第150話 遂に始まる第5試合

「最終戦、2勝2敗で迎える第5試合が始まろうとしています!東側バトルステージには二階堂郁斗が、西側バトルステージにはルーカス・ガルシアが登場!!両者ともに準備万端か!」


「楽しみね。私の見立てでは実力は互角。どっちが上も下もないわね」



『第5試合 二階堂郁斗VSルーカス・ガルシア バトルSTART』


「来い、ネメア!」


「酔い踊れ、カレン!」


 バトル開始の合図と共にフィールドには2体のモンスターが召喚される。

 郁斗は先にネメアを召喚。

 対するルーカスは妖怪種のカレンを召喚した。

 外見上からカレンは鬼に見えるが、どの種族かまでは特定できない。

 妖怪種の鬼はそれなりに種類がいる。

 郁斗は戦いながら種族などをなる早で特定するしかない。

 でないと、序盤からルーカスに主導権を持って行かれかねない。


「ネメア、ゴーストタウン、デスサイズ!」


「カレン、酒呑しゅてんさかずき!」


 まずはネメアがフィールドを展開しつつ武器を召喚する。

 その隙にカレンは妖術、酒呑の盃を使い、フィールド全体に幻影を映し出す。

 そして幻影に紛れて姿を隠す。

 これではネメアは攻撃したくてもできない。

 特にこれは影渡りと相性が悪い。影渡りは影が見えていないと使えない。

 フィールド全体がカレンの妖術、酒呑の盃で幻影を映し出している以上、当然、影は姿形も無く消えている。

 序盤からガンガン攻めていきたかった郁斗としては出鼻をくじかれた形となった。


(こうなった以上、このままカレンの出方を窺うのもあり。コンと同じ幻惑系の妖術ならネメアのあのスキルで消せるけど、相手が相手だし温存しておきたい。でも、そんな悠長なこと言ってる余裕があるかどうか。消せるなら消しとくべきか)


「ネメア、ブラックホール!」


「!!酒呑の盃が吸い込まれいく!?」


 突如としてフィールドに現われたブラックホールに何と幻影が吸い込まれていく。

 そして気づいたら酒呑の盃による幻影が綺麗さっぱりに消えており、カレンの居場所も特定できた。


(なるほど、これは強いな。いきなり酒呑の盃を消されたのは想定外だけど、まだ大丈夫。流れはどちらにも傾いていない)


「カレン、くれない鬼殺おにごろし!」


「ネメア、ウインドサイズ!」


 紅の炎を纏ったカレンの刀による鋭い突きが風を纏ったネメアの鎌がぶつかる!と同時にチェーンリストレイントが発動。

 鎖でカレンを一瞬にして拘束し、すかさずダークサイズで攻撃。

 しかし、これに対するルーカスの対応は早かった。


「カレン、酒呑の煉獄!」


 カレンを中心にものすごい勢いで炎が吹き荒れ始まる。

 すると次の瞬間、チェーンリストレイントの鎖がジュルーという音と共に溶け始め、僅か数秒でカレンはチェーンリストレイントによる拘束から逃れた。

 それでも、ネメアの執念からダークサイズはカレンを掠めていた。

 たかたが掠めただけでも、闇属性の攻撃を当てられたことに変わりは無い。

 これでカレンはデバフと状態異常が付与されることになるが、ルーカスはそれに疑問を持っている。


(おかしい。確かゴーストタウンの効果でバフ・デバフ・状態異常は相手モンスターに反転される筈。なのにカレンに付与されたまま。Lvが上がって効果が変わった?鬼姫のギルドマスター決定戦ではLv1のスキルだったし、その可能性が高いか。変わったとするならどう変わった?バトルしながら見極めるしかないか)


「ネメア、影渡り、グリムリーパー!」


「カレン、紅・鬼斬り!」


「ネメア、アースサイズ!」


「カレン、酒呑の太刀!」


 両モンスターともに一歩も譲らない一進一退の攻防が続く。

 どちらも攻め切れていない状況。あと一歩が踏み込めない。

 この流れを断ち切ったのはカレンだった。


「カレン、妖気解放、酒呑の盃!」


「ネメア、ブラックホール!!」


 妖気解放からの酒呑の盃で再び、フィールド全体に幻影を映し出す。

 ノータイムでブラックホールを使い、先ほどと同じように吸い込もうとしたが、今回ブラックホールは発動しなかった。

 ルーカスが妖気解放で封じたのはブラックホールだった。

 そして、クールタイムの無視を選択したスキルは


「カレン、連続で紅・鬼斬り!」


 姿形がまったく見えないカレンの攻撃が360度あらゆる方向から飛んでくる。

 徐々にじわじわとネメアのHPは削れていく。

 何かしらの打開に繋がる一手を早急に打たないとまずい状況だ。


(360度あらゆる方向からの攻撃。規則性とかは見られない。なら、全方位吹き飛ばすのが手っ取り早いか)


「ネメア、正面にウインドボール、背後にウインドボム、右側面にウインドカッター、左側面にはアースバレット!」


「カレン」


 全方位に攻撃を放つが、当たった感じはしない。

 ジャンプして攻撃範囲の外に出たか、僅かながら存在する攻撃の隙間ギャップに逃れたのか。

 郁斗としてはどちらでも問題無かった。想定の範囲内だから。


「ネメア、アースクエイク!」


 アースクエイクは全体攻撃だが、土属性の魔法で所謂地震で攻撃するような魔法。

 ジャンプ一つで簡単に回避されるが、これでカレンが先ほどの攻撃をどう回避したのかがわかる。

 これにも当たった感じが無ければ、ギャップに入って回避。

 当たれば、ジャンプしての回避。間髪入れずの2回連続となるとジャンプで最初の攻撃を回避した場合、アースクエイクは回避できないから。

 結果はこれにも当たった感じは一切無い。

 一度目はギャップに入り攻撃を回避して、二度目はジャンプしての回避だろう。


 ここからは一度目の攻撃で用意した罠にカレンがかかるのを待つ。

 正面にそれは設置されているから残る三方向を警戒する。

 すると、いきなり罠にかかったようだ。

 ネメアの真正面で大爆発が起きた。


「そこか。ネメア、グリムリーパー!」


 カレンの居場所を捉えたら見失わない内に攻撃に出る。

 グリムリーパーがカレンを捉えるとフィールド全体に映し出されていた幻影は消える。

 恐らく、カレンが一定以上のダメージを負うと解除されるスキルなのだろう。

 コンのような時間制限は無かっただろうから早々に解除できたのは郁斗にとって大きい。


(何が起きた?爆発?カレンの位置を特定はできていなかった筈。だからこそ、あの攻撃の数々。…そうか。ランドマインで地雷が設置されていたのか。初見じゃ気づけないな)


(よーし、良い感じのダメージ入った。デバフや状態異常を付与した相手に対して倍のダメージ与えるグリムリーパー様々だな)


 ネメア、カレン共にHPは今の攻防で半分を下回った。

 お互い慎重になり、距離を置いたまま動きを見せない。


「使うか。カレン、酒呑覚醒!」


「は?覚醒!?」


 カレンが使った酒呑覚醒、これは覚醒スキルと呼ばれるもので、使えば一時的にステータスが倍になり、クールタイムが半減する。

 つまり、劣化版ドラゴンフォースだ。


(覚醒スキルってだいたい5分しか持たないけど、覚醒強化スキルを持ってると話は変わるよな。時間切れまで粘るって考えは捨てるか。粘れたら儲けものでいこう)


「カレン、酒呑の業火、酒呑の煉獄!」


 カレンの刀の切っ先がネメアへと向く。

 すると灼熱の業火がネメアに向かい放たれる。

 しかもこれは複数のスキルを合わせて放つ合技。

 通常の倍に膨れ上がったステータスで放たれる合技の威力は底知れない。

 直撃でもすれば一撃で倒されるだろう。

 郁斗とネメアはそれが理解できていないのか全く回避する素振りを見せない。

 いや、動かないが正しい。

 攻撃を当てて相殺を狙っているようにも見えない。

 まるで正面から受け止めてやる!と言っているように見える。

 そしてルーカスはカレンの放つ合技が視界を遮り、ネメアが見えていない。

 それ故に気づけない。郁斗とネメアの狙いに。


(普通なら回避一択だが、ネメアには影渡りがある。それは警戒しとかないとな。他は何かあるか?あるとすればまだ見せていない未知のスキルだけ。…いや、ゴーストタウンの効果もまだ不明瞭だな)


 ルーカスのこの読みは正に的中していた。

 まだ見せていないスキル。正確には見せていない効果。

 ゴーストタウンはスキルLvが上昇したことでその効果に多少なり変化が起きた。

 一つはバフ・デバフ・状態異常の反転。

 相手モンスターのバフはネメアに、ネメアのデバフは相手モンスターに付与される。

 今回、酒呑覚醒でカレンのステータスは2倍に膨れ上がっているが、これは正確にはバフに該当しない。

 だからネメアのステータスが2倍に膨れ上がる訳ではない。

 それを知っているからこそ、ルーカスは気にも留めていないし、ネメアが有利になるように効果が変わっただけと捉えている。

 間違ってはいないが、ゴーストタウンの効果はそれだけではない。

 バトル中に一度だけ自分と相手の位置を入れ替えることができる。


 酒呑の業火と酒呑の煉獄による合技が完全に解き放たれる時を郁斗は待っていた。


「今だ!」


(来る!恐らく影渡りによる奇襲)


「背後に紅・鬼斬り!」


 しかし、ルーカスの読みは的外れだった。

 惜しいところまで読めていた分、もったいない。

 カレンは自ら放った合技に自ら被弾した。

 これに対してルーカスはすぐに読みの甘さに気づいた。

 この入れ替えは全く未知のスキルかゴーストタウンの効果によるものだと考えられるが、ルーカスの中ではゴーストタウンの効果一択だった。


(クソ、可能性として頭の片隅にあったのに直前で無意識に選択肢から消してしまった)


 ステータスが2倍に膨れ上がっていようと自ら放った合技だから全く関係なくダメージは入る。

 不幸中の幸いなのは火属性耐性スキルを持っていたこと。

 そのおかげで自滅だけは避けられた。


「ネメア、影渡り、グリムリーパー!」


「カレン、紅・鬼斬り!」


 影渡りからの奇襲は元々想定していたもの。

 さすがにそう何度も奇襲が決まるような相手ではない。

 グリムリーパーはギリギリの所で躱され、紅・鬼斬りを連続で叩き込まれる。

 ステータス差から一撃一撃が重くのしかかり、直ぐにネメアのHPは尽きた。


『ネメア、DOWN』


 合技でカレンを自滅させようとしたところまでは良かったが、その後少し郁斗は焦った。

 ステータスの差はそれだけ大きい。

 先に1体目を倒され、後が無くなったことで更に精神的余裕も奪われつつある。

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