第109話 俺のせいだ

 2日目の朝、チーム1は前代未聞の問題を抱えていた。

 4人いる1年生の内3人が同時に白黒モノクロリゾートから立ち去る。

 さすがにこれは予想外すぎたのだろう。

 薫は右手で前髪をかきあげて嘘だろといった表情をしている。

 チームのリーダーを任されている琴音も言葉を失っている。


「…鬼灯、あの3人から何か聞いてたりするか?」


「え、あ、いえ、俺は何も」


「そうか」


 ここでようやく薫と琴音は今、一番辛いのが誰なのか理解する。

 友達だと思っていた、同じギルドの仲間だと思っていた、まして自分はギルドマスター、何一つ相談も無く立ち去った3人に対して何を思うか。

 それすら察することができなかった己に薫と琴音は無性に腹を立てている。

 後輩の力になれなかったことよりも、寄り添えなかったことの方が先輩として思うところはあるのだろう。


「薫先輩、琴音先輩すみません。今日はもう部屋に戻ってもいいですか?」


「うん。ごめんね」


「悪い」


 蓮は何も言わずに1人、部屋に戻る。

 残された薫と琴音の2人は薫の部屋で今後のことについて話し合うこととなる。



「すみません、琴音先輩。昨日、俺が言い過ぎました。完全に俺のせいです」


「そんなことないよ。これがストレス発散とか八つ当たり目的だったら話は別だけど、薫くんだってあの子たちの為に言った訳でしょ?なら謝らないで。既に起きてしまった事はしょうがない。これからどうするかを考えないと!」


「そうですね。でも、3人じゃどう頑張っても『闇の祭壇』は攻略できないし、それ以前に鬼灯の精神状態が気になる」


「そうだね。私たち先輩なのにさ、後輩の為にしてあげられる事って何もないんだね、、うっ」


 自分があまりのも無力だという現実、その悔しさから堪えきれず涙を流す琴音。

 尊敬し、今も尚、憧れの先輩が涙を流す姿を見て、唇を噛み、血をにじませる薫。

 後輩を支えてさげるのが先輩。

 既に白黒モノクロ学園を卒業した先輩たちのそういった姿を見てきた薫と琴音にとって、今は不甲斐ない気持ちで一杯だろう。



 この日、薫と琴音は今後のチーム1の方針を決めることはできず、翌日蓮を交えて話をすることだけ決める。

 しかし、翌日になって薫と琴音は蓮の部屋を訪ねるが、一切の応答がなかった

 他の3人と同じようにスマホのメッセージアプリでメッセージを送っても既読がつかない。

 念の為にホテルのフロントで確認すると朝早くにどこかへ行ったことが判明する。

 まさかと思い、2人は港に蓮が現われていないか確認の問い合わせをするが、目撃者は0。

 このことからまだ蓮は白黒モノクロリゾートのどこかにいるはず。

 そこで薫と琴音はそれぞれ自分たちの知人に蓮を見なかったかメッセージを送って確認するも、朝早い時間でまだみんな寝ていたこともあり、目撃者は誰1人としていなかった。

 まだ蓮と知り合ったばかりの2人は蓮が行きそうな場所に心当たりがある筈も無く、途方に暮れる。



 その頃、蓮はというと、


「ブルー、電光迅雷!」


 ランク変動型ダンジョン『闇の祭壇』第1層でブルー、リーフィア、鬼狼オーガウルフと共にグールと戦っている。

 今は蓮が挑戦しているから『闇の祭壇』のランクはDランク相当となっている。

 昨日よりもグールにダメージは通っている。


「ふー、お疲れブルー。ごめん、俺の我が儘に付き合わせちゃって」


 プルプルプルプル、プルプル


「そっか。ありがとブルー」


 今はダンジョンの中でブルーに触れることができないから帰ったら ‘なでなで’ してやらないとな。

 今日はこのまま第1層でDランクのモンスターとのバトルに慣れよう。


 何故、蓮が単独でダンジョンにいるのか。

 それを語るには昨日まで時を遡る必要がある。


 薫と琴音と別れて部屋に戻った蓮はベッドに横たわり、ひどく落ち込んでいる。

 無理も無い。郁斗、莉菜、オリヴィアの3人が何も言わずに白黒モノクロリゾートから立ち去ったのだから。

 部屋にはまだARフィールドが展開されたままとなっており、蓮の様子を見て心配そうにプルプルしながらブルーが近づこうとするが、リーフィアに持ち抱えられて阻まれる。

 今日ばかりはいつもと違い、激しくプルプルしてリーフィアに抵抗するが、無言で首を横に振るリーフィアを見ておとなしくなる。


 俺、どうしたら良かったのかな?

 3人とも示し合わせたかのように同時にいなくなった。

 きっと俺が『闇の祭壇』に挑戦したいなんて言ったからだ。

 だから俺に嫌気がさして3人とも何も言わずに立ち去ったんだ。

 俺のせいだ。俺のせいで…。


 自分で自分を傷つけ、追い詰め、果てには虚しさのあまり涙が止まらなくなる。

 もう自分でもこの先、何をどうしたらいいのかわからない。

 それでも何か、何でもいいから行動に移さないといけないという思いだけはある。

 しかし、自分のせいでチームが分裂したという罪悪感、これ以上余計なことをしたらどうしようという恐怖心から何もできないでいる。


 それからしばらくして蓮は3人からスマホのメッセージアプリに通知が来ていることに気づく。

 通知が来ていると表示されているだけで、その内容まではアプリを開いて確認しないとわからないが、罪悪感と恐怖心からなかなかメッセージアプリを開けないでいる。

 すると突如として赤くて丸い何かが蓮の顔の上に降ってくる。


「うわぁ!びっくりした。プルプルしてるってことはブルー?どうして上から」


 リーフィアに抱きかかえられていたブルーだが、力業ちからわざでリーフィアの腕から抜け出し、そのまま勢い余って蓮の顔の上に落ちた。


 プルプルプルプル、プルンプルン


「ブルー…。ありがとう、おかげで少し元気になったよ。心配させてごめんな」


 数回ほど深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、遅かれ早かれメッセージを見ないといけない。

 どんなメッセージでもちゃんと受け止めるという覚悟を決めて3人から届いているメッセージを見る。


 そこには蓮の予想外の内容が書かれている。

 このメッセージを見た蓮は再び、涙を流すが、先ほど流した涙とは同じ涙でも違う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る