第29話 蜂の魔巣④

 ようやく殺戮蜂キラービー雀蜂ホーネットを全て倒すことに成功した。

 でも、ここからが本番だ。

『蜂の魔巣』のエリアボス、女王雀蜂クイーンホーネットとのバトルが始まる。


 ブーーーーーーー


「コン、陽炎、蜃気楼」


「エルナ、ロックオン、フレイムランス」


「カーラ、ダークボール」


「ブルー、プロミネンス」


 コンの本体が陽炎と蜃気楼のコンボを繰り出す。

 影分身の方はまだ温存する構えだ。


 空を優雅に駆け回る女王雀蜂クイーンホーネットに対して、エルナの放ったフレイムランスが直撃する。

 こういう空を駆け回る相手にも必中効果は役に立つから便利だ。

 エルナのフレイムランスが直撃したことで、怯んだ一瞬の隙をついてカーラのダークボール、ブルーのプロミネンスが直撃する。

 ダークボールが当たったということはデバフや状態異常を付与できたということだ。

 つまり、次は必中のあのスキルが女王雀蜂クイーンホーネットに襲い掛かる。


「カーラ、ナイトメア!」


 先ほどの殺戮蜂キラービー雀蜂ホーネットとのバトルにおいて、終盤温存したナイトメアをここで使う。

 これ以上、コンの影分身の陽炎と蜃気楼以外のスキルを温存する理由がない。

 さすがに相手はエリアボス、デバフや状態異常を付与してもあまり効いていない。

 これが悪魔であるカーラでなければ、完全にデバフや状態異常を抵抗レジストされているだろう。

 悪魔はデバフや状態異常を確実に付与することができる。

 カーラの存在がいつものことだけど、大きい。


 しかし、全然ダメージが入っていない。

 まだ1割も削れていない。

 これでEランクダンジョンのエリアボス。

 きっと最奥にいるボスモンスターはもっと硬いと思われる。

 今の俺たちのモンスターじゃ火力不足ということか。

 それでもダメージは0じゃない。

 0じゃないならいつか必ず倒せる。

 今は塵も積もればの精神で戦うしかない。


 そんな俺たちを嘲笑うかのように女王雀蜂クイーンホーネットはとんでもない攻撃をしてきた。

 このボス部屋全体を対象とした風魔法による範囲攻撃だ。

 コンの陽炎と蜃気楼のコンボは決して無敵ではない。

 特に範囲攻撃に弱い。

 そこを的確についてきた。

 女王雀蜂クイーンホーネットの起こした巨大竜巻にブルーたちは全員巻き込まれた。

 そのせいでコンの影分身は消滅した。

 影分身のスキルは出した影分身が消滅してからクールタイムに突入する。

 つまり、これから暫くの間、コンは影分身が使えない。

 それに加えてこの中で最も魔法防御力が低かったブルーが大ダメージを負った。

 すぐにプチヒールで自分のダメージは回復したが、これで回復魔法が今すぐに使えるのはエルナだけとなった。

 予想外のタイミングで大ダメージを負ってしまった。

 ブルー以外の3体のHPはエルナが残り6割、カーラが残り5割、コンが残り3割となっている。

 正直、コンの残りHPが心許ない。


「エルナ、コンにプチヒール」


 莉菜も俺と同じ考えに至ったのか、コンにプチヒールの指示をエルナに出した。

 しかし、これで暫くの間は誰も回復できない。


 女王雀蜂クイーンホーネットも更なる追撃をしてくる。

 口元に風の玉のようなものが浮かんでいる。

 恐らく、風魔法のウインドボールだ。

 それが今、最も残りHPが少ないカーラ目掛けて放たれる。

 さすがにこれ以上好き勝手はさせない。


「ブルー、マジックシールド!」


「エルナ、プチシャイン、シャインランス」


 女王雀蜂クイーンホーネットが放ったウインドボールにエルナのプチシャインとシャインランスが衝突する。

 エルナですら完全に相殺することはできなかったが、威力はかなり落ちた。

 そのお陰でブルーのマジックシールドでギリギリ防ぎきることができた。


「カーラ、ダークウェーブ!」


 今度はこちらが反撃する番だと言わんばかりにカーラは闇属性範囲攻撃魔法のダークウェーブを放つ。

 攻撃範囲が広すぎて女王雀蜂クイーンホーネットも回避できなかった。

 これにより、更にデバフや状態異常が付与される。

 そこに追い討ちを掛けるようにプチダークとダークボールで追撃する。

 カーラのお陰で女王雀蜂クイーンホーネットの残りHPが8割の所まで辿り着いた。


 次にあの巨大竜巻が飛んでくるにはまだ時間が掛かる筈だ。

 あれだけの魔法となるとクールタイムもそれなりに長い。

 それまでに恐らく、ブルーとエルナの回復魔法はクールタイムが明ける。

 よし、何とかなりそうだ。


 すると女王雀蜂クイーンホーネットがお尻の針をこちらに向けてきた。

 何をするつもりだ?

 でも、警戒するのに越したことはないか。


「ブルー、もう少し距離を取れ!」


 プルプル、プヨン


 念の為にブルーを少し後ろに下げたけど、あれは一体…。


 女王雀蜂クイーンホーネットがブルーたちから遠ざかるように後ろに下がっていく。

 ある程度下がったところで動きが止まる。

 動きが止まったということは攻撃を当てるチャンス!


「ブルー、プロミネンス、ファイアボール!」


「コン、狐火」


「エルナ、プチファイア、プチシャイン」


「カーラ、ナイトメア!」


 女王雀蜂クイーンホーネットはこちらの集中攻撃を受けても尚、動きを止めたままだ。

 意味がわからなかったが、すぐにその意味を理解することとなる。

 女王雀蜂クイーンホーネットはわざとこちらに一斉攻撃をさせたのだ。

 こちらの意識を攻撃に傾けさせる為に。

 そうすることで防御が頭から抜け落ちる。


 女王雀蜂クイーンホーネットは突如としてお尻の針をこちらに向けたまま突撃してきた。

 しかもかなり早い。

 攻撃に意識がいっていたこちらのモンスターたちは反応が遅れた。

 その中でも最も反応が遅れたのはカーラだった。

 カーラは取り巻きである殺戮蜂キラービー雀蜂ホーネットとのバトルから終始攻撃の要として機能していた。

 その為、4体のモンスターの中で最も攻撃に意識が傾いていた。

 女王雀蜂クイーンホーネットはその一瞬の隙を逃さなかった。

 カーラは回避も防御もできず、女王雀蜂クイーンホーネットの針に突き刺された。

 HPが残り5割ほどだったのが、残り1割を下回りギリギリの状態で耐えていた。

 しかも状態異常に陥っており、スリップダメージを受けている。

 このままではあと数秒でカーラは倒されてしまう。


「カーラ!!」


 オリヴィアの悲痛な叫びがボス部屋に響く。

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