第173話 天を操る侍
「出でよ、シグレ!」
生田目朔夜の2体目のモンスター、人類種の侍。
腰には一振りの刀を携えている。
「エルナ、メガシャイン、シャインランス!」
「シグレ、疾風の誘い!」
刀を抜き、風属性を刀に纏わせてエルナのメガシャインとシャインランスを受け流しつつ、風の刃を飛ばして攻撃する。
「エルナ、撃ち落として!」
「シグレ、疾風突き!」
風の刃がエルナによって撃ち落とされる中、刀の切っ先をエルナに向け、真っ直ぐに空中を突き進む。
途中、銃弾に当たるが、それを諸共せずに突き進み、エルナを捉える。
(速い!空を飛んでたわけじゃない。ただの跳躍だと思う。それであんなに速いなんて)
「シグレ、そのまま
今度は刀に風だけでなく、水、雷の3属性を纏わせて上からエルナに叩きつける。
「シグレ、疾風の翼、疾風斬り!」
「エルナ、メガファイア、フレイムランス!」
莉菜の懸命の指示も空中から地上に叩き落とされたばかりのエルナはスキルの発動ができず、疾風の翼で空中を蹴り、エルナに向かって真っ直ぐ落ちてくるシグレの疾風斬りを防ぐことができなかった。
「エルナ、ヒール!」
それでも懸命に銃口をシグレに向け、退かせることに成功。その隙にヒールで回復することでHPはマックスまで回復する。
(うーん、回復魔法って厄介だな。やっぱりソレイユの超火力で倒したかったな。ここにきてさっきのプイレイングのミスが痛いな。シグレってソレイユみたいな超火力出すの厳しいからな。どうしよう?)
天使を倒す方法はただ一つ。
回復される前に倒す。つまり、圧倒的な超火力による一撃必殺が一番有効的な手段。
それができないと天使に勝つのはほぼ不可能。
一応、回復魔法が全てクールタイムに入ってる時に一方的にボコボコにして倒すという外法も存在するが、
それも同ランクのプレイヤーとはいえ、昇格したばかりの格下相手にだ。
同格もしくは格上の相手にそれを成功された前例は存在しない。
「エルナ、今度こそメガファイア、フレイムランス!」
「シグレ、水流の誘い!」
今度は水属性を刀に纏わせてメガファイアとフレイムランスを受け流す。
シグレの防御が硬く、なかなか突破できないエルナと回復魔法でダメージを与えても直ぐに回復されて振り出しに戻ってしまうシグレ。
完全にバトルは膠着状態に陥る。
両モンスターともに死力を尽くすが、均衡を崩すことはできない。
エルナの放つスターバーストとスターブレイクによる合技すらもシグレは受け流す。
あらゆる手を尽くしてもノーダメージのシグレとダメージは負うが、回復が間に合っているエルナ。
もし、このまま埒が明かないと
今日中に決勝戦まで行わないといけない分、長引く場合はそうなる。
過去にも長引いたこと、このまま続けても埒が明かないことを理由に判定戦で決着をつけたことは多々ある。
(そろそろ判定戦を視野に入れないとかな。微々たるダメージでもいいから回復魔法を上回れば判定戦もこっちが有利だけど。今のまま判定戦だとどっちに転ぶかわからないな)
(蓮も郁斗も勝ってるのに私だけ勝てないのは嫌!鬼姫のサブマスターでもあるわけだし、絶対に勝たないと!)
この時、判定戦を見据え始めたのは生田目朔夜と蓮や郁斗みたいに勝つことに固執する莉菜。両者の思惑に大きなズレが生まれた。
これがバトルに影響を与えるのかどうか。
「エルナ、メガシャイン、シャインランス!」
「シグレ、疾風の誘い!」
「シャインブレイク!」
「水流の誘い!」
「メガファイア、フレイムランス、ファイアボール!」
「天嵐の誘い!」
今使える攻撃スキルを全て駆使したが、それでもシグレには届かない。
「シグレ、天嵐の破滅!!」
エルナの攻撃スキルが全てクールタイムに入ったのを確認し、風、水、雷の3属性付与の範囲攻撃を放つ。
かなり広範囲の攻撃で空を飛ぶエルナですら回避が間に合わなかった。
「エルナ、プチヒール!」
「シグレ、天嵐の一閃!」
「エルナ、スターブレイク!」
一瞬にして空中を落下しているエルナの目の前にまで迫ったシグレだったが、ゼロ距離スターブレイクによって撃ち落とされる。
(スターブレイクのクールタイムはまだ明けてない筈。…クールタイムを欺かれた!?)
「エルナ、とにかく撃って弾幕をはって!」
「シグレ、疾風突き、疾風斬り!」
「エルナ、シャインブレイク!」
エルナの弾幕を疾風突き、そのままの勢いでエルナを斬るが、それと同時にシャインブレイクによる手痛い反撃を受ける。
徐々にエルナのHPは回復が間に合わなくなっている。
このままではいずれHPが0になるが、シグレのHPも同様に削れている。
回復魔法さえ無ければ、シグレの圧勝だっただろう。
それくらい攻撃、防御とシグレは圧倒的だ。
一度や二度じゃない挫折を知っている。
新入生代表トーナメントでは本戦に出場する自信もあったが、予選で敗退。
それ以降もシグレと共に戦い続けるが、結果に繋がらないことが多かった。
苦しい時間が長かったが、学ぶことも多かった。
特に我慢することを覚えてからは結果が出るようになった。
防御に徹するべき時はとにかく守る。
「エルナ、メガシャイン、メガファイア!」
「シグレ、疾風の誘い!」
「エルナ、ロックオン、スターフレイムショット!」
「シグレ、水流の誘い!」
今までと全く同じ展開。今まで通り、火属性の攻撃であるスターフレイムショットは水属性の水流の誘いで受け流せる筈だった。
しかし、一つだけ今までとは違う点がある。
ロックオンを使っているということだ。
莉菜は決勝戦を視野に入れ、対蓮のリーフィア用にと本来なら温存しておきたかった。
先ほどの蜆景虎との準々決勝を見たら誰でも警戒するが、莉菜は最初から蓮が優勝する上で最大の障壁になると考えていた。
その為に蓮とのバトルは何回もシミュレーションしている。
蓮ならリーフィアを1体目に選出する。リーフィアの相手はマリンになるが、過去に一度負けているから次戦えば勝てるは甘い考えだ。
そうなるとエルナがリーフィアの魔法斬りを掻い潜り、攻撃を当てる必要がある。
神技の使用禁止ルールがある以上、スターブレイクなどの強力スキルはブルー戦に備えて温存しておきたい。
あれこれと模索し、マリンとエルナで模擬戦をしていた時にロックオンの更なる可能性に気づいた。
そして、これならいけると確信が持てた。
いくらリーフィアが強くても初見でこれに対応するのは不可能。使えば、必ず決まる。
今まで通りに受け流そうとしたシグレだったが、対リーフィア用に用意していたエルナの新技?によって大ダメージを被る。
1対1のバトルしか見ていないとロックオンは必中効果を付与するスキルと勘違いされがちだが、実際には必中効果に加えてマルチ攻撃も可能とするスキル。
1対1だと必中効果しか使えないが、相手モンスターが人類種で且つリヴィングウェポンを装備している場合にはマルチ攻撃が可能となる。
今回の場合、シグレだけでなく、装備しているリヴィングウェポン2体も攻撃対象となっている。
スターフレイムショットを受け流そうとした瞬間に銃弾が枝分かれして、捉えることに失敗する。
奇襲が成功した莉菜は更なる追撃を試みる。
「エルナ、フレイムランス、ファイアボール!」
今までなら防がれていた攻撃だが、今度は直撃する。
シグレが防御も攻撃もしないことに違和感を感じつつも莉菜とエルナは攻め続ける。
「これで決める!エルナ、スターバースト!」
シグレの残りHPは1割ほど。このままスターバーストを受けたらHPは0になるだろう。
そう、このまま
(やっぱり強いな。シグレの切り札を見せることになるけど、仕方ないよね)
「シグレ、
スターバーストと天叢雲がぶつかり合う。
一瞬の衝突。フィールドにはそれに伴う激しい衝撃波が巻き起こっていた。
この激しい衝撃波をものともせず、突き進む影が。
「シグレ、天嵐の一閃!!」
結果は、
『エルナ DOWN』
天を操る侍にとって激しい衝撃波だろうと操れる風であることに変わりない。
最後はシグレに追い風が吹いた。
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