第37話 蜘蛛の魔巣①

 あの後、郁斗の家でお昼ご飯を終えた俺たちは『静寂の魔巣』、第3エリア『蜘蛛の魔巣』に挑戦していた。

 ここに蜘蛛スパイダー系のモンスターが出現する。


 序盤は毒蜘蛛ポイズンスパイダーが出現する。

 毒蜘蛛ポイズンスパイダーは魔法は使えないが、全ての攻撃に毒が付与されている。

 一度、攻撃を受けると毒の状態異常に陥り、スリップダメージを受ける。

 エルナがキュアヒールを使えるとはいえ、あまり攻撃を受けすぎると状態異常が悪化して気づいたら倒されていたなんてことになりかねない。


 プレイヤーはモンスターに指示を出すだけでなく、HPを見ながらスリップダメージのペースを的確に把握する必要がある。

 ヤバいと思ったらできる限り攻撃を受けないようにモンスターを後方に下げないといけない。

 まあ俺たちのモンスターは遠距離攻撃が可能なタイプしかいないから気にしすぎる必要はないけど。


 奥へ進んでいると3体の毒蜘蛛ポイズンスパイダーと遭遇した。

 今までは5体、6体とこちらよりも遭遇するモンスターの数は多かったが、今回は少なかった。

 毒蜘蛛ポイズンスパイダーは魔法が使えないけど、遠距離攻撃ができない訳ではない。

 口から糸や毒を吐いたりする。

 糸や毒に触れると毒の状態異常に陥る。

 それに加えて、糸には素早さが低下するデバフも付与されている。

 空を飛んでいれば安全という訳ではないので、エルナとカーラも警戒が必要だ。


「コン、影分身、鬼火」


「エルナ、スターフレイムショット」


「カーラ、ダークウェーブ」


「ブルー、ファイアボール、鳴神」


 モンスターと遭遇したら全体攻撃、もしくは範囲攻撃スキルを使う。

 それが俺たちの間では鉄則となっていた。

 ただ、ブルーはその両方のスキルが使えない為、普通に魔法で攻撃。

 カーラのダークウェーブが3体全てに直撃したことでデバフ、状態異常の付与に成功する。

 そこから流れるようにナイトメアを放つ。

 これらこ攻撃で毒蜘蛛ポイズンスパイダーのHPが残り1割まで削れた。

 毒蜘蛛ポイズンスパイダーの数は3体。

 それならエルナがあれを使えば確実に倒し切れる。


「エルナ、ロックオン、フレイムランス」


 3体全てに必中効果が付与されたフレイムランスが飛んでいく。

 全力で回避しようとするが、必中効果の付与された攻撃の前に意味をなさなかった。

『蜘蛛の魔巣』、最初の遭遇は呆気なく勝利した。


 第1エリアの『蜂の魔巣』ではかなり苦戦したけど、あれから新たにスキルを取得したりして強くなった。

 それをここに来て改めて実感した。

 それでも『遊楽園』で通用するかわからない。

 正直、まだ足りない気がしている。


 その後も俺たちは毒蜘蛛ポイズンスパイダーと何回か遭遇したが、全て何とか勝利した。

 やはり、糸に触れただけで毒の状態異常に陥るのは厄介だった。

 特に空中にいるエルナやカーラは集中的に狙われ、回避しきれないこともあった。

 それに加えて、毒を吐くなどもしてくる。

 エルナがキュアヒールを使えるとはいえ、厄介だった。


 エルナは双銃で全てを撃ち落とそうとしたが、射撃の腕がまだ伴ってなく、失敗して糸に囚われて捕食されかけた。

 一方でカーラは槍を巧みに使い、糸はどうにかしていたが、飛んでくる毒の塊はどうにもできなかった。

 実際、4体の中で最も毒の状態異常に陥った回数が多かったのはカーラだった。


 地上組のブルーとコンは空中にいる2体より狙われる回数が少なかったので、そこまで危うい場面は無かった。


 そのまま奥に進むと毒蜘蛛ポイズンスパイダーではなく、巨大ジャイアント蜘蛛スパイダーと遭遇した。

 巨大ジャイアント蜘蛛スパイダーは2体以上同時に遭遇しないが、その分ステータスは高く、それなりに苦戦した。


 巨大ジャイアント蜘蛛スパイダー毒蜘蛛ポイズンスパイダーと違い、魔法を使ってくるのが、厄介だった。

 それも風魔法と土魔法の2種類。

 空中にいるエルナとカーラには風魔法が、地上にいるブルーとコンには土魔法が襲いかかった。

 それに加えて、物理攻撃には毒蜘蛛ポイズンスパイダー同様に毒が付与されている。


 カーラの攻撃でデバフや状態異常を付与しているのにも関わらず、戦局は変わらなかった。

 エルナのスターフレイムショットやコンの鬼火、ブルーのプロミネンスと必中効果の攻撃か威力の高い攻撃を当て続けて何とか勝てた。

 途中、押され気味になった時にカーラが霞連槍を使って正面から巨大ジャイアント蜘蛛スパイダーと戦ったのが大きかった。

 これで付与したデバフや状態異常が悪化し、形勢逆転した。

 やはり、闇属性付与のスキルは悪魔系モンスターが持つと相性が良いと感じた。


 このままの流れで第3エリア『蜘蛛の魔巣』のエリアボス、女王蜘蛛クイーンスパイダーに挑戦すると思っていたら郁斗からちょっとした相談があった。


「コンを進化させるかどうかで悩んでるんだよな」


「ああ、そっか。二尾の妖狐ならLv30で一応三尾の妖狐に進化できるものね。でも、悩むようなこと?普通に進化させていいと思うけど」


「まあ普通なら進化一択なんだけど、ランク変動型ダンジョン『妖魔の社』のボスを倒した時に虹色宝箱から合成素材、お稲荷さんを手に入れたんだ。それを使ってから進化させるべきかどうかって話」


「虹色宝箱から出た合成素材…。なるほど、これは迷いますね」


「そうね。その類の合成素材は使うタイミングが大事になってくるって言われてるしね。早い方がいいのと遅い方がいいのとあるし。過去に同じお稲荷さんを入手したプレイヤーっていないの?」


「んー、俺が調べた感じではいなかったな」


 調べても他に入手したプレイヤーがいないなら完全に未発見の合成素材。

 俺が『嘆きの墓地』で入手した生前の血も調べても何一つわからなかった。

 だから俺の場合は割り切って早々に使ったけど、郁斗の場合そうはいかないよな。

 コンは郁斗にとって初めてのモンスターであり、エースモンスター。

 育成はより慎重になるよな。

 俺ももし、合成素材を使うのがブルーだったらあそこまであっさり使わなかったと思う。

 あ、でもハイウルフにどの合成素材を使うか悩んだ時、剣士ソードマンが言ってたな。

 今回もあの時と同じことをすればいいんじゃないかな。


「郁斗、コンに選んでもらえばいいんじゃないかな?お稲荷さんを今、合成するかどうか」


「コンに選んでもらうか…。考えたこともなかったな。でも、そうだよな。本人に決めてもらった方がいいよな。コン、おまえはどうしたい?」


 郁斗の問いにコンははっきりと頷いた。

 つまり、今お稲荷さんを自分に合成したいということだ。


「よし、決めた!コン、お稲荷さんを合成するぞ」


 郁斗が目の前に表示されたウインドウを操作するとコンとお稲荷さんが光り輝いて融合した。

 見た目は一切変化していないが、郁斗はそのまま更にウインドウを操作した。

 すると、再びコンが光り輝き始めた。


「これは…」


「間違いありません、進化の光です」


 進化の光?

 さっきと今も両方とも全く同じように光って見えたけど、何か違いでもあるのかな。

 カーラとエルナはモンスターだからか、違いがわかるのだろう。

 ブルーは…、どうなんだろう。


 プル、プル、プルン、プルプル、プルン


 いつも以上にプルプルしてる気がする。

 うん、少なくとも喜んでたりしている時のブルーだ。


 光が収まると何も変わっていないように見えるコンがいた。

 でも、エルナとカーラがコンにおめでとうと声を掛けているので、進化は上手くいったのだろう。


 プルプル、プル


 ブルーもお祝い?している。


「一応、進化したコンのステータスをみんなにも共有するな」


 コン(二尾の稲荷狐、妖怪種)Lv1

 HP:360→510

 物理攻撃力:17→21

 物理防御力:16→23

 魔法攻撃力:25→44

 魔法防御力:20→28

 素早さ:18→28

 SP:48→0

 スキル:狐火Lv13→14、二尾の焔Lv7、鬼火Lv1→3、稲荷狐の祟りLv1、稲荷狐の祈りLv1、陽炎Lv11→12、蜃気楼Lv10→11、影分身Lv2→3

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