第123話 水の墓守

 鬼狼オーガウルフにラグニアという名前を与えた。

 それを祝うかのように俺の腕の中でブルーがいつも以上にプルプルしていると思ったらリーフィアに連れて行かれた。

 ラグニアもグルグルと言いながら、爪でブルーをつついたりしてる。

 何て言ってるのかはわからないけど、何となく楽しそうだな。

 ブルーのことはリーフィアとラグニアに任せて俺は風呂にでも入るか。



 俺が風呂から出るといつぞやの光景が目の前にはあった。

 ARフィールドを利用しているのだろう。小さな風呂にブルーがプルプルと浸かっている。

 しかも頭?の上に綺麗に畳まれたタオルが乗っている。

 …うん、気にしたら負けだな。





 今日はあいにくの天気。

 フランスに来て初めての雨。

 そんなことお構いなしに俺は『王家の墓』第2エリアの『水の墓守』に挑戦している。

 ここで出現するモンスターは第1エリアの『火の墓守』と全く変わらないけど、一つだけ大きな違いがある。

 火属性ではなく、水属性が攻撃に付与されているところだ。

 そのせいでブルーやラグニアの火属性攻撃が全然効かない。

 でも、リーフィアが大幅に強化されたから倒すのに時間は掛かるけど、そこまで苦戦はしていない。ノーブル騎士以外には。


『火の墓守』では一度に1体しか出現しなかったノーブル騎士が『水の墓守』では2体出現する。

 しかも連携が取れているから戦いづらい。

 剣と盾を装備しているノーブル騎士1体と槍を装備しているノーブル騎士1体と遠距離攻撃の手段は乏しいけど、防御が固い。

 こればかりは時間を掛けてデバフを悪化させて弱体化を図るしかないけど。

 その為に打ってつけのスキルを取得したからな。


「リーフィア、闇の盾、風薙ぎ」


 槍持ちのノーブル騎士が側面に回り込み、攻撃をする。これまでに何度も見た攻撃パターン。

 来るとわかっていれば、当然待ち構えるでしょ。

 闇の盾で槍を受け止めて、既に付与されているデバフや状態異常を悪化させつつ、風薙ぎで斬る。

 その隙を剣と盾持ちのノーブル騎士に突かれるが問題無い。

 数日前の反省会では、慎重になりすぎている。もう少しダメージ覚悟でバトルを進めても問題無いのではとリーフィアから意見が出た。

 確かにその通りだと言われて気づいた。ブルーとラグニアはプチヒールが使える訳だし、もう少し大胆に攻撃に出てもいいかなと思ったけど、これは無謀な突撃をする訳じゃない。

 その境界線を見極めるのが難しく、まだこの戦い方に慣れないけど、数の優位はこっちにある。


「ブルー、電光迅雷!ラグニア、シャインダイブ」


 槍持ちのノーブル騎士をリーフィアが相手している間は剣と盾持ちのノーブル騎士はブルーとラグニアが相手する。

 電光迅雷の高速移動を利用し、リーフィアに致命的なダメージが入る前に攻撃を阻止。

 ノーブル騎士が盾を正面に構えてブルーを受け止めている間にラグニアは側面から突っ込む。

 この時、盾を持っている側からラグニアは突っ込んでいる。盾はブルーを受け止めているので、使えない上にこの状態では剣で迎撃もできない。

 無防備な横腹にラグニアの攻撃は直撃し、剣と盾持ちのノーブル騎士は体勢を崩す。


「ブルー、鳴神、プチサンダー!ラグニアはライトファングからのライトクロー」



 一方でリーフィアはというと、

 闇の盾と閃撃を駆使して、槍の間合いで戦っている。

 槍と剣では間合いが槍の方が広い。

 なので、リーフィアの攻撃は閃撃しか届かない状況だが、互角の戦いを繰り広げている。

 そう、あくまで今は互角というだけだ。

 槍持ちのノーブル騎士はデバフが悪化すればするほどステータスが下がる。

 それに状態異常によるスリップダメージも発生している。

 一度お互いに距離を取って仕切り直しという場面で槍持ちのノーブル騎士とリーフィアは荒々しく燃え盛る炎に飲み込まれる。

 だが、炎に飲み込まれたにも関わらず、リーフィアはダメージを受けていない。

 そもそも第2エリアの『水の墓守』では水属性を使うモンスターしか出現しない。そんな場所で炎が燃え盛ることがあるとすれば、その元凶はブルーとラグニアしか考えられない。

 今回の場合はブルーが元凶だ。

 ブルーのフレイムフォースは今、対峙している剣と盾持ちのノーブル騎士だけでなく、少し離れた場所にいた槍持ちのノーブル騎士やリーフィアまでも飲み込んだ。

 そして今がチャンスと捉えたリーフィアは炎の中を突き進み、己の間合いまで入ることに成功する。

 そこからは一方的だった。

 騎士王の風刃閃で槍持ちのノーブル騎士のHPが0になるまで斬り続ける。

 デバフによる弱体化や状態異常によるスリップダメージも相まって、先にリーフィアがノーブル騎士を倒して、ブルーとラグニアに加勢する。



 剣と盾持ちのノーブル騎士が体勢を崩したところを火属性以外のスキルで攻撃するが、水属性の範囲攻撃で押し流される。

 ブルーやラグニアはリーフィアと違って、魔法を斬るとかはできない。

 防ぐには攻撃をぶつけて相殺するしかないが、今回は黙って水に押し流されている。

 水が引いたらすぐに水の弾丸がブルーとラグニアを襲うが、これはディバインシールドで完璧に防ぐ。

 そこからは魔法の撃ち合いに発展するが、正面から撃ち合っても相性の不利から2対1でも有利は取れない。

 剣と盾持ちのノーブル騎士の魔法が止んだところで、ブルーがここぞとばかりにフレイムフォースを放つ。

 炎によって剣と盾持ちのノーブル騎士の視界を奪うことに成功する。

 その瞬間、ラグニアは距離を詰めて遠距離戦が一転して近接戦になる。

 ブルーは全ての魔法攻撃スキルを使い果たし、残るは物理攻撃スキルが二つのみ。

 以前の反省を活かして、今はラグニアに任せて踏みとどまっているブルー。


 一度はラグニアのHPが残り3割ほどまで減ったが、即座にブルーがプチヒールを使ったことで乗り切ったりもし、遂にリーフィアが槍持ちのノーブル騎士を倒して加勢に来る。

 それと全く同じタイミングでブルーが電光迅雷を使い、剣と盾持ちのノーブル騎士に突撃する。

 リーフィアが加勢し、少し時間が経過した辺りで挑発スキルの効果が出てきた。

 ラグニアとブルーを気に掛けつつ、臨機応変に戦っていたが、リーフィアに意識が傾き始める。

 ここからはリーフィアの独壇場で、闇の盾で攻撃を受け止め、防御が空いたところを狙い斬る。

 これにより、どんどん弱体化していき、最後はブルーの電光迅雷が直撃し、HPが0になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る