第172話 手がつけられない

「準々決勝第2試合は二階堂郁斗の勝利!!!どちらが勝ってもおかしくないバトル!事前に二階堂さんのモンスターの戦い方などいろいろと下調べをしていただけに星宮さんにとっては手痛い敗戦となりました。しかし、その強さはバトルを見た人にしっかりと伝わっています!」


 準々決勝第2試合は郁斗が勝った。

 最後はかなりギリギリだったな。郁斗が負けていてもおかしくなかったけど、これで準決勝の相手が決まった。次は莉菜の準々決勝第3試合か。



「マジか!?あの展開から郁斗が勝った」


「僕の予想通りだね。だから言ったでしょ?郁斗が勝つって」


「でも、どう考えても様子見とかしなければ勝てたでしょ?星宮聡龍って子の詰めが甘いのよ」


「まあ、そこは最後まで諦めなかった郁斗の粘り勝ちだよ」


「これで準決勝第1試合は蓮と郁斗の鬼姫対決か」


「このトーナメントは蓮の優勝で決まり」


 上からルーカス、ウィリアム、シャーロット、ユリア。そして蓮の優勝で決まりと断言したのがロザリア。

 リベリオンの5人は揃って白黒モノクロスタジアムまで足を運び、今日の準々決勝第1試合から感染している。


「あ、それ!蓮に渡したスキルって霹靂神はたたがみ八雷神やくさいかづちのかみだよね?霹靂神はともかく、八雷神はちょっと反則級の威力じゃない?」


「…私が蓮に渡したスキルは霹靂神ともう一つだけど、正確には八雷神じゃない」


「どういうこと?」


「詳しいことは潜在解放と同じで秘匿義務があるから言えない。知りたいなら早くBランクまで昇格して」


 Bランクに昇格。つまり、Cランクダンジョン三つ以上の攻略、Cトーナメントでベスト4入り。この二つの条件を満たしていないプレイヤーは知る権利がない。遠回しにそう言われたようなもの。

 さすがに頭にカチーンときた者もいる。


「ふーん。それってかなりBランクから解放される筈のスキルか何かを蓮はCランクで使えるってこと?」


「シャーロット、それは違う。渡した私がこれ言ったらダメだろうけど、でも薫も琴音きっと同じことを思ってる。蓮があのスキルを使いこなせるとは思ってなかった」


「えええ、謝罪の意味を込めて渡してそれってどうなの?」


「ユリア、あれは蓮とブルーの将来性への投資みたいなもの。今すぐ使い熟せると思って渡したわけじゃない」


「つまり、蓮はロザリアたちの予想を遙かに上回ったってことだよね?」


「結果はそう。でも、ウィリアム、それに他の3人も蓮とブルーが12神クラスのプレイヤーとモンスターだと思う?」





「さあ、お待たせしました!準々決勝第3試合、姫島莉菜と青天目朔夜のバトルはいよいよ始まります!!」



『姫島莉菜VS青天目朔夜 バトルSTART』


「来て、マリン!」


「お願いね、ソレイユ!」


「マリン、覆海!」


「ソレイユ、灼熱の業火!」


 フィールドには人魚と巫女装束に身を包んだ人類種のモンスターが召喚される。


 いつも通りフィールドが海に沈むかと思われたが、ソレイユの灼熱の業火が蒸発させた。

 フィールドにはものすごい水蒸気が漂っている。

 それと同時に初めてマリンの覆海が破られた。

 これでは人魚であるマリンはその力を発揮することができない。




 普通なら。


 マリンは世界最難関ダンジョンの一つ『海底神殿』のエリアボス、ムーンシャークの合成素材、月の鱗を合成し、地上でも宙に浮いていられるようになった。

 水中ほど素早く動けないが、それでも万が一にも覆海が破られたら戦えなかった頃とは違う。


「ソレイユ、日輪の舞、灼熱の嵐!」


「マリン、人魚の唄、アクアブレイク!」


 日輪の舞は自身にバフを付与するスキル。

 普通のバフの付与は人魚の唄でリセットされて、更にデバフまで付与されるという最悪のコンボの引き金を引いてしまうが、日輪の舞は人魚の唄ではリセットできない。

 日輪の舞の正確な効果は舞い続ける限り、際限なくステータスが上昇する。

 逆に舞い続けられなくなると途端にバフはリセットされる。


「ソレイユ、灼熱の雨!」


「全体攻撃。ならマリン、ルナバーナー!」


「ソレイユ、巫女の祈り、神秘の輝き!」


「うそ、ルナバーナーが届かない」


 巫女の祈りはスキル効果を強化し、神秘の輝きで自身への遠距離攻撃を見えない障壁でシャットアウトする。

 神秘の輝きは自身のステータスの魔法防御力の高さでその耐久力が算出される。

 それに加えて、魔法防御力よりも魔法攻撃力の方が高いなら時間経過で自動的に神秘の輝きの耐久力が回復する。

 そして、ソレイユの魔法攻撃力は魔法防御力よりも高い。

 時間経過とともにステータスが際限なく上昇することも加味すると速攻で倒さない限り、ソレイユには勝てない。


 しかし、この時の莉菜は知らなかった。ソレイユの恐ろしさを。

 このまま時間が経過するとソレイユは手がつけられなくなることを。


「マリン、ルナプラズマ、ルナブレイク!っ!これも届かないの」


 ブレイク系スキルは本来スキル破壊効果を備えているが、巫女の祈りによって強化されたことで神秘の輝きが破壊できない。

 神秘の輝きを破壊する方法は耐久力を遙かに上回るダメージを与えるしかない。

 それには莉菜も気づいているが、どうにも突破できない。

 あまりにも硬いので何かしらのカラクリがあることにも既に気づいている。だが、時間経過が自分の首を絞めていることには気づいていない。


「ソレイユ、赫灼かくしゃく!」


「マリン、ルナシールド、ルナプロテクション!」


「ソレイユ、紅蓮華ぐれんげ!」


 フィールド全体を光が包み込み、焼け焦がす。それだけならルナシールドとルナプロテクションで防げていたが、紅蓮華までは防げなかった。

 フィールド全体が真っ赤に染まる。

 荒々しいまでの炎がフィールドを支配している。


 フィールドには焦土と化した大地とソレイユの姿、そして


『マリン DOWN』


 マリンが倒れたことを意味するウインドウが。


(強い!2回戦までは全然、本気じゃなかったのね)


「降臨せよ、エルナ!」


 先に2体目のモンスターを召喚したのは莉菜。

 この状況、神技の使用禁止ルールが足枷となっている。

 ソレイユの日輪の舞を止めないとバフによって永遠と強化され続ける。

 しかし、それには巫女の祈りで強化された神秘の輝きを突破しないといけない。

 圧倒的な超高火力でしか突破は不可能。それこそ神技のような。


「エルナ、ロックオン、スターバースト、スターブレイク!」


 エルナの持つ双銃からそれぞれ放たれ、空中で一つに融合する。

 それにより、それぞれが単体で放たれた時と比べものにならない威力を誇っている。

 ギルドバトルの打ち上げで神技使用禁止ルールを聞き、ウィリアムとオリヴィアのバトルを思い出した。

 最後にヴェルの放った異常なほど威力の高い一撃。

 そう、合技。合技を会得したら神技が使えなくても戦えると考え、猛特訓を重ねた結果、神技を除いたエルナ最強の攻撃スキル、スターバーストとスターブレイクの合技が完成した。

 ただ、この合技を発動するには精密射撃が求められる。今のエルナの腕を持ってしても尚ロックオンも同時に使う必要がある。


 ここまで強化された神秘の輝きを突破するのは神技の使用禁止ルールにおいて不可能と考え、余裕を見せていた青天目朔夜は意表を突かれる。

 絶対に突破されない自信のあった守りを突破された上に日輪の舞も止まられた。

 これで圧倒的なバフが消え去り、ステータス差は元通りエルナが圧倒的に上という状況になった。

 そして考えを改める。


 速攻で倒さないと負けるかもしれないと。


「ソレイユ、日輪!」


「エルナ、シャインブレイク!」


「しまっ!」


「スターフレイムショット!」


 明らかなプレイングミス。エルナにはまだシャインブレイクというブレイク系スキルがある。

 ソレイユ最強の攻撃スキル日輪。当たればエルナに大ダメージを与えただろうが、当たらないと意味がない。日輪が全体攻撃スキルだから確実に当たると思い込んではいけないと教訓になっただろう。

 ここまでくれば、結果は見えている。

 日輪の舞を止められ、日輪も破壊される。ソレイユにはもう打つ手がない。


『ソレイユ DOWN』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る