第153話 お手本バトル

 判定結果、勝者 二階堂郁斗


 鬼姫VSリベリオン ギルドバトル

 3勝2敗で鬼姫の勝利


 白黒モノクロスタジアムの電光掲示板に表示されたその結果。

 それを見て1人の男が雄叫びを上げる。


「おっしゃー!!!!!!」





 こうしてギルドバトルは終わり、第5試合を戦った2人は各々の控え室に戻る。


 郁斗が鬼姫の控え室に戻るとものすごくわちゃわちゃされた。

 遅刻したくせにいいとこ取りして~みたいな感じで。

 それでも初めてのギルドバトルに勝利できたからみんなの雰囲気は明るい。


「琴音先輩、この後の流れって聞いてます?端末には待機って書いてありますけど」


「終わったら端末を通して指示を出すって聞いてたけど、閉会式でもやるのかな?」


「控え室には実況、解説の声が届かないのはこういう時に不便ですね。終わったんだから届かせて欲しい」


 ピコン 新着メッセージ1件受信


 薫先輩と琴音先輩が今後の流れについて話し合っていると端末にメッセージが届いた。

 メッセージはリベリオンのロザリアさんからみたいで、内容は


『この後、面白いこと起きるっぽいからモニターに注目。以上』


 このメッセージを見た時、何が何やら。

 1分ほどすると実況の声が控え室のモニターにも届いた。

 今回のギルドバトルの実況がステラだと知っていたからこの声を聞いても誰も驚かないけど、ホントにステラが実況していたんだとこの時になって実感が湧いた。

 でも、気になるのは解説の人の声が一切無いってところ。

 誰が呼ばれていたのか知らないけど、何かあったのかなと思いながらモニター越しに聞こえてくるステラの声に耳を傾けると驚きの内容が飛び込んできた。


 今回、解説に呼ばれた輝夜さんが何故かお手本バトルをしてくれるとか。

 いろんな経緯がもう知ってるよね的な流れで飛ばされてるからみんな訳わからず、思考停止してる。

 そして気づいた時には輝夜さんがバトルステージに立っていた。

 その向かい側には当然ながら対戦相手のプレイヤーが立つ。

 そこには何故か輝夜さんと同じ12神の1人、ジャスパーさんがいた。


 お手本バトルという名の世界最強の2人によるバトルが行われようとしている。

 これにはもう何も考えずに現実をただただ黙って受け入れることにした。




「ごめんなさいね、巻き込んじゃって」


「気にするな。まあメッセージをもらった時は驚いたが、これも良い機会だ。後輩たちの手本となるようなバトルを心がけないとな」


『新垣輝夜VSジャスパー・エバンズ  バトルSTART』


「顕現せよ、ドレイク!」


「出でよ、アテナ!」


「ドレイク、ドラゴンフォース、イグニスブレード!」


「アテナ、戦の乙女、裁きの剣!」


 ドラゴンフォースによる強化を施し、圧倒的なステータスと火属性が付与された両手剣で斬り裂こうとする。

 それを戦の乙女でドラゴンフォースほどではないが、ステータスを強化し、光属性が付与された剣で迎え撃つ。

 両モンスターが使っている攻撃スキルは霞連槍や騎士王の風刃閃のように使い手の技量次第では無限に連撃を繋げることができる。

 バトルフィールドでは両モンスターの激しい剣戟が火花を散らしている。


 その間、輝夜とジャスパーはお互いにモンスターへ指示を出さない。

 無言の状態が続く。


 知る人ぞ知ることだが、アテナとドレイクは今まで一度たりともバトルをしたことが無い。

 それ故の様子見だが、どちらの剣の腕が上かは優劣が付かないと判断し、ジャスパーが先に動く。


「ドレイク、イグニスブレイク!」


 それに対して輝夜はアテナに何も指示を出さない。

 なんと、そのまま裁きの剣でイグニスブレイクを受け切った。

 これは想定外では無いみたいでジャスパーからはこれくらいできて当然と伝わってくる。


「じゃあ次はこっちの番ね。アテナ、乙女の祈祷!」


「ドレイク、ブレイクノヴァ!」


 先ほどまでよりも更に強く光り輝くアテナの剣。

 目にも止まらぬスピードでバトルフィールドを駆ける。

 それを真正面から迎撃する。

 アテナもドレイクの剣が衝突し、鍔迫り合いの後に両モンスターともに勢いよく後方に吹き飛ぶ。


「ドレイク、神技・イグニスブラスター!」


 広範囲に渡る火属性による攻撃。

 神技だから通常のスキルでは防ぎ切るのはまず不可能。

 普通なら相殺するにも防御するにも神技をぶつけるしかないが、


「アテナ、乙女の加護、戦の女神、女神の祈祷、女神の加護!」


 輝夜は本来なら決してしない選択をする。

 そう、神技を使わずに正面から受け切る。

 本来なら対抗して神技を使うか回避の二択だが、これはあくまで急遽追加されたエキシビションマッチ。

 12神同士のバトルとはいえ、半分以上お遊び感覚だ。

 真剣勝負とはほど遠い。


 そしてドレイクの放った神技・イグニスブラスターが一切防御する構えを見せていないアテナに直撃するが、アテナのHPはたった3割ほどしか削れていない。

 これには見ている人たちのほとんどが驚きを隠せない。

 どうせ輝夜のことだから耐えるだろうと考える人も一定数いたが、これは予想外だった。


「ふっ、やはり耐えるか。まあアテナのHPを3割削れただけ良しとするか」


「いや、あれだけのバフ盛って3割もダメージが入ったことに驚きなんだけど!神技とはいえ、どういう火力してるの?」


「おまえにだけは言われたくないな。アテナの火力も大概だろ?まあ今はいいか。まだ続けるか?」


「そうね。目的は十分に果たしたし、終わりますか」


『バトル END』


 ここで輝夜とジャスパー、双方の合意がありバトルは終了し、輝夜とジャスパーにマイクが手渡される。


「最後まで見たかった人もいるでしょうけど、このエキシビションマッチの目的は神技が使えるから強いとか勝てるとかバトルはそんなに簡単じゃないって知ってもらう為のもの。本来なら神技は切り札。確実に当てられる状況に放つ。でも、今の上位プレイヤー同士のバトルは神技が勝敗を分けることは少ないわ」


「実際にアテナはバフを盛ることでドレイクの神技を防いでいるからな。神技は神技で相殺する以外にも回避もしくは圧倒的なステータス差の元に受け切るという選択がある」


「もちろん受け切るにはバフやデバフを盛る必要があるわ。でも、最近では悪魔の影響でデバフばっか。バフを盛って戦うモンスターが少ない傾向にある。それは自ら可能性を潰す行為なの。今の若い世代にはもっと視野を広く持ってあらゆる可能性を模索して欲しい」


「ロザリアのミザリーがバフ強化の実例だな。あれだけバフを盛ってステータスを上げれば、何の対策もしていない竜相手なら圧勝できる。今一度デバフだけでなく、バフの重要性について見直してくれ」


 短い時間だったが、エキシビションマッチはこうして幕を閉じ、観客も続々と帰っていく。


 ギルドバトルを終えた鬼姫とリベリオンはというと、




 お食事処二階堂で合同打ち上げをやっていた。

 何故こうなったのか、1時間ほど遡る。



「なんかよくわからない内にお手本バトルが終わったな」


「あ、それ!私も思った!てか、解説に呼ばれたのが新垣さんだったってことに一番驚いた」


「莉菜の気持ちわかります!新垣さんは白黒モノクロ学園に通う者の憧れですから」


「マジそれな。俺も知った時は驚いたよ」


「あ、薫くん以外みんなに教えてなかった気がする。まあ過ぎたことだし、いいよね」


「ああ道理でさっき変な雰囲気になった訳か。でも、変に緊張して力を発揮できないよりマシか」


 一通り全て終わっていつでも解散してOKとなったが、未だに全員が控え室に残っていて、話が盛り上がっている。

 そこに突然、来客が訪れる。


「琴音、久しぶり。元気してた?」


「あ、ロザリア!久しぶり!!元気元気!バトル凄かったよ!薫くんに勝っちゃうなんてさ」


「運が味方してくれただけ。それよりこの後、時間ある?」


「ん?私?もちろんだよ!」


「あ、違う違う。琴音もだけど、鬼姫のみんなも。よければリベリオンと一緒に打ち上げとかやらない?個人的にいろいろと聞きたいこともあるし」


 鬼姫とリベリオンの合同打ち上げ、特に異を唱える人がいなかったからこの後すぐに行われることに。

 打ち上げ会場に関してはリベリオンの方で既に確保してあるとか。

 勝っても負けても打ち上げ(反省会)みたいなものはやる予定だったとか。


 こうして白黒モノクロスタジアムを後にし、リベリオンが予約したという打ち上げ会場に向かうことに。

 白黒モノクロ学園を出て、向かう先は東区。

 俺の家は北区だし、東区ってそんなに詳しく無いんだよな。

 行き先だけでも聞いてみよ。


「えっと、ウィリアムくん。ちょっといい?」


「ん?僕?どうかした?」


「打ち上げ会場ってどこなのかなと思って」


「ああ、それね。僕らも知らないんだよ。ロザリアが白黒モノクロ学園の近くに評判の良いお店を見つけたらしくてね。聞いても教えてくれないんだ。だから着いてからのお楽しみだね」


「そうだったんだ。ありがとう」


「いいよ、これくらい。それよりさ僕も聞いていい?」


「うん、いいよ」


「気になってたんだけど……」




 こうして俺はウィリアムくんと雑談しながらロザリアさんの後を着いて行くとお食事処二階堂に辿り着いた。


「ここSNSで大評判のお店。日本に来たら一度行きたいと思ってたの!!!!」


 この時、ロザリアさんの目が輝いていて、誰もここが郁斗の家だと突っ込めないでいると、


「ここ俺ん家!!!!」


 どこからともなく叫び声が。

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