第151話 勝者はどっち?
(大丈夫。まだバトルに負けた訳じゃない。焦る理由はどこにもない。俺にはまだコンがいる!)
「出でよ、コン!」
先に2体目のモンスターを召喚するのは郁斗。
しかし、バトルフィールドに召喚されたコンは誰もが知っているコンでは無かった。
まるで別人、別モンスターのよう。神官装束を身に纏い、お尻からは二本の尻尾が垂れ、腰には刀を装備した狐獣人のような男がいる。
上は白衣、下は赤の袴と和一色の姿で登場。この変化には対戦相手のルーカスも驚きを隠せない。
「コン、降臨・稲荷神社、稲荷狐の祈り、稲荷狐の祟り、参の型、玖の型!」
「稲荷流狐剣術、
『カレン DOWN』
「!?」
正に電光石火の早業。
バフで自分を強化し、デバフでカレンを弱体化させていたとしても酒呑覚醒でステータスが2倍に膨れ上がっていたカレンを一撃で倒した。
ルーカスも今、何が起きたのか理解するのにカレンが倒されてから数秒を要した。
コンが召喚されるまでゴーストタウンが展開されていたが、それをコンが降臨・稲荷神社で上書きする形で神社を出現させた。
稲荷狐の祈りと祟りは初手に使うことの多いスキルでタッグEトーナメントの時から使用しているバフ、デバフの付与スキル。両方同時に使うとHPの継続回復効果がコンに付与される。
これはルーカスの認識と効果に差異は無かった。
問題なのはこの後に使われた参の型と玖の型。
参の型 夜桜はフィールド展開スキルで降臨・稲荷神社を展開していないと使えないスキルでフィールド全体に夜の帳が下り、満開の桜が花開く。
すると、コンの全ステータスが2倍に上昇する。
効果としてはドラゴンフォースに近いが、これにはクールタイム半減の効果は無い。
玖の型 流星火はどれだけ相手モンスターと距離があろうと瞬時の懐へと入り、轟々と燃え盛る炎を纏った刀で相手を斬り裂く。
瞬時の懐へと入るという効果を知らなければ、初見での対応は不可能。
「顕現せよ、ファム!」
「コン、壱の型!」
「稲荷流狐剣術、壱の型
ファムの召喚と同時に壱の型 迦具土を使うと、コンが右手に持つ刀は金色に光り輝く炎を纏う。
これで準備万端、郁斗とコンからはそんな雰囲気が漂っている。
「ファム、ドラゴンフォース、シャイニングブレス!」
「コン、
「稲荷流狐剣術、肆の型
「な!ドラゴンフォースを打ち消した!?」
普通ではありえないことだが、コンの稲荷流狐剣術、肆の型 色即是空はドラゴンフォースによる強化を打ち消したと思われる。
これにより、全ステータス2倍とクールタイム半減の効果は消えて無くなる。
そう、肆の型 色即是空はバフや自己強化(ドラゴンフォースや覚醒スキルなど)による効果を強制解除する。
そして漆の型 狐高・呑により、シャイニングブレスはフィールドの稲荷神社に飲み込まれる。
(ロザリアが俺じゃなきゃ勝てないと言った理由がわかった気がするな。これは強いわ。ここまで強い奴とバトルするのこれが初めてだ。やべえ、楽しすぎるだろ!!)
「ファム、シャイニングディトネーション!」
(あ、やべ。防ぐべきはこっちだったかも)
「しゃーない。コン、
「稲荷流狐剣術、捌の型
ファムから放射線状にコンに迫る光の波、コンは刀を真っ直ぐに振り下ろした直後、衝撃波を伴いながら辺り一帯が燃焼する。
衝撃波と炎による二重攻撃。
二つの攻撃はファムとコンの中間地点で激突し、轟音と共にコンの放った爆轟が突き破り、ファムに直撃。
シャイニングディトネーションで威力が削がれていたとはいえ、たった一撃でファムのHPは1割ほど削れる。
素のステータスのままのファムと全ステータス2倍のコン、ここでステータスの差が響き始めた。
かと思いきや、
「ファム、プチヒール」
すぐにファムのHPは全回復する。
この光景を目の当たりにしても郁斗には動揺一つない。
ファムが回復魔法を使えるのは予め知っていた。
郁斗は鬼姫の中で唯一、リベリオンのメンバーについて詳しい情報を把握している。
ギルドバトルが行われることを知ると郁斗は世界中を飛び回って情報を集めた。
だが、ギルドバトル当日になって飛行機の遅延やスマホの充電切れ、スマホの充電問題を解決したが何故か圏外で連絡が取れなかったりとトラブルが相次ぎ、全ての問題が解決した頃には薫とロザリアの第4試合が始まっていた。
郁斗の約半年の頑張りは無駄に帰したかに思えたが、まだ第5試合が残っている。
まだその情報が役立つ。
ロザリアを除けばリベリオン最強のプレイヤー、当然ながら最も時間をかけて情報を集めた。
(既に知っている雰囲気だな。下調べはしていた訳か。だとするなら何故、俺以外のメンバーの情報を調べてない。今までのバトルから鬼姫はこちらの情報に疎いと思っていたが…。そう思わせて俺を油断させる作戦か?いや、そんな奴には見えん。何を狙っている?ここまで何を考えているか読めない相手は初めてだ)
(マジでファムの攻略法だけ無いんだよな。俺が予め考えた勝てそうな作戦だとエルナの神技によるワンチャン狙いだったからな。後は可能性低いけど、ブルーの意外性とか。コンなら数のゴリ押しだけど、これ通用しなかったらやべえ!割とガチでピンチかも)
「コン、影分身、玖の型そこから
8体の影分身がバトルフィールドに出現する。
そしてコン本体を含め9体が同時に動き出す。
「稲荷流狐剣術、玖の型 流星火、陸の型 御神楽・稲荷突き!」
「ファム、ヘブンズゲート。そこか、シャイニングクロー!」
既に稲荷流狐剣術、玖の型 流星火は見ている。
カレンを瞬きする間もなく倒した早業、普通なら最大限警戒するところだが、ルーカスは最初からこれに狙いを定めていた。
バトルフィールドに突如として出現した神々しさを感じさせる門、ヘブンズゲートは全てを
ヘブンズゲートが光り輝くとバトルフィールドからコンの影分身が消え去り、コンのステータスも通常通りになる。
夜の帳は下りたままで桜も満開だが、コンのステータスは元に戻っている。
この時点でこのバトル中初めてコンとファムのステータスの上下関係は逆転したが、シャイニングクローに流星火を上手く合わせて何とかその場は凌げた。
だが、郁斗の精神的ダメージは大きい。
ステータス差も逆転し、数少ない勝ち筋だった影分身による数の暴力も無力化された。
最も痛いのはそれらを可能にしたスキル
つまり、このバトル中影分身や稲荷流狐剣術の一部の型は使えない。
「コン、陽炎、蜃気楼、伍の型!」
「稲荷流狐剣術、伍の型
「ファム、ヘブンズノヴァ!」
コンの十八番、陽炎と蜃気楼のコンボによる幻にファムは囚われ、無防備なところを狙い撃たれる。
しかし、ファムの放った神々しい光の波によって全てが無に帰った。
ここにきて形勢は誰の目から見てもルーカスに傾き始める。
稲荷流狐剣術の一部の型と影分身、陽炎、そして蜃気楼までもが封じられた今、郁斗とコンにはドンドン打てる手が無くなる。
長期戦になれば不利なのは明白。
「ファム、シャイニングピラー!」
コンの真下から光の柱が立ち上る。
ヘブンズゲートとヘブンズノヴァによっていろいろとスキルが封じられ、作戦を根幹部分から考え直さないといけない郁斗に考える時間を与えまいと最速の攻撃で追い詰める。
「コン、玖の型から陸の型、そんで弐の型!」
「稲荷流狐剣術、玖の型 流星火、陸の型 御神楽・稲荷突き、弐の型 忌火」
「!?ここでそう来るかよ!」
稲荷流狐剣術、玖の型 流星火は既に一度ルーカスに狙われた。だからこそ、このバトル中で再び使うことは無いだろうと考えていた分、予想外過ぎてルーカスとファムの反応が遅れる。
玖の型 流星火による効果だけを巧みに使って瞬時にファムの懐へと入る。
本来ならそのまま袈裟斬りを浴びせるところだが、
この息付く間もない攻撃にさすがのファムも躱すことはできず、ダメージを負うが、この時負ったダメージは直ぐにプチヒールとヒールで回復される。
だが、ダメージを回復していたのはファムだけじゃ無かった。
コンもまた先ほどシャイニングピラーで負ったダメージを9割近くまでしていた。
これは稲荷流狐剣術、弐の型 忌火による効果で直前の型で与えたダメージに応じてHPを回復する。
忌火の効果を知らないルーカスとしては謎が幾つか生まれていた。
まず、どうやってHPを回復したのか。
次に弐の型 忌火の効果は何か。
名前から察するならデバフや状態異常などの付与、もしくは火属性の攻撃スキルを連想する。
とてもじゃないが、忌火という名前から回復は連想できない。
もしかしたら後々に影響を与えるスキルなのかもしれない。
ルーカスの郁斗に対する警戒心がありもしない幻想を生み出しているが、最後はシンプルな結論に至る。
「ファム、聖竜の心眼、ヘブンズクラッシュ!」
数秒間、コンの体が硬直する。指一本たりもと動かせない。
その一瞬でファムは大きな溜めを必要とするスキル、ヘブンズクラッシュを解き放つ。
体の自由が戻る頃には回避不可能なところまで攻撃が迫っている。
このまま直撃を受ければ、間違いなくHPを全て持っていかれる。
なら、その前にファムを倒せばいい。
両者の考えは完全に一致した。
倒される前にコン(ファム)を倒す!と。
「コン、拾の型!」
「稲荷流狐剣術、拾の型
何も無い虚空を斬るコン。
それとほぼ同時にファムの放ったヘブンズクラッシュが直撃。
そして気づいた時にはバトルは決着していた。
バトルフィールドには二つのウインドウが表示されており、それがバトルの勝者を
一切示していなかった。
『コン DOWN』
『ファム DOWN』
そこには2体のモンスターが倒れた表示のみ存在したが、DRAWの表示が出ていないということは引き分けではないことを示している。
きっとこの後、満を持して勝者と勝利ギルドが表示されることだろう。
「「どっちだ!?」」
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