

 でも、1体しかいないならやりようはある。


「アルマ、飛んでください。それからスナイパーモード!レーザーキャノンでフィールド全体を薙ぎ払って!」


 どこにいるのかわからないならフィールド全体をとにかく攻撃しまくればいい。

 オリヴィアの考えが正しければ、クレアは瞬間移動スキルを持っていない。


 何故、最初の攻撃は指示から攻撃まで間があったのか。

 何故、被弾までに僅かながらの間があったのか。

 何故、二回目は間が無かったのか。

 それに何故、続けて攻撃してこないのか。

 それらを考える内にもう一つの疑問がオリヴィアの中に浮かんだ。

 何故、準備が整って直ぐに攻撃しなかったのか。

 フィールドを展開し、吹雪と雪隠の二つを使えば準備は整っている筈。

 なのにそこから最初の攻撃までに異様な時間があった。

 かなり嫌な時間だったが、改めて考えると動けなかったのではないかと思えてしまう。


 あの攻撃と攻撃の間にある時間は移動しているのではないか。

 そして葵美夏萌にもクレアの正確な位置が把握できていないのではないか。

 そう考えると全て説明がつく。

 最初の攻撃は指示するタイミングを見誤った。

 クレアは分身体がどこにいるのか把握できており、今、攻撃すると被弾までに僅かな間が生まれる。

 ここで僅かな間が無ければ、オリヴィアもクレアが瞬間移動スキルを持っている可能性を捨てきれなかっただろう。


 ここで大事になってくるのは葵美夏萌がクレアの位置が把握できないのか、それとも正確な位置が把握できないのかだ。

 アルマの上空からレーザーキャノンで薙ぎ払うというこの戦法、もし正確な位置が把握できないだけである程度の位置を把握できるなら葵美夏萌は何一つ焦ることはない。

 だが、把握できていない場合、


「クレア、アイスブレイク!」


 何かしらのアクションを起こす。


(クレアの位置は把握できていないようですね)


 アイスブレイクによってレーザーキャノンは破壊され、クールタイムに入るが、問題ない。

 今、アイスブレイクが放たれた場所とカーラを直線で結んだ所にきっと本体はいる。

 指示通りにアイスブレイクを放てば確実に片方の位置が割れる。

 クレアにとってかなりリスクの高い行動に違いない。

 なら反撃に備えて分身体がアイスブレイクを放ったに違いない。


「アルマ、デュアルショットモード、ダブルショット、トリプルショット、ミサイル充填、ミサイル発射!」


 どれか一つでも攻撃が当たれば、そこにクレア本体がいる。それを見極める。

 そして、ミサイルが一発だけ何かに当たった手応えがあった。

 撃墜された感じではなかった。

 間違いなく、あの場所にクレアの本体がいる。

 そう確信を持ち、更なる追撃を


「アルマ、デュアルブレイク!」


 仕掛けたことがアルマVSクレアの勝敗を決した。





 デュアルブレイクはくうを撃ち抜いて終わった。

 そして猛攻を仕掛けた代償としてアルマの正確な位置がクレアのには筒抜けだった。


 ここまで全ては葵美夏萌がバトル開始前に描いた雪だるま分身囮作戦の通り。

 僅かながらに綻びを作れば、そこからオリヴィアならきっと辿り着くという信頼が前提の作戦。

 新入生代表トーナメントでは準優勝、リベリオンとのギルドバトルではあのウィリアムと互角のバトル。

 オリヴィアの実力を高く評価しているからこそ、これくらいしないと勝てないと考えた。


「クレア、氷柱落とし、アイスメテオ!」


 氷柱と氷の隕石がアルマに落ちる。

 ピンポイントでアルマだけを狙い打っている。

 途中、リペアで回復するも


『アルマ DOWN』

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