第36話 昇格への抜け道

「注文が決まったらまた呼んでね」


 テーブルの上にメニューを置いて、郁斗のお母さんは裏に戻って行った。


「ほわぁ。いろんな日本食があります!」


「あ、ほんと。一体、どれだけメニューあるのさ?」


「俺も詳しくは知らん。ただ、200は超えてた筈」


「200!?何でそんなにあるの?」


 普通の大衆食堂ならそんなにメニューないよね。

 俺の常識がおかしい訳じゃないよね。

 メニューだけでちょっとした辞書にみたいに分厚い。


「うちの店の売りは豊富なメニューだって父さんが言ってたよ。他には無いだろって」


「それにしても限度があるでしょ…。まあここに目を輝かせてる子もいるけど」


「日本に来たら食べてみたいと思っていた日本食がこんなに!!はぁ、どれを注文しようか迷います」


 オリヴィアがすごく幸せそうな表情をしている。

 ゲームをしている時には見られない一面だな。

 その後、オリヴィアは悩みに悩みまくり、郁斗にオススメを聞いた。

 もちろん、日本食和食で。

 郁斗曰く、天ぷらがオススメらしい。

 それを聞いたオリヴィアは目をより一層、輝かせた。

 早く注文したいというオリヴィアの思いが痛いほど伝わってきたから俺は早々に何を注文するか決めた。

 莉菜と郁斗も俺と同じで、すぐに注文を決めていた。

 これだけあるメニューから一瞬で注文が決まるとは。


「母さん、注文お願い!」


「はいはい、ちょっと待てね」


 こうして俺たちは各々、注文をした。

 オリヴィアはもちろん、天ぷら。

 俺は海鮮丼。

 莉菜は麻婆豆腐。

 郁斗はとんかつ定食。

 ちなみに郁斗はとんかつ定食についてくる味噌汁をオリヴィアにあげる約束をしている。

 あんな目をされたら郁斗じゃなくても断れないよな。


 ちなみにブルーたちは隣の空いているテーブルで何か話してると思う。

 ブルーはいつも通りプルプルしているだけだからちゃんと会話できてるのか心配だな。

 エルナやカーラ、コンの様子を見る感じだと、大丈夫そうだけど。


 そういえば、みんながどんなモンスターを捕まえているのか知らないな。


「ふと気になったんだけど、3人はどんなモンスターを捕まえてるの?」


「ああ、それは確かに気になるな」


「そうね。折角だし、情報共有でもしますか」


「良いと思います!でも、私はカーラ以外のモンスターは持ってませんよ」


 え?どういうこと?

 だってEランクに昇格するにはモンスターを3体捕まえる必要がある。

 それなのに、カーラ1体しか持っていない?


「ああ、なるほどな。まだ捕まえてないのか」


「一応、探してはいるのですが…」


「そこは自分のペースで良いと思うわよ」


「ごめん、全然話についていけない。モンスターが3体いないとEランクに昇格できないんじゃないの?」


「なんだ蓮は知らないのか。それちょっとした抜け道があるんだよ」


 抜け道?どういうこと?

 ますます意味がわからなくなった。


「簡単に言うと適当にモンスター2体を捕まえる。そしたら所有モンスターが3体になってEランクに昇格する。その後、数合わせで捕まえたモンスターはショップで売却したら終わり」


「つまり、Eランクに昇格した後に所有モンスターが3体を下回っても問題ないってことだ。殆どのプレイヤーはやってると思うぞ」


「ですが、デメリットもあります。Eランクダンジョンでかなりの苦戦を強いられます。Eランクダンジョンはモンスター1体でクリアできる難易度ではないのです。なので、私もカーラ1体で挑んでは負けてを繰り返してました」


 オリヴィアとカーラですら単独でのEランクダンジョン攻略の難易度は計り知れない。

 一緒に戦っている感じ、かなり余裕そうに見えるけど。

 あ、でも女王雀蜂クイーンホーネット戦は結構ヤバかった状況に陥ったこともあったな。

 あれは回復魔法が使えるブルーとエルナがいたから最終的に何とかなった。


「Eランクダンジョンは最初の関門。私もエルナ以外だとモンスター1体しか持ってないから厳しいのよね」


「俺もコン以外だと1体しか持ってない。頑張って2体で攻略しようと思ってたけど、無理そうだし3体目を捕まえようか悩んでたらパーティーのお誘いがあったって感じ」


「へえー、そんな感じなんだ。俺はもう3体捕まえてるよ。ブルー以外の2体はまだLvが低くてあまり強くないけど」


「もう3体捕まえてるのね!名前も与えたの?」


「それはまだかな。ブルーに名前を与えているし、これからは慎重にいかないと」


 今でこそ強くなったけど、ブルーは一般種最弱モンスターのスライム。

 普通のプレイヤーなら名前を与えることは絶対にしない。

 名前を与えたモンスターは手放せないからこそ、現時点では剣士ソードマンやライトウルフに名前を与えられない。

 ただ、リヴィングウェポンだけはちょっと特殊で剣士ソードマンがいろいろとアドバイスしてくれた。

 剣士ソードマン曰く、リヴィングウェポンに下手に名前を与えずにLvを上げ、進化させた方が強くなる。名前を与えることで可能性を狭めてしまうらしい。

 リヴィングウェポンはその特殊性から文字通り、無限の可能性を秘めている。

 名前を与えるのはどんなに早くても成長の方向性を示してからと言われている。


「そうだよな。俺もコンにしか名前は与えてないし」


「私は2体とも名前、与えてるわよ。もう1体は人類種の人魚、名前はマリン」


「人魚に名前を与えたのかよ!?随分と思い切ったことしたな?」


「スライムほどではありませんが、人魚に名前を与えるのもかなり珍しいです!」


「人類種のモンスターは大器晩成型モンスター。ちゃんと育てればちゃんと強くなる。それこそ最強種の竜に匹敵するくらいに。これはゲームの運営が公認している情報よ。人類種のモンスターなら最初に名前を与える人もいるでしょ?」


 莉菜の言う通り、人類種のモンスターは最強種の竜に匹敵するくらいに強くなる可能性がある。

 可能性の無いモンスターはいないかもしれないけど、人類種のモンスターは運営からのお墨付きがある。

 それもこれもゲームが始まってすぐの頃、人類種のモンスターに対するあれこれがあった。

 それがあまりにも酷すぎて運営が介入した。

 その時に明かされた情報が人類種のモンスターはしっかりと育てれば竜に匹敵するくらい強くなる。

 それから人類種のモンスターに対するあれこれは無くなった。


 しかし、人魚はちょっと特殊な人類種のモンスターだ。

 上半身は人、下半身は魚という姿形故に地上エリアでの素早さにマイナス補正が掛かる。

 具体的には実際の素早さステータスの10分の1まで下がる。

 仮に素早さステータスが100だったとしても地上エリアでは10くらいの速さでしか動けない。

 人魚が本来の力を発揮できるのは水中エリアだけ。

 ただ、殆どのバトルが地上エリアで行われるので、人魚はかなり不遇なモンスターといえる。


「まあ人魚を強く育て上げた人がいないのは私も知ってるけど、そんなの関係ない!やってみないとわからないでしょ?そう言う郁斗の2体目のモンスターは何なの?」


「俺の2体目か。一応、レイスだよ」


「レイスって幽霊みたいなモンスターのことよね?」


「郁斗もまた変わったモンスターを捕まえてますね!」


 レイスは一般種のアンデッド系モンスター。

 でも、この辺りにレイスの出現するダンジョンは無いから召喚石で召喚したとかかな。


「まだFランクだった時に召喚石を4つくらいゲットして、それで召喚したんだよ」


「4つ?他のモンスターは召喚しなかったの?」


「…レイス以外だとドワーフとエルフ、それに原人を召喚したよ」


 召喚石から原人って召喚できたんだ。

 初めて知ったよ。

 原人って天使と悪魔を合成する以外の方法で入手できたんだ。


「何とも言えない結果ですね」


「でも、それならレイスじゃなくてもドワーフとかエルフの方が良かったんじゃない?」


「それがさ、間違えてレイスに他のモンスターを合成しちゃった。ほんとはドワーフに合成しようと思ったんだけど」


「そんな出鱈目に合成したら弱くなるんじゃ…」


 このゲーム、出鱈目にモンスターを合成させると裏目に出ることが多い。

 さすがに、そんな出鱈目な合成で強くなるとは思えないけど、レイスを手放していないってことは。


「俺もそう思ったんだけど、意外にも強くなってさ。まだLv上げの途中だからEランクダンジョンで戦えるほど強くはないけど」


「合成ってわからないものね。蓮のモンスターはブルー以外に何がいるの?」


「人類種の剣士ソードマンと一般種のライトウルフ、一応武具種のリヴィングウェポンがいるよ」


「ライトウルフはともかく、剣士ソードマンは聞いたことないモンスターだな。新種のモンスターか?」


「それに武具種のリヴィングウェポンまで持っているのですね」


「でも、人類種のモンスターで且つリヴィングウェポン持ち。未知のモンスターだけど、剣士ソードマンには名前を与えても良いと思うけど。まあそこは蓮が決めることね」


 その後、俺たち4人は届いた料理を食べながらいろいろと情報交換をした。

 その中でも一番気になるのはライトウルフの進化に関する情報だ。

 何でも人類種のモンスターと合成すると特殊進化をするのではないかと言われているらしい。

 詳しいことはオリヴィアも知らない感じだったけど、人狼みたいなモンスターになると予想されている。

 ただ、これに関しては検証専門ギルド「プロフェッサー」がいろいろと検証を試みているが、未だ成果はないらしい。

 もしかするとただ、合成するだけでなく、スケルトンナイトの時みたいに特殊な合成アイテムが必要になるかもしれない。

 もし、そうだとするならダンジョンの虹色宝箱から出てくるアイテムが鍵になりそうだ。

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