第135話 1秒
鬼姫VSリベリオンの第1試合、ウィリアムが思い描いた台本通りに進んだかに思えたが、それをオリヴィアが上回った結果、相打ち。両モンスターDOWNとなった。
第1試合の結果は両プレイヤーのエースモンスター対決に委ねられる。
「君臨せよ、カーラ!」
「薙ぎ塞がれ、タロス!」←薙ぎ払うと立ち塞がると二つの意味が込められています
槍を装備しているカーラはまず上空へと飛び上がる。
それに対して前身を覆えるくらい大きい盾と棍棒を装備している重鋼戦士のタロス。
盾を前に構えてカーラの出方を窺っているように見える。
「カーラ、悪魔の祝福、ナイトメア!」
「タロス、重戦車、鉄壁、装甲復活!」
まずは両プレイヤー共に開幕と同時にいつもの物騒な挨拶から入る。
カーラはデバフや状態異常を付与してナイトメアで攻撃。
タロスは被弾前提スキルの重戦車で攻撃を受ければ受けるほど攻撃力が、鉄壁で物理と魔法、両方の防御力が大幅に上昇し、装甲復活で継続回復をタロスに付与する。
これにより、時間は掛かるが圧倒的な攻撃力、ガチガチの防御、継続回復を手に入れた。
ただ、デバフや状態異常が無効化される訳じゃない。
タロスの本来の力を完全に発揮させるのは無理だろう。
「カーラ、ダークウェーブ、ダークボール、ダークトルネード」
「タロス、チャージカウンター!」
遠距離攻撃の手段が乏しいと判断したオリヴィアは魔法でコツコツとダメージを与えようと画策するが、タロスの圧倒的な防御力の前に全然ダメージを与えられていない。
それに加えて、絶妙なタイミング、攻撃が当たる直前にチャージカウンターを使われた。
これを解放されると今まで与えた
オリヴィアからすると攻撃すればするほどに相手の反撃を強化してしまう状況。
ウィリアムからするとナイトメアの前に差し込みたかったが、さすがにそれは間に合わなかった。
バトルにおいて大事なのは欲張らないこと。
たった一度の気を逃せば負ける。それがウィリアムの持論。
「カーラ、メガダーク!」
「タロス、叩きつけて!」
「!?」
(今のはスキルじゃありません。通常攻撃でカーラのメガダークを防いだ)
この状況、ウィリアムの狙いは明白。
明らかに近接戦を誘っている。
遠距離からの魔法だとタロスの防御力が高過ぎてダメージが乏しい。
状態異常によるスリップダメージも継続回復が上回っている。
ジワジワと少しずつではあるが、HPは回復している。
(このまま空中にいられると面倒だけど、たぶん仕掛けてくるよね、近接戦)
ウィリアムは知っている。
カーラの切り札を。
偶然にもオリヴィアが出場したDトーナメントのバトルを見る機会があった。
そこでオリヴィアのバトルを見た。
知っているからこそ、必ず近接戦を仕掛けくると確信している。
「カーラ、闇刺突、連続突き(闇)!」
(やっぱり、来たね)
「タロス、
「!?カーラ!」
真っ直ぐに猛スピードで突っ込んでくるカーラの槍をスキルを使わずに己の技量だけで盾を使い、華麗に受け流す。
勢いよく突っ込んでいただけにカーラは隙だらけの姿を晒してしまい、タロスの攻撃をノーガードで受ける。
先ほどメガダークをスキルを使わずにダメージ覚悟の通常攻撃で防いだこともあって、スキルを使っての迎撃=正面から盾で受け止めてから反撃と思い込んでしまった。
それにチャージカウンターも発動していることにより、オリヴィアの思考回路が攻撃を受け止める以外を受け付けなかった。
体勢を立て直すと再び上空へと飛び上がる。
そして、
「ナイトメア!!」
「くっ、」
タロスに唯一まともなダメージを与えられているのはナイトメアだけ。
それでも残りHPは7割近くある。
その後は接近を試みつつも中々距離を詰められず、遠距離から魔法で攻撃するので精一杯。
それでもタロスは基本的に相手の攻撃を受ける前提のモンスターだから付与されているデバフや状態異常が徐々に悪化している。
その為、継続回復が遂に状態異常によるスリップダメージに負けて回復できなくなった。
「カーラもう一度ナイト…」
「今だ!状態反転!」
「…メア!え?効いてません」
カーラにナイトメアを再び指示しようとしたが、今回はそこをウィリアムに狙われた。
このバトルで既にナイトメアは二回使用している。
つまり、最初からしっかりと計算していたらナイトメアのクールタイムを完璧に把握することも不可能じゃない。
実際にウィリアムはそれを完璧にやり遂げ、三回目のナイトメアを狙い、とある準備を進めることに成功。
今、タロスが使用した状態反転は自身に付与されているバフやデバフ、状態異常を相手に付与するというスキル。
それにより、カーラにデバフや状態異常、継続回復が付与される。
しかし、攻撃力と防御力を上昇させている重戦車と鉄壁のスキルはバフに該当しない為、そのままタロスに適用される。
失った継続回復は再び装甲復活を使えば問題ない。
「タロス、装甲復活!」
完全に長期戦を見据えた戦い方。
オリヴィアとしてはあまり長引かせると厳しい状況に陥りかねない。
早期決着が望ましいところだが、当然ウィリアムがそれをさせない。
「カーラ、霞連槍!」
「タロス、
カーラが繰り出す槍による連撃をタロスは盾を使わずに棍棒だけで打ち落とし、弾き返す。
いつものカーラならこんなことにならなかっただろうが、デバフにより動きが鈍くなっている分、槍から繊細さが欠けた。
それでも再びタロスにデバフや状態異常の付与はできた。
一度距離を取って仕切り直しを図るが、ドンと待ち構えるタロスが今はとてつもなく高い壁に見える。
でも、この状況を打開する術をカーラは持っているが、それは恐らくウィリアムに読まれているとオリヴィアは考えている。
実際にその考えは正しいし、それに加えてあれを使ってもタロスのHPを削り切れない。
しかし、カーラのHPは状態異常によるスリップダメージで刻一刻と減っていく。
時間はウィリアムに味方している。
あまり悠長に作戦を考えている時間はオリヴィアに無い。
(こちらの手札は全て読まれている。そんな気がします。どうしたら……。!かなり危険な賭けですが、これしかウィリアムの上をいく手段はありません)
(うーん、そろそろ使ってくるよね?まあ、僕としては使う使わないはどっちでもいいけど)
「カーラ、悪魔の囁き、」
「重鋼奮起!」
「ナイトメア!」
悪魔の囁きは次の攻撃時のみ相手の防御力を強制的に半分にするスキル。
そこから必中効果のあるナイトメアを放つことで凶悪なコンボとなる。
正に悪魔の囁きに耳を貸したら最後なのだが、今回は相手が悪かった。
重鋼奮起は己に喝を入れるスキル。その効果は、一度だけ自分を対象とするマイナス効果を無効化する。つまり、デバフや状態異常に分類されない悪魔の囁きすらも無効化できる。
これだけならかなり強力なスキルだが、デメリットとしてバトル中に一度しか使えない制限もある。
初手でカーラだけじゃなく、悪魔系モンスターは必ず悪魔の祝福を使う。
普通なら初手で使うべきだが、そこを敢えて重鋼奮起を使わずにここまで温存していた。
それもこれもウィリアムはカーラが悪魔の囁きを使えることを知っていた。
これともう一つ、ある物理攻撃スキルをとにかく警戒している。
(まずは一つ)
「カーラ、深淵への誘い!」
(来た!!)
深淵への誘いはナイトメア同様にデバフや状態異常を付与した相手にしか効果を発揮しないが、条件が揃えばその威力は倍になる。
そして与えたダメージに応じてHPを
カーラは真っ直ぐにタロスへと突っ込むが、タロスはただ待ち構えているだけ。
特に迎撃しようなどの素振りは見せていないし、ウィリアムも無反応。
とてつもなく深い闇を纏ったカーラの槍は一切動かないタロスを確実に穿った。
しかし、それと同時にウィリアムの仕掛けをタロスが発動している。
「リリースカウンター!」
リリースカウンターは、チャージカウンターを完全解放する。
このチャージカウンターとリリースカウンターは二つで一つというかなり珍しいスキル。
カウンター主体で戦うモンスターが少ない分、バトル序盤でチャージカウンターを使われても後半になると忘れるプレイヤーも多々いるが、オリヴィアは決して忘れてはいなかった。
使うならこのタイミングしか無いとわかっていた。そして、その対策として一つのスキルを温存していた。
「闇宵月!!」
「!?」
深淵への誘いとリリースカウンター、その上から更に闇宵月と普通なら見られない攻撃の応酬。
そして、それが原因で2体のモンスターを中心にとんでもなく巨大な大爆発が起きる。
爆発による土煙が収まるとそこには2体のモンスターの姿が見えた。
未だに2体とも倒れていない。
しかし、2体ともに残りHPは1割を下回っている。
というより、互いにあれを耐えたことが奇跡!
だが、現実は無情だ。
『カーラ DOWN』
オリヴィア・ブラウンVSウィリアム・キング
勝者はウィリアム・キング
最後、状態異常によるスリップダメージでカーラのHPが0になった。
この白熱の大激戦にほとんどの観客は大盛り上がりを見せるが、その正反対で一部、沈黙を貫く観客もいる。
その違いはこのバトルが如何にギリギリだったかを理解しているかどうか。
たった
それを理解しているからこそ、勝った筈のウィリアムは勝ちを喜べないでいる。
しかし、負けたオリヴィアからするとより一層悔しい思いをするだけ。
カーラのナイトメアのクールタイムが明けると同時に状態異常によるスリップダメージでカーラのHPが0になった。
状態異常によるスリップダメージ計算は1秒毎に行われる。
つまり、あと1秒カーラが倒れるのが遅ければ、ナイトメアが間に合い、倒れていたのはタロスの方だった。
死力を尽くしたバトルの結果、1秒に泣くこととなったオリヴィアと1秒に救われたウィリアム。
誰の目から見ても最後の攻防はオリヴィアがウィリアムの上をいった。
ウィリアムの頭に無い闇宵月をこれ以上無いくらいに完璧なタイミングで放った。
それでもオリヴィアはウィリアムに少しだけ届かなかった。
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