第14話 全裸が好きな変態さん
私は今、ものすごいものを目撃している。
ほんの一瞬だった。
そこに居たはずの
探す必要はなかった。
だって私の視線の中に自分から入ってきたのだから。
私の視線の先、つまり起きた
「なんかさっきも同じことを考えた気がする」
だけどさっきとはまったく違う。
何がと言われたら、全てが。
「おにいちゃんおはよう。お目覚め一番のさきだよ♪」
さっきまで怖いくらいに怖かった彩葵ちゃんが、とてつもなく幼く、甘い声で二宮君に抱きついている。
「なるほど。二宮君が起きてる時は幼ないのか。これがほんとのトリプルフェイス」
何が嘘なのか分からないけど、なんとなく言いたかった。
「寝ちゃってた。彩葵、
「さきいい子だもん。きらお姉ちゃんとも仲良しさんになったよ」
彩葵ちゃんがそう言うと、私に可愛らしい顔を向ける。
さっきの彩葵ちゃんを思い出すと、裏に何かを考えてそうだけど、多分文字通り心が入れ替わっているから純粋な視線だ。
「吉良さんほんと?」
「うん。なんかね、本気で私の妹にしたいぐらいには可愛いね」
「彩葵は僕の妹だよ」
「さきもお兄ちゃんだけの妹だよ」
彩葵ちゃんはそう言うと、抱きしめる力を更に強くした。
「あれだね、好きな人の前だと女の子は何倍も可愛くなるってやつ」
「さき、お兄ちゃん大好き」
「色々とごちそうさまです」
彩葵ちゃんの無垢なる笑顔がとても可愛い。
ずっと見ていたい。
そしてたまにヤンデレになって責められたい。
(私って実はそういう趣味があるのか?)
おそらくギャップ萌えが好きなだけだ。
決してMな訳ではない。
「あ、二宮君」
「なに?」
「『妹に欲しい』ってね、遠回しに二宮君と結婚したいって言ってるようなものなんだよ。そういうところを目ざとく反応してかないと駄目だよ」
「だって吉良さんにそんなつもりないでしょ?」
「言った事実さえあればいいんだよ。それを使って私を脅せるから」
自分から弱みを作って、それを教えるなんて馬鹿らしいが、スルーされたのが癪だったので自分から弱点を晒していく。
なんの対抗心か分からないけど。
「お兄ちゃんと結婚するのはさきなの!」
「可愛いけど、現実は非情なんだよ」
「世界が否定しても、さきとお兄ちゃんを引き裂くことなんて出来ないもん」
「結婚はさすがに無理だよ。でもずっと一緒には居られるでしょ?」
ロリ彩葵ちゃんに黒彩葵ちゃんにした質問をしてみる。
性格が変わると答えは変わるのかという実験も含めて。
「私が二宮君と結婚すれば──」
「や!」
否定は同じだけど、今度は聞いてももらえなかった。
そして彩葵ちゃんは二宮君が痛がるぐらい強く抱きしめる。
「ノーマルな彩葵ちゃんだとどんな返事もらえるんだろ」
ちょっとだけ気になる。
今度ノーマル彩葵ちゃんにも聞いてみることにする。
ノーマルなのかは知らないけど。
「彩葵ちゃん、二宮君そろそろ耐えるの辛そうだからやめたげて」
二宮君は彩葵からの抱擁を断りたくないからと、痛みを我慢しているが、辛そうになっている。
「あ、ごめんなさいお兄ちゃん」
「だい、じょうぶ。それより、あの人がいつ帰ってくるか知ってる?」
「多分そろそろ一回帰ってくると思う。一番のおじゃま虫」
彩葵ちゃんの表情がとてつもなく嫌そうだ。
「あの人? 二宮君の彼女?」
「きらお姉ちゃん。怒るよ」
そう言う彩葵ちゃんの表情は既に怒っている。
しかも「もー」みたいな可愛いやつではなく、とても冷たく、私を凍え殺すような視線を送ってきている。
まるで黒彩葵ちゃんのような。
「彩葵」
「あ、ごめんなさい。でも今のはきらお姉ちゃんが悪いと思う」
「確かに吉良さんも悪いけど、吉良さんは知らないんだから仕方ないでしょ」
「フォローするフリして私も斬ったな」
二宮君の反応から、地雷とまではいかないのだろうけど、それなりに嫌なことなのだろう。
ちょっとしたジョークのつもりだったけど、気をつけなければいけない。
「それで誰なの?」
「僕達の姉。今年で確か
「知らない。さきあの人嫌いだもん」
彩葵ちゃんが唇を突き出しながら不服を表す。
とてつもなく可愛いので嫌われたくはないけど、「嫌われたら見れるのでは?」と思ってしまう自分がいる。
「私とどっちが嫌い?」
「あの人」
もはや名前すら呼ばないレベルのようだ。
でも、私と言われなくて少し、というかとてもほっとした。
「ちなみになんだけど、私のことは好き?」
「お兄ちゃんを取るなら嫌い。お兄ちゃんを好きでいるだけなら好きかも?」
「じゃあ好きだね」
要は二宮君をいい人だと理解して、その上で好きなのは許す。
だけどその『好き』が恋愛感情なら許さないとのことだろう。
それなら私が彩葵ちゃんに嫌われることはない。
あくまでロリ彩葵ちゃんには。
「彩葵が吉良さんと仲良しなのは嬉しいけど、あの人が帰ってくる前に吉良さんは帰らないと」
「家に人を上げたらいけないルール?」
小学生の頃に友達と遊ぶ時、家に上げれる友達と上がれない友達がいる。
大抵遊ぶ場所は公園や公民館の共有スペース。そして友達の家になる。
二宮君の家が大多数の上がれない家ならとても悪いことをした。
ちなみにだけど、私の小学生時代は友達と遊ぶなんてキラキラしたものは一切ない。今日が初めてとも言える。
「上げたらいけないとか以前に、上げる友達がいなかったから分かんない」
「さきもお友達なんていないし」
不貞腐れたような彩葵ちゃんの頭を二宮君が優しく撫でる。
「じゃあなんで? あ、別に居座りたいとかじゃないよ? ただ追い出すなら理由が知りたいだけ」
言い方が最低なのはわざとだけど、理由が気になるのは事実だ。
私にはそれを聞く権利ぐらいはあるだろうし。
「んとね、姉に会わせたくない」
「その心は?」
「吉良さんと二度とお話できないかもだから」
「謎は深まるばかり。どゆことよ?」
全然意味が分からない。
二宮君と彩葵ちゃんのお姉さんと私が出会うとなぜ私が二宮君と話せなくなるのか。
「あの人に会うと、絶対に吉良さんが『あの人の関係者なのか……』って思って僕を嫌いになるから」
「まだお姉さんに会ったことがないから分からないけど、私がその程度のことで二宮君を嫌いになる訳ないでしょ?」
「でも……」
「それは私に対する侮辱として受け取るよ」
二宮君をまっすぐ見つめてそう告げる。
「たとえお姉さんが最低のド畜生だったとしても、その弟が二宮君だったからって二宮君を嫌いになる理由にはならないでしょ?」
「そうだけど、そうじゃなくて……」
二宮君はなんとも煮え切らない返事をする。
言いたい言葉があるのに、その言葉が出てこないような。
「さきもきらお姉ちゃんならあの人に何をされても、さきとお兄ちゃんを嫌いにはならないと思う」
まさかの彩葵ちゃんから援護射撃を受ける。
「きらお姉ちゃんは引かなかったから」
確かノーマル彩葵ちゃんが二宮君を前にした彩葵ちゃんを見ても引かないかどうか聞いてきた。
私は引くどころか好感を得たのだけど、それ以上に話した内容を覚えていることに驚いた。
(実は演じてるだけなのかな?)
理由は分からないけど、その時その時で対応を変えているのかもしれない。
本当に変わってしまうのかもしれないけど。
「彩葵がそう言うなら大丈夫なのかもしれないけど、ほんとに嫌いにならない?」
二宮君が今にも泣き出しそうな瞳で私を見ながら言う。
正直に言おう、可愛い。
「そうじゃない」
「やっぱり……」
「違います。私がおかしいだけです。絶対に嫌いになりません。もしもなったら学校を全裸徘徊します」
そんな事で許されるのならいくらでもやるけど、所詮はただの自己満足にすぎない。
もっと二宮君を安心させられる、二宮君が得をする罰を考えなければ。
「きらお姉ちゃんって変態さん?」
「違うけど? 覚悟を伝えたかったんだけど、考えてみたら二宮君を悲しませた罰にしては軽すぎるよね。やっぱり二宮君の奴隷になるとかの方がいいかな? 全裸繋がりで全裸で置き物にでもなろうか?」
結局は自己満足だけど、私の人間としての尊厳を賭けるから信じて欲しい。
「でもお兄ちゃんの為なら喜んでやるんでしょ?」
「もちろん」
「さき、きらお姉ちゃんを大好きになれそう」
「どこで好感度があがるイベントがあったの?」
現実はギャルゲーのようにどこが分岐点なのか分からない。
だけど私は彩葵ちゃんの好感度を上げる選択肢で正解を引いたらしい。
「彩葵がそう言うなら……、ううん、僕は吉良さんを信じる」
「ありがとう。もしも私が裏切ったら二宮君の好きにしてくれて構わないからね? 人として扱わなくても大丈夫。遠慮も不要。とことんまで私という全てを壊してくれていいから」
「やっぱり変態さん?」
彩葵ちゃんからジト目を向けられる。
断じて私は変態ではない。
絶対に有り得ない未来だから強く出てるだけだ。
望んでなんていない。多分、きっと、そうだといいけど……
「もしかして私っていじめられて喜ぶの?」
「そんな変態さんならお兄ちゃんに近づけないよ」
「じゃあ彩葵ちゃんおいで」
「彩葵に変なことを教えるなら僕が彩葵を守るよ」
私が両手を開いて彩葵ちゃんを迎え入れようとしたら、二宮君が彩葵ちゃんを抱きしめて私にジト目を送る。
なんだか私がヤバい奴みたいになってる気がする。
「全部冗談だからね?」
「約束も?」
「彩葵ちゃんは既に悪い子では?」
「揚げ足取るのは僕のせいだからごめんなさい」
「お兄ちゃんのせいじゃないもん! さきがお兄ちゃんのことを大好きすぎてまねっこしたかっただけだもん!」
頭を下げる二宮君を彩葵ちゃんが抱きしめて説得する。
「微笑ましい。それでそのお姉さんはどんな──」
「あたしを呼んだか?」
背後からとてつもない圧の声が聞こえた。
怖いとかそういうのではない。むしろ綺麗で澄んでいる。
だけどそこにはなんとも言えない圧が存在する。
なんとなく分かる。この人はヤバいと。
そしてそれを納得させるのが、正面の二人が顔をしかめてるからだ。
(覚悟いるかな?)
心を落ち着かせながら、私は背後に体を向けた。
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