第107話 1日目終了

 あまりにもスゴすぎる光景に蓮たち1年生とそのモンスターは唖然とする。

 そんなこと一切気にする素振りも見せず、薫と琴音はイェーイェとハイタッチをかわしている。

 まあテンションが高いのは琴音だけで、薫はそこまでテンションは高くないが。


「柊先輩と薫先輩、めっちゃ強!」


「まあこれでも一応Bランクだからな」


「うんうん、そうそ…ん?ちょっと待って!何で薫くんだけ後輩から名前で呼ばれてるのさ?」


「そりゃあ、苗字じゃなくて名前で呼ぶように頼んだからな、船で」


「むー!!薫くんだけズルい!4人とも私のことも琴音先輩と名前で呼んでね!」


 ひ、しゃなくて琴音先輩の圧に根負けしたのか、徐々に薫先輩の言葉から力が抜けている気がする。

 それに琴音先輩、すごい膨れてる。

 そんなに苗字じゃなくて名前で呼んで欲しかったんだ。

 謎の圧があって、みんな無言で首を縦に何回も振ってる。

 恐るべし琴音先輩。


「さてと、バトルの振り返りは今日の挑戦を終えてからってことで!先に進んで少しでもマッピングを進めよ」


「そうだな。バトルの方は少しずつ慣れていけばいいさ。俺と琴音先輩はともかく、1年4人はCランクのモンスターとバトルするのは初めてだろ?最初はこんなもんだよ」


 このグール2体とのバトルを通じて蓮は輝夜の言ったことの真意をマジマジと痛感している。

 恐らく、薫と琴音がいて攻略できないはありえない、この言葉の裏には蓮たち1年生がいなくても薫と琴音の2人だけで攻略は可能という意味があると考えている。

 実際にそこまでの意を含んだ言葉かは輝夜にしかわからないが、現実的に今のバトルで蓮たちはグール相手にまともなダメージを与えられていない。


 その後も何回かグールと遭遇してバトルになるが、結果は大して変わらない。

 強いて言うならエルナの魔法攻撃で僅かだか、目に見えてわかるダメージを与えられているくらい。

 Cランクのモンスターとバトルするには純粋にモンスターのステータスだけでなく、スキルのLvも足りていない。

 しかし、こればかりは一朝一夕でどうにかできる問題では無い。


 こうして『闇の祭壇』挑戦1日目は終了する。

 この日、一度に最大で5体のグールと遭遇したが、1年4人は1体も倒すことは叶わなかった。

 シルヴイーユの範囲攻撃でチクチクとダメージを与えたところをドランバードが1体ずつ倒す。

 もちろん、その間ブルーたちも戦っているが、倒されなかったのはシルヴイーユが上手く凌いでくれたからとコンの陽炎と蜃気楼のコンボによる幻惑が大きい。

 ただ、コンはそれを維持し続ける為に後衛より更に後ろに配置され、ほとんど攻撃に参加していない。

 ブルーもディバインシールドを一撃で割られたり、エルナやカーラもだが、魔法を切り裂かれたりとかなり苦戦している。


 そしてホテルのラウンジに戻ったチーム1は初日の反省会を今から行うところだ。


「それではチーム1、1日目の反省会を行います!この結果は予想通りというか何というか、」


「完全に実力不足だな」


「あ、そこ!言葉はもうちょっとオブラートに包む!後輩が傷つくでしょうが!」


「こういう時はホントのことをハッキリと言った方がいいだろ。それが一番そいつらの為になる」


 薫がかなりストレートに言って、琴音は蓮たちをフォローしようとしているのだろうが、遠回しに薫と同じことを言っている。

 ある意味、どっちもどっちだ。


「そもそも『闇の祭壇』へ挑戦すると決めた時から明らかだったし、最初のうちは俺と琴音先輩がフォローするって感じだった。今、現時点での実力不足なんて今更だろ?」


「むむむ、そうだけどさ…」


「はあ。1年よく聞け。こうなることは最初からわかった上で俺と琴音先輩は『闇の祭壇』への挑戦を了承した。このまま弱いままでいるか強くなる為に足掻くかはおまえら次第だ」


「薫くんの言う通り、君たち次第だよ。相談ならいつでもウェルカムだよ。だから常夏の白黒モノクロフェスを通して一緒に強くなろうね」


 薫と琴音、この2人の言葉は蓮たちに大きなプレッシャーを与えることになる。

 言葉の捉え方は人それぞれ違う。

 そしてどうしたら強くなるかも人それぞれ考え方が違う。

 今日はこのまままともに反省会と呼べるようなものはできずに解散することとなる。

 そうして蓮たちは各々、自分たちの部屋へと戻っていく。


 解散した後もラウンジに残っている人物が2人いる。


「琴音先輩はどう思う?」


「やっぱりわかんない。何で鬼灯くんが『闇の祭壇』に挑戦したいって言ったのか」


「誰がどうやって鬼灯をその気にさせたのか全然わからん」


「あ、担任の先生とか?」


「いや、それは無い。鬼灯の担任は市川先生だ。あの人のやり方じゃない」


「そっか。確かにそうだね」


 市川先生は薫や琴音といった上級生にはかなり有名な先生だ。

 教育に心血注いでいる人で、決して無理難題は言わない。

 それでもギリギリを見極めて課題を出し、生徒を正しく成長させる、それで有名だ。

 間違ってもこんな無茶無謀な課題を出す人ではない。

 薫と琴音の認識は完全に一致しているからこそ、市川先生という可能性は即排除される。


 まだ知り合って日が浅い為、蓮をその気にさせた人物に心当たりなどある訳もなく、頭を抱えていると1人の人物がラウンジに現れる。


「生保内薫くん、柊琴音さん、今少しばかりお時間いいかな?」


「!?何でここに」


「もしかして学園長か、鬼灯を…」


「いや、待ってくれ。それは私ではない。私も教育者の端くれだ。そんな無理難題を提示したりしないさ。その疑問の答えは知っているけどね」


「誰なんですか?」


 学園長が蓮をその気にさせた人物を知っていると口にした途端、ラウンジの気温が数度ほど下がったと錯覚してしまうくらいに冷たい空気が漂う。

 後輩思いの先輩として見過ごせぬ発言だ。


「それが知りたいなら着いて来なさい」


 一言だけ発して学園長はラウンジを出る。

 薫と琴音は一切の迷いを見せることなく、学園長の後に着いて行く。

 そして本来であれば学生は立ち入り禁止エリアにあるホテルの一室に連れて行かれる。

 もちろん、薫と琴音も学生だから本来なら入れない場所だが、今回は学園長特権で特別に入ることが許されている。

 部屋に入るとそこには1人の女性がいる。

 そこにいる女性を目の当たりにした薫と琴音はますます意味がわからなくなる。

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