第121話 墓守の火炎騎士②

 両拳に集約した炎を距離を取っていたリーフィアに向けて飛ばす。

 辛うじて右にジャンプすることで回避できたが、マシンガン射撃のようにドンドンと撃ち出してくる。

 狙いはリーフィア一択みたいだし、今ならブルーと鬼狼オーガウルフの攻撃が通る筈!


「ブルー、プチサンダー、鳴神!鬼狼オーガウルフ、プチシャイン、プチファイア!」


 リーフィアの回避行動の邪魔にならないようにそれぞれ両サイドから墓守の火炎騎士を挟むようにポジション取りをする。

 これならどちらかの攻撃は確実に当たると思ったが、左右から来る攻撃をそれぞれ右と左の拳で撃ち落とした。

 この瞬間、僅かな時間とはいえ、リーフィアへの攻撃が止んだ。

 これを俺とリーフィア、それにブルーと鬼狼オーガウルフは見逃さなかった。


「リーフィア!!」


 何も言わなくてもやっぱり理解してくれてる。

 このタイミングで閃撃を放つことで、ブルーと鬼狼オーガウルフに傾きかけた意識がリーフィアに戻る。

 リーフィアに意識が向けば、次はブルーと鬼狼オーガウルフによる波状攻撃。


「ブルー、スカーレットアロー、プロミネンス、ファイアボール、フレイムフォース!鬼狼オーガウルフ、オーガフレイム、シャインダイブ、フレイムクロー、ライトクロー、ライトファング!」


 波状攻撃が始まると同時にリーフィアは間合いを詰める。

 よく目を凝らして見ると墓守の火炎騎士は両手で左右に炎のシールドらしきものを展開している。

 ブルーと鬼狼オーガウルフの遠距離攻撃はあれで全て防がれるが、攻撃の影に隠れて鬼狼オーガウルフは接近に成功する。

 すぐそれに接近に気づいた墓守の火炎騎士は対処しようと行動に移そうとした瞬間、リーフィアにも接近を許す。

 しかも槍を捨てた今、間合いの有利はリーフィアにある。

 これで俺があの時、思い描いたリーフィアと鬼狼オーガウルフの挟撃が実現する。


 墓守の火炎騎士はリーフィアと鬼狼オーガウルフの両方に対処するべく、炎で形作られた二本の腕を空中に出現させる。

 これで擬似的とはいえ、墓守の火炎騎士の腕は四本になる。

 つまり、これで手数は倍になる。

 空中に新たに出現した炎の腕でリーフィアと鬼狼オーガウルフを攻撃する。

 リーフィアはそれを魔法と判断したのか、それとも純粋に攻撃を相殺する目的でなのか、風薙ぎで応戦し、見事に炎の腕を斬り裂く。

 リーフィアは見事に対処したが、鬼狼オーガウルフはリーフィアみたいなことはできない。

 当然、リーフィアとは違って、炎の腕の攻撃に晒される。

 初撃こそ上手く躱したが、二撃目、三撃目は躱すことができず、後方に大きく吹き飛ばされる。


 鬼狼オーガウルフが吹き飛ばされたことにより、挟撃は完全に失敗に終わったように思えたが、その穴はどこからともなく現れたブルーが埋める。

 あまりにも予想外の登場だったが、リーフィアは何事も無かったかのように騎士王の風刃閃で、ブルーは電光迅雷とプロミネンスアタックで攻撃し、失敗したかに思えた挟撃は何とか成功した。

 いい感じに攻撃が決まっていたが、再び墓守の火炎騎士が全方位に炎を噴出することで、リーフィアとブルーは距離を取らざるを得なくなる。

 リーフィアは直撃だったが、ブルーはディバインシールドで防いでいた。

 それとは別にブルーはいつの間にか鬼狼オーガウルフのHPの回復までしていたようだ。

 あれだけ攻撃をくらってHPが1割くらいしか減ってないってさすがにおかしいからね。

 鬼狼オーガウルフは自分にプチヒールを使わなかったみたいで、すぐさまリーフィアに使った。

 そのおかげでリーフィアのHPも9割くらいまで回復した。


 さてと、ここからどうするか。

 今のでブルーとリーフィアは全てのスキルを使ったからな。

 鬼狼オーガウルフは手痛い反撃をもらったから使わずに済んだスキルが少しあるけど、どれもこれも近接戦用。

 鬼狼オーガウルフ単独で挑んで時間稼ぎをするか?リーフィアとブルーは何も援護ができない状態だし、厳しいかな。

 いや、ここは鬼狼オーガウルフに頑張ってもらおう!


鬼狼オーガウルフ、フレイムクロー!」


 あ、リーフィアが鬼狼オーガウルフと同じタイミングで動いた。

 リーフィアが動くだけで墓守の火炎騎士の意識が分散する。

 鬼狼オーガウルフだけに集中しきれてないって感じだ。

 ここにきて挑発スキルが効いてる。


 気づいたら俺の足下でブルーがプルプルしてるな。応援でもしてるのかな?

 スキルのクールタイムが明け次第、すぐに援護に向かってもらうからね。わかってる、ブルー?


 プルプルプル、プルプル、プルプルプルプル





 くっ、リーフィアと鬼狼オーガウルフともに近づけないでいる。

 炎の腕が墓守の火炎騎士から離れてリーフィアと鬼狼オーガウルフを徹底して攻撃している。

 完全にブルーが相手にされてない感じがするな。

 でも、あの炎の腕は二本しか出せないのか。

 普通、三本以上出せたらブルーにも攻撃してくるしな。

 クールタイムが短いスキルならそろそろ時間だよな。

 ブルーもいつでも行ける!って言わんばかりにプルプルして気合い入れてるな。


 リーフィアと鬼狼オーガウルフのHPがジリジリと削られている。

 ブルーのことが完全に意識の外って感じだな。

 この距離からでもブルーなら一瞬で攻撃を当てることができる。

 やるなら今しかない!


「ブルー、電光迅雷!」


 ここは敢えて正面から突っ込む。

 今まで意識の外にいたブルーを否が応でも意識させる。

 その為に確実に墓守の火炎騎士の視界に入るよう動く。

 それに電光迅雷を使ったブルーの速さは脅威のはず。

 大袈裟でも何でもなく、ブルーに全神経集中したいよね。

 でも、リーフィアと鬼狼オーガウルフがそうはさせない。


 あの炎の腕はオート操作じゃなくて、恐らく手動操作。

 ほんの一瞬、ブルーを迎え撃つ為に意識を傾けて操作が雑になったその瞬間をリーフィアと鬼狼オーガウルフは見逃さない。

 必要最低限の動きで炎の腕を躱し、一目散に墓守の火炎騎士目掛けて走り出す。


 ここで決めるよ!


「リーフィア、閃撃!鬼狼オーガウルフ、プチシャイン、プチファイア!」


 まずは遠距離から攻撃。

 ブルーしか攻撃してこないと思わせちゃダメだ。

 三方向からの攻撃を防ぐ為か、二本の炎の腕は消えて代わりに墓守の火炎騎士の周囲に炎の障壁が現れた。

 炎の腕が消えたってことは炎の障壁と一緒に使うことはできないのか。

 防御系スキルはブルーのディバインシールドもそうだけど、一定のダメージを伴う攻撃を受けると消える。


 リーフィアと鬼狼オーガウルフの攻撃では足りないか。

 ブルーも電光迅雷で突っ込んだけど、その瞬間、全身燃えながら戻ってきた。

 火属性耐性のあるブルーでも少なからずダメージを受けている。

 なら遠距離攻撃で突破するしかない!


「ブルー、鳴神、プチサンダー、スカーレットアロー、プロミネンス、ファイアボール、フレイムフォース」


 今、使える遠距離から放てる攻撃スキルは全て使う。

 そのおかげで墓守の火炎騎士を守る炎の障壁は消えて無くなる。

 この時に備えてギリギリまで近づいていたリーフィアと鬼狼オーガウルフが一気に畳み掛けるべく、猛攻に移る。

 しかし、鬼狼オーガウルフが全てのスキルを使い果たし、通常攻撃しかできなくなったところで再び炎の腕が現れる。

 今度は鬼狼オーガウルフを無視してリーフィアに二本の炎の腕が集中攻撃をする。

 まるでそれを予期していたかのように騎士王の風刃閃でバッサリ、そのままの勢いで墓守の火炎騎士をも一刀両断。


 リーフィアの渾身の一撃は墓守の火炎騎士のHPを削り切った。


 これで俺はフランスに来て2週間とちょっと掛けて『王家の墓』第1エリア『火の墓守』を攻略した。

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