第89話 郁斗VS莉菜③

「稲荷の境界線って使い方次第では戦況が一気にひっくり返るね」


「はい、初見だと対応するのは不可能です」


 そういえば、稲荷の境界線で郁斗は逆転勝利を収めたっけ。

 あれに対応しろって言うのは無理あるし、初見じゃしょうがないよな。


「降臨せよ、エルナ!」


「コン、稲荷狐の祟り、稲荷狐の祈り、影分身、陽炎、蜃気楼」


 エルナの召喚と同時に影分身が出現し、別々の影分身がそれぞれ陽炎と蜃気楼を使う。

 それに祟りと祈りを使うことでエルナにはデバフをコンにはバフを付与する。

 エルナはキュアヒールが使えるが、稲荷狐の祟りによって付与されたデバフは解除不可能。

 その上、フィールドはコンの幻覚で支配されている。

 まずはコンの居場所を判別しないといけないが、その為には陽炎と蜃気楼のコンボを破る必要がある。


「対策くらいちゃんと考えてるよ。エルナ、ロックオンからのシャインランス!」


「コン、狐火で撃ち落とせ!」


 ロックオンはマルチ攻撃を可能とするスキル。

 本来なら単体攻撃のシャインランスも複数のモンスターに同時攻撃できるようになる。

 それに光魔法最大の特徴はその速さにある。

 他の属性ならともかく、光魔法を撃ち落とすのは至難の業だが、見事にコンと影分身はそれを成し遂げる。

 だが、その後すぐに影分身は消えて陽炎と蜃気楼のコンボが消滅する。

 確実にシャインランスは全て撃ち落とし、狐火で相殺できていた。


「ブラインド。ブルーがタッグEトーナメントでやったやつだな」


「そうよ。トーナメントが終わってから動画を見て知ったの。そこからはできるようになるまで猛特訓」


 エルナはシャインランスを目隠しにして全体攻撃スキルのスターフレイムショットを放っていた。

 ロックオンを使ったシャインランスとは違って、必中効果は付与されていなかったが、スターフレイムショットが全体攻撃だったことで上手くヒットしている。

 でも、今回上手くいったのが偶然と言っても過言では無い。

 運も実力のうちとは言うけど、正にその運を味方にして陽炎と蜃気楼のコンボを破る。


「エルナ、プチシャイン、プチファイア!」


「コン、陽炎、蜃気楼」


 空を飛ぶエルナに対してコンはかなり苦戦している。

 さっきまで陽炎と蜃気楼を使っていたのは影分身の方だからコン本体はまだ使えるけど、一時凌ぎでしかない。

 時間切れまで粘れば莉菜の勝ち、それまでにエルナを倒せたら郁斗の勝ちだけど、正直なところ郁斗自身も厳しいと感じている。

 まとも有効打が狐火と鬼火しかないから与えるダメージ量が足りていない。

 エルナもわざわざ有利を捨ててまでコンと近接戦をする必要はない。

 このままではジリジリと追い詰められるのを待つだけになる。


 両モンスター共に無理にせめることをせず、膠着状態が続く。

 そして陽炎と蜃気楼の効果がここで切れる。

 これでコンを守る幻覚は消えた。

 今までのバトルからも影分身のスキルはまだクールタイムから明けていない。


「エルナ、ここで決めるよ!スターフレイムショット、プチシャイン、シャインランス、プチファイア、フレイムランス、ファイアボール、スターバースト!」


「躱せ!コン」


 フィールドを縦横無尽に動き回ってとにかくエルナに的を絞らせない。

 それでも全ての攻撃を躱すことはできない。

 何回か被弾したが、何とかギリギリの所で耐えきる。

 しかし、コンの残りHPは既に4割ほどと半分を下回っている。

 次にエルナの攻撃スキルのクールタイムが明けたらチェックメイト。

 それまでにどうにかしないといけない。


「こうなったらコン、狐火、鬼火!」


 とうとうヤケクソになったか反撃に出るが、エルナには当たらない。

 ブルーみたいに多彩な攻撃スキルで翻弄できるならともかく、コンは妖術を使って相手モンスターを翻弄して少ないチャンスをモノにする絡めて系のモンスター。

 こういった正面からのバトルを苦手としているモンスターだけに、この局面からの逆転は厳しい。


 そしてエルナは全てのスキルのクールタイムが明ける。


「エルナ、今度こそ決める!!スターフレイムショット、プチシャイン、シャインランス、プチファイア、フレイムランス、ファイアボール、スターバースト!」


「頼む、コン!!!!」


 先ほどと全く同じ流れ。

 エルナが空中から一方的に攻撃して、それをコンが精一杯躱す。

 先ほどHPを6割近く削られているコンにはかなり不利な状況。

 今も被弾によって刻一刻とコンのHPは削られている。


 コンのHPが残り僅かとなり、あと一撃で倒れる所でバトルに動きがある。

 スターバーストがコンに当たる直前、コンとエルナの居場所がチェンジする。

 いつかまでは定かでは無いが、コンは防戦一方に見せて気づかれないように稲荷の境界線を発動し、踏み越えていた。

 あまりに一瞬の早業だったので、誰も気づかなかったが、郁斗だけはコンを信じて任せていた。


「今だ!狐火、鬼火、紅蓮の誓い、二尾の焔!!」


 取得している攻撃スキルを総動員して空中から勢いよく落下してエルナに襲いかかる。

 コンの最後の反撃は見事に決まる。

 確実に全てのスキルを使い果たしたエルナにヒットしている。

 しかし、現実は無情だ。

 天使が準最強種と言われる所以の一つをまじまじと見せつける。

 エルナの身体を回復魔法の光が覆っている。

 つまり、今の決死の反撃で与えたダメージは全て回復されてしまう。


 その後も驚異的な粘りを披露したが、最後はロックオンからのシャインランスがコンを直撃。


『コン DOWN』


 コンの攻撃力がもう少し高ければ、或いはと思えるバトルだった。

 エルナに回復魔法を使われる前に一気にHPを削り切る。

 最後、全力を尽くしてそれができなかった時点でコンの勝ち目はなかった。

 前々から課題として挙げられていた攻撃力不足がここにきて露呈する。

 影分身による物量で誤魔化していくにも限界はある。

 これからのコンの更なる成長に期待。

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