第47話
ただ、追ってくるやつらに対しても使いたかった。 2つの選択肢で悩んでいたまさにその時。
突然シャッターが木っ端微塵になり、大型ダンプカーが突進して入ってきた。
-クァーン!
そして、さらにもう一台が入口を一気に破壊してしまった。 俺を追いかけてきていた男たちは驚いてたじろいだ。
何が起こったのかはわからなかったが、とりあえず入口が開いたので、脱出できると思い、外へと向かって駆け出した。
しかし、すぐに足を止めざるをえなかった。 開いた入口から黒いスーツを着た男たちがどっと押し寄せて来たからだ。 彼らはホールへと進撃すると、俺を追いかけてきた教団のやつらと闘い始めた。 俺のことも教団の信者だと思ったのか、攻撃をしてくるせいで、[無形剣]で返さざるえを得なかった。 有難いことに、銃は携帯していたが、発砲はせず、純粋な力で制圧し始めたのだ。
その状況の中、彼らの後ろに一人の女が現れた。
両側に警護員を帯同して歩いて来る一人の女。
風になびく黒いストレートの髪。
この世の誰よりも堂々とした歩き方。
俺は目を疑った。
こことは不似合な女が現われたからだ。
そう、それはまさに九空揺愛だった。
戦場にあんなに堂々と歩いて入って来られる人はそうはいない。 さらに、歩いて入って来る彼女の眉はかなり吊り上っていた。 相当怒っている表情だった。 俺はあの表情を一度だけ見たことがあった。
電話に出なかったという理由で、ロードの前と後を変えてしまい、俺にデッドエンドをもたらせたあの日、彼女はまさにこの顔をしていた。
「お前…!」
俺が彼女のところへと駆けつけながらそう呼ぶと、敵だと思ったのか警護員らが俺を制止してきた。一方のやつらは俺を攻撃してきて、もう一方の警護員らは九空の前を遮った。 主人を危険な目に合わせるわけにはいかなかったのか、使うのを自制していた拳銃まで抜き取って構えた。
「どいて。」
幸いにも俺の声を聴いたのか、九空は視野を遮る警護員らを除けた。 すると、ようやく俺と彼女の目が合った。
「あら? おじちゃん? こんな所で何をしているの?」
彼女はそっと首をかしげると、すぐ警護員に合図した。 少しの隙間だけを作っていた警護員たちは彼女の命令により、ようやく退いてくれた。 幸い、銃をしまいながら。
「あなた達も行きなさい。 そして、身の程も知らないやつらを全員掃討してきて。 私一人を守るのにこんなに多くの人がいる必要がある? 30分あげるから、今すぐここの教祖を捕まえてきなさい。」
「お嬢さま。 しかし、警護をおろそかにするわけには…。」
彼らの中で一番偉い警護員なのか、代表して九空に口答えをしたが、返ってくるのは冷たい視線のみだった。 まるで、二度も言わせるようなことがあったら、決して許さないという表情。 おそらく先立って教団を制圧しに行った部隊とは違い、彼らはただ九空の警護のためだけに動く、直属部隊なのだろう。
しばらく躊躇っていた彼らは九空の冷たい視線に耐え切れず、結局、戦場に向かって走って行ってしまった。 勿論、全ての警護員が彼女のそばを離れることはなかった。 いつもの警護員2人は依然として彼女の背後で、立ちはだかっている。
「おじちゃんもここの信者だったの? もしそうだったら、私、怒るけど…。」
彼らがいなくなると、九空は今度は俺を睨みつけて質問した。
「何だって? 何を馬鹿げたことを? 俺は誘拐されてやっと脱出するところだったんだ。」
やはり俺を助けに来たわけではなかった。
当然の話だが。
ここに捕まっていることも知らなかっただろうに、助けに来るなんて、話にならない。
それなら、一体どうしてここへ現れたのだろうか?
「私は、おじちゃんがくれた指輪を調査していたら、ここを見つけただけだけど?」
俺の疑問は彼女の台詞によって、すぐさま解消された。
そうだ、指輪だ。 彼女に紋様の刻まれた指輪を渡していた。 勿論、今それが重要なわけではない。 彼女が俺に抱いている滅相もない疑いを解くのが先だ。
「それには事情が…。」
「本当かな? おじちゃん、まさか私を騙したわけじゃないよね? 私、生まれてから今まで誰かに騙されたことなんてないの。 それは、おそらく私を欺くということがどんな結果をもたらすかを、みな知っているからだと思う。」
彼女はそう言いながら俺の前に近づいて来た。 そして、あの果てしない迷宮の夜の街をさまよったあの日のように、俺の胸倉をつかみ上げた。
「もし私を騙したのなら、絶対、楽に死なせはしないよ。 地獄は知ってるよね? 死んでから行く地獄ではなく、生きたまま行く地獄。」
「俺がこいつらと関連があるわけがないだろう。 指輪一つでそんなふうに解釈するなんて酷いじゃないか。」
「わからないじゃない。 口座にプロテクターはかかっているし、おじちゃんを調査しようとすると不思議なことが次から次へと起こって中止することになったりするし、何か裏のある人間であることは間違いないじゃない。」
「それは俺も知らないよ。 それに、俺がここのやつらと関連があるとしたら、こんな近くまで接近するのは、あまりに危険じゃないのか?」
勿論、警護員らが後ろからこちらを睨んでいた。 仮にそうだとして、彼女の敵だったら俺には隠しておいた刀があり、すぐに刺したはずだ。
「そうね。 いつの間にか、私もおじちゃんに接近しているのね。 私、こう言いながらもおじちゃんのこと、信じていたみたい。 ふっ、笑えるでしょ?」
彼女は俺の胸倉を放すと俺の口に指を当てた。 そして、そっとウインクしながら言った。
「おじちゃんのことは、とりあえず保留ね。 ここで大人しく待ってて。 しかし、私を刺激してきたこいつらは絶対生かしてはおけない。」
「君を刺激したなんて、一体どういうことだ?」
天下の九空に刺激するとは。 いくら教団のやつらが肝っ玉の太くても、十分な情報網があるはずなのに、そのような自殺行為をしたというのか。 俺が怪訝な表情で尋ねると彼女は答えた。
「私が家から出て来た隙を狙って襲撃してきたの。 まあ、目的はこの指輪だったみたいだけど。」
彼女はそう話しながら指輪を見せた。
「おじちゃんがどう反応するのかを見るのも面白そうだったから、これをネックレスにして身につけていたの。 そうしたら、やつらが指輪を盗み取ろうとして襲い掛かってきた。 家の近くで潜伏して、私が家に入る隙を狙ったわけ。 でも、私の家の前だよ? こんなことってあり得る? すぐに捕まえて問いただしたの。 そして、どうしてこれを狙っているのかを調査した。 私、やられたことは100倍にして返すから。」
そうでしょうね。 まさか、家の前で襲撃されるとは夢にも思わなかっただろうから。 指輪を狙ったのか? 状況把握のため潜伏していたところ、首にかかった指輪を見た途端に気が変わって、どうにかして回収しようと飛びかかったということ? あの九空に? 俺は首を横に振った。 イカれたやつらに哀悼の意を。
それが事実であれば、九空がここに現れた理由も分かる気がした。 血の復讐。 100倍返しするというその言葉を実際に実現させるために来た女。 本当に恐ろしさ極まりない。
ところが、まさにその時。
-パァアン!
心の中で呆れかえっていると、突然彼女の背後にいた警護員が倒れてしまった。 銃声とともに。
駐車場の方から自動車に乗ってやってきた男がいきなり、車から降りるや否や銃を撃ったのだった。
俺だけを注視していた警護員のうちの1人が思いもよらない襲撃に遭い、残ったのは一人だけになった。 彼らにとってみれば、入口の方から銃弾が飛んでくると予想できなかったことが、この事態の原因だった。 勿論、それだけではなく、安全確保がされていないこのような場所で他の警護員全員を建物の中に投入させてしまった九空の過ちがより大きかった。 彼女はもう少し安全に気を使うべきだった。
再びまた銃声が鳴り響き、残った一人の警護員までが銃に撃たれた。 しかし、幸いにも倒れはしなかった。 頭を直撃されて倒れた警護員とは違い、銃弾が防弾チョッキに当たったようだった。 ただ、胸に衝撃を受けたのかすぐに銃を取り出せず、遅れて銃を構えた。
しかし、それはもう手遅れだった。 既に九空に向かって敵の引き金が引かれる瞬間だった。 九空もそれを見て固まった。 状況は絶体絶命。 勿論、九空は恐ろしい女であることには間違いない。 しかし、目の前で死なせるほど、憎い存在ではない。 俺はすぐに[無形剣]のスキルを発動させた。
[スキル:無形の剣刃]
距離は際どかった。 しかし、銃弾の速度なら瞬く間に5Mの射程距離に入ってくるだろう。 スキルを発動させたのと同時に銃を見つめながら立っている九空の前へと駆けつけた。 そして、前を遮って彼女を抱え込んだ。 身を翻し、九空の体を抱いたまま床に倒れた俺。
絶対的なスキルによって銃口から放たれた銃弾は入口まで到達せずに、粉々になってしまっただろう。 実際に誰も銃に撃たれなかった。 俺が彼女を倒したのと同時にすぐに対応射撃をした警護員によって、銃撃をしていた男は即死してしまったのだ。
一方、俺の下敷きになって床に倒れてしまった九空は目をパチパチさせて、にこりと笑った。 笑ったその顔はとても魅力的だった。
彼女は自分の背中を力強く抱え込んだ俺の腕に視線を送ると、俺の唇に人差し指を当ててそっと押しつけながら言った。
「いつまで乗っかっているつもり?」
「あ、ごめん。」
その言葉に気を取り戻してすぐに立ち上がった。 九空は床に横になったままじっと俺の姿を眺めると、退いてあげたのに起き上がらずに手だけを俺に差し伸べてきた。 起こしてくれということか?
その行動の意味は起こしてほしいというのが明らかだったが、この女なら他の意味があるかもしれない。 例えば、消えろとか?
「起こして。」
無用な考えだった。 彼女にこっそり照れ笑いを浮かべながら、彼女の差し伸べられた手をつかみ、力を入れて起こしてやった。 起き上がった彼女は服をぱたぱたとはたくと俺に近づいて来る。
「おじちゃん、身の程も知らずに私を抱くなんて、この代償はどうするつもり?」
そう言いながらまた俺の唇に指を当てると、少しずつ下へと動かした。 首に持って行った指をジグザグに動かしてシャツの所まで移動し、へそまで指を引き下した。 何だかくすぐったいながらも変に鳥肌が立った。 へそまできた指をくるくると回すと、再びその指を自分の唇に当てた。 すると、頬を膨らませて口をくいしばるという何だか可愛いらしい表情を浮かべた。 行動の意味がわからない指の動きに酔っていたが、はっと気を取り戻して彼女に言い返した。
「助けてやったのに怒るなよ。」
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