第5章 難題
第51話
九空は疲れたと言い残してヘリから降りるや否やさっさと消えてしまった。 ヘリでキスをしてからというもの、ずっと黙ったままだったが、 ヘリから降りる時も俺には視線すらくれず、そのまま消えてしまったのだ。 おかげでこの前のように、帰るための許しを請う必要もなくなったため、俺は気楽に家へと帰って来た。
それから、あのキスの意味については、今は敢えて考えないことにした。
九空揺愛。
この女の頭の中を理解することは、到底無理だだろう。
今現在、最も重要なのは、ミッションを攻略したという事実である。
ミッションをまた一つクリアしたという事実に安心したのか、急に疲労感が押し寄せてきて眠くなった。 しかし、まだやるべきことはたくさん残っていたのだ。 だから、まずは氷上さんにメールを送った。 大変疲れ過ぎているので、少し寝てからまた連絡をするという内容のメールを。
おそらく氷上さんも、もっぱら東京に向かって移動している最中だろう。 どうせ、今から氷上さんの家へ行ったとしても誰もいないはずだ。 それから、俺は携帯電話を放り投げた後、そのままベッドにばたりと仰向けになった。
すると、急に九空の唇の感触を思い出した。
考えないようにしてから、何分も経っていないというのに。
とても柔らかい唇。 そして香り。
ああっ!
俺は首を激しく横に振りながらベッドから飛び上がった。 どうかしている。 一体、今何を考えているのだ。 俺は自分の頬を叩き、髪の毛をめちゃくちゃに搔きむしながら、頭の中をリセットさせようと深く、深呼吸をした。
そして、ゲームsystemを読み込んだ。 こうでもしながら忘れなければならないという思いから。
すると、目の前にメッセージが現れる。
[ミッション「カルト教団の掃討」クリア 難易度C]
[おめでとうございます。 ボーナス5千万円が入金されました。]
正直、終盤はあまりにも簡単にクリアしたような気がする。 九空揺愛というチートが乱入してきて、手早く教団を掃討してくれたおかげなのだ。 それは、他のミッションも九空の助けさえあれば、難易度など関係なく素早くクリアが可能だということなのだろうか。 しばらく考えてはみたが、すぐに頭を横に振った。 まずは、助けを求めても助けてくれるような女ではなかったため。 思い通りに動かすことのできない女を、チートのように利用するのは、実際に不可能なことだった。
それでは頭を使って、今回のように彼女が自ら動くように仕向けばどうだろうか? たとえ意図したわけではなかったが、指輪一つが大きな役割を果たしたのは事実だった。 これから、彼女を意図的に仕向けることができればどうだろう? いや、笑える。 ばれたら死へ向かう直行便だろう。 どう考えても、残りの寿命をかけて悪魔と契約を結んび、助けてもらうのと変わらないような気がする。 忘れよう。
そう考えた俺は、クリアウインドウを消し、状態ウインドウへ戻った。 幸い、無形剣の強化に使ったお金はそのままリカバリイーされていた。
長谷川亮
年齢:25歳
職業:ニート
レベル:5
体力:155
魅力:172
所持金:61,429,030円
経験値:901/1401
無難にレベルもアップしていた。
すぐに他のウインドウが表示される。
[レベルアップをしました。 あなたの能力をアップすることができます。(0/300)]
体力:155/999+-
魅力:172/999+-
体力を100。 魅力を200にしようか。
どうも魅力の方がより重要そうだから。
[レベルアップをしました。あなたの能力をアップすることができます。(0/300)]
体力:255/999+-
魅力:372/999+-
魅力値372。
今はまともな外見になっただけではなく、他人の目にも魅力的に見えているのかも知れない。 次の攻略で確認してみるか。 フフッ。 九空は相変わらず、どこが変わっているのかととぼけるだろうが。
[残り時間:8565時間]
[経過時間:218時間]
[残り時間内に完全クリアしなければ、あなたの本来の体は死亡します。 ]
[レベル5 TIP:好感度の最高値は100だが、好感度が高ければ、100を超えることもあります。
好感度は90~100の間で管理をするのがベストです。 100を超過しないでください。]
同時に現れたTIPの内容は非常に馬鹿げていた。
100を超えると良いのでは? 違うのか? 一体何が起こるというのだ? 超過するなとのことだから注意はしてみるが、思い通りになるとは限らなかった。 氷上はまだ85くらいだったから、余裕がありそうで、九空は依然として好感度が見えないがゆえに、管理は不可能なのだ。
勿論、九空の好感度が現状況で、さほど高いはずはないだろう。
それでもしきりに呼び出すのを見ると、おもちゃよりは高く評価してもらっている気もした。
キスまでしたから。
俺はまた頭を横に振った。 そこでどうしてまたキスが出てくるのか。
とにかく九空とは関係のない話だと思い、俺は[アイテム]へ移動した。
[Lv.5 スカウター70万円]
[睡眠スプレー25万円]
[万能キー60万円]
[カメラ10万円]
[変身薬100万円]
[望遠鏡70万円]
[ストップウォッチ3千万円]
[眼鏡50万円]
[イヤホン80万円]
[鉛筆40万円]
[サングラス100万円]
[薬200万円]
[包帯1千万円]
[外車5千万円]
[国産車8百万円]
Lv.5で新たに追加されたアイテムは[薬]と[包帯]
名前だけを見ると治療と関係がありそうだが。 たかが[包帯]が1千万円だなんて。
高い価格帯が、購入を躊躇させた。
とにかく、以前のように慎重に状況を見極めてから購入するか否か、を決めた方がいいと考えたため、[強化]だけを行うことにした。
[Lv.5 スカウター]を購入した後、すぐに強化に移動。
[万能キー][強化3]
[どのようなドアでも開けることができます。]
[希望するドアの前に立ってウインドウをタッチすると使用可能]
[残りの使用回数 30回]
[レベルアップで強化が可能です。]
すぐに[レベルアップで強化が可能です]をタッチした。
[アイテムを強化しますか?[強化3–強化4の強化費用:40万円]
40万円。 まだ何とか出せる金額だ。
勿論、万能キーの使用回数は十分そうだったが。 一寸先は分からないだろう? もしかしたら無形剣のように新たな[スキル]が生まれる可能性だってあるのだ。
すぐさまウインドウをタッチすると、見慣れたメッセージが出てきた。
[強化が完了しました]
[万能キー][強化4]
[どのようなドアでも開けることができます。]
[希望するドアの前に立って、ウインドウをタッチすると使用可能]
[残りの使用回数 40回]
特に[スキル]は追加されなかった。 やはり世の中、思い通りになることばかりではない。 俺は苦い思いをして、[睡眠スプレー]を読み込んだ。
[睡眠スプレー][強化3]
[その名の通り睡眠スプレー。強力な性能を誇る。]
[アイテムウインドウでタッチしておいた後、対象を見つめればOK。]
[使用可能距離:4M]
[継続時間:4時間]
[レベルアップで強化が可能です。]
[アイテムを強化しますか?[強化3–強化4の強化費用:40万円]
睡眠スプレーは絶対に強化しなければならない。 距離は伸びれば伸びるほど良い。 スキルはさておいてもだ。
俺はそう考え、すぐにウインドウをタッチした。
[強化が完了しました。]
[睡眠スプレー][強化4]
[その名の通り睡眠スプレー。 強力な性能を誇る。]
[アイテムウインドウでタッチした後、対象を見つめれるだけでOK。]
[使用可能距離:5M]
[継続時間:5時間]
フフッ。 5Mだ。 これくらいなら、奇襲などの不意打ちも十分可能な距離なのでは?
次は無形剣。
[無形剣][強化1]
[目に見える全ての攻撃を無形の剣が弾き返す。]
[ただし、目に見える攻撃だけが可能。予想外の奇襲には無用の長物]
スキル[無形の剣刃]
強化は不可能だった。 [強化1]なのに、[強化2]にならないというのは、レベルが足りないということだろう。
レベルは魅力と体力、 そしてアイテムと密接な関連があるようだから。
他のアイテムは相変わらず、[強化1]さえ不可能だった。 [強化1]にならないということは、完全に強化が不可能なアイテムだということだろう。
今まで購入したアイテムの中、強化の可能な高級アイテムは、[無形剣]、[睡眠スプレー]、[万能キー]だけということだ。
やるべきことを済ませ[セーブ]をした後、再びベッドにばたりと横たわった。 もう寝る時間だ。 拉致されるという変なことまで経験してしまった俺は、すぐさま睡魔に襲われた。
しばらく布団で死んだように寝ていたが、お腹がぐうぐうと音を立てたため、目を開けた。 酷い空腹感、冗談じゃなかった。 お腹をさすった後、顔を洗った。 ようやく目が覚めたから携帯を確認すると、午後4時近くになっていた。 そして、一通のメールを受信していた。
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