第23話
「今のは窓ガラスだったけど、次はおじさんの体に銃弾が飛んでくるかもね。この心臓に。」
俺は冷汗が流れ始めた。心の中に沸き立っていた怒りは消えてしまい、急に恐怖が押し寄せてくる。どうやらレベルはさておき、手を出してはいけない女を恐れ知らず呼び出してしまったようだ。
「もう一度答えて。最後のチャンスだよ。」
彼女は再び笑顔になり俺に同じ質問をした。俺は衝撃で回らない頭を回転させなければならなかった。トラウマだろうが何んだろうが、とりあえず何とか命を取り留めなければならない。どう答えようかためらっていたが、俺はただ出てくるままに吐き出してしまった。手はロードウインドウに向かっていた。銃で撃たれても手は動いてくれるだろうか。怖い。
「君・・・?」
「ぷはははっ、やっぱりおじさんらしい。私? こんなもの着ている私が? どうやったらそんな答えが出てくるの? 頭どうかしてるんじゃないの? ふふふふっ。」
言葉ではそう言っているが、幸いにもご機嫌に見えた。さっきの銃弾が飛んでくる時の険しい表情ではなかった。安堵の一息をついていると彼女は言った。
「でも半分は正解だよ。」
「え?」
「正確に言うと、私のお祖父さんがこの国に莫大な影響力があるの。主に裏でね。そこのメモに書かれている政治家たちも全員うちで育てた人たちだから、政財界にはそれほどの力はある。首相や議員らは任期が終われば変わるけど、お祖父さんはそうじゃないから。だから、それが面白くない。私にが父がいないの。死んでしまった。だからおじいさんの物は全て私の物。まあそういうこと。」
何も返す言葉が見当たらなかった。その言葉通りだとしたら、現代版お姫様ということだ。それもお城の中に閉じ込められた力のないお姫様ではなく、権力を持ったお姫様。ランクAは当然だった。これよりもランクAに相応しい人はいないだろう。
「それで私は幼い頃から全ての物を手に入れることができたの。お祖父さんは、唯一の肉親である私に全てを注ぎ込んでくれた。このつまらない家を継ぐようにといつも求め続けてきた。そんなのいや。おかげで私はどれだけ幼い頃から退屈だったのか。だから、つまらないのはとても嫌。常に全てのことが私の予想通りに動いている。歯車のような世界が本当につまらない。本当は今も少し飽きてきた…。 あのさ、おじさんの頭が急に爆発したらちょっと面白いかな?」
「お、落ち着け。そのを手やめろ。」
通り過ぎる虫を踏みつぶして殺すかのように女が言うから、俺は恐怖で汗を流しながら横に少しずれた。すると彼女は再び笑い始めた。
「ふふ、冗談、冗談。そんなに怖がらないで。おじさんは私の予想を覆してくれた数少ない人だから、そんな簡単には殺さないよ。」
「俺が予想を覆したと?」
「うん、それも2回も。おかげで少しは退屈をしのげた。興味が湧いたよ。」
俺がこの女の予想をそれも2回も覆してしまったということか? 初耳だった。しかし、生きるために好奇心が湧いた。再び予想を覆すために聞いておかねばならない。関わってしまった以上、このまま逃げようとしたら本当に銃弾が飛んでくるだろう。しかし、どう予想を覆したのかなんて聞けばまた面白くないという言葉を聞きそう。それはつまり死刑宣告だった。
「言ってみて。」
「うん? 何を?」
俺の答えが意外だったのか彼女は首をかしげると問い返した。よし、反応は悪くない。
「俺が予想を覆した時の感想は?」
「感想を言ってくれって? おじさん厚かましい人だね。まあいいわ。」
再び安堵の吐息を漏らした。これ以上、命を懸けてシーソーゲームをやっていたら死にそう。私は慎重に手を動かしてあらかじめロードウインドウを目の前に出しておいた。この女の顔つきが怖くなったらすぐにロードをしよう。
「一回目は、初めて出会った時。たまに、人を観察したくて誰にでも私と寝ないかと聞いてるの。控えめなしゃべり方と敬語はそういう時のユニフォームみたいなものかな。おじさんもそれにひっかかった人の一人だった。いや、ひっかかったと思ったのに本当に驚いたよ。普通傷跡を見ると、安くしてと値切るか、不快だからやらないと言うか、太っ腹に見せかけて最初に合意した金額でもやると言い出すか、この3つのパターン。ところが、ご飯を食べようって? 私と? とても面白かった。私の予想をそんなふうに覆してしまうなんて。少し暇も潰せたからおじさんを生かしておいたの。ねえ、知ってる? 3つのパターンのうちどれを選んでも全部アウトだということ。私について来てラブホに入った瞬間、生き残る方法はないの。しかし、一緒にご飯を食べようだんて…。久しぶりに衝撃だった。私はおじさんのような人が現れるのを待ち望んで、そんなことをずっと繰り返していたみたい。この退屈を紛らわしてくれる人を探して。」
「そ、そうか。」
あの日、やらなかったのは正解だった。やはり罠だった。それもすこぶる罠。俺は自分の決断に敬意を表した。彼女の感想はまだ続いた。
「ところでさ、どうして変に思わなかったの? 傷跡がこんなに酷くて火傷の痕も気持ち悪いのに、この傷跡をラブホに入るや否や服をするすると脱ぎ捨てて見せる売春婦がどこのいる?普通だったら脱がないでやろうとするでしょう。そう思わない? ふふっ。」
確かにそうだ。それは俺も正直おかしいと思った。しかし言葉にはしなかった。ただ聞くことにした。軽く口を滑らせて危機を招きたくなかった。
「それとラーメン? あれも初めて食べてみたけどおいしかった。ああいうお店に行くこと自体が初めてだったの。一度くらいは行ってみたかったから、あの日おじさんに行こうと言ったのよ。私の思う通りにならなかったから本当に楽しかった、褒め言葉だよ、おじさん。それと2回目は、朱峰とヤクザの仲がこじれていると嘘を言っておじさんを罠に陥れた時。朱峰が自分の組織を調査しようとする人らはみんな殺したのを知っていたの。あの女、そういうことにすごく敏感だから。だから、一度試してみたかった。嘘の情報を流して死ぬか死なないかを見ようとした。私は正直死ぬと思ったけど。でもまた期待外れ。むしろ私も知らなかった朱峰の正体を突き止め、社交パーティーをぶち壊すなんて。ふふっ。」
「そうか…。」
「それで本題に戻るけど、おじさんの正体は?」
再び彼女の表情が尋常でなく変わっていた。俺に近づいて質問を飛ばす。この質問はさっきも聞いていたことだ。
「正体? 俺はただの平凡な人だけど。」
「笑わせないで、おじさんの銀行口座にプロテクトがかかっていた。外国を経由しているのかどうなのかはわからないけど私が調べられない情報なんて、初めて。だから話して。おじさんの正体を。」
「勿論、俺は平凡な人だけど、平凡な人ではない。少なくともこの世界では…」
俺の言葉に彼女は、それは何のたわごとだという表情だった。しかしゲームについて話せるわけにはいかない。それより、やはりゲームの力は絶対的だったのだ。こんな力を持っている女も俺の情報を調べられなかったということは、誰も調べることができないだろう。これは本当に大切な情報だった。
「でも、そういう人が一人くらい君の周りにいた方が、あまり退屈しないのでは? 」
「ふふっ。そう?わかった。そう出るなら期待するよ。これからも私をこのつまらない世界から救って。私は別におじさんの敵ではないよ。朱峰?さっきも言ったけどあの女もただ暇つぶしで裏を見てあげていただけ。社交パーティーとか薬も私とは直接関係はないの。パーティーに行ったのもその日が初めて。1つ教えてあげようか? 売春婦を装っていたけど、私処女だよ、おじさん。そうだ、おじさんが私の期待を満たしてくれるならあげてもいい、本当だよ。ふふっ。」
勿論、彼女も攻略対象に属している。ランクAも明らかに攻略対象なのは間違いない、だから、スカウターに出ていただろう。しかし、見るからに難しく見えるじゃないか。隠された秘密のミッションがまたどれほど波乱万丈なのか想像することさえ出来ない。退屈から救ってくれというのは、一体どれほど巨大な裏が隠れているのだろうか。住む世界が違いすぎる。どうしても今のレベルではこれ以上言葉さえ交わしたくなかった。命が千個でも足りない。
「あ! でもおじさん、私とのセックスを避けたよね? それはどうして? あの時、ベッドですっかり勃起していたじゃない、あんなに興奮していたのにやらないなんて何か危険を察知する能力でもある?」
「まあ、そうだね。俺は危険に敏感だから。もし、社交パーティーで君の言葉に応じてやろうとしていたら…?」
「ん? 死んでいたかもね。そんなの面白くないじゃない。そこでやってしまっていたら、結局、私の予想通りだもの。銃弾はどこからでも飛んでくる可能性があるものよ、おじさん。」
「ははは…。」
言葉を失った。しかし退屈だという時の彼女の表情は本当に憂鬱に見えた。この女もこの女なりの苦悩があるということなのか。おそらくそれは隠されたミッションと関連しているかもしれない。だが、やはり今は違う。俺はそれとなくベンチから立ち上がった。彼女は俺を座ったままじっと見上げる。
「そろそろ帰ってもいいかな? この前は用事があると言って君が先に帰ってしまったろ? 今日は俺に用事が…。」
「ふーん。わかった、今日は帰してあげる。私も眠たいの。私夜行性だから、朝は寝てるの。実はこんな時間に呼び出されて少し腹が立っていたけど、それは許してあげるね。あっ、あと、前に教えた電話番号あるでしょ? それ家の番号ではなくて私直通のホットラインだから。携帯電話みたいな概念。私、携帯電話はもっていないの。そういうの面倒くさいし…。くだらない依頼とか請託をしようと接近する非常識な人が多くてさ、だからと言っていちいち一人ずつ殺すわけにもいかないでしょ? 特別に、おじさんは電話してもいいよ。ただ、つまらなかったら許さないから。ではまたね、おじさん。それとこれは命令だけど、私が呼んだら何があってもすぐに駆け付けた方が身のためだよ。じゃあ、おじさん、お休み。」
彼女はそう言いながら停留所から歩き出した。すると黒のセダンが来る。何の言葉も出なかった。よりによってあんな女に引っ掛かるとは。この世には知らない方が幸せなことがある。
既にラブホに入る時から彼女に目をつけられていたとしたら[ロード]をしても彼女の存在がなくなることはない。だから、これからすべきことはレベルアップだ。生き残るために。元の世界に戻るためにももちろん。とにかくこうしている場合ではない。早く次の対象を見つけ攻略しなければ。
以前の九空のイメージは消し去った。控え目で優しそうに見えた彼女は結局幻想に過ぎなかった。。
しかし錯雑した心情、心の片隅にぽっかり穴が開いたようだった。ひょっとしたら彼女が演じた九空を好きだったのかもしれない。だがその九空は消え残ったのは、相手にするにはかなり厳しい悪魔のような女だった。俺は失恋した気分でとぼとぼと家に帰ってきた。
とりあえず、九空は社交パーティーとは大きく関係がないように見えた。ただ楽しみを探し回っていただけ。もし真の黒幕だったら、朱峯の攻略は不可能だったはず。今のレベルの状態で彼女のように巨大な力を持った女をどう相手できるだろうか。
そこで俺はすっかり忘れかけていた状態ウインドウを開いた。
かなり衝撃が大きくて忘れていたのだ。
攻略ができるのか確認するのを。
[隠されたミッション 「嘘の顔」 クリア, ミッション難易度 C]
[おめでとうございます。ボーナス3千万円が入金されました。]
するとあれほど求めていたメッセージが現れた。
やはり九空と朱峰の攻略は別物だった。
そしたら、[ロード]を利用して、一旦彼女との接点を回避しつつ、レベルを上げることが最優先だ。だが、一生逃げ回ることはできないだろう。九空もまたいつかは、攻略対象になるだろうから
絶対、力をつけなければならない。
俺はそう思い、[セーブ]を完了した。
悪いことだけではない。攻略難易度が高くなったおかげで、儲けた金額も相当だった。3千万円だなんて。目が飛び出る金額だ。これで[アイテム]の選択の幅は確実に広がっただろう。
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