第64話 タッグEトーナメント準決勝 蓮&郁斗

 なんかあんまり実感湧かないな。

 ここまで勝ち上がって来れたのは嬉しいけど、上手くいき過ぎてる気もする。

 こういう時ほど気を引き締めないと。


 時間になりました。タッグEトーナメント準決勝 鬼灯蓮&二階堂郁斗 VS 小野寺いつき&小林はじめを開始します』


『バトルSTART』


「出でよ、ブルー」


「出でよ、コン」


「来い、シャーク」


「出でよ、ザスト」


 4体のモンスターが召喚されると同時にフィールドに異変が起きる。

 突如としてフィールドが水に沈んだ。

 ブルーとコンは今、水中にいるのと何ら変わらない状況に陥っている。

 この状況を作り出したのは相手モンスターに間違いない。


 ここまで蓮と郁斗はトーナメントに恵まれていた。

 厄介なスキルを使う強敵と当たることなく、勝ち進めていた。

 でも、準決勝で遂に真の強敵と当たる。


 このフィールドに現れた効果はザストと名付けられたモンスターのスキルによるものだ。

 まだ召喚されたばかりでスキルは何も使っていないように感じるが、実際は少し違う。

 極稀に召喚と同時に強制発動する特殊なスキルを持つモンスターがいる。

 ザストはそのスキルが召喚と同時に発動してフィールドを水に沈めたのだ。


 ザストは半人半魔と呼べる姿形をしており、上半身は人、下半身は異形の魔物のようだ。

 人魚みたいな魚の下半身ではなく、無数の触手で下半身が構築されている。


 もう一方のシャークと名付けられたモンスターは所謂サメだ。

 特別大きいとか小さいとかはない普通のサメに見える。

 だけど、フィールドは水に沈んでいる。

 この状況、どちらが有理かは一目瞭然である。


 ブルーとコンは急過ぎるこの展開についていけてない。

 そもそもスライムも稲荷狐も水の中で自由に動き回れるモンスターでは無い。

 今は相手モンスター2体だけでなく、フィールドそのものも敵と言っても過言ではない状況。


「コン、稲荷狐の祟り、稲荷狐の祈り」


「ブルー、鳴神」


「シャーク、躱して水鮫」


「ザスト、絡みつく」


 コンはいつも通りにまずは相手にデバフ、味方にバフを付与する。

 ブルーは水中で自由に行動できないので、鳴神で遠距離から攻撃する。


 シャークは水鮫という水で形作られた鮫を水中を駆け巡らせてブルーとコンを襲わせる。

 ザストは無数の触手でコンとブルーを捕らえる。

 ザストに捕らわれたブルーとコンは水鮫を回避できず、まともにくらってしまう。


「ならブルー、プロミネンスアタック、フレイムフォース」


「コン、紅蓮の誓い、二尾の焔、鬼火」


 ブルーとコンはザストの触手による拘束をどうにかしようと近接攻撃スキルや全体攻撃スキルで触手そのものを攻撃しようとする。

 しかし、2体ともザストの拘束からの脱出は失敗する。


 フィールドは完全に水に沈んでいる。

 ブルーとコンの放った火属性の攻撃は全て威力が減退して大したダメージを与えられてない。


 水に沈んたフィールドだと火属性の攻撃スキルの効果が低い。

 ブルーは雷属性の攻撃スキルが使えるけど、それだけでどうこうなる相手じゃない。

 どうしたら…。


 蓮と郁斗からするとこの絶望的に思える状況。

 この状況に対して一つ確かなことがある。

 覆る方法はある。

 問題はそれに気づけるかどうか。


「ブルー、ザストにプチサンダー」


「シャーク、捕食」


「ザスト、吸引」


 ブルーの放ったプチサンダーはザストに届く前にシャークが食べた。

 もちろん、捕食というスキルは攻撃スキルを食べられるスキルでは無い。

 その為、プチサンダーが直撃した時と同じくらいダメージを負った。


 ザストは触手で拘束しているブルーとコンから何やら吸い取り始めた。

 するとブルーとコンのHPが徐々に減り始めた。


 ヤバい!

 今、ザストが使ったスキルは触手で拘束している相手のHPを吸収するとかか。

 このままだと時間の問題だ。

 水中だとブルーもコンも思うように動けないし、この状況を打破する方法なんて…。


 いや、ちょっと待てよ。

 この相手がかなり有利な状況でさっきシャークは何でプチサンダーをわざわざ食べた。

 何でそんなことしたんだ。

 プチサンダーはザストに向かって放った攻撃。

 シャークはあんなことしなければダメージを負うことも無かった筈。

 何か意味があるのか。

 シャークのあの行動で変わったこと。


 ザストがプチサンダーに被弾しなかった。

 攻撃をくらいたくなかったとか。

 でもそれなら鬼火やフレイムフォースでかなり少ないけど、ダメージは与えてる。

 だとしたら一度に受けるダメージ量か。

 ここはあのスキルに賭けるしかない。


「ブルー、スカーレットアロー!」


 まだこのタッグEトーナメントでは一度も見せていないスキル。

『豚蜜』での特訓でスキルLvが4まで上がっている。

 威力もそこまで低くは無い。

 相手にとっては初見で未知のスキル。

 俺の考えたが間違っていないなら絶対にさっきみたいに対応する筈。


「シャーク!」


 蓮の予想通りにシャークがザストを庇うように動いた。

 咄嗟のことでスカーレットアローの軌道がザストから微妙に逸れていることに気づかなかったのだろう。

 シャークが動いたことでブルーからザストへの射線が通る。


「今だ!ブルー、鳴神!!」


「コン、蜃気楼!」


 ブルーが鳴神をザストに向かって放つタイミングを待っていたかのように郁斗がコンに蜃気楼を使うように指示する。

 これにより、水に沈んだフィールドはコンの幻覚に染められた。


 そうか。郁斗も気づいてたんだ。

 でも、コンにはこの状況を打開できるスキルが無い。

 ブルーなら可能性は十分にあるけど、俺に口頭でこのことを伝えたりしたは相手に聞こえただろう。

 相手にこの状況を打開する方法に気づいていると気づかれたらダメ。

 郁斗は信じてくれたんだ、俺のことを、ブルーのことを。

 だからここまで待ってくれたんだ。


 ザストはコンの幻覚によって一瞬ではあるが、ブルーとコンの居場所がわからなくなった。

 それでも触手で捕らえているので、すぐに2体の居場所は把握し直したが、この一瞬を作るのが郁斗の狙いだった。


「しまっ…ザスト避けろ!」


 小林一はそのことに気づいたが、これも一瞬、遅かった。

 ザストは回避行動を取る寸前に鳴神に被弾した。

 すると、水に沈んでいたフィールドは何事も無かったかのように元通りになっている。


 水が消え去った今、シャークもザストも素早さは大きく低下している。

 形勢逆転と思った瞬間、バトルは終了した。


『ブルー DOWN』


『コン DOWN』


 フィールドを水に沈めたスキルの弱点を見抜き、絶望的な状況を打開したところは良かった。

 しかし、ザストの触手に捕らわれて吸引のスキルでHPを徐々に削られてしまった。

 最後の攻防でシャークとザストは一瞬の遅れでフィールドが元通りになってしまった。

 しかし、最初から最後まで総じて一瞬の遅れで負けたのはブルーとコンの方だった。

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