第88話 郁斗VS莉菜②

ネメアの影渡りからの奇襲は失敗に終わり、マリンから手痛い反撃をくらう。

マリンはネメアとの距離を取りつつも攻撃の姿勢は崩さない。


「マリン、アクアボール」


水中で思うように身動きが取れないネメアはアクアカッター、アクアボールと回避しきれない。

このままではジリジリとダメージをもらってしまう。

この状況を打開するには覆海をどうにかする必要がある。

その唯一の方法が時間切れになるのを待つだから郁斗はどうにかして時間稼ぎをしないといけない。


「ネメア、泳いでマリンに近づけ。今ならクールタイムで攻撃は来ない」


ヤケクソになっているとしか思えない指示。

水中で泳ぎの速さを競おうものならネメアはマリンには勝てない。

どんなに頑張ってもマリンとの距離を近づけることはできない。

焦りからか冷静に状況を判断して指示を出すことすらできなくなっている。


「マリン、近づてないように適当に泳いで」


覆海の時間切れによる形勢逆転という心配要素はあるもののスキルがクールタイムに入っていて攻撃できない以上、焦っても良いことない。

それをこれまで培ってきた経験からよく理解している莉菜は冷静に対処する。

ここまで莉菜が冷静だとネメアは覆海の時間切れになる前に倒されそうだ。

実際、ネメアの残りHPは7割くらい。

マリンの攻撃力を考えれば、まともにあと一、二回ほど攻撃をくらえば倒れる。


「よし、明けた!マリン、アクアトルネード、アクアランス、アクアカッター、アクアボール!」


「ヤバ!ネメア、避けろ!!」


郁斗の指示虚しくネメアに攻撃は全て当たる。

少なくとも莉菜とマリンには当たったように見えるし、ネメアのHPもジワジワと減っている。

しかし、まだ攻撃は続いているのにも関わらず、ネメアの残り2割辺りでHP減少が止まる。

それと同時に郁斗は不敵な笑みを浮かべる。


「チェーンリストレイント!」


「え?嘘!?」


ここで突如としてマリンの影から現れたネメアが大鎌の鎖でマリンを拘束することに成功する。


実はここまで郁斗はわざと焦ったふりをしていた。

莉菜がマリンに安易に攻撃の指示を出すようにして攻撃を受けている途中にネメアは影渡りでマリンの影まで移動していた。

そのタイミングでチェーンリストレイントを発動してマリンの拘束に成功する。


最初から郁斗はこの展開を予想していた。

蓮と莉菜のバトルを見て、覆海が時間制限付きスキルだとわかった時にここまで見えていた。

だからこそ対戦カードが決まった後にあった小休憩でトイレに行くふりをしてネメアにこの作戦を伝えていた。

最初は敢えて後手に回る。ある程度のダメージを受けるのは覚悟の上でマリンの覆海の時間切れまで粘る。

最初からこれをしなかったのはチェーンリストレイントの拘束時間にも制限があるからだ。

できる限り、粘って粘って残りHPが2割くらいで仕掛ける。


「こんな拘束意味無いから。この状態でも魔法は放てるし」


「それはどうかな?」


莉菜はチェーンリストレイントの詳しい効果を知らない。

いや、大鎌の先端部分から出た鎖で相手モンスターを拘束するのスキルと思い込んでいるが、実際は違う。

拘束された相手は魔法スキルが使えなくなる。

ただし、既に発動しているスキルが消えたりはしない。

だからチェーンリストレイントで拘束しても覆海は消えないが、マリンの攻撃を封じることはできる。


再び、クールタイムが明けて攻撃に移ろうとした時、莉菜はチェーンリストレイントで拘束されたモンスターは魔法スキルが使えないことに気づく。

本当ならネメアは鎖を手繰り寄せて拘束しているマリンに一方的に攻撃したいところだけど、上手くいかない。

水中なので、鎖で拘束してもマリンはまだ動ける。

綱引き、この場合は鎖引きのような感じでお互いに引き合っている訳ではなく、水中で踏ん張りがきかないネメアが一方的に引っ張られている。

それでも大鎌を手から離さないのは流石と言える。


「郁斗の作戦通りに進んでる筈だと思うのに何だろこれ」


「これも作戦……ではありませんね。郁斗のあの顔は」


「すっごい顔が引き攣ってる」


「逆に莉菜はお腹を押さえて大笑いしてますね!」


この2人、本当にバトル中何だろうか。

先の展開を想定して作戦を組み立て、その通りに進めている郁斗だが、これは予想外だったのだろう。

だが、この状況に変化が訪れる。


ネメアのチェーンリストレイントによるマリンの拘束が解かれる。

チェーンリストレイントも覆海同様に時間制限付きスキル。

結果的には奮戦虚しく、拘束から開放されたマリンの攻撃によってネメアは倒れる。


『ネメア DOWN』


未だに覆海の効果は続いている。

覆海の効果が続いている限り、マリンの有利は揺らがない。


「出でよ、コン!」


「一気にいくよ、マリン!アクアトルネード!」


「コン、稲荷の境界線」


コンが召喚させると同時に仕掛ける。

召喚前に何かするのは反則だが、召喚後ならどのタイミングで仕掛けても一応、問題ない。

ただし、常識やらマナーがどうたらこうたらと喚き散らす輩も一定数いるので、準備が整うのを律儀に待つプレイヤーもいる。

莉菜は待たない派で、郁斗も慌てふためくことなく、対処しているから莉菜と同じで待たない派かな。


どうやら俺は稲荷の境界線の効果を勘違いしていたようだ。

境界線を超えたモンスターとコンの居場所を入れ替えるスキルだと思っていたけど、実際には恐らく境界線を超えたモンスターをフィールド上にいる他のモンスターと入れ替えるスキル。


今、コンは自分で意図して境界線を超えた。

そうしてアクアトルネードに被弾する直前にマリンと居場所をチェンジすることでノーダメージで凌ぐ。

前回はその後すぐにバトルが終わったからわからなかったが、稲荷の境界線は一度使うと消えてスキルはクールタイムに入る。

だから次は同じように防ぐことはできない。



コンVSマリン、面白そうな組み合わせのバトルが始まるかと思いきや、ここで覆海が時間切れになる。

覆海の効果が消えれば、マリンにはコンに太刀打ちする術が無い。

集中攻撃であっさりと倒れる。


「マリン DOWN」

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