第128話 不遇スキル

 LMBマーケットでは結局のところ戦力強化に繋がるようなアイテムは未だに買えていない。

 ブルーが興味を持ったアイテムを買ってるけど、さすがにポイントがそろそろヤバいな。

 高くてもいいから手持ちのポイントで出せる範囲で良いアイテム見つからないかな?


 途中で露店の店主からLMBマーケットを更に奥に進むとスキルの書を専門に扱う店があると聞いた。

 某有名プレイヤーが店主だからかなり人気みたいで人集ひとだかりができているからすぐにわかるとか。

 親切に教えてくれたにも関わらず、その人の露店で何も買わないのは申し訳ないので、モンスターの卵を温めるのに効果的とされている毛布を購入した。

 購入した毛布はブルーが早々にモンスターの卵の所まで持って行った。

 帰ってきたブルーは何故か漆黒のマントを装備していなかったけど、とりあえず今は気にしないことにした。

 もちろん、ホテルに帰ったら追求するけど。


 教えてもらった通り、奥に進むとすごい人集りができている露店?があった。

 これは露店というより、本屋さんじゃと思える。

 ちゃんとしたお店を構えている人もここまで何人か見てきたけど、これほどでは無かったな。

 中に入り切らないほど人が集まっているとかじゃなく、このお店は外と中で品揃えが違うみたいだ。

 外にいる人は低ランクのプレイヤーかな。

 値段もかなり安くて中にはランダムスキルの書とかもある。

 中は外とは真逆で高ランクプレイヤー向けの品揃えだった。

 興味本位でお店の中に入ってどういうスキルの書が売られているのかを見る。


 いろいろと見ていると一つ気になったスキルの書がある。

 他のスキルとは違ってかなり安い。

 外に置いてあるスキルの書よりも下手したら安いんじゃ…。

 お店の中に置いてるスキルの書はどれもこれも500,000ポイントとか必要だけど、これは破格の10,000ポイント。

 コピーと記されたスキルの書。

 具体的にはどういうスキルなんだろう。

 いくら何でも安すぎないかな?


 すると、そこに1人の女性が現れる。


「あら、どうしてここにいるの?」


「え?ええええ!!え、どういうことですか?」


 何と俺の目の前に現れたのは12神序列1位、輝夜さんだった。

 俺は訳がわからなかった。

 何でこの人がここにいるのか。

 あまりにも予想外すぎる展開に頭がついていかない。


「どういうことも何も、私ここの店主よ。今日は。それより、蓮くんは何でフランスにいるの?まさかLMBマーケットに参加する為?」


 俺はここまでの経緯を輝夜さんに説明した。

 休学中であること、『王家の墓』に挑戦中であることなど。

 全てを聞いた輝夜さんは一言「なるほどね」とだけ呟いた。


「あ、そうだった。輝夜さんここの店主ってホント何ですか?」


「そうよ。今日はね」


「???今日はってどういうことですか?」


「もしかして知らずに来たの?まあ蓮くんらしいわね。ここは一部の12神が日替わりで回してるの。それで今日の店主は私ってこと」


 …………12神が!!??

 そう考えるとこの人集りって少なく感じるな。

 何かあったのかなとか考えていたら輝夜さんがその答えを教えてくれた。


「今日はもう5日目だから人は少ないから店主としたはかなり楽できるのよね。それで何か気になるスキルの書でもあった?」


「あ、このコピーのスキルの書何ですけど、何でこんなに安いんですか?」


「ああ、これは不遇スキルの一つね。こんなのまで置いたんだ、今初めて知った」


 ん?今初めて知ったって言いませんでした?

 あの店主がそれで良いんですか?

 恐れ多くて聞けないけど、今の発言って店主としてアウトじゃ……。

 ん?ちょっと待った!不遇スキルって何?

 聞いたことない!!


「輝夜さん、不遇スキルって何ですか?」


「あ、そっか。最近じゃ話題にすら挙がらないから若い世代の子たちは知らないか。不遇スキルはその名の通り、激弱なスキルを示してるの。例えば、このコピーというスキル。効果は確か所有モンスターのスキルを一つコピーして使えるようにできる。当然だけど、魔法適性の無いモンスターが魔法スキルをコピーしても使えない。それ以外にも武器を必要とするスキル、例えば〇〇斬りとかね。こういうスキルはそれに合った武器を装備していないと使えない」


 なるほどな。

 俺の場合、リーフィアの風薙ぎをブルーがコピーしても使えないって感じかな。


「そして一番の難点はスキルの威力ね。コピーして放たれるスキルは全てLv1と同程度の威力しか無い。それに元々の威力が高いスキルはコピーできない。まあ、使い方次第ではあるんだけど、わざわざコピーを取得させるくらいなら違うスキルを取得させる人が多いわね」


 コピーしてもスキルのLv1相当の威力か。

 確かにそれはちょっと使い勝手悪いな。


 ん、おいあれってもしかして12神の……。

 え、嘘!本物?


 ガヤガヤ、ガヤガヤ


「ちょっとザワついてきたわね。場所変えましょ」


「え、あ、はい」


 ちょっとピリピリして、足早に移動する輝夜さんの後をただ何となく着いて行った。

 店の奥に移動すると何やら操作して今いる場所を隔離した。

 もちろん、ARフィールドで視覚上隔離しているだけだから入って来ようと思えば、ここまで誰でも来れる。

 ただ、そういうのは基本的にしないことがマナーの一つだ。


「ここなら大丈夫ね。蓮くんって不遇スキルについて何も知らないんだったわね。コピー以外にも幾つかあるからこの機に教えてあげるね」


 輝夜さんが教えてくれた現在確認されている不遇スキルの数は5つだとか。


・コピー

・狂乱

・怠け者

・不摂生

・スキル封印


 最後のスキル封印は強そうと思ったけど、実際には全くと言っても過言では無いほどに使えないスキルみたい。

 上手くいけばスキルは封印できる程度のもので、成功確率がかなり低い。

 プロフェッサーが調査した結果、自分よりもLvが低いモンスター相手に1%ほど。

 同格、もしくは格上のモンスター相手だと成功確率0%という何とも使えないスキルだとか。


 確かにスキル封印みたいに不遇スキルと言われても文句が言えないようなスキルもあるけど、コピーは何かしら使えそうだけどな。

 輝夜さんも使い方次第って言ってたしな。

 ……もしかして、できるのか?一度輝夜さんに確認してみるか。


「輝夜さん、一つ確認したいことが。――――っていうスキルをコピーしたらどうなりますか?」


「何の問題も無いわよ。話を聞いた限りだと元々の威力もそこまで高く無さそうだしね」


「ありがとうございます!!」


 輝夜にも確認を取れた。

 よし、決めた。

 コピーのスキルの書を購入する!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る