第46話
部屋の中は豪華だった。 カルト教団の教祖らしく相当な寄付金を強奪しているのか、全てが揃っているような部屋。 その中でも巨大なベッドが目についた。 人が10人はのれそうだ。
カルト教団の教祖らは主に奇跡を望む信者たちに性の上納を要求するという話を聞いたことがある。そうなると、このベッドで乱交が行われているということ? 首を横に振りながら奥の方へと入ると、書斎のような部屋が現れた。
その前には指輪に刻まれていた紋様の刺しゅうが入った巨大なカーペットが登場。
確信したが、この紋様の正体はおそらく、このカルト教団のマークのようだ。 そう考えて机に近づくと、書類がたくさんあった。 その中に目につくファイルがあった。 背教者処理現況という書類。 よく見ると、名簿に書かれた人々は一般的な信者のようではなかった。 みんなそれぞれ大層に見える役職が付いていた。 東京南部方面の布教の総責任者のような役職を。 しかし、名簿には全てx字が書かれていた。
これは処理済みということか?
そして、名簿の人たちは全員がおじさんと呼ばれる年齢だった。
先が真っ暗だった疑問が書類を見たことで全て解けた。 彼らの目的と紋様の意味を除いては全て説明が可能だった。 目的と紋様、この2つが問題だっただけ。 しかし、書類を見た瞬間、全てが連結された。
おじさん殺人事件は、こいつらが裏切り者を処理するために起こした事件ではないだろうか? 松根とその彼氏はこいつらが裏切り者を処理する場面を偶然目撃してしまったために殺害されたのだろう。 そして、松根はよりによって教団の紋様を指輪に彫ったため、証拠を抹殺するようにと指示が下されたと考えると、全てのことが理解できる。 彼らが指輪の個数を把握しようと盗聴器を残したのも。俺らを監視し続けたこともだ。
俺も彼らのように死ぬ身だったが、やつらの儀式だが何かの生贄が必要だったため、生かしておいたのだ。
血を抜いて殺す行為によって信者たちを縛り付け、奇跡を造作して信者たちが自分を盲目的に崇拝するように仕掛けるカルト教団。 学生時代にニュースで一度、似たような事件が大きく波紋を起こしたことがあったのを思い出した。 勿論、そっちはテロ組織のような感じが強かったが。
とりあえず、俺は携帯電話で書類を全部撮っておいた。 これ一つだけで十分、この組織を壊滅させることはできる。 俺がここに入ることができる万能キーという能力を持っていることを、夢にも思わなかっただろう。 一寸先も見通せないくせに、何が奇跡で、教祖だ。 俺は思いっきりあざ笑いしてやって、そこから脱出した。
ここは、これ以上見るものもなかったたて、4階へと足を運んだ。 階段で下りていくと、4階もやはり施錠されていた。 万能キーを使用した。 しかし、今度は鉄の扉のようなものは現れなかった。 まるで刑務所のように建てられた部屋が廊下に沿って羅列されていた。 そして、そこには数多くの女が、先ほど俺が縛られていたのと同じ方式で監禁されていた。 突然入って来た俺に彼女たちの視線が刺さった。 大声でも出すのではないかと警戒したが、信者の一人だと思ったのか、彼女たちは再び肩を落とした。
その時、奥の方からムチの音のようなものが聞こえた。 また、他の誰かがいるようだった。 俺は音がした方へ慎重に近づいて行った。 すると、また他の入り口が現れた。 鉄格子でできたその入り口は堅く閉ざされていた。
[万能キーを使用しますか?]
周囲を見回したが、閉じ込められている女たちを除いては近くに他の人はいなかった。 万能キーでその入口のドアを開けて、すぐに[無形剣]を装備。 開いた入口へと入ると、また廊下があり、いくつもの部屋が見えた。 いずれも鉄格子で作られており、中が丸見えの構造。
しかし、部屋の鉄格子の中は空いていた。 外側と違って。 ただ、一カ所から音が鳴り続けたので、再びこそこそと歩き始めた。
遠くから見ると、50代くらいの男が、体を縛られた裸の女をムチでやみくもに叩いていた。 それから、ケーキのようなものを放り込み始めた。 男の太った体に隠れてよく見えはしないが、決して口に入れているようではなかった。
「お腹が空いただろう? 美味しく食べなさい。」
真剣な顔でどこかにケーキを詰め込むことを繰り返していたが、再び叩き始める。 ムチで叩かれたところから血がだらだらと流れていたが、悲鳴さえなかった。 20代前半と見える女性は既に気を失ったようだった。 ただの強姦の方がよっぽどましだ。 到底見られる光景ではなかったため、俺は少しずつそこへ近づいた。 男は女にだけ夢中になっていた。 女の方に完全に体を向けていて、その男を除いては周りに他の人の存在は見当たらなかった。
あの男を処理できるという確信とともに鉄格子の中へ乱入した。
[睡眠スプレーを使用しますか?]
近くに駆け寄って睡眠スプレーをふきかけた。 こんなやつには無形剣の必殺技を使うまでもない。 女は完全に気を失ってぐったりとしていた。 もしかして死んだのではと息をを確認したが、幸いにも生きているようだった。 全身がムチの痕で赤く染まって血が滲んでいた。 見れば見るほど完全に狂った教団だった。 俺は再び怒りが込み上げ、眠った男をやみくもに足で蹴飛ばしてムチのそばにあったロープで体を縛ってやった。 裸の男の体は凶物そのものだった。 ロープで縛り付けながらも、男の体に手が触れること自体、とても嫌だった。
このように縛っておけば、目が覚めてもまたすぐに暴行はできないだろう。
ところで、どうしてここへロープが? これもプレイに使うのだろうか。 確かにSMで拘束プレイがあるにはある。 これはプレイというよりは、一方的な拷問だが。 今すぐには救ってやれないが、掃討してしまえば自然と救出されることになるだろうから、俺はひとまず鉄格子から出た。 再び最初の廊下へ戻ると、閉じ込められている女たちが一斉に俺を見つめる。 俺はその中で一番近くにいる女に尋ねた。
「あなた達はどうして捕まっているのですか?」
「…え?」
女は空虚な眼差しで俺を見つめながら問い返す。
「俺はこの教団を掃討しに来ました。 もし、あなた達が教団によって強制的に捕らえられたのなら、真実を話して下さい。」
どうもこの監禁された状況を見ると教団の信者には見えなかったので、正直に話すと、俺の言葉に返事をしてくれた女は不審そうな表情で俺を眺めた。
「部外者は、ここへ入って来ることが出来ないはずですが。」
「本当です。 あまり時間がないので詳しい説明はできません。 しかし、教団の信者が掃討という単語を使うと思いますか?」
彼女は俺の言葉に俺が教団の信者かどうかを悩んだのか、しばらく躊躇っていたが、どうでも良いと思ったのか、あれこれ説明を始めた。
「こちらはハレムに放り込む女の中で、まだ調教が終わっていない女を教祖自身が監禁しておく部屋です。 信者ではなく、拉致されてきたり上納されたりした者たちです。 私もそのうちの一人です。」
彼女はそこまで話すと、様々な思いが交差したのか、深いため息をついてしばらくして口を開き、再び語り始めた。
「そして、あの向こう側は信者たちの家族の中で教祖を信じない人が現れた際に閉じ込めて罰を与える所で、若い女は閉じ込めるけど、残りはすぐに…。」
そこまで話すと、彼女はとてもこれ以上は話せないというように言葉を濁した。
「そうですか。 心配しないでください。 すぐに釈放されます。」
俺はそっと首をうなずかせて4階から下りてきた。 そうして階段を下り続けると、1階の入口が現れた。 1階のドアは開いており、ドアを出るとそこは大きなホールだった。 見た目はまともそうな人たちがどこかへと歩いて行く。 彼らが向かって行く先には、大講堂と書かれた立て札が見えた。 大講堂のドアは開放されていた。
一般の信者たちなのか、俺を見ても特に反応はなかった。 俺はつられて大講堂へと入って行った。 中央には大理石で作られたベッドが置かれていた。 その下には水が流れており、噴水のような構造だった。 どう見ても生贄があそこに寝かされて、血をどくどくと流すことになる構造のようだった。 まあ、血が全て抜かれる前に、既に死んでしまうだろうけど、死んだ状態でも血が噴出し続けるように作った装置なのだろうか。 一方間違えていたら、俺が迎える運命だったと思うと、身の毛がよだった。 さらに、講堂正面を見た俺は驚いて言葉を失った。
講堂正面に掲げてある写真には、先ほど4階で睡眠スプレーによって眠らせて殴打した男の顔が写っていたからだ。
こんな所に掲げられているということは、当然教祖であろう。 そうなると、あの男がまさに教祖ということか。 開いた口も塞がらず、虚脱した状態となる。 そうだとわかっていたら、もっと殴っておいたのに。 後悔が押し寄せてきた。 4階そのものが教祖の部屋となっていたため、侵入者が入ってくるとは夢にも思わなかっただろう。 だから警護員もいなかったのだろう。
とにかく万能キーは最高だ。
本意ではないが、教祖に一杯食わせてやったと思うと、これまでに込み上げていた怒りが少しは収まった気がした。 とりあえず証拠も集めたことだし、そろそろ脱出しようかと考えていると、突然大きな声が聞こえた。
「あそこ! あの人です!」
目を向けると、講堂の上から一人の女が俺を指さしていた。 俺が逃げたことに気付いたようだった。よく見ると、先ほどの黒い服の男と一緒にいた女。 彼女がこちらを指さすと、男たちがどっと押し寄せ始めた。
俺は人が多い講堂よりはホールで相手する方がはるかに容易であると思い、ホールへと飛び出た。 広いホールには角材から野球バット、鎌、斧のような多様な武器を持った男たちが俺を包囲し始めた。
彼らは信者たちにこのような混乱を見せるのが嫌なのか大講堂のドアを閉めてしまった。 しかし、それはむしろ俺にはチャンスだった。 俺を包囲しようと集まった男たち全員が5m間隔に入ってきていたから。 [無形剣]の必殺技を使用する時が来たのだ。
自分では見えないが俺の右手には[無形剣]が握られていた。 ゲームアイテムの基本作動方式は目を瞬きしたり、頭の中に思い浮かべればよい。 俺は必殺技を頭の中に思い浮かべた。
[無形の剣刃を使用しますか?]
すると、すぐにメッセージが現れた。俺は迷うことなくメッセージをタッチ。
[スキル:無形の剣刃]
ウインドウが浮かび上がると[無形剣]の周辺に突風が巻き起こるように、大きな強制力が発生し、周辺にいた全ての男がそのまま倒れてしまった。
-クァアアンッ!
近づいて足で蹴ってみたが、びくともしなかった。 [スキル]の説明通り、気絶したようだった。 こいつらがホールにいた一般信者たちを講堂に閉じ込めてくれたおかげで、瞬く間に静まり返った。 スキルの威力を実感しながら、その痛快さに浸っていたが、また、もう一方からどっと押し寄せ始めた。相手にし続けるのもバカらしかったため、とりあえず入口へ向かって走った。
どのみち一人で掃討するのは無理だった。 まるで中共軍のように押し寄せてくるこいつらを一人で相手するには手ごわい。 一旦、後退して証拠とともに掃討するのが最善だろう。 既に情報は十分に得た。 証拠は全て写真に収めており、彼らの目的も全てわかった。 さらに、教祖までも縛り付けておいた。
脱出さえすれば攻略は目の前。
ホールの扉を開けて外へと走ると入口は開いていた。 遅れて入ってくる信者たちが、飛び出してきた俺を変な目で見た。
その時、開いていた入口の上からシャッターが下りてき始めた。 逃がすまいということだろう。 下りてくるシャッターに突進したが、既に手遅れだった。 入口は全てシャッターで塞がれてしまったのだ。 俺は舌打ちをした。 万能キーはドアではないと開けることができない。 あのような入口の塞がれてしまったシャッターは、開けることのできないようで、万能キーは使い物にならなかった。
すぐさま、後ろから男たちが押し寄せてきた。 俺は悩んだ。 必殺技の残り使用回数は、後一回のみ。
[無形の剣刃]は5M以内の敵と認識した対物、対人を全て破壊してしまうとあった。 そうすると、シャッターも破壊できるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます