第137話 第2試合、その対戦カードは?

 第1試合が終わり、第2試合に誰が出場するかの選出を余儀なくされているが、鬼姫側の雰囲気は暗い。


「オリヴィア、負けはしたが、良いバトルだったぞ。今、負けて悔しいなら次は必ず勝つと自分に誓え。それとこれから戦う仲間を精一杯応援しろ。それが今できる最善だ」


「最善を尽くした結果でしょ?もっと堂々としてていいんだよ?」


「ううっ、――――――」


 オリヴィアはそのまま琴音先輩と一緒に控え室から出て行く。

 気づいたらさっきまでの暗い雰囲気はどこかへ吹き飛んでいた。

 今、この場にいる俺と莉菜、薫先輩は想いは一致した。次の試合は絶対に勝つ。


「第2試合、が出場する?」


「わたしが…」


「俺がいく!莉菜、ごめん。俺にいかせて」


「蓮…」


「こっちは第1試合を落としてる以上、第2試合はかなり重要だ。ここを落とせば、一気に後が無くなる。普通に考えたら莉菜が出るべきだと思う。でも、それじゃダメだ。きっとリベリオンは莉菜が選出されると読んで相性の良い人を選出してくる。裏をかく為にも俺がいくよ」


「確かに鬼灯の言うことにも一理あるな。普通ならギルドマスターじゃなくてサブマスターが出るべき局面だ。リベリオンの裏をかくならこれが一番かもな」


「はあ、わかったわよ。その代わり、勝ちなさいよ、蓮!」






 リベリオンの控え室では、


「思ってたよりギリギリだったけど、勝ちは勝ち。よく頑張ったウィリアム」


「はは、最後、ホントに負けたかと思ったよ。強いよ、は」


「でも、ルーカスを温存しての1勝は大きい!」


「それで第2試合は誰が出るの?」


 ルーカス、ウィリアム、ユリア、シャーロットの順にそれぞれ思い思いの言葉を述べる。


「鬼姫は莉菜か郁斗のどちらかを選出してくる筈。莉菜ならユリアかシャーロット、郁斗ならルーカスだけど…」


「「「「!!?」」」」


 ロザリアの鬼姫選出予想を聞いた4人は驚きを隠せない。

 何故なら今、ロザリアは郁斗にルーカスを当てると言った。

 つまり、第1試合前に言っていたルーカスじゃないと勝てない人物とは郁斗のこと。

 フランスで偶然バトルを見たという発言からロザリアの言う人物はギルドマスターの蓮と予想していただけに尚更。

 それに変な先入観を与えたくないと黙っていたのにこうもあっさりと口を滑らしたことにも驚いている。

 自分の発言が如何に迂闊だったかに気づいた時には、既に時遅し。

 何もかもが手遅れだ。


「もう手遅れだから聞くが、ロザリアの言う俺じゃないと勝てない相手って鬼灯蓮じゃないのか?俺はそう思っていたが」


「?蓮は鬼姫最弱のプレイヤー。わざわざルーカスを当てるほどじゃない」


 ルーカスの質問に対する返事はまるで当然でしょ?といった意味が含まれていそうな感じがする。

 どうやらロザリアからすると鬼姫最弱はギルドマスターである蓮のようだ。

 さすがにこの返しは予想外だったからか、誰もロザリアに対して突っ込めないでいる。


「まあ、そういう訳だから第2試合に蓮は出てこない。この局面ならサブマスターの莉菜の可能性が高いか。うん、第2試合はユリアでいこう」


「ロザリア、一つ確認だけど、もし二階堂郁斗だったらどうするの?」


「どうもこうもしない。鬼姫が郁斗で1勝してもまだ1勝。私たちが残りの試合を勝てば問題無い。今回のギルドバトルは3勝しないとダメだから。あ、でも、勝てそうなら勝っていいからね」




 こうして両ギルドともに第2試合の選出が終わった。

 その情報は瞬く間に実況のステラの元まで届く。



「おおっと!!ここで第2試合の対戦カードが決定!!!!鬼姫からはなんと!なんと!ギルドマスター、鬼灯蓮!!!!!第2試合にしていきなりギルドマスターの登場だあー!そしてリベリオンからはユリア・ファン・デン・ベルク!!第1試合に引き続き、激闘を予感させる対戦カードとなりました!」


 おおおおーーーー!!!

 第2試合でギルマスかよ!?

 セオリーガン無視かよ!?

 今回の特殊すぎるギルドバトルでセオリーもクソも無いだろ!

 激アツ展開来たー!!

 遂に世界最強に世界最強と言われたスライムの出番か!


 予想を大きく裏切る鬼姫のギルドマスター、鬼灯蓮の登場は観客は大いに湧かせる。


「第2試合の対戦カードをご覧になって新垣さんはどうですか?」


「そうね。個人的にはまた予想が外れたわね。莉菜さんか郁斗くんだと思ったのに。残念…」


「ギルドマスターの早い登場。やはり、鬼姫は第1試合を落としていますから確実に勝ちに来ているということでしょうか?」


「わかんないわよ?もしかしたらクジ引きとかで順番決めてるかもしれないでしょ?」


「ええと、さすがにそれは無いかと…」


「ええ、そうかしら?有名処ゆうめいどころであるじゃない、ディアボロスとかソフィア海賊団とか」


「その二つのギルドは極極一部の例外です!!そこを基準に考えないで下さい!」


「ぶーぶー。――――まあいいわ。真面目な話、さっきステラが言ってたように勝ちに来たってとこかしらね。たぶんルーカスくんが出てこない、ユリアさんかシャーロットさんのどちらかを読み切って、蓮くんが1勝取りに来たってとこね」


「おお!つまり、鬼灯さんは自分なら勝てると判断したと!?」


「私はこの選出から少なくともそう捉えたわ。実際は全然違うかもだけどね」


(うーん、でも鬼灯さんって1月にオーストラリアで行われたDトーナメント4回戦負け。ユリアさん、シャーロットさん共に圧勝って訳じゃないけど、Dトーナメントでは優勝してる。実力で勝っているとは思えないけど、新垣さんは何か知ってて隠してる?だとしたら一体何を…)


(これステラにすっごく疑われてるわね。実績だけでプレイヤーの実力を測ろうとする悪い癖ね、まったく)




「それでは第2試合を戦う2人のプレイヤーの入場です!!」


「気になるのは蓮くんがどのモンスターを選出したかね。蓮くんは既にエース級モンスターが3体いる訳だし、ブルーともう1体はどっちかしらね」


「そこはやはり対戦相手のユリアさんのモンスターとの相性ですかね。特別、相性が良い、悪いは無さそうですが…」


 ステラと輝夜がそうこう話している内に蓮とユリアの準備は整った。

 第2試合がいよいよ始まる!


『第2試合 鬼灯蓮VSユリア・ファン・デン・ベルク バトルSTART』


「出でよ、ラグニア!」


「頼むね、セーレ!」


 バトルフィールドには二足歩行の狼とぱっと見では猫獣人?と思えるモンスターが出現する。


「セーレ、猫パンチ!」


「ラグニア、ライトクロー!」


「今よ、セーレ、猫クロー!」


「フレイムクロー!」


 セーレの猫パンチによる先制攻撃はライトクローで防いだが、空いているもう片方の手で猫クロー。

 これには反応が遅れたにも関わらず、ラグニアは躱しながらフレイムクローで反撃もした。

 ただ、不安定な状態での反撃だった為、セーレはあっさりと躱して距離を取る。


(?ここで距離を取るのか。猫獣人なら魔法適正は基本的に無い筈。ラグニア相手にあまり距離を取るメリットが無い気が…。いや、メリットがあるとしたらどうだ?何かある筈だ。考えられるだけ考えろ!)


 ユリアがふと笑みを浮かべる。

 ほんの少し、気のせいで済むレベルの変化。

 それでも、見逃さなかった。


「セーレ、」


「ラグニア、真上にジャンプ!」


神足通じんそくつう、暴風烈破!!」


 何の意味も無く、ただその場でジャンプしただけ。

 この時はまだこの行動の意図に誰も気づいていないが、1人だけ内心焦っている。

 何故、焦っているのかはすぐ理解できる。


 ラグニアが意味も無く、ジャンプするのとほぼ同時にセーレが姿を消した。

 すると次の瞬間、先ほどまでラグニアがいた場所の背後に出現し、風属性の攻撃を放つが、ジャンプしていたラグニアには当たらず、空振りに終わる。

 そしてそのまま、


「ラグニア、カオスオーガフレイム!!」


 ラグニアからの手痛い反撃をもらってしまう。

 この第2試合、初めてのダメージはセーレの方だった。

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