第163話 思わぬ苦戦
「おいで、アーネット!」
雲海トキメの2体目は半蜘蛛半人のモンスター、アラクネ。
下半身が蜘蛛の姿、上半身は人間の女性。
「アーネット、糸縛り!」
「躱してラグニア!」
「アーネット、糸薙ぎ!」
しまった。今の糸縛りは糸薙ぎという攻撃スキルに繋げる為の誘いか。
糸縛りをラグニアが躱すことを前提としたスキルの組み立て。
こういう戦い方もできるのか。しかも糸にはデバフ・状態異常を付与する効果があるのか。
依然として回復魔法が封じられているし、時間をかけるとラグニアのHPがじわじわと削られる。
「ラグニア、メガシャイン、メガファイア!」
「アーネット、メガウインド、ウインドアロー、ウインドカッター!」
「ラグニア、躱して!」
連戦の影響が響いてるな。いや、それだけじゃない。
全ステータスがマイナス20されているから火力不足に陥ってる。その分、いつもよりも多くスキルを使わされている。
このトーナメントではいつも以上にスキルのクールタイムを気にしないといけないな。
「アーネット、妖気解放、鋼糸生成、鋼糸切断!」
今度は先ほどまでの攻撃性能の低い粘着質の糸ではなく、固く攻撃性能の高い鋼の糸を生成し、指先から出す。
指は片手につき5本ある、つまり両手全ての指で鋼糸を出して適当に振り回すだけでも変則的な軌道の攻撃となり、ラグニアが回避するのは困難となる。
ラグニアのステータスは元々バランス特化、全ステータスマイナス20された現状では攻撃にさらされ続けるのはまずい。
今、アーネットが使っている鋼糸にも当然、デバフ・状態異常の付与効果がある。
攻撃を避けきれず、受ける度にラグニアのデバフ・状態異常が悪化し、状況は悪くなっている。
しかも10本の糸による変則的な攻撃の更に奥から魔法が飛んでくる可能性すらある。
そしてそれは現実に起こる。
「アーネット、ウインドカッター!」
こうなったら全てを焼き払うしかない。
「ラグニア、カオスオーガフレイム!」
しかし、不発に終わる。
これが意味することは一つ。妖気解放でラグニアのカオスオーガフレイムを封印されている。
徐々に追い詰められていくラグニア。残りHPは既に2割ほど。
デバフによるステータスの低下、状態異常によるスリップダメージが予想以上に痛い。
こうなったら一か八か。
「ラグニア、カオスブレイク!」
ブレイク系スキルでの破壊を狙う。
あまり混沌属性のスキルを使いすぎるとデバフ・状態異常付与以外のもう一つの効果に気づく人が出てくる可能性があるので、使いたくないが背に腹はかえられない。
狙い通り、上手く鋼糸切断のスキルを破壊することができた。
しかし、それで攻撃の手が止まるような相手ではなかった。
「アーネット、鋼糸収束、
『ラグニア DOWN』
糸を収束させて一点突破の攻撃スキルか。
そんなのもあるんだな。このタイミングで見れてよかった。
「出でよ、リーフィア!」
「やっぱりエース温存か。私には使ってこないよね。その油断が命取りなの!アーネット、ウインドトルネード!」
「リーフィア、常薙の盾、常薙の剣!」
?どういう意図だ?リーフィアが魔法を斬れること知らないわけないよな。
それに常薙の盾もある。これは明らかなミスだ。
でも、雲海さんの表情とかからはそんな感じしないな。
何かあるかもしれないし、警戒しとかないと。
(ああ、ヤバいヤバい!常薙の盾と剣のこと忘れてた!どうしよう……。とりあえず落ち着いて私!顔に出しちゃダメ!鬼灯くんは少しでも顔に出せば気づいちゃうから。そう、何かあると思わせるの!)
プレイングのミスを持ち前の冷静さでカバーする雲海トキメ。
思惑通り?蓮に勘違いさせることに成功する。
「リーフィア、騎士王の風刃閃!」
「アーネット、粘糸の網!」
「戻ってリーフィア!」
リーフィアの動きを阻害することを目的としているのは明らか。
しかも先ほどまで使っていた鋼糸ではなく、粘糸。
最初に使っていた攻撃性能の低い粘着質の糸だと思う。なら触れないに越したことはない。
そのおかげで騎士王の風刃閃が
相手が上手かった。粘着質の粘糸と攻撃性能の高い鋼糸の使い分け。厄介な相手だな。
魔法で遠距離から消し飛ばせたらって思っちゃうな。
アーネットに常薙の剣を防ぐ術が無さそうだし、しばらくは常薙の剣でダメージを稼ぐか。
お互いに打つ手無しか何もせず時間だけが刻一刻と過ぎていく。
この状況で先に動いたのは雲海トキメだ。
「アーネット、鋼糸切断!」
「リーフィア、騎士王の風刃閃!」
雲海トキメは先に動き、自らのペースに持ち込もうとしたが、実際は違う。
蓮はこの状況を待っていた。
雲海トキメは妖気解放で恐らく、鋼糸切断のクールタイムを無視した。だが、知らなかったのだろう。
妖気解放でクールタイムを無視してもブレイク系スキルのスキル破壊には抗えないことを。
そこで一つの誤算が生じてしまった。だからこそ読み違えてしまった。
蓮が鋼糸切断を使われたら厄介だと思っていると。
だが、蓮は鋼糸切断を強力なスキルとは思っているが、厄介とは思っていない。
寧ろ待っていた。アーネットが再び鋼糸切断を使うこの時を。
全方位から変則的な軌道で向かってくる鋼糸をリーフィアはなんの苦もなく斬り捨てる。
斬っても斬っても妖気解放でクールタイムを無視しているから追加でどんどん来るが、一本斬る度に半歩ずつアーネットへ近づいている。
それに騎士王の風刃閃は理論上、無限に連撃を繋げることが可能。
相手を斬り合っているのなら話は変わるが、自身目掛けて来る糸を斬り捨てるだけならリーフィアの技量を持ってすれば問題ない。
もちろん、そのままリーフィアの接近を許すほど雲海トキメは甘くない。
「アーネット、メガウインド、ウインドアロー、ウインドカッター!」
やっぱりね。この状況じゃウインドトルネードは使えないよね。
メガウインドは意図的に糸に隙間を作り、上手く通したが、ウインドトルネードとなると鋼糸切断による攻撃を中断でもしないと使えない。
何故なら風で糸が
ウインドアロー、ウインドカッターを僅かな隙間から通す技術はかなりのものだが、隙間を通し攻撃してくるとわかっていれば、リーフィアなら斬れる。
「え?嘘、全部斬っちゃった…」
そう、糸も魔法も全てを斬ってリーフィアはアーネットを遂に間合いに捉えた。
全てを斬り捨てた勢いそのままにアーネットも斬る。
「あ、アーネット、
あと少しでアーネットのHPが削り切れるという所で突如として地面が底なし沼のような泥沼と化し、リーフィアが少しずつ沈む。
地面、泥沼に向かって思っきり騎士王の風刃閃を叩き付け、その上から更に天空斬りを使い、その衝撃で若干体が浮くと同時に空駆でなんとか脱出に成功する。
リーフィアが風属性のスキルを使えなかったらヤバかった。
風属性の攻撃は当たった直後に僅かながら衝撃波を生む。
それを咄嗟に利用して脱出するとはブルーにはできない芸当だ。
あ、いやブルーなら自分ごと魔法を放ってその衝撃で吹っ飛ぶとかして脱出しそう。
そして最後、プル!って決めポーズをするまでが流れ。
バトルはリーフィアが空中を駆け回りながらアーネットの鋼糸切断による猛攻を凌いでいる。
まあこのバトルの決着はあと数秒で着く。
今、鋼糸切断以外のスキルで攻めてこない時点でこれしかないと証明している。
一度だけ粘糸の網で空を駆けるリーフィアを拘束しようとしたが、失敗に終わっている。
その時点で既に詰みだ。
「リーフィア、常薙の剣!」
『アーネット DOWN』
元々、騎士王の風刃閃であと少しの所までHPを削れていた。
常薙の剣のクールタイムさえ明ければ、俺たちの勝ちは確定していた。
『白猫』での経験が無ければ1回戦の突破すら危うかった。
1体目のロズ、2体目のアーネットと強かった。
ブルー抜きで2回戦を勝てるかどうか、ちょっと不安になってきたな。
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