第14話

「その人は誰ですか? 確認させてもらえますか?」


「それは内緒にすることになっています。しかし、心配は要りません。俺も正々堂々商売をしている人間ではないので、外部にこの会合についてのことを漏らすことは絶対にありません。」


やましくない商売。闇事業。俺はよく知らないくせに、インターネットで流れている単語をぬかしながら強気でほらをふいた。これでも通じなければ仕方がない。


「ううんっ, こちらの会合は加入費用が現金で100万円。さらに、毎回参加するたびに寄付金100万円を払ってもらわなければなりません。あ、加入費用は今すぐお支払いになります。」


現金100万円。まさに今、俺を試しているようだ。 用意できないと言った瞬間アウトだろう。お金はたくさんあるとほらをふいたのに、お金を持ってこられないと言うのもおかしい。少し高い気はするが100万円くらいなら用意することは可能だ。[アイテム]1つの金額くらいだ。勿体ないが、クリアをすればそのくらいのお金が入ってくることを考えれば必要不可欠な資金だろう。


「問題ないです。そのくらいなら今すぐお渡しできます。」


「実は加入費用は紹介人を明かして頂けない場合、担保として受け取っています。紹介人を確実に明かして加入費用の免除を受けて頂いても構いません。」


彼女はそう言いながら時計を見た。俺は仕方なく席を立った。


「今すぐ行ってきます。」


うなずく彼女を後ろに、カフェから出て銀行へ向かった。お金が必要になるとは考えていたが、100万単位だとは思いもしなかった。とにかく銀行に駆けつけて現金を引き出し、朱峰の前に札束を置いた。


「100万円です。確認してみてください。」


彼女は傲慢な表情でお金を数えるとバッグにしまいながら言った。


「まあ、いいでしょう。会合に加入されたこと、おめでとうございます。こちらの会合の目的は性の開放とその開放感を満喫しながらの集まった参加者同士の人脈構築にあります。 いわゆる乱交とも言うでしょう。」


「なるほど。それは期待が大きいですね。」


「偉い政治家の方々に会うこともできるし、請託をするなら別途でお金を渡す必要があるとは思いますが、そんな方々と憚りなく会うことのできる場であるということ自体が素晴らしいことだということはおわかりでしょう?」


「はい。まあ…。」


「いいでしょう。夕方 7時までに参加費用を持参してここへお越しください。」


彼女は場所が書かれた案内状を渡してきた。案内状には何の文章もなく特定の場所の地図だけが書かれていた。


「では、夜にお会いしましょう。」


朱峰は俺が渡した100万円の入ったバッグを手に取ると後ろを振り返ることなく出ていった。なんとか加入はしたものの、これからどうすれば。この会合を世の中に暴露でもしなければならないのだろうか。未だに攻略条件がわからない。情報には、ただ社交パーティーから接近しろとそれだけだった。


とりあえず会合に行ってみるか。しかし、指定された時間まではまだまだ時間がある。会合の場所はこの近辺。家に帰るのはいろんな意味で無駄だ。俺は時間を潰すところを探し、さまよい始めた。


***


ビルの最上階を買い占め、改造して作られた社交パーティーの事務所。VIPルームには朱峰の最初の恋人ともいえる 繁道景遥(しげみち かげはる)が座っていた。


「100万円をその場で持ってきたの?」


繁道が札束に触れながら言うと朱峰はうなずいた。


「そうです。紹介人を隠そうとしながらも、お金はありそうに見えたのでとりあえず加入させました。」


「有象無象にみんな受け入れちゃったら困るよ。」


「心配要りませんよ。お金づるにすぎません。」


「ふーん、また薬でお金を巻き上げようとでも?」


「はい、紹介人を明かそうとしないのを見ると、たまたま名刺を手に入れただけのたいしたことない男のようでしたので、中毒にさせてしまうのが一番です。」


「後腐れなくやれよ。」


繁道の言葉に朱峰は心配しすぎだという顔で笑った。


「それはそうと、あなたは立矢会をいつ掌握するつもり?結構お金をつぎ込んだのに、ちょっとかかりすぎでは?」


「心配ないよ。もうそろそろ始末する。明日、その政治家に突き出す女は用意できてる?」


「はい、最近売れている子を有賀さんに頼んでおきました。」


「よしよし。怪しそうなやつは薬でお金を巻き上げて、 上層部の人らは女でお金をむしり取る、ふははっ。お前の薬の効き目のおかげで、ここまで来られたようなものだが。」


朱峰は繁道の言葉に口を尖らせながら文句を言った。


「そういう風に言わないでもらえます? イラつくから。」


「この社交パーティーは人脈の場でもあるのに、そんな考えをしているとは、悪事には本当に頭の切れる人だ。」


そう言うと男はソファーから起き上がった。スーツの上着を手に取ると外へ歩いて出ていく。


「もう行くわ。」


「はいはい。見送りはしませんよ。」


「ご勝手に」


男は手を振ってVIPルームから出て行ってしまった。部屋には朱峰だけが残った。




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