第38話 蜘蛛の魔巣②

 コンが二尾の妖狐から二尾の稲荷狐に進化した。

 それに伴って新しいスキルも2つ取得した。

 稲荷狐の祟りと稲荷狐の祈り。

 稲荷狐の祟りは相手に強制的にデバフを与える。

 与えたデバフは解除不可能で、バトル中は永続的に続く。

 稲荷狐の祈りは味方にバフを与える。

 与えたバフは解除不可能で、バトル中は永続的に続く。

 相手がバフを強制的に解除する類のスキルを使っても解除できない。

 ただ、バフとデバフ共に2回以上使っても効果は変わらないが、祟りと祈りを両方使った場合に限り、味方モンスターにHP自動回復効果が付与される。

 Lv1だと10秒毎に1%回復する。

 つまり、2回以上使ってもより強力なバフ、デバフになることはない。

 しかし、他のバフ、デバフと重ねがけができ、闇属性の攻撃をすれば、更に相手を弱体化させられる。


 たった一度の進化でここまで劇的に強くなるなんて。

 虹色宝箱から出た合成素材を使っただけのことはある。

 また差をつけられたな。

 もっと頑張って強くならないと!


「コンの進化も無事に終わったことだし、早速エリアボスに挑むわよ!」


「いきなりエリアボス戦かよ。進化したコンの初陣にはちょうどいいか!」


「うん、頑張ろうね。ここを突破したら残るはこのダンジョンのボス戦のみだから」


「『静寂の魔巣』のボスはドライアドでしたね。どんなモンスターなのでしょうか?」


「それより、先にエリアボスを倒さないと行けないのよ。そんな先のことばっか考えない」


 エリアボスを倒した後のことを考えていたら莉菜に注意された。

 みんなの意識が先にいってしまい、集中力が散漫としていたから仕方ないか。


 第3エリア『蜘蛛の魔巣』のエリアボスは女王蜘蛛クイーンスパイダー

 事前に集めた情報によると特に取り巻きの眷属はいないらしい。

 つまり、今までのエリアボスとは違って単体で強い類と予想される。

 いつも以上に気を引き締めていかないと。

 ブルーもかなり張り切ってる。

 気合い充分だな。


 プル、プル、プル


 俺たち4人はボス部屋に入る。

 奥には1体の巨大な蜘蛛がいた。

 巨大ジャイアント蜘蛛スパイダーよりも更に大きいということはなかった。

 あれよりは小さいけど、威圧感はこっちの方が遥かに上だ。

 蜘蛛とかが苦手な人が見たら失禁するな。

 苦手じゃなくても、ちょっとくるものがある。


「コン、稲荷狐の祟り、稲荷狐の祈り」


「カーラ、ナイトメア!」


 いろいろ考えてたら郁斗とカーラがいきなりコンビプレーを決めた。

 今までナイトメアを使う前にダークウェーブを使ったりして、デバフや状態異常を付与していたけど、コンが進化したおかげでその必要が無くなった。

 稲荷狐の祟りで強制的にデバフを付与して、ナイトメアを放つ。

 稲荷狐の祟りはLv1とまだ付与するデバフが弱いけど、カーラがいるから関係ない。

 ここからデバフだけでなく、状態異常もどんどん悪化していく。

 これからバトル開始と同時にこのコンボを決めるのが定番になるかも。


「エルナ、スターフレイムショット」


「ブルー、鳴神」


「カーラ、ダークウェーブ」


「コン、影分身、鬼火」


 そこからは一斉に攻撃をしたが、風魔法と土魔法で相殺された。

 必中効果のある攻撃スキルを防ぐ数少ない方法の一つが攻撃による相殺。

 今まさにエルナとコンの攻撃は相殺された。

 ブルーとカーラの攻撃は相殺ではなく、防がれたの方が正しい。

 土魔法による防御壁で完璧に防がれた。

 簡単には攻撃を当てさせてはくれないか。

 なら、戦い方を変える。


「カーラ、霞連槍」


「ブルー、プロミネンスアタック」


 俺はブルーに単独で近接戦をさせるつもりだったけど、オリヴィアも同じ考えに至ったのかカーラに近接戦の指示を出す。

 全ての攻撃が遠距離から飛んでくるだけなら対処も容易だろう。

 でも、近場から攻めてくるブルーとカーラに対処しながらエルナとコンに対処しようとしたらどこかに綻びが生まれる筈。

 問題はブルーには近接戦用の攻撃スキルがプロミネンスアタックしか無いことだ。

 そこはプロミネンスやプチサンダー、鳴神を近距離で使ったり、たまに視界から外れたり、入ったりして何とかしていた。

 このブルーの動きは女王蜘蛛クイーンスパイダーからすると邪魔でしかない。

 一番、厄介で警戒しないといけないカーラの攻撃に対処したくてもブルーがいい感じに邪魔できてる。

 今だけはあれをされる側じゃなくてする側で心底良かったと思う。


 徐々に女王蜘蛛クイーンスパイダーの動きが鈍り始めた。

 カーラの霞連槍による連続攻撃をくらい続けたことでデバフや状態異常が悪化したのだろう。

 ブルーに意識を割く余裕が無くなっているのか、ブルーの攻撃も当たり始めていた。

 それでもエルナやコンの攻撃は的確に相殺している。


「コン、二尾の焔」


 ここで郁斗は二尾の焔を指示。

 遠距離から攻撃しても相殺されるだけ。

 それならブルー同様にリスクを覚悟の上で距離を詰めて近接戦に加わるべきと判断したのだろう。

 女王蜘蛛クイーンスパイダーはカーラとブルーの連続攻撃を捌ききれていない。

 コンがそこに加われば、虎視眈々と隙を伺っているエルナの攻撃が通りやすくなる可能性はある。

 だけど、遠距離から攻撃してくるのがエルナだけだと、逆に近接戦組に意識をより割いて対応がしやすくなる可能性もある。

 ここで行動すれば必ず戦局は動く。

 しかし、それが良い方に傾くか、それとも悪い方に傾くかはわからない。


 そして、コンが動いたこのタイミングでエルナとカーラが飛んだ。

 今までも飛んではいたが、精々地上から数メートルの地点にいた。

 2体がほぼ遥か上空へと同時に飛んだ。

 この意図は正直、俺たちみんなわからなかった。


「え、エルナとカーラは何でこのタイミングで飛んだの?」


「わかりませんが、何か考えがあるのだと思います」


 俺たちがエルナとカーラの行動の意図について考えているとコンの影分身が蜃気楼を発動した。

 ただ、陽炎は発動していないように見える。

 影分身が顕在の今、両方を同時に使っても問題ない筈なのに何で使わないんだろう。

 その理由はエルナとカーラの行動の意図と共に判明する。


 カーラは女王蜘蛛クイーンスパイダーの真上からダークボールを放つ。

 それとほぼ同時にエルナはフレイムランスを放った。

 今まで、遠距離から放った魔法は全て相殺された。

 今回も当然のように相殺されると思ったが、女王蜘蛛クイーンスパイダーの放った魔法は見当違いの方向へと飛んでいき、2体の放った魔法は直撃した。

 一体、何が起きたのかわからなかった。

 ブルーとコンには的確に反撃をし、ダメージを与えている。

 にも関わらず、エルナとカーラの魔法の相殺に失敗している。

 まるで全く違う場所にエルナとカーラがいると思い込んでいるような感じがする。


 あ、そういうことか。

 コンが発動している蜃気楼の効果か。

 コンが蜃気楼の効果を利用して女王蜘蛛クイーンスパイダーに幻覚を見せているんだ。

 陽炎を同時に使うと効果時間が短くなる。

 今回は女王蜘蛛クイーンスパイダーの攻撃を防ぐのではなく、こちらの攻撃を相殺されるのを防ぐのが目的。

 どこに飛んでいくかわからない攻撃で恐らく、コンの影分身はすぐに消えるだろう。

 少しでも長く、この状況を維持する為に影分身の方に蜃気楼を発動させたのか。

 影分身が発動した蜃気楼の効果が途切れても本体が再び発動できる。



「カーラ、ナイトメア!」


「エルナ、スターフレイムショット!」


「ブルー、プロミネンスアタック、鳴神」


「コン、二尾の焔、狐火、鬼火」


 そのまま着実に女王蜘蛛クイーンスパイダーにダメージを与えていき、倒した。

 呆気なく終わった感じもするけど、明らかにカーラの闇属性攻撃とコンの幻覚のおかげ。


 ブルーは攻撃から防御、回復と様々なところで頑張った。

 女王蜘蛛クイーンスパイダーの近くでチョロチョロしながら攻撃したり、序盤にコンとエルナの魔法が全てクールタイムに突入した時は、マジックシールドで女王蜘蛛クイーンスパイダーの魔法を防いだり、カーラのHPがやばくなったらプチヒールで回復したりした。


 エルナは終始、全体のバランスを保てるようにサポートしてくれていた。

 ブルーがあそこまで縦横無尽に活躍したのもエルナが陰で支えてくれていたからだ。

 キュアヒールによる状態異常の解除、ブルーのプチヒールがクールタイムに突入しているタイミングでのにプチヒールによる回復、マジックシールドがクールタイムで使えない時は何かしらの魔法スキルを温存して敢えて女王蜘蛛クイーンスパイダーに相殺させることで、ブルーとカーラに魔法が飛んでいかないようにしていた。


 4体のモンスターが力を合わせて戦ったからこそ勝てたと言っても過言ではないと思う。

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