第63話 タッグEトーナメント準々決勝 莉菜&オリヴィア

 次の準決勝で戦う可能性のある相手のバトルは俺たちと同時並行で行われていたので、何一つ見れてない。

 そこは今までも同じか。


 だからバトルが終わって少しすると莉菜とオリヴィアの準々決勝が行われようとしていた。


『時間になりました。タッグEトーナメント準々決勝 姫島莉菜&オリヴィア・ブラウン VS松山恋世璃こより&秋宮風夏ふうかを開始します』


『バトルSTART』


「降臨せよ、エルナ」


「君臨せよ、カーラ」


「おいで、マリス」


「来て、アルバ」


 マリスと名付けられたモンスターはたぶん人類種のエルフ。

 弓を装備しているから魔法というより、弓による攻撃がメインかな。


 アルバと名付けられたモンスターは人類種のドワーフだと思う。

 あの特徴的な顎髭あごひげに肩に担いでいる大きな戦鎚。


 このコンビは前衛と後衛が完全に別れている感じだな。

 ここまで勝ち上がってきたってことは相当強い。

 どんな戦い方をするのかな。


「エルナ、アルバにプチシャイン」


「カーラ、ダークウェーブ」


「マリス、ワンショット」


「アルバ、土壁」


 莉菜は初手でよくシャインランスを指示しているイメージが強いけど、今回はプチシャインを選択。

 3回戦でカーラが落とされたこともあって、少し慎重になっているのか。


 カーラはいつも通り、相手モンスター2体にデバフや状態異常を付与するのを目的としてダークウェーブを放つ。


 松山恋世璃、秋宮風夏ともにこの展開を読んでいたのだろう。

 マリスはワンショットという弓矢による攻撃スキルでプチシャインを相殺。

 アルバは地面から土の壁を作り出し、ダークウェーブを完全に防ぐ。


 このタッグEトーナメントではカーラが目立った活躍をしていない気がするな。

 初手で使ってるダークウェーブも防がれてるイメージがあるし。

 それに俺の知ってるスキルしか使ってない。


 エルナは何かしらの隠し玉があるのは1回戦で明らかだ。

 でも、カーラはここまで何一つそれらしきものを見せていない。

 もしかして、ブルーのスカーレットアローみたいに隠し続けているとか。


「ならエルナ、マリスにフレイムランス」


「カーラ、アルバに霞連槍!」


「へえ、撃ち合い上等ってことかな?いいよ、受けてあげる」


「じゃあ、私はカーラを抑えておくね」


 そこからはタッグバトルとは思えない1対1のバトルがそらぞれ繰り広げられた。

 遠距離から撃ち合うエルナとマリス、近距離でぶつかるカーラとアルバ。


 双銃という武器による手数、天使という種族であることによる高所から攻撃できるアドバンテージ。

 エルナとマリスの撃ち合いはエルナ有利に進むと思われていたが、蓋を開けてみればマリスが有利に進めている。


 マリスは弓を使った射撃スキルを巧みに使ってエルナを攻撃している。

 それに加えてマリスは射撃スキルだけでなく、魔法も使っていた。


 一方でカーラとアルバは一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 身の丈に合わない大きな戦槌を装備しているとは思えない機敏に振り回している。

 カーラも負けじと槍で応戦している。

 しかし、時間が経つにつれてカーラがアルバを押し始めた。

 アルバも全ての攻撃を防げている訳ではない。

 攻撃をくらえばくらうほど、デバフや状態異常を付与されて弱体化する。


 うーん、何か気になるな。

 何でアルバはカーラと1対1をするのかな。

 時間が経てば、被弾が増えてデバフや状態異常を付与される可能性だってある。

 まだバトルは序盤。わざわざ2人の誘いに乗って1対1をする必要はない気がするな。


「あのアルバってドワーフ、何かあるな」


「郁斗も気になるの?あのアルバってドワーフが」


「まあ、いろいろと腑に落ちない点があるしな」


 郁斗も同じ疑問を抱いてたみたいだ。

 何か狙いがあるとすれば、もうそろそろ動くんじゃ…。

 時間を掛け過ぎるとデバフや状態異常が酷くなって、動きづらくなるし。


「カーラ、ナイトメア」


 この一撃でアルバのHPは残り1割を下回った。

 ここまで何も動きを見せない。

 もしかしたら1対1ならカーラに勝てると勘違いしていただけなのではと思い始めた時、バトルは大きく動いた。


「アルバ、ストライクカウンター」


 秋宮風夏とアルバの狙いは最初からカウンターだった。

 普通なら近距離で激しくやり合っているカーラにカウンターを仕掛けるのだろうが、アルバの狙いは今も尚空中でマリスと壮絶な撃ち合いをしているエルナだった。


 この撃ち合いは莉菜とエルナが仕掛けたもの。

 松山恋世璃とマリスはそれを受けた側。

 そして、秋宮風夏とアルバはそれに自然と巻き込まれてカーラと仕方なく1対1をしていた。

 そう思っていたけど、実際は違った。


 マリスとアルバはこの展開になるのを待っていたのだ。

 もし、思い通りの展開になる見通しが立たなければ、自分たちから1対1を誘っただろう。


 エルナはマリスとの撃ち合いに集中しており、カーラと戦っている完全に近接戦特化と思われるアルバから反撃されるとは思っていない。

 カーラも同様にエルナに攻撃するとは思っていなかった。

 この1対1という状況は自分たちで作った。その認識を逆に利用された。


 ストライクカウンターは今までに受けたダメージとデバフや状態異常を倍返しで相手に返すという強力なカウンタースキル。

 返す相手は選べるが、攻撃の軌道が直線的過ぎてまず当たらない。

 ロマン溢れる使えないスキルとされている。


 しかし、完全に不意を突いた奇襲なら当たるのでは。

 そこに思い至り、考えた結果、タッグバトルでなら条件が揃えば使えると判断した。

 そしてその条件が全て揃った。


 いくらエルナが幻想種の天使とはいえ、この攻撃をまともに受けたらひとたまりもない。

 では、回避できるかと言えば、否。

 マリスがそうさせないように立ち振る舞っている。


『エルナ DOWN』


「え?何?」


 ここでエルナが落ちる。

 莉菜は何が起きたのか理解できていない様子だが、オリヴィアは逆によく理解している。

 故に次の行動も早かった。


「カーラ、アルバにダークボール」


 ストライクカウンターを使ってもHPが回復したり、デバフや状態異常が解除される訳でもない。

 即座に追撃を行えば、簡単に落ちる。


『アルバ DOWN』


 カーラはアルバとの戦いでHPを削られており、残り6割ほど。

 マリスも無傷とまではいかず、残りHPは8割ほど。


 回復魔法の使い手であるエルナが落ちている以上、カーラはHPの回復ができない。


 マリスはエルナ相手には有利に進めていたが、カーラを相手にした途端、防戦一方となった。

 一番大きな理由はダークウェーブを防ぐ手段がないことだ。

 ダークウェーブはアルバの土壁で最初、防いでいた。

 アルバが落ちた途端、防ぐ術が無くなり、ジリ貧となった。

 じわじわと状態異常でダメージを蓄積していき、最終的にナイトメアで仕留められる。


『マリス DOWN』


 3回戦でカーラが落ちた時と違うのは相手にはエルナを落としてもまだ余力が残っていること。


 この一点だけは素晴らしいことだ。

 ただ一つ、松山恋世璃と秋宮風夏はミスを犯した。

 先にカーラではなく、エルナを落としたことだ。

 エルナはマリスと1対1でやや押され気味だった。

 ならエルナは後回しにして、カーラを優先して落とすべきだった。

 2人の敗因はカーラの制圧能力を甘く見ていたことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る