エピローグ あれからとこれから

「になおねえちゃんだよ」


仁凪になちゃん、もう遅いんだって」


「おそくない、まださっちゃんをみかたにつければかてる」


 僕と悠喜ゆうきが恋人になって結構な日が経つが、仁凪はずっと彩葵さきにアプローチを続けている。


「敗者同士慰め合おうよ」


「さっちゃん、いまこそとっくんのせいか」


「ほんとにやるの?」


「きっとやればかてる」


「絶対勝てないと思うけど」


 仁凪に押し負けた彩葵が僕に近づいてくる。


「わ、私はお兄ちゃんのこと好きじゃない……訳ないよぉ」


 彩葵が言いながら涙を流して僕に抱きついた。


「仁凪、今のは?」


「つんでれさんモード? さっちゃんのあたらしいモード。さいきょうだけど、つよいちからにはおおきなはんどうがあるもの」


 確かにその通りなようだ。


 今でも性格がちょくちょく変わる彩葵だけど、それでも最近は頻度は減ってきていた。


 それに今のはスイッチも入っておらず、無理やりやったものだから彩葵には反動が大きい。


颯太そうた、彩葵ちゃんはどさくさ紛れに抱きつきたかっただけだから」


 僕の隣に座る悠喜がジト目を彩葵に向ける。


 その彩葵は一瞬体をビクつかせたけど、抱きつくのはやめない。


「まったく。のお姉ちゃん騒ぎにも驚いたけど、それが落ち着いたら彩葵ちゃんか」


 悠喜は仁凪を名前で呼ぶようになった。


 彩葵もだけど、彩葵は時間の問題だったから特に何もなかったけど、悠喜が名前を呼ぶようになったのは色々と理由がある。


「仁凪の妹さんね。離れ離れの寂しさを克服できたんだよね」


「彩葵ちゃんを妹にすることでね」


「私は代替品じゃないもん!」


「うん。僕の大切な唯一の妹だよ」


「そしてになのいもうとでもある」


「違うわ!」


 ほんとに色々とあったけど、そこは割愛する。


 ディープすぎて話すのも辛いから。


「そういえば悠喜お姉ちゃん(自称)さん」


「その呼び方もやめなさいっての。なに?」


「私はお兄ちゃんといつまぐわっていいの?」


「お日様がこんにちはしてる時間に何を言ってんだ?」


「悠喜お姉ちゃん(自称)さんが私とお兄ちゃんのあんなことやこんなことを許したよね?」


「許し……てたけど、あれは颯太を好きだって自覚する前だし。だから駄目」


 悠喜はそう言って僕の腕に抱きつく。


「つまり嘘をついたと。お兄ちゃん、この人嘘つきだよ。お兄ちゃんを好きだってのも嘘かもよ」


「彩葵?」


「ごめんなさい」


 彩葵が本気で言ってないのは分かってるけど、さすがに今のは許せないので弱点の耳たぶをふにふにする。


「や、んっ……おに、やめ……」


「おい颯太。妹にエロいことをするな。やるなら私にしなさい」


「罰を与えてるだけなんだけど? でもご希望なら」


 僕は悠喜の耳たぶに甘噛みをする。


「んっ」


「妹の前でえっちなことしないで。我慢しなくなるよ?」


「まえのそうくんもすきだったけど、いまのそうくんにいろんなことされたい」


「仁凪ちゃんも変だし」


 これが僕達の今の日常。


『普通』とはおよそ呼べない関係性の僕達だけど、楽しいからそれでいいのだ。


 ちなみに前田まえだ先生に『好き』について理解したことを話したら泣かれた。


「私もそんな高校生活したかったぁ」と職員室で子供のように大泣きしていた。


 とりあえず評価は貰えるようなので放置して帰った。


 僕達はこれからも、前田先生の分まで楽しんでいこうとそう決めた。

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『好き』を知らない二宮君と『好き』に興味がない吉良さん とりあえず 鳴 @naru539

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