首狩りウサギのダンジョン配信 ~案件コラボ『ウエポンズめがね』~

真偽ゆらり

同期とコラボで案件をやってくウサぺこピョンだラビ

「まずはコラボ相手の紹介からウサぺこ」


 申し訳程度のウサギ要素が入った軽戦士風装備のダンジョン配信者『卯佐美・ラビットソン』が手を向けると配信画面に軍服風の装備を纏う女性の姿が映し出される。


「敬礼~ギルド『ダンライ』所属、三期生『砲主ほうぬしマリーネ』ですぅ~」

「相変わらず角度の甘い敬礼ピョン。上官がいたらシバかれてもおかしくないラビ」

「マリーネは艦長だから上官なんていませんよーだ」

「今日は案件だからギルマスの猫谷もみてるラビぺこ」

「え、NYAGOOが!?」


//相変わらずなのはウサミンの迷子な語尾のほうでは

//艦長だ

//赤眼鏡の艦長はセンシティブでBANされない?

//あ、ほんとだ眼鏡してる……女教師の艦長か

//何を教えてくれるんだ――って始末書の書き方か

//それか領収書の書き方だな

//アンケート【女教師艦長の講義内容】

 1.始末書の書き方……46%

 2.領収書の書き方……48%

 3.その他………………6%

 締め切りまで1:38


「ウサミン!? なにアンケートなんか始めちゃってんの!?」

「いやコメント多かったウサから」

「あ、でもNYAGOOいないじゃん」


/【NYAGOO@猫谷】/と、思うじゃん?

//本人きてぃあ


「まったくも~驚かせないでよ」

「マリーネ、もっかいコメント欄見てみ」

「え?」


/【NYAGOO@猫谷】/経理ソフトの案件とってきたから明後日よろしくね、艦長


 マリーネの視線がコメントへと向いた次の瞬間マリーネの背筋が伸び、腕の角度や指の形までが整った敬礼をとって見せた。その勢いのあまり卯佐美には無いマリーネの身体の一部が揺れてコメントが盛り上がる。


「感謝感激であります!」

「くっ、ばるんばるんさせるんじゃないウサ。てか、『案件のマリーネ』の二つ名は伊達じゃないぺこね」

「私、その二つ名認めてないんですけど?」

「今週の案件配信何回か言ってみるピョン」

「え? 今日のコレ入れて三回目だけど。あ、今一件増えたから今週は四回か」


/【NYAGOO@猫谷】/追加でインボイス制度の説明やれないかって案件もあるけど


「お任せくだしゃぁ!」

「するなら敬礼かガッツポーズどっちかにするラビ」


 『案件のマリーネ』

 週によっては案件配信の方がダンジョン配信よりも多かったりするマリーネに付いた二つ名。この二つ名が付いたことにより更に案件依頼が舞い込むようになったと当人が雑談配信で漏らしていた。


 そんなこんなで同期二人のじゃれ合いは続き、時間が押しているという理由で案件先が何の企業か説明しないまま転移装置を使って二人はダンジョン深部へと移動。


転移装置周辺の安全区域を抜けて早々、マリーネが詠唱を開始した。


「いにしえの國の名を与えられしモノ、我が号令に応え――」


「急にどうしたピョン。まさかもう敵を見つけたラビ? いつも思うウサだけど索敵範囲が広すぎぺこ」


 詠唱をしながらマリーネの指差す方角には魔物らしき敵影が地平の彼方に……見えなかった。卯佐美には見えているようだが配信画面を見ているリスナーには見えていない。


「これで見えるウサぺこ?」


 それに気付いた卯佐美が配信用ドローンを操作してマリーネの指差す先を拡大すると魔物の姿が露わに。


//でっかいドラゴン!?

//色からして上位種のメタルタイラントか?

//おいあれ羽に見えるやつ並んだ大砲じゃ……

//あれって上級機械系ダンジョンのラスボス

//ドレッドノート!?


 ダンジョンの難易度は下から下級中級上級と上がっていき二人が案件配信で訪れているのは上級の上、超級ダンジョンだった。間違っても案件配信で来るような場所ではない。


/【広報担当@武器防具の上本屋】/え、あの中級程度のダンジョンのつもりでお願いしたんですけど……これ私の責任になります?

//いや新人に案件先を任せた上司の責任

//次からはダンライの配信を見てから依頼しましょうね~

//知ってて依頼したんじゃないのか

/広報担当@武器防具の上本屋/え、え?

/【NYAGOO@猫谷】/安心してください。あの程度問題ありませんから


 砲身を束ねた翼をもつ機械竜、ドレッドノート。

 翼砲の火力もさることながら生半可な武器では逆に武器側がへし折れる程の硬度をもつ金属質な竜鱗装甲も厄介とされている攻守揃った正真正銘の化け物。


「――対価を糧にその大いなる力を奮い、私の前に立ち塞がる一切合切全て薙ぎ払え!」

「目の前じゃないし、立ち塞がってもないラビだな」

「限定召喚『戦艦大和主砲36㎝三連装砲』!」


 マリーネの掲げた手の上に展開された巨大な魔方陣から生える鈍色の砲身。その三つの砲身に施された幾何学模様の装飾が紫色に怪しく光る。


「あれ? いつもの観測機は出さないウサ?」

「全砲門――ぇ!!」

「あ、音量調整大丈夫ペコかな」


 ドレッドノート、爆散。


//あぁ!? 鼓膜が……ないなってない?

//艦長その辺だけはしっかりしてるから


 鼓膜を簡単につんざく衝撃波レベルの轟音も配信画面の先では大迫力の砲撃音にまで軽減されていた。


//現地にいるウサミンや艦長は大丈夫なの?

//ほら、ウサミンはウサミンだし

//だって艦長だよ?


 卯佐美とマリーネ、それぞれのリスナーが心配する様子が一切ないコメントをするのを見てか二人を心配するコメントが急速に減っていく。


「心配してくれてありがとうピョン」

「な~に可愛い子ぶってんのよウサミン。あんたそんなタマじゃないでしょ」

「うっせーウサ。心配してくれたんだからお礼を言うのは当然ぺこ」

「それは……そうね。ありがとうございます」

「では次の配信でまたお会いしましょうラビ~」


/【NYAGOO@猫谷】/いやいやいや卯佐美、これ案件配信だから

/【広報担当@武器防具の上本屋】/はい。最低でも商品名だけでも紹介していただけないと私が怒られます

//そうだったこれ案件配信だった

//草


「つっても卯佐美はマリーネに誘われただけで何も知らねぇぺこだけど」

「ほら艦長、いつもと違うとこあるでしょ?」


 卯佐美はマリーネの頭から足元まで見渡し、頷く。


「ピョン?」


 いや、首を傾げた。


「待って!? 気付かないの? 同期の絆はどうした卯佐美!」


 卯佐美は腕を組み目を瞑り、ときおり片手を動かし唸り声を上げる。


//あの……砲撃の轟音で寄って来た魔物の首が取れたんですが

//出た! ウサミンの首狩りだ

//ああ、早すぎる首狩り。俺でなくても見逃しちゃうね

//やっぱりドローンのフレームレートが追いついてない


「あ!」

「気付いた?」

「今日は観測機を上げてないのに初弾で爆散させてた。いつもは至近弾とか外したりで無駄に魔導砲弾を消費して晩飯たかりに来るのに」

「先日のトリはごちそうさまでした」

「罰ゲームを料理にしたのもそれが理由ウサだしな」

「いや~今月も弾薬代が経費の限度額まで行っちゃいまして――って違う! 惜しいけど違う! もっとマリーネを良く見てウサミン」


 マリーネが召喚した戦艦の主砲はマリーネのテイムモンスターの一部であり、その砲撃代や燃料費エサ代でマリーネは稼いでいる割に節約生活を送っているのだ。


「冗談ぺこ。そのセンシティブな映像コンテンツに出てきそうな女教師がしてそうな紅い色の眼鏡が紹介する商品ウサだな?」

「こ、これは艦長好みのデザインにしてもらっただけでデザインは変更可能だから変なイメージが付きそうな感想はやめて」

「しっかしマリーネは案件を結構な頻度でやってるけど飽きないん?」

「これ、今回の配信依頼報酬。もちろんウサミンの分と艦長の分は別ね」


 マリーネが配信画面に映らないように卯佐美へと手に持つ情報端末デバイスの画面を見せる。


「何やってるぺこ艦長! さっさと商品を紹介するウサ」


//ウサミンの目にお金のマークが映ってる

//流石ウサミン、芸が細かい


「はい。と、言う事で今回紹介する商品はこちら武器防具の上本屋製『ウエポンズめがね』~」

「その声真似は若いリスナーに通じないラビ。歳がバレるピョンよ」

「艦長は永遠の十六歳ですぅ! 溢れた分は『永遠の』の方にスタックされてくから歳は取りません」

「永遠の〇〇歳って玉手箱システムだったウサか」

「そうよ! だから引退した瞬間に歳をとるの」

「分かったから紹介の続きをするぺこ」


「百聞は一見に如かず。って事で、はいこれウサミンの分」


 手渡されるアンダーフレームの白い眼鏡。


「こないだのお絵描き企画でお題に眼鏡があったのはこの為だったウサか」


 卯佐美は受け取った自分が描いたデザインを元に作られた『ウエポンズめがね』を装着する。


//いいセンスだ

//可愛い

//でも何で眼鏡?


「おおコメントがレンズに映ってる!」

「それだけじゃないよウサミン。この『ウエポンズめがね』は【リンク】スキル搭載したダンジョン探索支援兵装だから」

「だから一発で当てられた?」

「いや、あれは一発で当てたのは偶然。でも観測機での観測射撃よりかは当たる」

「お~望遠機能付きぺこか」

「聞いてる? 望遠だけじゃなく暗視機能に熱源探知とか敵までの距離を表示したりもできるからね。あと使ってる武器とかに合わせた弾道計算もしてくれる」


「サーモなんたら表示は見辛いし、敵との距離なんて感覚で分かるからな~それに卯佐美は弾道計算が必要な武器とか使わないウサだし必要なくね?」

「ほらテイムモンスターとのリンクもできるんだよ。艦長の付喪神艦隊も運用でやれる事増えたし」

「卯佐美のテイムモンスターは何も考えず全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだから意味ないピョンね」


//あ、察し

//だからウサミンって案件配信少ないんだ

/【NYAGOO@猫谷】/おわかりいただけただろうか


「え、素直な感想が喜ばれるもんじゃねぇラビか!?」

「それは案件じゃなくてアンケートだよウサミン」

「ところでこれ、ビーム出ないぺこ?」

「いやー流石にビームは――」


/【広報担当@武器防具の上本屋】/出ますよ? うちは防具の上本屋ですから

//は?

//ゑ!?


「――出んの!?」

「あ、レンズに撃ち方の説明出てきたピョン」


 卯佐美は説明に従い片手の指でレンズを挟み、標的に焦点を合わせ下唇を噛んで叫ぶ。


「眼からヴィ~~~ムッ!!」


 極太の閃光が空を飛ぶ翼竜型の魔物を撃ち落とした。


「これ撃つと視界が閃光で焼かれるのは問題ペコだな」


/【広報担当@武器防具の上本屋】/開発部に報告しておきます


「で、どうウサミン」

「卯佐美にはあんまり必要ないかもだけどビームが撃てるから持っててもいいかもしれないウサ」

「ビームを基準にするのはウサミンだけだと思うけど、中級や上級のダンジョンをメインにしているヒトにはおススメです」

「だったら艦長には不要ぺこだな」

「無駄撃ちを減らして節約したい人には必須です!!」


//でもお高いんでしょう?


「さぁ、気になるお値段ラビだが――これ高いの? それとも安いん?」

「初級に潜ってるヒトには少し厳しくて、中級がメインのヒトは頑張ればって感じのお値段」

「あ~機能足してくと値段が上がってくピョンだな。逆に削ってくと安くなる……これ後から機能足せるラビか?」


/【広報担当@武器防具の上本屋】/足せますし、削れますよ


「ビームだけなら手ごろな値段ウサぺこ」

「いやそれオプション全カットだから」

「ビームがメインだったピョン!? でもだったら何で艦長は知らなかったん」

「防具の一種だと思ってました!」

「分類は杖って書いてあるラビだけど」


/【広報担当@武器防具の上本屋】/一応ビームは魔法攻撃ですので、魔法を使う為の武器って事で杖の分類に入ります

//眼鏡って杖だったのか

//驚きの新事実


「ねぇ~艦長も驚き」

「あ、そろそろ締める時間ウサ」

「はい。武器防具の上本屋では我らがギルド『ダンライ』のメンバーがデザインした『ウエポンズめがね』が販売中です。これからウサミンが発表する合言葉を購入時に伝えていただくと望遠と遮光サングラス機能がサービスで付きます」


「聞いてないペコなんだけど?」

「いやいつものがあんでしょ」

「合言葉は卯佐美のどの語尾が何番目に多かったかだラビぺこウサピョン!」

「ここぞとばかりに増やすんじゃないの」


「では今日は艦長に合わせて敬礼でお別れウサぺこピョン」

「だから~まぁいっか。敬礼~」


/【広報担当@武器防具の上本屋】/え、まさか私が数えるんですか!?

//新人ちゃん乙

//大丈夫ダンライのスタッフさんも手伝ってくれるって

/【NYAGOO@猫谷】/うちの卯佐美がお手数をおかけします

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首狩りウサギのダンジョン配信 ~案件コラボ『ウエポンズめがね』~ 真偽ゆらり @Silvanote

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