第117話 火の墓守①

 今日は早速、『王家の墓』に挑戦する。

 第1エリアは『火の墓守』で火属性の騎士系モンスターが出現する。

 海外でもARゴーグルを通して見えるゲーム関連のものは全て日本語に見えるな。

 めっちゃ便利で助かる!これがフランス語とかで表示されてたらマジで苦労するとこだった。


『王家の墓』第1エリア『火の墓守』に挑戦してすぐに墓守の見習い騎士1体と遭遇する。

 相手はたったの1体とはいえ、油断はしない。

 初めて挑戦するダンジョンで、初めて戦うモンスター。

 まずは慎重に相手モンスターの戦い方を見極めよう。

 それでここのモンスターがどういう戦い方をするのか参考程度に学んでおく。


 前衛はリーフィアに任せる。ブルーと鬼狼オーガウルフは一旦後衛で待機。

 遠距離攻撃の手段があるのかどうか。


「リーフィア、閃撃」


 あ、いくら見習いでもこんな単調な攻撃は躱すか。

 でも、閃撃を躱して攻撃に移る訳じゃなく、距離を詰めるように動くってことは遠距離攻撃は無いと考えていいかな。


「リーフィア、風薙ぎ、ダークスラッシュ」


 んー、リーフィアだけだと攻撃の密度が足りないか。

 うん、見習いには遠距離攻撃が無いとわかった。近接戦では火属性のスキルを使うみたいだし、これ以上長引かせる必要は無いか。


「ブルー、鳴神、スカーレットアロー、ファイアボール!鬼狼オーガウルフ、プチシャイン、プチファイア、オーガフレイム!」


 完全にリーフィアを巻き込む形となっているけど、フレンドリーファイアは存在しないからリーフィアにダメージは無い。

 見習い騎士にはそれなりのダメージを与えられていると思ったが、実際はそこまでHPは減っていない。

 しっかりとHPバーを見ていたからわかったけど、かなり火属性に高い耐性を持っていると思う。

 ブルーのスカーレットアローとファイアボール、鬼狼オーガウルフのプチファイアとオーガフレイムによるダメージがほとんど無い。


 このエリアの名前的に恐らく、全てのモンスターが高い火属性耐性を持っているだろう。

 そうなるとブルーや鬼狼オーガウルフとあまり相性が良くない。

 火属性の攻撃スキルの使用頻度を抑えて他の属性スキルを使って攻撃していくしかない。


「ブルー、電光迅雷!鬼狼オーガウルフ、シャインダイブ、ライトクロー、ライトファング」


 リーフィアは何も指示しなくても俺の考えを汲み取ってくれている。

 その証拠に敢えて自分から見習い騎士と距離を取っている。

 見習い騎士がリーフィアとの距離を再度詰める前にブルーの電光迅雷が決まる。

 これによって見習い騎士は標的をリーフィアからブルーに切り替える。

 その瞬間、見習い騎士の背後からシャインダイブを使った鬼狼オーガウルフが頭から激突する。

 やや姿勢が前のめりになっていた見習い騎士はそのまま前方へと倒れる。

 それと同時にリーフィアが騎士王の風刃閃でとにかく斬りまくるが、見習い騎士のHPはまだ6割ほど残っている。

 防御硬すぎない?『闇の祭壇』のモンスターはもうちょっとダメージ与えられたよ?


 でも、攻撃力は大したことないか。

 左手に持つ盾を上手く使って攻撃を凌いでいるとはいえ、リーフィアのHPはまだ8割近く残っている。

 時間はかかるけど、慌てず、焦らず確実にダメージを与えて倒そう!




 やっと見習い騎士を倒せた〜!

 たった1体にここまで苦戦するとは。

 ちょっと時間がかかり過ぎたな。

 今日はどんな感じか様子見の側面が強いし、ここら辺で終わりにしとくか。




 *****



 白黒モノクロ学園も2学期が始まって2日目、とある男女の会話。


「そういえば、昨日、琴音先輩のとこに鬼灯が行ったと思うけど、何てアドバイスしました?」


「ん?えっとね、鬼灯くんから薫くんが海外ダンジョンへの挑戦を勧めたって聞いて、私もそれに賛成した感じかな」


「へえ、それだと鬼灯がどこの国のどのダンジョンに挑戦してるかとかも知らない感じですか?」


「ああ、それならイギリスの『大魔法図書館』かフランスの『王家の墓』、オーストラリアの『野獣の森』のどこかじゃないかな?」


 予想外の返事に薫は言葉を失う。

 今、琴音が挙げた三つのダンジョンは全てランク変動型ではあるが、攻略難易度が高いダンジョン。

 そして薫は知っている。ランク変動型ダンジョンにはがあることを。



 知らない人も多くいるが、そもそもこのゲームにおいてランク変動型ダンジョンが用意されている理由は二つある。


 一つ目は有名で知っている人も多い。

 ARゲームであるが故にダンジョンを作る為には土地を用意しないといけない。

 各ランク帯のダンジョンをF〜Sまで用意するのは現実的に不可能と言える。

 そこで挑戦するプレイヤーのランクに応じてダンジョンのランクが変動するランク変動型ダンジョンが設けられることになる。

 しかし、理由はもう一つある。


 二つ目はこちらの理由を知っているのはプロフェッサーの幹部クラスくらい。

 その理由は1人でも多くのプレイヤーにゲームを楽しんでもらうため。

 Let's Monster Battleではできないが、ゲームによっては予め難易度を設定できたりする。

 簡単な方が良い、難しい方が良いという人までプレイヤーの考えは多岐にわたる。

 そこでLet's Monster Battleでは、ランク変動型ダンジョンは必ず共通してどのランクで挑戦しても同じモンスターが出現し、同じスキルを使う。


 極端な話、本来ならAランクやBランクのダンジョンでしか出現しないように設定する強力なモンスターもダンジョンによっては出現する。

 例を挙げるなら『遊楽園』などが該当する。

『遊楽園』のボスモンスターは本来ならAランクダンジョンのボスモンスターと同格。

 もちろん、プレイヤーは単独でそのモンスター倒せば捕まえることができるので、メリットもある。

 最初から高難易度に挑戦したいプレイヤーと地道にコツコツと積み重ねていきたいプレイヤー。

 プレイヤーにもいろんな人がいる。

 だからこそ、ランク変動型ダンジョンには暗黙の了解としてランクによる分類分けがされている。

『遊楽園』だと本来ならボスモンスターがAランクと同格なので「Aクラス」に分類される。

 今回琴音が蓮に提案した三つのダンジョンは何れも「Bクラス」に分類されている。

 つまり、ボスモンスターは本来であればBランクと同格ということだ。


「薫くんの言いたいことはわかるよ。でもね、今の鬼灯くんには必要なことだと思うの。だって、鬼灯くんはギルドマスターだから!」

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