第162話 回復封じ

 もうすぐ学年別個人トーナメント1年生の部、本戦1回戦第1試合が始まる時間だ。

 正直、対戦相手の雲海うんかいトキメさんのモンスターに関する情報が全く無いから作戦とかの立てようがない。

 予選は極力いろんな人のバトルを見るように心がけたけど、さすがに全部を見るのは無理がある。

 トーナメント表も今朝、発表されたこともあって調べる時間も無かった。

 ここまで不確定要素が多いならブルーを出したいけど、今は無理だよな。

 それにせっかく隠せているブルーの手の内を明かしたくないしね。

 とにかく、ラグニアとリーフィアに頑張ってもらうしかないな。


 よし、時間だ。バトルステージに行こう。


「さあさあ、いよいよ白黒モノクロ学園学年別個人トーナメント1年生の部が始まります!実況は先月のギルドバトルに引き続き、ステラが担当します!残念ながら解説不在ではありますが、私自身、白黒モノクロ学園学年別個人トーナメントの実況を担当できるとは光栄です!微力ながら全力を尽くす所存です!」


 解説不在ってマジ?

 何故、ステラがそこにいる!?

 白黒モノクロ学園にはステラと何かしらのパイプでもあるのか?←ある意味あります。



 実は白黒モノクロ学園学年別個人トーナメントの実況はステラから白黒モノクロ学園の学園長に持ちかけていた。

 とある筋からある人物が学生時代に行った無観客非公式バトルで判定戦にもつれこむ大激闘があったとか。しかもそのバトルは白黒モノクロスタジアムで行われているとか。

 これは外部の人間はほとんど知らない筈の情報だが、白黒モノクロ学園スタジアムを学生が借りる際に必ずバトルの映像データを学園にも渡すことが条件となっている。

 つまり、白黒モノクロスタジアムでそのバトルが行われたのであれば、学園長がその映像データをどこかに保管している筈。

 ステラはその映像データのコピーを譲ってくれるなら白黒モノクロ学園学年別個人トーナメントの実況をすると交換条件を持ちかけ、見事に学園長の首を縦に振らせた。

 もちろん、最初は悩み抜いた末に学園長も要求を突き返そうとしたが、そこはステラの方が一枚上手だった。

「もし、譲ってくれるなら白黒モノクロ学園学年別個人トーナメントの実況ができて光栄です!とか白黒モノクロ学園の宣伝もしますよ?」という一言に学園長は撃沈した。

 ステラがその一言を多くの人の目と耳がある場で発する。これが意味するのは白黒モノクロ学園学年別個人トーナメントは最低でもBトーナメントと同等、もしくはそれ以上の価値があるトーナメントだという証明になる。

 そして更に白黒モノクロ学園の卒業生には12神序列1位新垣輝夜がいる。

 ここ最近、低迷し、陰りが見えていた白黒モノクロ学園の実績も現役学生のおかげで何とかなりつつある状況。

 そこにステラのお墨付きと過去の実績、現役学生の頑張りが合わされば白黒モノクロ学園の人気はうなぎ登り間違いなし。

 これで学園長をクビにならずに済みそう。


 今年の4月の入学者はもう決定しているからどうにもならないけど、来年の4月からきっと目に見える数字で結果が出る。

 もう少しの辛抱だ。



「皆さん、お待たせしました!1回戦第1試合を戦う2人がバトルステージへと入場です!東側から雲海トキメ!ええ、雲海さんはまだDランクとはいえ、予選を堅実な戦いぶりで勝ち上がってきております。Dトーナメントで3勝という昇格条件は既に満たしておりますが、Dダンジョン攻略がまだ二つと足りておらず、昇格は間に合わなかった模様。しかし、出場したDトーナメントではベスト4入りをする実力者です!それに対するはこの人!今や知らぬ者なしと言っても過言ではない!鬼姫ギルドマスター、鬼灯蓮!鬼灯さんはCランクですので、モンスターは全ステータスマイナス20というハンデを背負います。そのハンデをものともせず、戦えるのか!!」


『鬼灯蓮VS雲海トキメ バトルSTART』


「出でよ、ラグニア!」


「お願い、ロズ!」


 雲海さんのモンスターはクマ――――いや、オウルベアか。

 フクロウの顔にクマの胴体ってイメージがあるけど、なんか翼まで生えているよ。

 飾りだけってわけじゃなくちゃんと飛べるみたい。

 まだラグニアのコピースキルの存在は隠しておきたい。だから空駆をコピーしてたけど、それで正解だったな。


「ラグニア、空駆、メガダーク、メガシャイン、メガファイア!」


「ロズ、躱して重爪乱舞!」


「!ならラグニア、カオスブレイク、カオスクロー!」


「うそ!?ロズのスピードに初見でついてきた!…強い」


 思ったよりもロズの動きが機敏だな。でも、もっと速いモンスターを俺たちは知ってる。

 その程度の速さ、今の俺たちには問題ない。

 それに今の戦い方からもしかしたら魔法が使えないのかもしれない。

 もし、使えるけど使えなかったなら大した脅威にはならない。

 でも、意図して使わなかったとかだと話は変わるな。警戒だけは怠らないように。


「ラグニア、シャインダイブ!」


「……ロズ、今!ブラッドクロー!」


「躱してラグニア」


「え?あのタイミングで躱せるの?」


「ダーククロー!」


 ラグニアをスピードで攪乱するのは無理だと悟り、今度はギリギリまで引きつけてのカウンター。

 良い作戦だけど、カウンターを決めたいなら相手の攻撃が当たるかどうかの瀬戸際まで引きつけないと。

 まあ、普段はスピードで相手を攪乱して戦ってるんだろうけど、それが通用しない相手もいる。

 そういう相手と戦う術をしっかりと用意しておかないと。

 にしてもやっぱりステータスマイナス20されるのは痛いな。ここまで攻撃を当ててもロズのHPが3割しか減ってない。

 元々ロズの防御力が高いというより、ラグニアがバランス特化のステータスだから火力が足りてないんだろうな。一応、混沌属性のスキルでそれはカバーできるけど、1回戦ではそこまでしなくていいかな。

 時間掛かってもいいから極力手の内は見せない方向でいこう。


「鬼灯くんが強いのは最初からわかってた。す――は――、よし、反撃開始だよロズ!」


 あ、雲海さんの雰囲気が変わった。

 これは油断したらやられるかもな。俺も気を引き締めないと。


「ロズ、デッドリースマッシュ!」


「?躱してラグニア」


「そこ!ブラッドスマッシュ!」


「!?ラグニア、プチヒール」


 翼で自由に空を飛べるというラグニアより唯一有利に立っている部分を最大限活かした攻撃。

 右手で繰り出されたデッドリースマッシュをラグニアは確かにギリギリまで引きつけて躱したが、空中で上手く体を回転させ、その勢いのまま左手で殴る。

 空駆で空を駆けているだけのラグニアには決してマネできないな。

 まあでも、ラグニアは回復魔法が使えるから…回復魔法使えない!?

 わかった。回復封じか。状況的にあのブラッドスマッシュってスキルに回復封じの効果があると思う。

 時間制限付きって考えるのは浅はかか。このバトル中、ラグニアは回復魔法が使えないと考えるべきだな。


「よし!この調子。ロズ、血流爪けつりゅうそう、重爪撃!」


 このままの勢いで追撃をと仕掛けてきたロズに対し、ラグニアは無防備な姿を見せ続ける。

 回復魔法が封じられたことがそれほどショックなのか。もしやブルーと同じ精神状態に陥ってしまったのか。

 そのままロズの凶爪がラグニアを再び捉えるかと思いきや、口から荒々しく吹き荒れるカオスオーガフレイムによって飲み込まれる。

 そのままライトクローとフレイムクローによる追撃を受けてロズは倒れた。


『ロズ DOWN』


 この時、雲海トキメは何が何だか状況を理解できていなかった。

 雲海トキメも当然、蓮が指示を出さなくてもンスターが独断でスキルを使うことがあるのは把握している。

 しかし、知っていれば対処できるわけでもない。

 その場、その場の状況しか見ていない雲海トキメとロズには防ぐことなど不可能。

 蓮自身は気づいていないが、少し先の展開を見通す力を蓮とピナ以外のモンスターはここ最近になって急激に伸ばしている。

 それもこれも『白猫』という理不尽ダンジョンにウィリアムと一緒に挑戦したからだ。



トーナメント表です!

近況ノートに昨日、投稿するの忘れてました。

申し訳ございません。

https://kakuyomu.jp/users/Yumaku00/news/16818093084970100193

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