第15話 可哀想な姉とバカップル
「私は──」
「黙れ」
「貴様が誰かなんて興味はない。そんな事よりもなんで貴様は
(この人は話が通じない人か)
お姉さんが私に視線を向け、答えを待つ前に二宮君達に視線を向けた。
そもそも言ってることから意味が分からない。
私に興味がないのはまだ分かる。家の人として私という他人が勝手に家に居て嫌な気分になるのも分かる。
だけどそれなら私に質問をした意味が分からない。
聞く気がないのに質問するのはただの……
「自己中」
「あ?」
「おっと失礼。なんでも」
つい口に出てしまった。あまりにも私が嫌いなタイプな人間すぎて。
お姉さんがすごい睨んでいるけど目を合わせると射殺されそうなので目は合わせない。
「
「うん。めんどくさい女だから現実を教えてあげて」
二宮君と
「颯太、彩葵、あんた達はどっちの──」
「吉良さん」「吉良ちゃん」
お姉さんが言い切る前に二人は同時に答える。
なんかお姉さんが可哀想に思えてくる。
そして彩葵ちゃんの第四の性格がサラッと出てきてている。
(あれはなんだろ?)
もう既に私はお姉さんよりも彩葵ちゃんの事で頭がいっぱいだ。
「……」
お姉さんにチラッと視線を向けると呆然としている。
ぽっと出の私に信頼? の差で負けて呆然と……してる訳ではなさそうだった。
「颯太と彩葵が私と話してくれた……」
「普段どんな対応してんのさ」
まさかの感激で固まっていたようで、思わず二宮君と彩葵ちゃんにそう問いかける。
「どんなって、基本は無視?」
「私は颯太君だけを視界に入れるようにしてるかな。まぁ無視みたいなもの?」
「扱い……」
なんとなく分かる気もしないでもないでないけど、お姉さんに対する扱いが酷い。
優しい二人からここまでの扱いをされるお姉さんは実はすごい人なのかもしれない。
「ちなみに部屋の中に入らないのは?」
「入ったらどんな事情があろうと話さなくなるって言ってるから」
「だから颯太君の部屋は安全空間なの」
彩葵ちゃんが二宮君の部屋に居るのは二宮君が好きということの他に、お姉さんから逃げる理由もあったようだ。
私はまだ少ししか話してないからお姉さんの全てを知ってる訳ではない。
だからそこまでする必要があるのか疑問に思ってしまう。
「何かあったの?」
「あの人は少し前に敵になった」
「そう、私と颯太君の共通の敵。絶対に許さない」
二人の表情はとても真面目だけど、なぜだろう、理由がとてもどうでもいい内容な気がするのは。
「敵になった理由って──」
「吉良さんだっけ?」
私が二人に理由を聞こうとしたら、後ろからお姉さんに呼ばれた。
「はい?」
「ありがとう」
振り向くと、お姉さんがさっきまでとは比べ物にならないぐらいに柔らかい表情でお礼を言ってきた。
「何に対してですか?」
「吉良さんのおかげで颯太と彩葵が一週間ぶりに話してくれたから」
なんだかとても安心した。
この人は二宮君と彩葵ちゃんのお姉さんだ。
「あ、自己紹介がまだだったね。あたしは二宮
「じゃあ舞彩さんで」
「いい子。それで吉良さんは颯太の知り合いでいいの?」
舞彩さんが首を傾げながら聞いてくる。
さっきまでの舞彩さんを見てからだと、とても可愛らしく見える。
多分そのせいだろうか、少し意地悪をしたくなった。
「恋人です」
「……なんて?」
「私は二宮君の恋人です」
「……聞き間違いかな? なんて?」
「私は二宮 颯太の恋人です」
「……」
最初こそ柔らかく、微笑んでいた舞彩さんだけど、それがどんどん怖くなっていく。
予想通りだから驚きはないけど。
「颯太君颯太君。私は吉良ちゃんがとても好き」
「今の彩葵がそんな事を言うなんて珍しい。でも気持ちは分かる」
舞彩さんをわざと怒らせているのに、後ろの二人は嬉しそうだ。
しかも好感度が上がった。
「泥棒猫、表出ろ」
舞彩さんが私を睨みながら親指を立てて背後を指す。
「ちょっとしたジョークですよ?」
「つまり恋人ではないと?」
「はい、今のところは」
「……表出ろ」
なんだか反応が黒彩葵ちゃんと似てて面白い。
多分彩葵ちゃんは嫌がるんだろうけど、やはり姉妹なのを実感する。
「ほんとに恋人ではないですよ。それと今のところって言うのも、予定がある訳じゃなくて、私がコロッと二宮君を好きになるかもって話ですから」
そんなにちょろい自覚はないけど、二宮君と一緒に居て楽しいのは事実だ。
実際ほんとに好きになる可能性は高い。
「……颯太の魅力を考えれば当然か」
「ですです。二宮君と話せば誰でも好きになりますよ」
「だよね!」
どうにか関係を悪化させずには済んだ。
まぁそんなに苦労するとも思ってなかったけど。
「それで吉良さんは颯太のお友達ってことでいいのかな?」
「ですかね。『共犯』とも呼べますけど、それが一番説明が楽です」
「共犯?」
「運命共同体って書いて共犯でもいいですけど」
話をこじらせたくなるのは私が悪いのだろうか、それとも二宮家の力なのだろうか。
反応が見てていちいち面白い。
「吉良ちゃんって魔性の女だよね」
「よく分かんないけど、吉良さんとお話するのは楽しいよね」
「手のひらなのはあれだけど、楽しいのは認める」
「ごめんね、私って根っこがクズだから」
後ろで話す二人に顔だけ向けて言う。
二宮君が揚げ足を取ることを悪いと思っているようだけど、私に比べたら可愛いものだ。
人の弱みを探して、それを使って相手を脅す。
それが普段の私だけど、上手くやれているのか、誰も私が何かしてることに気づいていない。
そして今はみんなをからかって遊んでいる。
私は自覚のあるクズなのだ。
「二宮君と
実際舞彩さんはすぐに怒ってしまう。
「僕は吉良さんとお話するの好きだけど、それって僕がおかしいの?」
「多分颯太君は別枠でしょ。私もなんだかんだで吉良ちゃん好きなんだけどね」
「大切な相手だから素の話し方になるんでしょ? それって相手がその話し方をしても嫌わないって信頼からだと思うんだよ。素を出せる相手を大切にしたいのは当然だけど、だからこそ気を遣わない方がいいと思うけど」
二宮君はともかくとして、彩葵ちゃんからは『好き』と言われるとは思わなかった。
それと一番驚いたのは舞彩さんが確信的なことを言ったことだ。
馬鹿にしてる訳ではない。その通りすぎて驚いている。
「なんかあれだよね。二宮君と出会えて良かったよ」
「勘違いしないでもらいたいんだけど、颯太はあげないから」
「雰囲気ぶち壊し。これだから万年ぼっちは」
「彩葵、あたしはぼっちではない。一人が好きなだけだ。そして家族水入らずの時間を過ごしたいからどこにも寄らずに直帰してるだけだから」
舞彩さんが言い訳気味に言うと、彩葵ちゃんは興味なさそうに無視をする。
「それだよ。さっきは聞けなかったけど、二人が舞彩さんを避けてるのって嫉妬?」
「あたしを取られるっていう!?」
「「違う」」
舞彩さんの発言に二宮君と彩葵ちゃんは揃って答える。
私もそれは分かってる。
二人は舞彩さんを取られる心配をしてる訳ではない。
「二宮君は彩葵ちゃんを、彩葵ちゃんは二宮君を舞彩さんに取られるのが嫌で無視してるんでしょ?」
「うん、あの人は僕と彩葵が一緒に遊んでるといつも邪魔してくるから」
「そう、颯太君と無邪気に遊んでると間に入ってくる。とても邪魔」
「だ、だって、昔は一緒に遊んでくれたのに今は颯太と彩葵の二人だけで遊んでばっかりなんだもん。あたしも遊びたい……」
舞彩さんが可愛らしくしゅんとする。
「あなたが居ると彩葵が純粋な気持ちで遊べないんだよ」
「私は颯太君と無邪気に遊びたいの。あなたが居るとこっちが出てきて違う遊びになるでしょ」
二宮君が彩葵ちゃんが変わってることに気づいてのにも驚きだけど、それ以上に彩葵ちゃんの危ない発言の方が気になってしまうのは私の心が汚いからだろうか。
「それは彩葵が頑張ればいい話では?」
「私が無邪気でいられるのは颯太君と二人っきりの時だけなの」
「ん? さっきまでなってなかった?」
「吉良ちゃんは『敵』じゃないからじゃないかな?」
よく分からない設定だけど、嫌われてないということならそれでいい。
「それは嬉しいんだけどさ、せめて会話ぐらいはしない? それと部屋に入れないんだったらイチャ……遊ぶのは部屋の中だけにするとか」
「吉良さん、嬉しいんだけど、それだと二人は部屋から出てこなくなる。そして学校に行かなくなる」
そういえば前に、毎朝二宮君は彩葵ちゃんと話していて遅刻しそうだと言っていた。
それをお母さんや舞彩さんに言われていると。
「なんかさ、二宮君と彩葵ちゃんが悪くない?」
「吉良さんが酷いこと言ってる」
「吉良ちゃん酷い!」
二宮君と彩葵ちゃんの話を聞いていただけだと、舞彩さんが悪いのかと思っていたけど、実際は弟と妹に構ってもらえない可哀想な姉と、愛し合いすぎて周りを見たがらないバカップル兄妹で、完全に後者が悪い。
「吉良ちゃんはあの人の悪逆非道を知らないからそんな事が言えるんだよ!」
「何された?」
「私が颯太君とお医者さんごっこしてた時──」
「ギルティ」
もう少し救いようのある話をして欲しかった。
色々とアウトなので彩葵ちゃんには今度『枢木さんの罰』を与えることにした。
二宮くんにも何かしら考えておく。
そして舞彩さんは二宮君と彩葵ちゃんの顔を見にバイトの休憩時間で戻って来たようなので私に「ほどほどにね」と二人を心配しながらバイトに戻った。
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