第15話

いつの間にか指定された時間、俺は少し緊張した気持ちで朱峰に渡された紙に書かれたビルへと向かった。最上階だ。エレベーターに乗って上がっていくと彼女が外で待っていた。


「こんばんは。」


「少し遅かったですね。遅刻したらアウトなのでこれからは気を付けて下さいね?」


「あ、すみません。初めてで。」


「今回だけは見逃してあげますから。」


生意気極まりない話し方。腹が立つが攻略のために我慢せねば。


「はいはい、あとこれ。」


彼女は俺が差し出した100万円を受け取ると前を歩き始めた。周りを見渡すと、そこは獣たちの世界だった。裸の男女が四方八方で重なっている密林とでも言うか。


「ほほっ、性の解放とはこういうことです。やりたい相手と思いっきりできるのです。男の楽園とでも言いましょうか。」


彼女はそう言いながら俺を案内した。


「初めてなので、まず先にこちらにいらしてください。」


彼女についていくと両方に部屋のドアがあった。部屋番号さえも書かれていないただの部屋のドア。大きなビルの1つの階全体を使用しているおかげか、相当な規模だ。彼女は左側から3番目にある部屋に俺を案内した。


一番奥のVIPルームと書かれた部屋を除いては部屋番号すらなかった。彼女は左から3番目の部屋へと入っていく。


そしてベッドに俺を横に寝かせてその上に乗り上げてきた。


「天国へようこそ。」


するといきなり顔を近づけてくる。この女とはやるべきなのか。何が何だかわからない状況だ。しかし、まさにその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「代表! VIPルームで探しています。ここは私に任せて下さい。」


顔を上げた俺は目が丸くなった。目の前にいるのは驚くことにも昨日会った彼女、九空揺愛(くそら ゆれあ)だった。


「何かあったみたいなのでちょっと失礼します。申し訳ありません。代わりにはじめはこの子が相手致しますので。その後は気に入った女と好きなだけやってください。ほほっ。」


そういうと彼女は九空揺愛(くそらゆれあ)の手を引いて部屋の外へと出ていった。すると外で何か話をしている様子。その後、間もなく九空揺愛が再びベッドの前へと戻ってきた。俺は朱峰が行ったのを確認し、彼女に尋ねた。


「なぜ君がここに?」


「そういうおじさんはどうしてこんなところに? おじさんを見つけた瞬間、驚いたじゃないですか。口実を作ってここへ来るのがどんなに大変だったか。」


彼女はそう言うとドアを閉め、ベッドへと俺を導いた。そして、俺に抱かれながら言った。


「ドアが閉まらないから、急に誰かが入ってきた時に怪しく思うかもしれないです。何かしているふりをする必要があるので、とりあえず横になって下さい。」


彼女の登場に果てしなく困惑している状況だったが、一理ある話でもあるからとりあえずおとなしくベッドに横になった。話しから何か助けてくれようとしている様子だった。


「おじさん、さっき代表が言うには今日加入したそうですね。どういうわけであの女に捕まってしまったのですか?」


「いや! 違うよ。誤解はしないで。乱交がしたくてきたわけではないから。調べることがあって…。」


俺は自然と言い訳を言い始めた。俺の話を信じたのか、九空揺愛(くそら ゆれあ)はうなずくと急にドレスの中からカプセル薬を出してみせた。


「まあ、昨日も結局やらなかったおじさんだから信じてあげます。でも、大変なことになるところでしたよ。これ見えますか?さっき、代表が私を連れて外に出たときに必ず飲ませるようにと指示しました…。」


「それ、なに?」


いきなり出てきたカプセルが怪しくて尋ねてみると、彼女は深刻な顔で話し始めた。


「これは世間に流通する麻薬とは全く違う麻薬です。これを飲むと普通の男たちは彼女の言葉に逆らえなくなります。」


そんなものを飲ませようとしたって?

怪しいところが多いから、初めからただお金を巻き上げようと決まっていたのか?

紹介人を秘密にしたのが問題だったのだろうか。

加入したのはいいが、信頼してはもってはいない模様だった。


麻薬を飲んで意識がない状態だとロードは可能だっただろうか。急に頭が痛くなってきた。あんな女がいるのかと思うと怒りが込み上げる。そんなことを考えていると、九空揺愛(くそら ゆれあ)が急にその薬を飲んでしまった。俺は驚いて声を上げた。


「なんで君がそれを!」


「平気です。これ麻薬だけど、不思議にも女には効力がありません。」


「そうなの?」


俺は安心しながら答えた。しかし、目の前のこの女はなぜこんなに正直に全部話してくれるのだろうか。それよりも、なぜここにいるのだろう。俺はいくつかの疑問が同時に浮かんできて混乱した頭を左右に揺らし落ち着かせた後、一つずつ尋ね始めた。


「さっきも聞いた質問だけど、君はなぜここに?」


「この街で身体を売るとなると代表の手の中からは逃げ出せません…。買春界を掌握している大物なのです。」


話す顔がどこか悲しそうに見えた。彼女にも事情があるのだろう。彼女はしばらく浮かない表情でいるとすぐに再び俺に警告し始めた。


「おじさん、 私のことはどうでもよくて。それより、ここは代表だけでなくたくさんのヤクザが管理しています。薬を飲んでないと知ったら大変なことになります。後で代表が戻ってきたらできるだけへろへろなふりをしてください。代表にも抱かれて倒れるふりをするのが一番いいと思います。この薬を初めて飲むと薬効が強すぎて倒れる人がたまにいるそうです。」


「わかった、そう演じる。ありがとう。」


とにかく彼女がくれる情報は使える情報だった。[ロード]をして攻めるにしてもこのまま進めるにも。まだ攻略に対する糸口が見えないからもう少し進めてみようとは思うが。危険だと思ったらすぐに[ロード]をしなくては。


そんな考えをしていると、改めて九空揺愛(くそら ゆれあ)の姿が目に入ってきた。昨日とは違い、しっかりと化粧をしていた。髪も上品に結びあげて、意外と似合っている。全く着飾っていなかった昨日とは完全に違う姿。おかげで元から際立っていた美貌がさらに輝いて見えた。


「そろそろ代表が戻ってきそうだから、おじさんの体の上に座りますね。あ、なんならこのままセックスしてもいいけど、やりますか? 昨日のお金のこともあるので…。」


「いや、それは…。」


俺は慌てて手を横に振った。ランクAであるこの女に触れたらもっと大きい問題が起こるという考えは依然として変わらなかった。助けてくれたことは非常にありがたいが、これはゲームだ。いつ罠にかかるかもわからない。ランクAとの女と容易にセックスをするなんて。ありえない。それも、こんなに美貌の輝く女と。その事情があまりにも莫大なためにランクAとなっているということには間違いなかった。今の状態から深い関わりを持ってしまったら、 脱け出すことのできない大きさの激流に陥ることも。


俺を助けてくれたのは事実だから、可能なレベルに達したら必ずその事情と言うのを解決してみたいという思いはあるが、それは今ではない。


「そうですか。やっぱり変なおじさん…。」


九空揺愛(くそら ゆれあ)はそう言うと服を脱ぎ捨てた。朱峯と同じく白いドレスを着ていたが中には下着1枚すら羽織っていなかった。


「おわかりの通り、私は体に傷跡がたくさんあるからいつもは服を着て相手しますが、何かしているように見えなくてはならないから服を脱ぎますね。」


そして俺の下腹部にお尻をつけて座った。なんだか耐えられないポジション。しかし、場所が場所だ。危険この上ない状況だからそれなりに理性を保ちながら尋ねた。


「ところで、どうして俺を助けてくれるの? 放っておくのが君の身のためでは? 助けていることがばれたらどうするつもり?」


「昨日、なんの理由もなくご飯まで奢ってくれたじゃないですか。恩返しです。ここに来たのは無理やり連れてこられただけだから、お金をもらうわけでもないしとりあえずそういうことです。運がよかったと思ってください。ここは本当に恐ろしいところですから。」


そう言う彼女の目元は少し涙ぐんで見えた。自分はここにずっと出入りしなければならないという現実を怖がっているようだった。話しながらも少し腕が震えていた。そんな様子はどこか哀れだった。この世の女はいつも俺を冷遇し利用してばかりいだった。このように俺を何の見返りもなく助けようとしてくれた女は初めてだ。しかし、そんなありがたい気持ちにも関わらず、俺のぶつは生理現象で硬くなっていた。


「あら? 本当にEDではなかったんですね。」


「う、うん。」


「やっぱり、やりますか?」


「いや、それはなんか違う気がする。」


「では代表が戻ってきたらへろへろなふりをして倒れてください。先ほども言いましたが、薬が強すぎてそういう場合がたまにあるから、倒れたらそのまま適当に横に寝かせておくのでは?今までの経験からするとそうです。そしたら次回の会合でその薬をくれと懇願するのを期待してとりあえずそのまま帰してくれるはずだから、それっきり連絡を絶って二度と関わりらない方がいいです。」


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