第87話 郁斗VS莉菜①

 これで全員が一回ずつバトルを行った。

 次のバトルの組み合わせを今は相談している。


「次、どうするんだ?」


「勝ち同士、負け同士でどう?」


「それでは負け同士のバトルで負けた方は2敗目になります。最大で3試合なので、その組み合わせだと3試合目を待たずに結果がわかってしまいます」


「そうね、なら勝ち負けの組み合わせかしら?」


 今、郁斗と蓮が1勝。オリヴィアと莉菜が1敗。

 蓮の提案は郁斗VS蓮、オリヴィアVS莉菜。

 しかしこの組み合わせはオリヴィアの言う通り、既に1敗している2人がバトルすれば、勝った方が1勝1敗になって負けた方が0勝2敗になる。

 4人ともギルドマスターにはなりたくないと考えているけど、2敗した時点でその可能性はない。

 そうなったら次の3試合目を何を思ってバトルに望めば良いのか。

 そういった観点から莉菜が郁斗VS莉菜と蓮VSオリヴィアの組み合わせを提案する。

 これでもし既に1敗している莉菜とオリヴィアが負けてもそれはしょうがない。

 これ以上のベストな組み合わせが無い以上、負けたら負けたで割り切ってもらうしかない。


 こうして次の対戦カードが決まる。

 先に郁斗VS莉菜、その後に蓮VSオリヴィア。


『ギルドマスター決定戦、郁斗VS莉菜 バトルSTART』


「来い、ネメア!」


「来て、マリン!」


 郁斗はオリヴィアとのバトル同様に1体目はネメア。

 莉菜は蓮とのバトルとは違い、1体目はマリン。


「ネメア、ゴーストタウン」


「マリン、覆海」


 両モンスター、まずはフィールドの奪い合いから始まる。

 ゴーストタウンと覆海は共にフィールドを展開するスキル。

 一度に展開できるフィールドは一つだけ。

 同時に二つのフィールドが展開されようとしている時、よりLvの高いフィールドが展開される。

 ゴーストタウンはLv1のフィールドに対して覆海はLv2のフィールド。

 Dランクのモンスターが展開できるフィールドは大抵Lv1なので、郁斗は覆海をゴーストタウンで相殺しようと試みたが、失敗に終わる。


「マジかよ!?覆海ってLv2以上のフィールドかよ」


「人魚はこうでもしないとバトルにならないから当たり前でしょ」


 莉菜はさも当たり前のように言っているが、フィールドのLvはスキルLvとは違って簡単には上がらない。

 スキル毎に専用のアイテムが必要になる。

 覆海のフィールドLvを上げる為に莉菜はポイントを貯めに貯めてショップで必要なアイテムは全て購入していた。

 ほとんどのアイテムはショップで購入しなくてもダンジョンの宝箱から手に入るが、該当するダンジョンは今の莉菜では挑戦できない。

 必然的にショップを活用するしかなく、この為にポイントを100万近く費やしている。

 伊達にタッグEトーナメントに向けて日本全国のEランクダンジョン巡りを行ってはいない。


「ネメア、デスサイズ、チェーンリストレイント!」


「マリン、アクアトルネード」


 大鎌を召喚したネメアは先端部分から鎖をマリンに向けて放つが、アクアトルネードに飲み込まれマリンの元まで辿り着けない。

 でもネメアには一瞬にしてマリンの元まで辿り着く術があるけど、それは莉菜も知ってる。

 警戒されている中でどう決めるのか、そこに注目だ。


「ネメア、影渡りからウインドサイズ!」


「マリン、後ろにアクアランス!」


 まさかまさかの堂々と正面から影渡りを使う。

 これじゃあ影渡りで移動したところを狙い撃って下さいって言ってるのと同じ。

 カーラにも似たような状況で倒されてるし、郁斗は何を考えてるんだ?


 莉菜はこの状況を郁斗が打開するには影渡りしか無いと考えている。

 だからこそ最大限、警戒している。

 そんな中、堂々と正面から使われる。

 意味がわからないけど、これはある意味でチャンス。

 近接戦ができないマリンに接近させるのはあまりさせたくないが、今回は別。

 確実にネメアの居場所を把握できて、上手くそこに攻撃すればダメージを与えられる。

 このチャンスを逃す訳にはいかない。


 マリンは莉菜の指示で咄嗟に後ろを振り向き、アクアランスを放つが、空振りに終わる。

 そこにネメアはいなかった。

 何故、いないのか。答えはシンプル。

 マリンの影はマリンの背後ではなく、少し下の地面にある。

 覆海によりフィールドは海に沈んでおり、マリンは地面よりやや浮いた位置にいる。

 水中では影ができる位置は自身のすぐ近くとはいかない。

 それにフィールドの外にいるプレイヤーからはモンスターの影がどこにあるのか視認しにくい。

 郁斗はそれを利用してマリンを翻弄しようと画策している。


「しまった!マリン、下よ!」


「お、もう気づいたのか。でも遅いぜ」


 莉菜が郁斗の狙いに気づきマリンに指示を出す頃にはネメアの攻撃を受けていた。


「でも、ネメアは水中だと動きづらいでしょ?マリン、アクアカッター!それから距離を取って」


 不意を突かれても莉菜は至って冷静。

 距離を詰められた上に攻撃を受けたとしても覆海の効果が切れるまでマリンが圧倒的に有利なのに変わりはない。

 水中では動きが鈍くなるネメアはこの至近距離からのアクアカッターを回避できない。

 リーフィアみたいに魔法が斬れる訳でもない。

 いずれジリ貧になるのは見えている。



「郁斗の作戦は悪くないけど、やっぱり莉菜が落ち着いてるから刺さってないね」


「はい。覆海の効果が続く限り莉菜の優位は揺るぎません。そこから精神的に余裕があるのだと思います」


「こうなると郁斗はかなり厳しいかな。どうにかして時間を稼いで覆海の効果が切れるのを待つしか…」


「あとは影渡りからのチェーンリストレイントのコンボでマリンを拘束するくらいですね」


「んーでもさ、そのコンボって何で最初にやらなかったんだろう?」


「そうですね。莉菜に警戒されていると考えたのでしょうか?それで意表を突いて攻撃?」


 蓮とオリヴィアの疑問。

 この答えを知っているのは郁斗だけ。

 純粋なプレイングのミスか、それとも何かしら策があるのか。

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