第108話 分裂

「はじめましてね。生保内薫くん、柊琴音さん。驚かせてごめんなさいね」


 ソファーに座って出迎える輝夜を見て薫は何かを察したのか天を見上げる。

 輝夜と蓮がどういう関係かは定かでは無いが、『闇の祭壇』への挑戦を持ち掛けたのが、誰か察するのは容易なこと。


「その様子ならお互いに自己紹介は必要無さそうだ。生保内薫くん、柊琴音さん今から話すことは他言禁止でお願いするよ」


 学園長から他言禁止と釘を刺されるほどの話がこれから行われる。

 本来なら薫と琴音が聞いていいような話では無いが、2人が蓮たち鬼姫と同じチームだからこそ輝夜は話す。


「実はね…」


 全てを嘘偽りなく、薫と琴音に語った輝夜。

 その内容があまりにも信じがたく、再び驚きを隠せない薫と琴音。


「仮にだ、仮にあなたの話を全て信じたとしてだ、何で鬼灯たち何だ?他にもプレイヤーはいるだろ?」


「今日、鬼灯くんたちと一緒に『闇の祭壇』に挑戦したけど、特別なものは感じなかったかな?」


 薫と琴音の疑問は極当たり前のもの。

 何故、彼ら鬼姫なのか?

 Let's Monster Battleのプレイヤーなら他にもたくさんいる。

 1年生でこの時期に既にDランクへと昇格を果たしているのは、確かにすごいことだ。

 でも、これだけなら他にも該当するプレイヤーは数え切れないほどいる。

 12神の1人である輝夜が一体何に期待しているのか。


「今年の4月7日、日曜日のモンスターニュースの内容覚えてるかしら?」


「今年の4月7日、日曜日?何かあったか?」


「うーん、私も特にこれといって心当たりは無いかな」


「ついでに言うとその日は白黒モノクロ学園の入学式前日だよ」


 全くと言っていいほど心当たりの無い薫と琴音に学園長からちょっとしたヒントが出る。

 白黒モノクロ学園の入学式前日のモンスターニュース。

 その日は特にこれといった大きな出来事が無く、ちょっとしたことがニュースとして取り上げられていた。


 そう、蓮がGランクにも関わらず、Fランクダンジョン『嘆きの墓地』を攻略した日。

 そして、それがモンスターニュースに流れた日。


「ゲームを始めて間もないまだGランクのプレイヤーがFランクダンジョン『嘆きの墓地』を攻略。それだけなら大して驚くことじゃないけど、」


「スライム1体で攻略したとなれば話は別」


「ちょっと学園長、一番良いとこ取らないでよね」


「あはは、私が蚊帳の外みたいになってたからね」


「はあ、」


 輝夜と学園長が言うようにスライム1体で一つ上のランクのダンジョンを攻略するのは普通では無い。

 しかし、それを差し引いてもまだ足りない。

 12神の1人である輝夜が注目するほどとは到底思えない。


「それだけですか?」


「鬼灯くんたちには悪いけど、それだけならまだ足りないと思います」


「君たちの意見は尤もだ。私も同じことを輝夜に聞きたいと思っていた」


 薫、琴音、そして学園長の視線が輝夜に集まる。

 みな同じ疑問を抱いている。

 先に輝夜からある程度事情を聞かされていたと思われる学園長ですら未だに謎のまま放置されている問題。


「今の鬼姫は確かに足りないわね。だから試してるの。あなたたち2人の助力を得て『闇の祭壇』を攻略できるかどうか。正直、今の鬼姫ではあなたたち2人の助力を得ても攻略は無理」


 薫と琴音が今日の『闇の祭壇』挑戦から薄々気づいていたこと。

 今のチーム1では薫と琴音が本気を出しても最終日までの攻略は不可能だと。

 一つ下のランクのダンジョンとはいえ、足でまといがいる状態ではいくら何でも攻略はできない。

 輝夜はこの状況で鬼姫の4人がどう成長するのか、それが自分たちの目的達成の一助となるか見定める。


「アイツらがこれで潰れる可能性は考えないんですか?」


「そうはならないと私は信じてる」



 *****



 はあ、1日目全然ダメだったな。

 薫先輩と琴音先輩の足を引っ張るだけ。

 もっと強くなりたいな。

 とりあえず、部屋ではゆっくりしよう。

 ARフィールドを部屋の中に展開するパネルがここにも設置してあるし、早速使うか。

 前回、白黒モノクロホテルで使ったらブルーから好評だったしな。


 プル、プル、プヨ、プヨ


 ん?今ARフィールドを展開したばっかなのに足元で何かがプルプル、プヨプヨしてる。

 この感じ覚えがあるな。

 おかしいな、何でARフィールドを展開すると同時に現れるのかな。

 下を見ると俺の足元でプルプル、プヨプヨしてるブルーがいる。

 俺がブルーに気づいたからか急にブルーがプルンと俺の胸に飛びついてくる。

 ブルーをちゃんと落とさないようにキャッチするといつも通りに甘えてくる。

 よしよし、甘えん坊だなブルーは。


 俺はブルーを抱き抱えたままベットに移動して腰掛ける。

 するといつの間にかリーフィアと鬼狼オーガウルフが部屋にいた。

 そしていつものように俺の腕の中でプルプルしてるブルーはリーフィアが回収する。

 相変わらず、ブルーとリーフィアは仲が良いな。


 今日はこのままブルーのことはリーフィアに任せるか。

 なんか既にリーフィアがARフィールドを展開する機械を操作してブルー専用?の湯船を用意してる。

 前回もそうだったけど、ブルー気に入ったのかな?



 さっき反省会で薫先輩がハッキリと実力不足と言った。

 弱いままでいるか、強くなる為に足掻くか。

 そんなの強くなりたい!

 でも、どうしたらいいか全然わからない。

 ブルーだって弱い訳じゃない筈なのに全然ダメだった。

 このままじゃ薫先輩と琴音先輩におんぶにだっこ状態。



 蓮だけでなく、郁斗、莉菜、オリヴィアも同様の悩みを抱えている。

 どうしたらもっと強くなれるのか。

 蓮はその答えをこの日、出すことができなかったが、他の3人は違う。

 それぞれ自分なりの答えを出す。


 そして次の日、チーム1は分裂する。

 当初予定していた集合時間に顔を出したのは薫と琴音、そして蓮だけだった。

 少し待っても一向に現れる気配が無かったから部屋に呼びに行くも既に3人とも不在。

 そこで薫と琴音が慌ててある場所に3人が現れたかどうかを確認すると朝一で姿を見たという目撃証言があった。

 3人はそれぞれ行き先こそ違うが、船で白黒モノクロリゾートから立ち去ったようだ。

 これにより、チーム1はたった1日で1年生が3人も脱落するという前代未聞のトラブルに見舞われる。

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