第138話 偶然かそれとも必然か

 カオスオーガフレイムがセーレを捉える。

 しかし、今使った神足通や暴風烈破からセーレが人類種のモンスターなのかに疑いが生じる。

 それとは別にラグニアは一部の観客を驚かせている。


「はは、初見でバレた。じゃあ隠す必要無いね」


 すると、セーレは火属性と風属性を己に纏う。

 俺はこれと似たようなスキルを知っているけど、二つの属性でもこれができるとは思ってなかったし、そもそもON、OFFの切り替えができるのも初めて知った。

 セーレが今、使ったスキルは恐らく火属性付与と風属性付与の二つ。

 普通の猫獣人だと取得しないスキル。

 ブルーみたいに特殊な進化をしてる可能性も否定できないけど、さっきの神足通というスキルからしてセーレは妖怪種の猫又。


「セーレ、火炎灯篭!」


 ラグニアは突如として足元から出現した炎に飲み込まれる。


「ラグニア、空駆くうか!」


 炎に飲み込まれたラグニアだったが、空を駆けることで脱出に成功する。

 そのまま上空からセーレに接近し、ダーククローで攻撃する。

 それを迎え撃つ構えを見せていたセーレだが、ラグニアが攻撃態勢に入ると直ぐに構えを解き、身を翻して躱す。


「セーレ、猫パンチ、火炎滅却!」


 攻撃が空振りに終わり、無防備なところを突かれる。

 回避も相殺も何もできず、ただ後方に吹き飛ばされる。

 たったの二撃でラグニアのHPは4割ほど一気に削れたが、それもすぐに無に帰す。


「ラグニア、プチヒール!」


 たった一度のプチヒールでラグニアのHPは全回復する。

 それも空中で。


 先ほど使った空駆はクールタイムが無いスキルの為、永続で使用可能。

 それ故に危うくなればすぐに空中に退避できる。


(空駆ってグリフォンとかが取得するスキルの筈。あれと同じならクールタイムが無い。ラグニアってウルフ系だよね?取得する何て聞いたこと無い)


 ユリアの表情から少なからず戸惑いが感じられる。

 実際問題、ラグニアは空駆を取得していない。

 使えるのは他のモンスターのスキルをコピーしているから。

 ラグニアがコピースキルという不遇スキルを取得していると知らなければ、そもそもこの結論に至ることは無い。


「セーレ、竜巻旋風、暴風烈破!」


「ラグニア、メガダーク、メガファイア、ライトクロー!」


 セーレにより巻き起こされた竜巻はメガダークとメガファイアで何とか相殺に成功する。

 だが、その隙に神足通を使い、再びラグニアの背後まで一瞬で移動していた。

 今度こそ無防備な背後から暴風烈破が決まると思いきや、アクロバティックな動きを空中で披露しセーレの拳はラグニアの右爪とぶつかる。

 本来ではありえない空中での激しい攻防。

 ラグニアは空駆で空中でも踏ん張りが効くが、セーレはそうはいかない。

 最後はラグニアがセーレの拳が届かない位置に移動し、そのまま地に落とした。


「セーレ、妖気解放!」


「?」


 セーレはここまで火属性付与と風属性付与で二つの属性を己に纏わせていたが、その更に上から禍々しいオーラを纏う。

 いろいろと混ざり過ぎてもう訳がわからない状態へとなっている。


 セーレの変化に目を奪われていたから気づくのが遅れるが、なんとこのタイミングでラグニアが地面に降りてきたというより、落ちてきた。

 だが、ラグニアの感じからして自分の意思で降りたという感じはしない。

 寧ろ強制的に地面に落とされた。そんな感じがラグニアからは伝わってくる。


 今の妖気解放ってスキル、自己強化スキルか何かだと思ったけど、ちょっと違うみたい。

 たぶん自己強化とプラスαって感じかな。

 相手の動きを阻害するとか?

 でも、もう空駆は封じられたも同然だな。


「セーレ、神足通、猫パンチ、神足通、猫キック、神足通、猫クロー!!」


「え?」


 神足通は一瞬で背後まで移動できるが、クールタイムの長いスキルだと思っていた分、不意を突かれる形となった。

 突如としてラグニアの正面に現れたセーレはアッパーをかまして反撃される前に再び神足通を使い、消えると同時に背後から蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばしたと思いきや、今度はその先で鋭い爪で引き裂く。

 これでセーレの神足通が瞬間移動系のスキルだと確実に判明した訳だが、クールタイムを無視しているかの如く連続使用できるのは、先ほどの妖気解放ってスキルの影響?

 というより、かなりヤバい。このままじゃ一方的に攻撃されてHPが削られる。


 そのまま何一つ状況は変わらず、ラグニアのHPが1割を下回ったところでバトルは動く。


「ラグニア、ヒール!」


「!?」


 この展開はユリアにとって大きな誤算だった。

 ラグニアがプチヒールを使えるのは把握していたが、まさかヒールまで使えるとは。

 ヒールの回復量はプチヒールの倍。

 つまり、残りHPが1割を下回っていたが、ヒールによる回復でHPは全回復している。

 そして、これで一つ明らかになる。

 ラグニアを倒すにはプチヒールとヒールがクールタイムに入っている間に一気にHPを削り切るしかない。

 つまりは完全なる長期戦を強いられることになる。

 それでもユリアには焦り一つない。


 ヒールを見せても驚きはしたけど、焦ってる感じはしない。

 ポーカーフェイスが上手いだけって可能性もあるけど、最初のあれがあるし、たぶん妖気解放には制限時間がない。

 制限時間があったら少しは焦る筈だしな。

 だとするとクールタイム無視に相手のスキル封印の二つの効果を永続で使えるってことになる。

 いくらなんでもそれは強力すぎる。

 普通から何かデメリットがある筈。

 何かを見落としている?でも、何だ?


「セーレ、神足通、火炎滅却、神足通、猫パンチ、神足通、猫キック、神足通、猫クロー!!」


「ラグニア、ジャンプして地面に向かってカオスオーガフレイム!」


 やられっぱなしではないとラグニアも反撃に出るが、セーレには当たらない。

 カオスオーガフレイムの軌道上に確かに神足通で跳んで来たが、すぐに神足通を使い、カオスオーガフレイムの軌道上から消え、ラグニアの背後に現れる。

 そのまま火炎滅却で地に落とされ、猫パンチによる追撃をくらうが、それと同時にカオスクローで反撃もしていた。

 回復魔法が使えるラグニアだからこそできるカウンター。


 この一撃でセーレのHPもよくやく半分を切ったが、妖気解放を使ったセーレに一撃を当てるのは至難の業。

 クールタイムを完全に無視してスキル、特に神足通が使える以上、何かしらの策を講じないと勝てない。



 そこから暫くは膠着状態が続く。

 セーレが猛攻を仕掛けてラグニアにダメージを与えてもプチヒールとヒールによる回復が間に合っている。

 ラグニアも攻めあぐねていて、攻撃はほぼ全て空振りに終わっている。


 長い長い膠着状態の後に遂に均衡が崩れ、バトルは大きく動き出す。


 この均衡を崩したのは、


「セーレ、神足通、猫パンチ、神足通、猫キック、神足通、猫クロー、神足通、火炎滅却、神足通、火炎灯篭、神足通、暴風烈破、神足通、竜巻旋風!!」


「ラグニア、カオスクローとカオスブレイクで全方位薙ぎ払え!!」


 第1試合でウィリアムとヴェルが最後に見せた複数のスキルを同時に発動して普通ではありえない威力と効果を発揮する、その技をここでラグニアも披露してみせる。


 技と技、スキルとスキルのぶつかり合い。

 セーレは神足通を巧みに使い、ラグニアの攻撃を掻い潜ろうと、ラグニアはセーレを捉えるべく攻撃を続ける。

 長いようで短いこの攻防は呆気なく決着がつく。

 背後から攻撃を仕掛けてくるように敢えてそこに隙を作ったラグニアの誘いに乗ってしまったが故に返しのカウンターがキレイに決まった。

 ラグニアもそれなりのダメージを負ったが、それ以上にセーレのダメージは大きい。

 しかし、それでもまだ倒れない。


「シャインダイブ!」


「神足通、猫パンチ!」


 やっぱり。妖気解放はクールタイムを無視して使えるようにするスキルだろうけど、全てじゃない。

 神足通しかクールタイムを無視できない。

 あの連続攻撃は元々クールタイムが極端に短い猫パンチ、猫キック、猫クローを使うことで錯覚させているだけ。

 そう思わせないように時折、他の強力スキルも使ってるけど、ここまで連続使用は一度もない。

 つまり、神足通さえ攻略すれば勝てる。


 問題はどうやって神足通を攻略するのか。

 知ったところで攻略はかなり難航する。

 それがわかっているからこそ、ユリアさんは余裕があるんだろうな。

 まあでも、時間は掛かるけど、一応倒す方法ならある。

 序盤にセーレはカオスオーガフレイムが、さっきはカオスクローとカオスブレイクの合わせ技が当たっている。

 セーレには既にデバフや状態異常が付与されている。

 だけど、普通に闇属性で付与するのとは違って効果がかなり弱い。そう、とにかく弱い。

 一応、他にも効果はあるけど、今回は役に立たない。

 ただ、デバフや状態異常付与は効果が弱すぎて対戦相手はバトルが終わっても気づいていないってこともあるくらいだ。

 とりあえず、このまま時間を掛けてセーレのHPをスリップダメージで削ろう。


 俺としては郁斗の為に1秒でも長く、時間を稼ぎたいし、一石二鳥だしね。




 そして30分ほど時間が経ちユリアが遂にデバフや状態異常が付与されていることに気づく。

 しかし、いつ付与されたのか皆目検討もつかない。

 明らかな闇属性攻撃であるダーククローは躱し、メガダークはセーレの攻撃を相殺するのに使われただけ。

 確実に闇属性の攻撃には被弾していないと断言できる。

 ここで今はいつ付与されたかは関係ないと思い直し、バトルに集中する。

 もうセーレのHPは1割を下回っている。だいたい0.5割ちょい。

 そもそもラグニアのカウンターを受けた時にHPは残り1.5割を少し下回るくらいだった。

 約30分という時間でセーレのHPは1割も削れていない。

 これだけで通常の状態異常によるスリップダメージより効果が低いのは理解できた。

 そしてこのまま戦い続けられる凡そのタイムリミットの見積もりは30分。

 それ以上長引けば、セーレのHPが先に0になる。

 エースモンスターであるブルーが登場ふる前にせめてラグニアだけでも倒しておきたい。


「セーレ、神足通、猫パンチ、神足通、猫キック、神足通、猫クロー、神足通、火炎滅却、神足通、火炎灯篭、神足通、暴風烈破、神足通、竜巻旋風!!!」


 ここで一気に勝負に出る。

 持てるスキル全てを総動員してラグニアがHPを回復する前に倒し切る。


「ラグニア、プチヒール!」


 ここで回復されるのはユリアの想定の範囲内だが、想定外のことが起きる。

 偶然か必然か、ラグニアのダーククローがセーレを捉え掛けた。

 あと少し距離を詰めきれていなかった。

 ダーククローはほんの数cm届かなかった。

 しかし、残りHPからしてあと一撃でもくらえば、倒されるのは必然のセーレからすると偶然か必然かなど関係なく、攻めづらくなる。

 これが原因で最後ラグニアを攻めきれず、遂にセーレは状態異常によるスリップダメージで倒れる。


『セーレ DOWN』

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