第86話 蓮VS莉菜③

「出でよ、リーフィア!」


「へえ、名前を与えたんだ」


 マリンの覆海というスキル、絶対に弱点はある。

 永続でこんなに強いスキルが使えたら人魚を使っているプレイヤーだってもっと多い。

 だけど、強いプレイヤーの中に人魚を使っている人を俺は知らない。

 タッグEトーナメント準決勝で当たったザストだと一定以上のダメージを受けたら強制解除されたけど、マリンも同じかな。


「マリン、アクアランス」


「リーフィア、盾で防いで」


 水中を自由自在に速く動き回れるマリン相手にはこっちから仕掛けても容易く躱される。

 だから防戦一方になるけど、チャンスを待つ。

 それにマリンの攻撃は盾で防げば大したダメージじゃない。

 今のアクアランスのダメージ量がそれを証明している。


「ふーん、時間稼ぎ狙いか」


 この時、莉菜の目が鋭くなる。

 蓮はこの変化を見逃さない。


 今の莉菜……、もしかして覆海って。

 でも、もし読み違えていたら。いや、どちらにしろこの可能性に賭けるしか勝ち目はないか。


「リーフィア、閃撃!」


「躱してマリン」


 マリンからの反撃がない。

 攻撃スキルが全てクールタイムに入っているのか。

 それともそう思わせる為にあえて攻撃しないのか。


 それから少しの間、両モンスター何もしない時間が続く。

 リーフィアは純粋に遠距離攻撃の手段が閃撃しかないから攻撃できないだけ。

 マリンもここまで何もしないところから攻撃スキルが全てクールタイムに入っていると考えていいだろう。


「マリン、アクアトルネード!」


「リーフィア、風薙ぎで斬って!」


「え?嘘でしょ!?魔法を斬った!!?」


「莉菜知らないの?魔法って斬れるんだよ」


 魔法は斬れると『追憶の回廊』で戦ったスケルトンナイトが教えてくれた。

 それからリーフィアにもそれとなく魔法を斬る特訓をしてもらった。

 いろいろと試行錯誤してある程度、魔法を斬る為に必要な条件がわかった。


 一つは何かしらのスキルを使うこと。

 通常攻撃で魔法を斬ろうとすると毎回失敗した。

 スケルトンナイトは通常攻撃で斬ったように見えたけど、何かしらのスキルを使っていたと考えている。

 そしてもう一つは闇属性が付与されていること。

 何回かリヴィングウェポンを装備から外して鉄の剣を装備させて魔法を同じように斬ろうとしたけど、こっちも毎回失敗した。

 恐らく、リヴィングウェポンが持っている闇属性付与のスキルが関係している。

 あと、剣以外の武器でもできるかは知らない。


 アクアトルネードを風薙ぎで斬られたことでマリンの攻撃が一度止まった。


「マリン、アクアカッター、アクアランス、アクアボール!」


 莉菜の作戦はかなりシンプル。数撃てば当たる。

 普通の相手ならこの作戦で十分過ぎる成果を上げるだろう。


「リーフィア、騎士王の風刃閃!」


 騎士王の風刃閃はカーラの霞連槍と似ていてで使い手の技量に応じて連撃数が変わる。

 フィールドが水没しているからいつもより抵抗が大きく、最後のアクアボールだけは斬ることに失敗した。


 その後も攻撃スキルのクールタイムが明けたタイミングで同じように数撃てば当たる精神で攻撃をしてきたが、騎士王の風刃閃で全く同じ結果となった。

 そうしてリーフィアのHPは残り1割を下回った辺りまで減った所でバトルは大きな動きを見せる。


 マリンはスキルが再びクールタイムが明けるのを待っていたが、その前にフィールドから水が消える。

 つまり、フィールドから覆海の効果が消えた。


 最初、蓮はタッグEトーナメントの準決勝の相手、ザストと同じように一定のダメージを受ければ、解除される類のスキルと考えていた。

 しかし、莉菜の目が鋭くなったその変化から時間制限付きスキルの可能性が浮上した。

 リーフィアでは水中を自由自在に動き回るマリンに攻撃を当てるのは至難の業。

 だからこそ、時間制限付きスキルの可能性に賭けた。

 そしてその賭けに蓮は勝った。


「よし!リーフィア!閃撃!」


 言われずともわかっている。

 覆海の効果がフィールドから消えた瞬間にリーフィアはマリン目掛けて走り出している。

 素早さが本来の1割まで低下している為、先ほどまでの様に動き回ることはできない。


「マリン、やられる前に倒すよ!アクアボール、アクアランス、アクアトルネード!!」


「リーフィア、全力で迎え撃って!!」


 マリンの魔法の中で最も威力の低いアクアボールは盾で受けて、次に威力の低いアクアランスはダークスラッシュで斬る。

 アクアトルネードも風薙ぎで斬る。


 やられる前に倒すという莉菜の言葉。

 全ての攻撃スキルを駆使して近づかれる前にリーフィアを倒す、そう聞こえるが、これは油断を誘う為のブラフ。

 まだマリンにはアクアカッターが残っている。

 最後に最もインパクトが強いアクアトルネードを放つことでアクアカッターの存在感を消し去ろうとする。


 リーフィアとマリンの距離が徐々に近づいている。

 このままではさっき放った三つのスキルがクールタイムから明ける前に決着がつきそうだ。


 三メートル

 二メートル

 一メートル


 遂にリーフィアは己の間合いにマリンを捉える。

 それと同時にマリンは温存していたアクアカッターを放つ。


「それはもう見切ってます」


「え、嘘!?この距離で斬れるの?ごめん莉菜、これは無理」


 リーフィアはマリンの放った渾身の一撃ごと騎士王の風刃閃で斬る。

 一体、何回斬ったのかわからないくらい斬った。

 マリンのHPが0になるまで。


『マリン DOWN』


 決着!!

 蓮VS莉菜、蓮の勝利!!


 最後、マリンはあと少しの所までリーフィアのHPを削ったけど、届かなかった。

 これはあの状況下で的確に魔法を斬って、被ダメージを最小限に抑え、耐え凌いだリーフィアを褒めるべきであって、莉菜の作戦やマリンには何一つミスは無かっただろう。


 観客席でバトルを見ていた郁斗とオリヴィアも概ね同じ感想だった。


「ブルーがエルナに勝ったら勢いでブルーがそのまま二連勝すると思ってたけど、マリンめっちゃ強くね!?」


「でも、そのマリンもリーフィアには勝てませんでしたよ」


「それな!魔法を斬るとかあれ何?聞いたことないぞ!」


「私も上位プレイヤー同士のバトルはよく見ていましたが、魔法を斬ったモンスターは初めて見ました」


 意外かもしれないが、これまで魔法を斬ったモンスターはリーフィア以外にいない。

 魔法を斬ろうと試みさせたプレイヤーと試みたモンスターは多数いる。

 その全てが失敗に終わっている。


『追憶の回廊』のスケルトンナイトは例外。


 実は闇属性の付与、この条件を満たすのはかなり難しい。

 スケルトンナイトから人類種の剣士ソードマンへとリーフィアは特殊な進化をしてる。

 それ故にリヴィングウェポンは闇属性付与のスキルを取得しているけど、普通ではありえない。

 シグマがこれらを知ったら新発見と興奮し過ぎて死ぬかもしれない。

 闇属性付与持ちのリヴィングウェポンと魔法を斬る、この二つはそれくらい常軌を逸している。

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