第154話 打ち上げ

 郁斗の虚しい叫び声が響くとロザリアが店名をまじまじと見る。


「お食事処二階堂、二階堂郁斗。あ、名前同じだ」


 どうやらロザリアさんは知らなかったというか気づいてなかったみたい。

 リベリオンのみんなは何かいつも通りみたいな感じが伝わってくる。


「それにしても郁斗の家って予約とかできたんだ」


「え?ああ、宴会とか今回みたいな打ち上げとかの会場として使える店が東区は少ないからな。需要があるんだよ」


「おーい、中入るぞ」


「あ、はい!すぐ行きます」


 郁斗と軽く雑談してたらみんな中に入ってて薫先輩に呼ばれるまで気づかなかった。

 慌てて中に入ったらそこにはリベリオンと鬼姫メンバー、琴音先輩以外にも人が3人いた。

 先に入った人たちも何でここにあの3人がいるのか状況が理解できず、思考停止している。


「やっと来たわね。遅かったから先に始めちゃってるからね」


「悪いな。主役を待たずに晩酌を始めてしまって」


「色紙、色紙、サインもらわないと」


 お店の中には輝夜さん、ジャスパーさん、ステラさんがいた。

 この時、何故かみんなの視線がロザリアさんに集まった。

 この打ち上げの発案、会場選びなど全てロザリアさんが行っている。

 つまり、あの3人がここにいる理由は、


「あ、ごめん。言うの忘れてた。折角だし、実況、解説、補佐などいろいろサポートしてくれた3人も呼んだ」


 うん、もうロザリアさんがどういう人かわかったよ。


 みんな席に着いて各々が注文した飲み物が届いた所でロザリアさんが乾杯の音頭を取る。


「みんな今日はおつかれ!そしてありがとう!じゃあ乾杯」


『乾杯!!』


 みんなで乾杯した後、ステラさんが色紙を持ってロザリアさんの所まで行ってサインを強請ねだってた。

 さすが有名人は違うな。あのステラさんからサイン強請られるなんてとか思ってたら満足気な顔で俺のとこまでやって来た。


「鬼灯さん、この色紙の右半分にサインお願いします!」


 とか言われてサインを求められた。

 既に色紙の左半分にはロザリアさんのサインが書かれていた。

 サインとか考えたことなかったな。

 ロザリアさんは普通に名前をそれっぽく書いてるだけみたいだし、俺もそんな感じでいいかな。


「鬼姫とリベリオンのギルドマスターのサイン色紙〜。ありがとうございます!」


 すごいルンルンだ。ステラさんってこんな感じなんだ。


「ステラのサインコレクション入りするなんて、随分と成長したわね。さすが私の後輩」


「まあ今回のギルドバトルで鬼灯くんは輝夜の後輩とか関係なく、注目株に一気に躍り出たからな」


「え?」


「先月のオーストラリアで行われたDトーナメントでは4回戦敗退。実績としてはかなり弱い。だが、今日のバトルで鬼灯くんはしっかりと結果を残した。君の評価は急上昇中だよ」


 12神のジャスパーさんにそこまで言ってもらえるなんて!

 ヤバっ嬉しすぎて死にそう。


「あ、蓮、一つ質問いいかな?」


「え、あ、うん。大丈夫だよ」


「じゃあ遠慮なく。ラグニアってどうやって空駆を取得したの?」


「ラグニアで一つ私も思い出した。第8属性はどうやって取得した?」


「え、えっと先にユリアさんの質問に答えるね。その後ロザリアさんの質問でお願いします」


「ラグニアは空駆を取得してないよ。リーフィアが取得しててそれをコピーのスキルで使えるようにしただけ。…えっと第8属性って混沌属性のことで合ってます?」


「うん、合ってる」


「それなら進化した時に。でも、特殊な条件を満たして進化してるので、何が条件だったのかはわかりません」


「なるほど。たぶん闇属性のスキルをコピーしてなかった?元々光属性のスキルを取得してるから後は闇属性のスキルを取得する。コピーのスキルでも代用可能なのは初めて知った」


 なんか今の発言は不用意だったかもと思えてしまう。

 一部の人たちが議論に興じてる。

 そして話はリーフィアが空駆のスキルをどうやって取得したのかになった。

 これはかなりシンプルというか偶然というかオーストラリアのランク変動型ダンジョン『野獣の森』のボスを倒して現れた虹色宝箱のドロップだ。

 中には空駆のスキルの書が入っていて、それをリーフィアに使った。

 最初はラグニアにと思ったけど、リーフィアからの強い要望があってリーフィアに使うこととなった。


 ちなみにフランスの『王家の墓』のボスは銀色宝箱で雷属性耐性のスキルの書を入手した。

 これはブルーが華麗に奪い去った。

 プル、プルプル!と抵抗し続けたから俺が折れてブルーに使ってあげた。

 リーフィアの強化の為に挑戦してたのにな。


 その後、挑戦したイギリスの『大魔法図書館』でも銀色宝箱で中には天御雷あまみかづちのスキルの書が手に入った。

 これも颯爽とブルーがプル!と貰っていった。


 この話をしたら大変だな的なことをみんなに言われた。

 そう、ブルーのお世話はホントに大変。

 最近は少し大人になって卵のお世話に勤しんでるけど、時々甘えん坊タイムに突入する。

 あと最近よく思うけど、モンスターの卵っていつになったら孵化するんだろ?

 俺のこの疑問には意外にもステラさんが答えてくれた。


 ステラさん曰く「モンスターの卵が孵化するまでの時間は個体差がある。だからえ、もう!って思うこともあればまだなの!って思うこともあるらしい」

 あと、これはステラさんの個人情報網で以前用意したデータらしいけど、孵化するまでの時間が長い方が強いモンスターになるとか。

 だから間違ってもスライム2体目とかはならないと思うよ〜と冗談半分の話が。



女将おかみ、生中3お願い」


「はいよ!生中3ね」


 3人ともお酒はかなり強いらしくものすごい勢いで注文している。

 もちろん、お酒を飲んでいる3人は輝夜さん、ジャスパーさん、ステラさんの成人組。

 この3人を除くとロザリアさんと琴音先輩が同い年で最年長になるけど、それでもまだ18歳。

 日本でお酒が飲める歳では無いので、俺らと同じでソフトドリンクを注文している。


 ちなみにここのお会計は輝夜さんが全て払ってくれるとか。

 ここに来る前に銀行で下ろせるだけ下ろしたら警察が出動する事態に発展したみたい。

 輝夜さんの話を聞く限りだと通報した人がLMBにそこまで詳しく無かったらしく、もちろん、輝夜さんが世界最強のプレイヤーだとも知らないから若い女性が騙されて大金を下ろしたように見えたとか。

 輝夜さん自身も打ち上げに遅れるのだけは絶対に嫌!という理由でかなり急いでたらしく、それが完全にアウトだったみたい。

 急遽、偶然近くをパトロールしていた警察が駆け付けて、その人がLMBにそこそこ詳しく輝夜さんのことを知っていたからまあ大丈夫だろと判断されて後日、詳しい事情を警察署で聞くという感じで今日は解放されたらしい。


 この話を聞くとなんか輝夜さんも普通の人なんだって少し親近感が沸いた。

 ずっとずっと遥か上にいる存在だからこういう一面は新鮮だった。


 そこからはいろいろな面白話をみんなで言い合った。

 特に今日の郁斗の大遅刻を話したらリベリオンのメンバーは何故か妙に納得した感があった。

 どうやら鬼姫の選出予想が第1試合から尽く外れたとか。

 ロザリアさんはその責任を全て郁斗が大遅刻したせいと責任転嫁してた。

 この時、一つ不思議だったのは輝夜さんも郁斗にいろいろと文句を言っていたこと。

 何で大遅刻するのさ!!的なこと。

 解説で呼ばれた人が何をそんなに言うことあるのか聞いてはいけない気がした。

 ステラさんも無言で聞いちゃダメとジェスチャーだけ送ってきた。

 きっと輝夜さんにも何かしらの事情があるのだろう。


 郁斗の相手は気が済んだのか輝夜さんが俺たち鬼姫のメンバーと琴音先輩に話を振ってきた。


「そういえば、白黒モノクロ学園はもうすぐ学年別個人トーナメントじゃない?2、3年生はともかく1年生はかなりの激戦になるんじゃ無い?」


「ああ、確かに!そうですね、あのルールが適用されたバトルは未だに経験が無いでしょうし」


「今年から神技の使用禁止になったと聞いたな。去年やり過ぎた生徒がいたからな」


 輝夜さん、ステラさん、ジャスパーさんが何かしら俺たちの知らない話をしている。

 琴音先輩と薫先輩は当然ながら知っている感じがするけど、リベリオンのみんなも何の話か興味津々って雰囲気だな。


「ああ、そうか。休学してたから知らないのか。1年生はCランク以上のプレイヤーにはハンデが課されるんだよ。具体的にはモンスターのステータスとスキルLvだな。ステータスは全てマイナス20されるあとジャスパーさんが今言ってたことだが、今年から神技は全て使用禁止」


「は?ちょっと待ってよ!それ理不尽すぎない?」


「これは学園行事なの。外で行われてるトーナメントとは違う。学園としては公平を期す必要がある訳だし、ハンデを背負うのは強いと認められた証。それにやり過ぎ防止も兼ねてるの。去年開幕神技で勝ち続けたバカがいてそれを琴音ちゃんがコテンパンにしちゃったけど、相手があまりにも害悪プレーばっかしてたから誰からも擁護されなかったの。同じことを普通の相手にしたら琴音ちゃんは非難の嵐だったけどね」


「ああ、あの口先だけの先輩ですか?確か今年こそ琴音先輩に勝つとか息巻いてるらしいですよ」


「そっか。なら今年も負けられないな」


 今年から神技の使用禁止か。

 これはちょっとありがたいかも。

 エルナの神技を防ぐ術を模索する手間が省けたけど、ステータスがマイナス20されるとかいつも通りの戦い方ができないな。

 なるべく、早めに感覚を掴まないと。

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