第98話 蓮VS郁斗③

「ネメア、デスサイズ」


「ブルー、スカーレットアロー」


「躱して距離を詰めろ!」


 遠距離から攻撃する手段が無いネメアは必然的に大鎌の間合いまでブルーに近づかないといけない。

 それをここまでのバトルから把握している蓮は積極的に近接戦をするつもりは無い。

 基本的にレッドゴブリン戦と同じで距離を取ってブルーには戦わせるつもりだ。

 その為、ネメアの影渡りには最大限の警戒を怠らない。

 使ってきたら的確にカウンターを決める。

 郁斗も普通に影渡りを使ってもカウンターの餌食になるだけと理解しているからここぞという時に使うことだろう。


「ネメア、ウインドサイズ!」


「ブルー、鳴神!」


 自身目掛けて振り下ろされる大鎌に向けて鳴神を放つことで相殺に成功する。

 至近距離での魔法を使った相殺だった為、その余波でブルーとネメアは後方にやや吹き飛ばされる。

 そして気づいたらブルーの少し前にいた筈のネメアがいない。


「ブルー、後ろだ!」


 プル


「遅いよ、ブルー」


 ブルーが影渡りによって背後に回り込んだネメアに気づき、迎撃しようとした時にはアースサイズで薙ぎ払われている。

 プルンプルンと勢いよくフィールドを転がっていくブルーにネメアは更なる追撃を試みる。


 大鎌の先端から鎖が飛び出てブルーに襲いかかる。

 そしてブルーは鎖によって拘束される。


「これってチェーンリストレイント」


「正解!これでブルーの素早さは封じたぜ」


「動けなくても魔法なら使える!ブルー、プロミネンス」


 ところがブルーの魔法は不発に終わる。

 この時、蓮は郁斗と莉菜のバトルで起きた出来事を失念している。

 チェーンリストレイントは拘束している相手モンスターの魔法スキルを封じる効果がある。

 つまり、拘束されている限り、ブルーは魔法を使えない。


「あ、そうだ。チェーンリストレイントには魔法を封じる効果があるんだった」


「ネメア、鎖を引っ張れ!!」


 プルプル


 ブルーも引っ張られないように抵抗?しているのか終始プルプルしているが、何の意味の為さず、ネメアは簡単にブルーを引っ張っている。


「よし!ウインドサイズ!」


 そして抵抗?虚しく大鎌で切り刻まれる。

 チェーンリストレイントの制限時間が来るまでブルーは切り刻まれ続けるが、ステータスの差かブルーのHPを0にすることはできず、鎖から解放される。


「反撃開始だ!ブルー、プチヒール、鳴神、スカーレットアロー」


「影渡り、ウインドサイズ」


「後ろに電光迅雷!」


 ネメアの攻撃手段は既に蓮の知るところ。

 影渡りからの奇襲も初見の相手ならともかく、二度、三度見たことある相手には通用しない。

 案の定、ブルーから手痛い反撃をもらっている。


「ブルー、プチサンダー、ファイアボール、プロミネンス」


 ネメアもブルー相手にあと一歩の所まで頑張ったが、ブルーの壁は大きかった。


『ネメア DOWN』


 最後のバトル、誰もが予想できなかったこの展開。

 なんとブルーが2体抜きを果たす。

 あまりの悔しさに天を仰ぐ郁斗。

 勝ったのにあまり嬉しそうじゃない蓮。

 待ち焦がれた郁斗とのバトル。

 それがこんな結果に終わってはそうなるのも無理はない。

 決して郁斗が弱いわけではない。

 本来ならブルーに対抗しないといけないコンのステータスがブルーに大ダメージを与えられなかった。

 コンを進化させていないことの弊害とも言えるが、絶対的にスキルの数が少ない。

 郁斗に何かしらの考えあってのことかもしれないが、少なくともこのバトルは双方が納得できる内容では無かったのは確かだ。


「うーん、何とも言えない結果に終わったわね」


「でも、2人とも本気でバトルした結果ですし」


「これから同じギルドの仲間としてやっていくのにそんなんじゃダメ!」


「はは、莉菜は手厳しいな。事実だけどさ」


「そんなことないよ。郁斗は強いよ」


 郁斗は強い。それは俺だけじゃ無い。

 郁斗とバトルをしたことある莉菜とオリヴィアもちゃんと知ってる。


「あ、そうだ。郁斗、あんた何でコンを進化させてないの?」


「え?ああ、それはだな…」


 ん?何だろう。何か言いにくい事でもあるのかな?

 郁斗が何か悩んでるように見える。

 あ、そういえば、郁斗ってギルド結成の話を莉菜から聞いた時、俺と同じで保留にしてたっけ。

 その理由とか何も聞いてないけど、関係あったりするのかな?

 …そういえば、俺も理由は話してない気がする。


「純粋にはいといいえを押し間違えた!」


「…それ笑いながら言うことじゃないから。コンも呆れて何も言えないじゃない!」


「まあ、結果論でしかないけどさ、進化させなくて正解だったとは思ってる。今でもステータス面は十分だからな。後はスキルを増やすとこだな」


「スキルの書は使わないのですか?」


「ああ、それも考えたけど、ギルドマスター決定戦があるし、下手に覚えさせるよりも今あるスキルで戦った方が良いと思ってさ」


 スキルの書か。

 でも、あれって確かシグマさんが何か言ってたような。

 何だったっけな。ド忘れしちゃったよ。

 ええと、あれだよ、あれ。ええと、あ!思い出した!!


「でも、スキルの書って使いすぎは良くないって聞いたよ」


「え?誰に聞いたんだ?」


「プロフェッサーのシグマさん」


「…」


「…」


「…」


 あれ?みんなの様子が何か変だな?

 何か変なこと言ったかな、俺。


「いろいろツッコミたいけど、今回はいいや。もうお腹一杯。で、その理由って聞いてるか?」


「えっと、確か、成長の可能性を狭めるとか。もちろん、使いすぎの場合だよ。適量なら問題は無いらしい」


「適量って、薬か何かかよ」


 あ、それね。俺も同じ事思ったよ。

 それにしても今更だけど、ブルーってかなりスキルの書を使ったよな。

 あれ大丈夫だったのかな?

 いや、いつも元気そうにプルプルしてるし大丈夫か。

 今もリーフィアや鬼狼オーガウルフ、他の3人のモンスターと仲良く交流を持ってるみたいだし。


「でも、そうなるとコンのスキルをどうこうするなら特殊条件による進化になるわね。何か良い感じの合成素材とか無いわけ?」


「んなのある訳ないだろ!あったらとっくに使ってるよ、コンの意思を確認してから」


「まあ、そうなりますよね」


「あ、そうだ。これでギルドマスター決定戦は終わった訳だろ?ギルドマスターは誰になるんだ?」


 ギルドマスター決定戦の結果は、俺と莉菜が2勝1敗。郁斗とオリヴィアが1勝2敗。

 やっぱり俺ってギルドマスターかサブマスター確定か。

 不安しかないよ。

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