第134話 本領発揮

 アルマのレーザーキャノンはダウンストームで威力が落ちたこともあり、ヴェルの烈風で相殺される。

 それを見越していたのか、アルマはダウンストームが消えたこの隙にデュアルエッジモードに切り替えながら一気に空中を駆け上がる。


(マジでダウンストームを貫いてきたよ。防御力だけじゃなく、攻撃力も十分高いみたい。でも、空中戦なら僕に利がある)


「アルマ、ダブルスラッシュ!」


「ヴェル、ウインドシールド!」


「アルマ、ミサイル発射、ミサイル補填」


 ギリギリまで待ってからウィリアムはヴェルにウインドシールドの指示を出したが、オリヴィアはそれを読んでいた。

 先ほども同じように上空を飛んでいるヴェル相手にダブルスラッシュで攻撃したが、ウインドシールドで防がれている。

 きっと似た展開になれば、同じように防ぐ筈。そう考えていたからこそ、オリヴィアの一手ウィリアムの意識の外からの攻撃隣、刺さった。


 正に0距離と言っても過言では無いところでミサイルを発射。

 これにより、ヴェルを守る風の障壁は消えて無くなるが、ミサイルの爆発に伴う爆煙でお互いに相手を視認できない。

 しかし、アルマは相手を視認せずとも、センサーで居場所を正確に特定できる。

 そして、ウインドシールドが防いだのは、ミサイルのみ。

 アルマの攻撃はまだダブルスラッシュが残っている。

 つまり、このバトル、初めてアルマの攻撃がヴェルを捉える。


 爆煙からダメージを負ったヴェルが勢いよく出てくる。

 このままあの場に留まるのは危険と判断したのだろう。

 これを見たウィリアムの切り替えもまた早かった。


「ヴェル、ストームアロー!」


「アルマ、デュアルブレイク、トリプルスラッシュ!!」


「くっ!」


 距離を再び詰め切られる前に迎撃したかったのだろうが、渾身のストームアローはデュアルブレイクで相殺され、打つ手無しに。

 無防備なところにトリプルスラッシュによる追撃を受ける。


(強いな。甘く見ていた訳じゃないけど、しっかりと育成された機械種がここまでとは。今の攻撃でヴェルのHPは半分近く減った。そこまで防御力低く無いのにな。これじゃあ、慎重にならざるを得ないな)


(よし!上手く決まりました。ですが、今のでHPが半分しか削れていません。かなり防御力が高いですね)


 この後、少しの間バトルは膠着状態に陥る。

 どちらも攻め急ぐことなく、慎重に攻めている。

 それ故に両モンスターの攻撃は相手モンスターに当たらず、一切のダメージを与えられていない。

 それでも確実に少しずつだが、戦況はウィリアムに傾いていた。

 アルマの動きが見切られ始めていたのだ。

 ウィリアムは元々長期戦を好むプレイヤーだが、オリヴィアは違う。

 長期戦を好むどころかその経験が圧倒的に少ない。

 アルマはトーナメント以外だとカーラと共に戦っている。

 それ故に仲間がいない状況、1対1の経験が少ない。

 そしてカーラはデバフや状態異常付与からのナイトメアで必然的に短期戦になることが多い。

 今、正に長期戦の経験の少なさがオリヴィアとアルマを追い詰めている。



(素早さはヴェルの方が上だね。僕はこのまま空中で追いかけっこしてもいいけど、そろそろ動いてくるかな)


「アルマ、デュアルショットモード、ダブルショット!」


「ヴェル、ウインドトルネード、ウインドボール、ウインドカッター」


「うっ、なら、トリプルショット!」


「ちょ、スキル多くない?どういう育成してるのさ!」


 ウィリアムの質問に答える声は無い。

 ギルドバトルが全て終わった後なら答えるのも吝かではないが、今はバトル中。

 対戦相手に塩を送るようなマネはしない。


 バトルはデュアルエッジモードでは、埒が明かないと判断したオリヴィアがデュアルショットモードに切り替えた。

 新スキルも使って辛うじてヴェルの攻撃を防ぎ切れたところ。

 そう、防いだにも関わらず、オリヴィアは先ほどからずっと嫌な予感がしている。

 このままではいけない、そう思えてしょうがない。

 しかし、戦局はややヴェルに傾いているが、両モンスターの力は拮抗している。

 まだそこまで焦る展開でもなければ、ピンチでも無い。

 オリヴィア自身、何故嫌な予感がしているのかわからずにいる。


 そのままバトルは続き、お互いに攻撃に何度か相手の攻撃に被弾し、残りHPはヴェルが4割、アルマが8割ほどとなっている。

 残りHPだけ見るとアルマがかなり優勢に思えるが、実際は少し違う。

 アルマのHPはリペアで回復してもまだ8割までしか回復していない。

 そして、これはウィリアムが予想したスキルLvが低く、リペアの回復量に難ありを証明している。

 アルマはリペアを使えば、HPが3割ほど回復できる。

 つまり、リペアを使っていなければ、既にアルマのHPは残り2割ほどまで減っていてもおかしくない。




 そして遂に決着の時が訪れる。


 アルマのダブルショットとトリプルショットによってヴェルの動きを阻害することに成功する。

 これをチャンスと捉えたオリヴィアは一気に決めにいく。


「アルマ、スナイパーモード」


 スナイパーモードへの切り替えには大きな隙が生まれるが、その分威力は絶大。

 切り替えさえ、できれば勝てるという確信がオリヴィアにはあった。

 オリヴィアの考えが正しければ、今のヴェルはダウンストーム、ウインドダイブ、鷹の目以外のスキルはクールタイムに入っている。

 先ほどやってみせたように相殺するのは無理。

 後は当てるだけの筈だった。

 しかし、この状況はオリヴィアが作り出した千載一遇のチャンス――――ではなく、ウィリアムが意図してオリヴィアに隙を作り、チャンスと思わせた巧妙な罠。

 ウィリアムはずっとこの状況を待っていた。

 我慢強く、と思えるこの状況が訪れるのを待っていた。

 オリヴィアは未だにウィリアムの罠に掛かっているとは気づいていない。

 それもこれも、致命的な勘違いをしているからだ。


「アルマ、レーザーキャノン!!!」


「今だヴェル!鷹の目、ダウンストーム、ウインドダイブ!!!!」


 自分目掛けて発射されたレーザーキャノンに向かって、真っ直ぐに急降下をするヴェル。

 そこにダウンストームの強烈な下降気流が合わさり、ものすごい勢いで降下している。

 そしてウインドダイブを発動したヴェルはそのままの勢いでレーザーキャノンに突っ込む。

 無謀な突撃の末、レーザーキャノンに飲み込まれたかのように思えたが、何といとも容易くレーザーキャノンを突き破り、アルマを地面に叩きつける。

 それと同時に普通ではあり得ないレベルの轟音と共に大量の土煙が舞う。

 ダウンストームの下降気流はジェット噴射したアルマが一切上昇できないくらいに強力。

 その流れに乗った状態で更に助走込みの急降下且つウインドダイブによる攻撃。

 最初にアルマのHPを3割ほど削った一撃とは比べものにならない威力。

 これは完全にウィリアムの台本通りの結果――――と思いきや、


「これは僕も予想外だな。アルマがを使えるから対策は講じてたけど、まさか上をいかれるとはね。今回は痛み分けかな」


「そのようですね」


『アルマ DOWN』


『ヴェル DOWN』


(エネルギー解放を使って連続でしかも0距離でレーザーキャノンを撃つのは想定の範囲内だったけど、まさか同時にエネルギー大噴出までして自爆特攻をされるとはね。0距離レーザーキャノンだけなら温存していたウインドプロテクションを使ってたからHPが0にはならなかっただろうけど、エネルギー大噴出までは無理がある。僕の詰めが甘かったか)




――――――――――――――

後書き失礼します。

オリヴィアの致命的な勘違いについて、本編で補足できそうにないので。

「鷹の目」というスキルは急所を見抜くスキルです。

決して相手の位置を捕捉するスキルではありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る